まちカド木属性 作:ミクマ
「ウガルルちゃん、待たせたね」
「アオイ、お帰リ!」
「優子達はどこかな」
「部屋に居ル」
学校から直帰した葵は、ばんだ荘の前に居たウガルルにそう声をかけ、シャミ子の元に向かう。
ウガルルのお仕事を探すため、シャミ子の提案で喫茶あすらの白澤に聞いてみよう、という事になったのだ。
そしてお仕事を探すのを葵も手伝う、という約束をしたために葵も呼び出され、そして急いで帰ってきたのだった。
「あすらに電話したんですけど……留守電だったんです」
「そういえばシフトの連絡来てないな……」
吉田家の電話機でかけたらしいシャミ子の報告に、葵はここ数日にそれがない事をを思い返す。
「……ところで、さっきの連絡がミカンからだったけれど……優子の携帯は?」
「そ、それは……」
葵の問いに、何故かシャミ子は恥ずかしそうに言い淀む。
「ゲームのし過ぎで電池切れちゃったみたいよ」
「ミ、ミカンさんっ!」
「まあまあ、持ったばかりならしょうがないさ」
「むぅ……」
ミカンからの暴露にシャミ子は慌て、葵はそう納得していた。
そうして直接あすらに向かった四人だったが、その入り口の扉には【臨時休業】の看板がかけられていた。
白澤達に中に招かれた四人は、ウガルル召喚の際に作った魔力料理が原因で、リコがスランプになってしまったと聞く。
「あれ以来、作る料理作る料理何でも気合入りすぎるようになってしもうて……。
何作っても食うた人がガンギマってしまうんや……」
「俺がもっと魔力料理上達してれば、任せっぱなしになることもなかったんでしょうけど」
「葵はん、そ〜とう上達早い思うよ?
そろそろ、厨房の方手放しで任せてエエ思うとるんよ?」
リコの指導の元、営業中に葵がキッチンに入るまでは割と早かったりした。
「あくまで、儀式用のソレにはまだすこ〜し足りひんだけや。
それにウチ、あれだけ良いお肉にあそこまで魔力注いで料理作ること少ないから、エエ経験になったで」
「……そうですか」
「葵、小倉さんの指示で何だか凄そうなことやってたじゃないですか」
「……優子」
場の面々から少し離れた所で、そのフォローを聞いた葵は控えめに笑う。
今、葵は店のカウンターの向こうにおり、とある物に目が釘付けになっている。
「冷蔵庫まぶしいやろ? それ、全部へました料理」
葵自身、それには覚えがある。
葵が初めて魔力料理を作った時、考えなしに魔力を注いだ物がこのような物になっていた。
「ウチ、あんま料理を粗末にしたないから、冷蔵庫に入れて後でマスターに美味しく食べてもらうの」
(この量はいくら何でもヤバい……)
以前のそれは、桃達が家を訪ねてくる前に優先して処理をしたのだが、葵はそれだけでダウンしてしまった。
その時の事を思い浮かべた葵は冷や汗をかいている。
「それで、店長。この子はこの前の料理で召喚した子なんですけど……」
「オレ、ウガルル! この前の魔力料理美味かったゾ! ありがとウ!
オレこの店で使ってくレ! なんでもやル! 24時間サービスで働ク! オレ頑張る!」
「ウガルルちゃん、それはちょっと……」
ウガルルの言葉に、葵は軽くトラウマを刺激されていた。
葵の両親は寝ても体が休まらずに、全力の状態を継続してしまっていたことで事切れたのだ。
ブラック的なそれとはまた少し異なるが、その手のものには葵は割と敏感である。
「んが? オレ、アオイのお陰デ頑丈だゾ?」
「それはそれ、これはこれだよ」
「まあまあ、やる気があるのは分かったよ。とりあえず研修から……」
ウガルルと少し暗い顔の葵を仲裁し、白澤はそう提案した。
まずはメニュー表を渡すも、ウガルルはまだ文字があまり読めないらしい。
「“柑橘”と“蜜柑”と“檸檬”は教えたわ」
「なんて無駄なリソースを!」
「アオイには“玉葱”って字ヲ教わっタ!」
「葵もですか!?」
「大事だよ、玉葱」
葵は真剣な顔でそう返していた。
そして、次は料理の練習を試してみることになった。
「アオイの料理してル所、見てると面白いゾ」
「そう? 嬉しいね」
バンダナを巻き、それに髪をしまっている中、ウガルルからそう言われた葵は笑顔になる。
「でもオレ、あんナに出来るか……」
「触れるきっかけのあった物は全部やってみよう。お仕事探すのを手伝うって約束だしね」
「……おウっ!」
そうしてキッチンに入ったウガルルは包丁を持とうとするも、うまく構えられないようだ。
「右手の指はこうで……左手は……」
「んが……」
ウガルルに手を添え、その指を一本ずつゆっくりと包丁の柄に置かせる葵だが、あまり効果は出ない。
しばらくしてウガルルが手をプルプルと震わせ始めると、葵は包丁を台に置かせる。
「大丈夫? ウガルルちゃん」
「オレ……」
「どうしたいかな?」
「……オレ、爪でやってみテいいカ?」
「どうですかね? 店長」
「うむ、やってみたまえ」
白澤の許可がでると、ウガルルは腕を構えるとまな板の上の玉ねぎに向け、その爪を振り下ろす。
しかし、それは玉ねぎどころか下の台所まで両断してしまい、ウガルルはショックを受けている様子だ。
「アオイ……オレ……」
「パワーが強すぎるのは俺が埋め込んだ骨格のせいだから、ウガルルちゃんは悪くない。ね?」
「んが……」
葵はウガルルの手を握り、ゆっくりとそう説く。
(……どうにかセーブも出来ないものか……小倉さんなら何か……)
亀裂を見て、その奥に地表らしきものを視認した葵はそんな事を考える。
(……ガス管とか無くてよかった)
■
「すみません、店長。俺が迂闊でした。もっとよくウガルルちゃんの事を考えて、そうしてから提案するべきでした。
それに、毛を分けて下さった恩もあるというのに……」
ウガルルの慰めをミカン達に任せた葵は、少し離れて白澤に頭を下げる。
「葵クン、謝るのはよしたまえ。君はウガルル君の事を十分に思慮しているよ。
君はウガルル君を導きたいと、そう思っているようだが……君もまだ導かれる側でもあるのだよ。
だから、僕に協力出来ることなら任せてくれたまえ」
「店長……」
白澤の言葉に、葵は思わずしんみりとしてしまう。
「大丈夫、昔のリコ君より10万倍マシだから!
