まちカド木属性 作:ミクマ
(ちょっと熱くなりすぎたな……)
起床したシャミ子達から手を離し、葵は壁に寄りかかって息を吐いていた。
「葵のさっきの言葉……あんなに叫ぶ葵、初めて見たかもです」
一月ほど前の告白。葵はずっと暗いトーンか、泣きながらの物だった。
「あぁ……」
「叫ぶ葵って、どんなのだったのかなぁ?」
赤く染まる顔を抑えてまた息をつく葵を横目に、からかい混じりに杏里はそう聞く。
「……やめて」
「ふふふ……な〜んちゃって。葵、普通にこっちでも叫んでたよ」
「なっ……!」
そんな漫才を挟みつつ、一行は杏里を交えて状況の整理を始める。
10年前の召喚の儀式は、何もかもが足りていなかったらしい。
「私はあの子を助けたいわ。私、今まであの子の事を酷い子だって思ってた。
パパは間違ったものを呼んじゃったって……。
でもそうじゃなかった。うちの都合で変な生まれ方をしたのに、必死で頑張ってた」
「ウガルルちゃん、本当に良い子だよ。声だけでもそれが十分に分かった」
「そうね。だから……外の世界でもう一度、新しい生きがいをあげたいの」
ミカンの言葉に誰もが頷き、そしてウガルル再召喚の算段を立て始める。
シャミ子は天井裏からしおんを呼び、降りてきた彼女は高いテンションで依頼に応えていた。
「あ、せんぱい。また本棚借りるねぇ」
「……借りるって、いつか返す気はあるのかな……?」
喬木家の本棚には、どんどんしおんの本が増えている。
しおんは桜の遺したメモを元に、手早く纏めた計画を壁紙に書いていく。
桜自身、途中まで同じ計画を立てていたようだ。
「で。残念なお知らせなんだけど、必要なものを今晩中に揃えるのは無理だと思う。
契約用のお供え料理が作れなーい。
せんぱい、最近練習してるみたいだけど……それの為の上質な魔力料理となると、まだ足りないかなぁ」
「……小倉さん。俺が誰から魔力料理教わってるか知らないのかな」
「へ……?」
しおんにしては珍しくそれを知らなかったらしく、葵の言葉にキョトンとしている。
「それは俺の師匠にお願いするよ」
「でも、魔力料理には質の良い肉も……」
「杏里、今どんな肉あるかな」
「玉川さんとこのい〜のが入ってるよー」
「それ買った」
「まいどあり〜! 後でバイト払いでもいいよ〜」
ウガルルのあれこれを知った葵は、これ以上に無い位やる気に満ちている。
「……でもでも、よりしろの材料に“幻獣の尻尾の毛”も沢山必要だよ」
「それも知り合いにお願いするよ」
「……最後に、よりしろの材料の“上質な霊脈の土”が少し……」
「あるよ」
「……あれ? 葵、それ人に渡したんじゃ……」
「あの人はボトル1本分しか受け取ってくれなかったよ。
俺に借り作るのが嫌なんだって。だから残りはまだ家にある」
「……せんぱい。今日は私の事押してくるね」
「全部皆のおかげだよ。
あすらに行ったのも、杏里と仲良くなったのも、山に行ったのも全部ね」
そうして各自作業に取り掛かり始め、葵もそうしようとした所でしおんに話しかけられる。
「せんぱいにしか出来ないことがあるんだぁ……」
「へぇ……」
しおんは葵を奮い立たせる言葉をよく知っているらしい。
例によって、しおんは数枚のコピー用紙を取り出す。
「よりしろの魔力概念的な骨格、血流……」
「陽夏木さんから、使い終わった護符沢山受け取ってるよねぇ? それが素材」
「……」
「せんぱいも気がついてると思うけど。
あれはせんぱいの力と、ウガルルちゃんの力が混ざり合ってる。
ウガルルちゃんのよりしろの媒介として、これ以上に無いくらいの物なんだ。
実の所、他が完璧なら必須ではないんだけど……。
逆に、他がダメでもその骨格だけで存在が維持できるくらいの代物だよ。
それがあれば、ウガルルちゃんはとても強靭な存在になれる。だけど……」
しおんは一旦そこで言葉を切るも、葵の表情を見て続きを話し始める。
「これ、凄まじく精密な加工が必要になるんだよねぇ。
だからウガルルちゃんが消えるまでに間に合うかどうか……」
「やるよ。絶対間に合わせる」
しおんの言葉を遮った葵はあっけからんとそう言い、そして掌を固く握りしめた。
そうして葵は自宅に戻り作業に取り掛かる。
骨格は護符の残骸を核として、それを埋め込んだ霊木の棒に魔法陣を刻み込む物らしい。
骨と言っても人間のそれをそのまま再現する訳ではないが、魔法陣が極めて緻密だ。
その魔法陣に魔力を通すことで、憑依後の潤滑な魔力の操作が可能になるとのことだ。
(……
汗をダラダラ垂らしながらも、葵は割と余裕を持ってそれらを完成させた。
そして次にもう一つ。
こちらは魔力のブースター、増幅器となるものである。
よりしろの中に埋め込むことで、骨格と合わせて魔力の心臓と血管の役割を果たす。
そのパーツは、先程の物と比べるのがおこがましい程に精密な加工が必要になる。
(ウガルルちゃん……絶対に会おう。俺が君の存在を、誰にも脅かされないものにする)
目がチカチカするほどに細かいその陣を刻み込み続け、そして。
「終わっ……たあっ!」
完成したそれをばんだ荘の庭に持っていくと、そこでは桜ヶ丘高校の生徒達が手伝っており、他の作業もほぼ完了していた。
戻ってきた葵を見てしおんは驚愕している。
「まさか、本当に完成させるとは思わなかったよ……」
