まちカド木属性 作:ミクマ
「あ〜……どうすればいいのかなぁ……。
寝てる時に言ったって事は……俺も何も言わない方がいいのか……?」
先日のミカンからの告白。
ワザと聞かされたとはカケラも考えず、葵は悩んでいた。
『あなたが好きなのは……シャミ子と、桃。どっちなのかしら』
「俺は……? そもそも……好きってなんだ……? 優子……桃……」
シャミ子については、家族と言ってもいいだろう。
「……俺の自意識過剰でなければだけれど」
己の臆病さが思考の邪魔をする。
そして桃は、葵にとって──。
「恩人の妹で……桃自身も恩人。
桜さんの手紙……仲良くしてっていうのは……どうすればいいんだろうか」
葵はあの手紙の内容すら、素直に受け取れなくなっていた。
「どう……すれば……」
■
「アオイ。ウマかったゾ」
「それはよかった」
ウガルルに肉をごちそうするという約束。
割と出費は痛かったが、杏里の提言で後払いにしてもらっていた。
「それデ……」
「今日も、だね」
葵はウガルルの手を握り、魔力を流し始める。
ウガルルはこの行為が好きになっているらしい。
「アオイ、爪イタくないカ」
「大丈夫だよ」
「んが……コレ落ち着くけド……眠ク……」
ウガルルは目を閉じ、ウトウトと首を揺らし始める。
「オレ……仕事……」
「10年間頑張ってきたんだから……ゆっくり休んで、それからまた頑張れ」
「ン……」
葵と対面で正座していたウガルルは、葵の胸に顔を埋めた。
そんなウガルルの背中を葵が擦っていると、今度は膝に頭を乗せる。
「ウガルル、寝ちゃったのね」
「うん……」
ウガルルをゆっくり仰向けに返し、葵はミカンの言葉を肯定するもその顔は見ない。見れない。
「……ミカン」
「なぁに?」
「……俺は……ミカンの友達だよね……」
「いきなりどうしたの? そうに決まってるでしょ? 変な葵」
「……うん」
問いに対してミカンは平然と返し、葵はウガルルを見るため下を向けていた顔を更にうつむかせる。
(先延ばしにして……ウガルルちゃんに偉そうなこと言えないよなぁ……)
■
「へえ……優子、携帯買うんだ」
居間でウガルルへの膝枕を継続していた葵は、桃と共に家に入ってきたシャミ子に報告されたことを聞き返す。
「はい! 私、人との連絡をスマートにこなす、スまぞくになります!」
「まあ、俺も優子が携帯持つのは賛成するけど……」
葵はそこで言葉を切り、桃の方をチラリと見る。
「……まあ、いろいろと教えてからだね」
「でも、連絡取るだけならスマホに拘らなくてもいいと思う」
「……桃……」
葵は眠るウガルルの様子を見るふりをして、こっそりそう漏らす。
桃の言葉に、シャミ子は少しムッとしているようだ。
「頑丈で単純な、わっかりやすい機種にしたら?」
「きさま私がスマホをこわすと思っているのか!?」
「むしろ、スマートフォンをスマートに扱えるシャミ子が想像できない」
「失敬な! でも分かる!」
「……ごめん優子」
二人のやり取りに納得してしまった葵はやはり顔を反らし、小声で呟いた。
「……そういえば、葵はいつからスマホ使ってるの?」
同じく部屋に居たミカンが、ふと思い出したようにそう問う。
「中学になって少し経った頃だね。
清子さんから、俺は封印の対象じゃないから持った方が良いって、そう言われたんだ」
「葵、いつの間にか持ってて……あの時は少しびっくりしました」
「まあ別に見せびらかすものでもないしね」
嘘である。
葵が初めてスマホを持った時、めったに見せないようなテンションでウズウズしていた。
が、同時に根本的な臆病さにも影響され、シャミ子に教えるのを後回しにした。
お父さんボックスへの対応を先延ばしにした時。それと同じようなものだ。
ちなみに、良子はシャミ子より先に普通に知っていた。
「葵の持ってるのって、確かかなり良い機種じゃなかったっけ。高かったんじゃないの?」
「確か同じの3年ぐらい使い続けてましたけど……去年、やっぱりいつの間にか変わってました」
桃の言う葵のスマホとは、1年程前のハイエンドモデル。
それを知っていたらしい桃の疑問にシャミ子が補足を入れると、葵は苦笑いをしながら答える。
「このスマホ、色々あって押し付けられたやつなんだよね」
「……スマホって、押し付けられる物だったかしら……?」