葵クンが一度も厨房を壊したこと無い事に違和感を覚えるくらいだ!」
「えぇ……」
そんな謎のフォローを聞かされた葵は引き攣った顔を隠せなかった。
とはいえ、それでも軽く葵は落ち込んでしまい、そして白澤の言葉を脳内で反芻しつつ思考する。
(できる事か……)
ミカンの夢の中であんな大口を叩いた葵だったが、自分自身で約束を履行できる自信は、実の所葵にはあまり無い。
「あの……さっきから私、ウガルルの同居人として言いたいことが。
向いてる仕事じゃなくて……ウガルル自身のやりたい仕事って何なのかしら」
(……)
ミカンの指摘を聞いた葵は、目的を見失っていたかもしれないと思わず唇を噛む。
「オレ使い魔、頼まれた仕事ガやりたい仕事!」
「もう使い魔じゃないんだって。何か貴方自身の願望を見つけてほしいのよ」
「……ウガルルちゃん、ごめんね」
「? 何でアオイ謝ル?」
首を傾げるウガルルを見ると、葵には罪悪感が積もっていってしまう。
「……とりあえず、今やりたいことあるかな?」
「……分からン。あえて言うなら……アオイの魔力欲しイ。
いっぱい動いテ、エネルギー不足ダ……あとついでニ肉食べたイ」
「はは……」
葵が力無く笑い、そしてウガルルの望みの行為を始めようとすると、厨房から謎の爆発音が響く。
葵達がそちらを見ると、冷蔵庫から何故か半透明の黒い腕が生え、動き出そうとしていた。
「ゴハンヤデ……クエヤ……クエ……」
「なっ……あれは……料理の強い魔力が冷蔵庫を動かしとる……」
「……俺の料理も下手したらああなるのか……」
どうやら冷蔵庫の中の魔力料理が、蟲毒のような状態と化してしまい、強い呪いの力が冷蔵庫を動かしているらしい。
リコの説明を聞いた葵は一瞬現実逃避をしていたが、ハッとなり厨房に走る。
「いやこれどうするの……?」
爪楊枝を成長させ冷蔵庫を拘束しようとするものの、葵が思っていたより力が強い。
これ以上となると店に根を張らなければならず、しかし近づいての素手での対処は流石に躊躇われるが故に、どう対応するか葵は悩む。
料理を消し飛ばそうとするミカンを、リコが親心で止めようとする攻防の中、そちらに気を取られていた葵に木の根が伸びる。
「あっヤバイ……ッ!」
「葵ぃっ!?」
根に引っ張られる様子を見たシャミ子が悲鳴をあげるも、葵はなんとか踏みとどまり綱引きの状態に持ち込む。
しかし、他に伸びた根への対処に葵は精一杯であり、ズルズルと床を滑って行ってしまっている。
「ぐぐ……キツい……!」
「あれ……リコさんによれば呪いなんですよね。どうしたら……」
冷蔵庫を拘束していた爪楊枝が呪いに乗っ取られ、葵は制御を取り返そうとするも、店を壊すわけにもいかないという躊躇いにより集中が出来ない。
「オレ……あいつノ気持ち分かるかもしれなイ。
料理としてうまれテ食べて欲しくテ動き出して……でモ、変な形なっテどうしていいか分からなイ。
だからあんな事してル。だから……オレ、あいつ切って食べテ助けてやりたイ!」
「ウガルルさん……」
「ウガルルちゃぁん! 今度また玉川牛買ってくるから助けてェ!」
ウガルルが決意の言葉を叫び、シャミ子がそれに感動している中、葵は最高にカッコ悪い懇願をしていた。
そしてウガルルが挑発を行うと、冷蔵庫は葵をターゲットから外したのだが、低い位置にあった根が移動したことで、それに脚が引っかかった葵は床に叩きつけられる。
「……」
「葵……大丈夫ですか……?」
「もういっそ…………て……」
シャミ子に駆け寄られ、床に突っ伏し濁った目でそう漏らす葵は、あまりの羞恥から10年前以来の感情を得ていた。
■
「ひどい目にあった……」
妙な言葉を口走った事を回想した葵が顔を赤くして立ち上がり、ため息を突きながらそう呟いた後に周りを見渡すと、店内のあらゆる所にウガルルの爪痕が残されており、葵は絶句する。
「……うちのお店は当面お休みだ。ウガルル君は一旦クビってことでいいかな……」
呆然と立つ白澤の言葉を聞いた葵は再び床に伏せ、ヌルリとした動きで土下座に移行する。
「ごめんなさい」
「謝らないでくれたまえ!」
実際、店がこの有様になったのは葵が作ったよりしろ内の霊木のせいであり、これがなければもう少しマシだったかもしれない。
白澤がウガルルに対する説法をしている間も、葵は土下座を継続し思考していた。
(ウガルルちゃんが自立できるまで一生責任取らなきゃ……)