「間に合わせるって言ったからね」
「……やっぱり、せんぱいは面白いよ」
ニヤリと笑うしおんを横目に、葵はこねられた土で骨格を包み込む。
気を張りすぎてすぐには気が付かなかったが、粘土をこねる作業には良子も参加していた。
「お兄、これ何なの……?」
「この子は……俺の新しい……友達だよ」
「よく分からないけど……お兄、頑張ったんだね」
「葵、ウガルルさんのこと凄く気に入ってますね。
まるで……そうです、良に接するみたいな」
「お兄っ!? どう言うこと!?」
そんな一幕がありながらも、全ての準備が完了し後は召喚するだけとなった。
新しいウガルルは闇属性となるため、魔法陣の起動そのものはシャミ子が行う。
「優子、桃。手を」
「うん」
「はいっ!」
骨格に見合うだけの莫大な力を葵は二人に注ぎ、桃はそれに不慣れなシャミ子の補佐を行う。
そして、シャミ子が杖を変化させた巨大なフォークで召喚の魔法陣を突き──。
「んが……オレ……外……体アル……」
「やった……成功です……!」
よりしろに取り憑いたウガルルは手のひらを見て驚き、周りの誰もが歓喜の声を上げた。
「新しい体すごく馴染ム! オレ、新しイ仕事何すればいイ?」
「みんなで話し合ったんだけど……。
あなたはもう、使い魔とは呼べないくらい複雑な存在になっているの。
だから……この町でウガルル自身のやりたい仕事を見つけて。
それが貴方の新しい仕事!」
ミカンのその“命令”にウガルルは頭を抱えて悩む。
「仕事見つけル仕事……? 困ル……またバグりそウ……」
「そこを頑張るのが人生なのよ!」
葵はそんな二人から離れ、塀に寄り掛かり深呼吸をし、そして顔を抑えていた。
「よかった……ほんとうによかったぁ……っ!」
葵は当然
そんな葵の腕をシャミ子は引っ張り、ウガルルに近づける。
「ほら、葵」
「オマエハ……?」
「……ウガルルちゃん」
「ァ……」
ウガルルはその声で気がついたらしい。
「ウガルルちゃん……改めて、初めまして。俺は喬木葵、よろしくね」
「アオイ……」
「君のお仕事、見つけるの俺が手伝うよ。
だから……今は、俺のお仕事の依頼。お願いね」
「仕事……生きロ……」
「そう。これから君がどんな物を見て、そして何をするのか。
とっても、楽しみにしているよ」
「んが……」
「……あと、ウガルルちゃんに美味しいお肉を食べさせるって約束。
今日は他の人に作ってもらったけど、今度は俺がごちそうするよ」
「んがっ! アオイ! ありがとウ!」
「ウガルルちゃん。こちらこそ……ありがとう」
使い魔は感謝の言葉が好き。
それをウガルル自身から聞いていた葵はそう返す。
「??? オレ、アオイになニかしたカ?」
「とっても、大切な事をしてくれたよ」
葵の言葉を聞いたウガルルは沢山の疑問符を浮かべている。
(ウガルルちゃん。俺に会ってくれて、言葉を聞いてくれてありがとう)
■
ミカンが怒ってると思い、この場を離れようとするウガルル。
それをミカンは引き止め、半ば無理やり自身の部屋に住ませることで話はついた。
そんなほっこりするやり取りを見た葵は、背骨を反らし伸びをしながら口を開く。
「さあて……お疲れ様〜」
「あ、葵……」
「もう凄く遅いし、続きはまた明日……っていうかもう今日?」
それだけ言って、葵は自宅に戻っていった。
そして、寝室で力を解除した葵は布団にうつ伏せで倒れ込む。
「あ゛〜。ここまで疲れないはずなんだけどなぁ……。
時間が長かったのと、木工のせいかなぁ……」
ダルい体をなんとか動かし、葵はタオルケットを被る。
そして目を閉じ寝ようとするが、ずっと眠ることが出来ない。
疲れているのに、眠気がないのだ。
そのままどんどん時間は経ち、そして。
「日、登っちゃった……」
カーテンの隙間から射し込む光を見て、葵はそう呟くもまだ眠くならない。
「しゃーない。今日は休みだし、一日布団に籠もっていよう……」
葵はため息をつき、しばらくそのままでいると、玄関のほうが騒がしくなる。
音はどんどん近づき、葵のいる寝室の扉が勢いよく開け放たれた。
「おはようっ! 葵!」
「んがっ! おはよウ! アオイ!」
大きな声での挨拶と共に、寝室に入ってきたのはミカンとウガルル。
その二人を視認した葵は思わず目を丸くしてしまう。
「起きてたのね、葵」
「……眠れないんだ」
葵の返答を聞いたミカンは、少し申し訳なさそうな表情をする。
「やっぱり……無理してたのね? それで……」
「頑張ったのは、俺だけじゃない。みんな頑張ってたんだ」
夜中にも関わらず、ミカンのために集まった桜ヶ丘高校の生徒達。
その誰もが全力を尽くしたからこそ、今ここにウガルルがいる。
「だから、ミカンが気にすることじゃない。一日休んでれば十分だよ」
「なら、せめて今日は葵の事を助けたいわ」
「……それより、高校の皆を助けたほうが良い」
「もちろん、皆には改めてお礼をするつもりよ。だけど……」
そう言いながら、ミカンは両手の指先を合わせモジモジとする。
「あなたは、学校違うじゃない。だから別の形でお礼がしたいのよ」
「……分かったよ、今日一日だけ。それで貸し借り無し」
少し困った様子の葵の言葉。それを聞いたミカンはぱあっと顔を輝かせた。
「ええ! 朝ごはん作るから、食べて!」