去年、「そんなオンボロ使われてたら連絡に支障が出るからぁ」等という言葉と共に、使うように言われ渡されたのが今葵の使っている機種である。
一応、“おつかい”の報酬という扱いではあるらしいのだが、葵は色々な意味で借りを増やすことを恐れた。
とはいえ以前の機種にガタが来始めていたのも確かだったので、それを受け取ったのだった。
「まあ良いモノではあるし、ありがたく使わせてもらってるよ」
「ふぅん……葵、結構物持ち良いんだね」
「そうかな。3年程度なら普通に使ってる人いるんじゃない?」
「でも、結構荒事に首突っ込んでるんでしょう?」
桃は葵のこれまでの言動からのそんな推測を話すと、葵は今度はくつくつと笑う。
「まあ、安いものじゃないからね。細心の注意は払ってるよ」
「……桃はこの前壊してましたよね」
「っ……! まぁ……あれは……仕方ないというか……」
「きさま動揺してるな!」
桃のスマホが壊れた一件は、葵にとって苦くもあり甘酸っぱくもある思い出であり、葵は百面相と化した。
「……葵? どうかしましたか?」
「いや。何でもないよ……まぁとにかく、軽々しく決めると後悔するかもしれないし、よく考えよう」
「そうだね、私は中古で頑丈系の機種が良いと思う」
「えぇ……」
桃がスマホでその機種の事を検索し、画像をシャミ子に見せようとする中、葵は密かに引き気味の声を漏らす。
「ほら、超かっこいいよ」
「かっこいいけど好みじゃない!」
(俺も携帯じゃなきゃ迷彩柄嫌いじゃないけど……女子にとってもかっこよく思う物なのか?)
そんな迷彩柄のガラケーの外観を見て、葵は何処かズレたことを考えている。
「そんなに良いなら、桃のその機種にしたら?」
「そうだよそうだよ」
「桃、お揃ッ!」
桃に対して、ジト目で一種のダメ出しをするミカンに葵は冗談混じりに同調し、二人の勧めにシャミ子は目を輝かせ、そして桃の持つスマホを指差す。
「桃が持ってるやつが……薄くて便利そうで、いいんですけど……」
シャミ子の遠回しに見えて割と直球な要求に、桃がいろいろ理由をつけて止めようとする中、葵は微妙な顔をしていた。
「……葵、気づいてるのよね?」
「そうだね……」
ミカンからのその問いは顔を近づけての耳打ちであり、あの一件があった葵はひっそりと心拍数を上げていた。
それすらもワザととは気づかずに。
「優子、もっとはっきり言わないと」
「な……何のことですか?」
「スマホで遊びたいんでしょ?」
「えっ? そうなの?」
「ちっ……違……!」
「ついでに桃とお揃いにしたいのよね?」
ニヤニヤする葵とミカンの指摘を、シャミ子は顔を真っ赤にして否定する。
「そっか……それならスマホでいいと思う。押し付けてごめん」
「違うと言っているだろう!」
「えっ、違うのかしら? ……『今なら魔王がもらえる!』」
「『フハハハハ! この世界は我の元でこそ完全になる!』」
「葵、声真似上手いわねぇ」
二人の声真似を聞いたシャミ子はビクっと反応し、桃は困惑している。
そして葵がいきなり大声を出した事で、膝の上のウガルルが頭を動かす。
「……んが?」
「あぁ、起こしちゃったかな」
「アオイ……? ……脚……?」
寝ぼけ眼のウガルルは、自らの状態に遅れて気がついたらしく、そして眠る内に離していた葵の手に再び手を伸ばす。
「はい」
「ン……」
葵の差し出した手を両手で握ったウガルルはまた眠りにつく。
複数回同じ事を繰り返したことで、ウガルル限定ではあるが葵は魔力操作を鎮静、緩和の方向性でも制御出来るようになっていた。
葵がそんな事をしている内に、桃は格安SIMをシャミ子に勧めようとしている様子。
「設定が初心者にはわかりづらいから私がやるよ」
「えっ……あの……薄いやつがいいんですけど……」
「格安SIMも薄いよ」
「でも機能が……」
「でも月額二千円だよ」
桃の言葉にシャミ子は顔をうつむかせてゆき、葵とミカンは冷や汗を隠せない。
「あ〜……桃……」
「……? 葵どうしたの?」
「優子は……」
そしてシャミ子はヌルっと立ち上がり、魂の叫びを繰り出す。
「お高くて最新のゲームが出来る最新のスマホが欲しいし、今しかもらえない推しキャラの特典が超欲しい!」
そんな声を聞いた葵は唇の端を引きつらせて体を震わせ、少しの後に愛想笑いになった。
「たしかに私はスマホを使いこなせないかもしれませんけどっ!
私も皆さんとキャッキャしたい! 葵が片手で持って親指を速く動かすのをマネしたい!
ミカンさんと杏里ちゃんのあの感じが超うらやましい!
私だって〜〜!」
「シャミ子!?」
「一人でスマホ買ってきます! ついて来るな〜!」
シャミ子は怒涛の勢いで叫びを続け、そしてドスドスと駆け部屋を出ていった。
そんな言動の意味を桃は本気で分かっていない様子で、葵は眉間を押さえる。
「……??」
「桃さぁ……」
「……桃って女子力低いわよね」
葵にしては珍しく、桃に心底呆れた様子でいつもとは違う方向性のため息をつく。
そしてミカンと葵は、桃にシャミ子が契約する様子を見守っているよう勧め、シャミ子が興味を持っていたゲームの名前を教えて家から追い出した。
「……そういえば葵。件の“ダーククエストアドべンチャー”。
あなたはやってないみたいだけど……昔の方のゲーム、あなたも結構好きなのよね?」
「あぁ……俺、あんまりスマホゲーム趣味じゃないんだよねぇ……」
押し付けられたハイエンドスマホは、そんな葵の嗜好が理由で割と宝の持ち腐れになっていたりする。
「なるほどね……」
「まあでも、優子と桃がやるなら少しくらいやってみようかな」
シャミ子と桃を少し心配しつつも、そう言う葵は微笑んでいた。
(……それにしても、俺がスマホ動かすのを優子はそんな風に思ってたのか……)
葵はよく他の作業をしながら、スマホを横目に見つつ片手の親指で手早く操作している。
それはパシリを繰り返す内に熟練していった動作なのだが、シャミ子にそう見られているとは葵は思ってもみなかった。
(……でも、優子の手の大きさだと無理じゃないかな……)
葵がそんな無慈悲な推察をしていると、脚の上のウガルルを見て今度はミカンが微笑む。
「ウガルル、懐いてるみたいでよかった。よく寝てるわ」
「俺も嬉しいよ……。
ウガルルちゃん、あんまり休むこと知らなさそうだから少しでも……」
「でも、甘やかすのはダメよ?
広い世界を見るためにも、文字とか計算を教えていかないと」
「そ……そうだね」
笑顔からいきなりキリッとした顔になったミカンの忠告に、葵は少し押されていた。
(教育ママ……)
■
「きさまそういうところだぞ! これで勝ったと思うなよー!」
商店街にそんな叫びを響かせ、そして走りだすシャミ子。
シャミ子がばんだ荘に近づくと、その視線の先に葵が居た。
「無事に買えたみたいだね」
「はい!」
シャミ子はしっぽを激しく動かしながら、買ったばかりのスマホを笑顔で葵に見せつけたのだが、しかし少しするとモジモジとし出す。
「あの……実は、葵のやつと一緒にするのもいいかなって考えたんですけど、お店になくて……」
「ああ……これ、ああいうショップには無いだろうね」
「そうなんですか……」
「まぁ、これはちょっとクセあるから。それのほうが使いやすいと思うよ」
葵はそんな言葉で慰めるが、シャミ子はまだ少し落ち込んでいる様子だ。
それを見て葵は少し罪悪感を積もらせつつも、シャミ子の嗜好を利用することにした。
「せっかく桃とお揃いにしたんだから、それきっかけにして桃のこと色々聞いて、
「……はい! そうします!」
「それでね……」
そして葵は自らのスマホを取り出し、ある画面を見せる。
「それって……」
「俺も始めたんだ。一緒に頑張ろうね」
「はいっ! ……あ! 葵、このキャラ好きなんですよね」
「運良く出てよかったよ」
大嘘だ。
葵は無駄に洗練された操作で攻略情報を集め、そしてシャミ子が帰ってくるまでにリセマラを繰り返し、そのキャラを引いていた。
葵のはじめてのソシャゲデビューは、そうして虚飾に彩られたのだった。
「……ところで、お店の人からいろいろ書類貰ったよね? 見せてもらえないかな」
「あ、はい」
シャミ子が差し出した紙袋から、葵は封筒にしまわれた書類を取り出し、それを読み始める。
(……やっぱり)
案の定と言うべきか、絶対に使わないであろうオプションが大量につけられており、雑に料金を計算するだけでも葵は目眩がしそうになっていた。
葵はしばらくブツブツと呟き、それを見ているシャミ子に心配されていると、唐突に顔を上げる。
「……優子、来月一緒にショップ行こうか」
「えっ……でも……」
「ね?」
「はい……」
貼りつけたような笑顔でそう提案する姿を見て、シャミ子は珍しく葵に怯えていた。