まちカド木属性   作:ミクマ

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大切にしますね

「んが……頭痛イ……」

 

「少し休憩しようか」

 

 とある日、ウガルルに勉強を教えていた葵は、ウガルルが頭を抱えている様子を見てそう提案する。

 

「でモ……仕事見つけるのにコレ大切っテ……」

 

「詰め込みすぎるのは良くないよ」

 

「んが……」

 

 葵の言葉を聞き、ウガルルはテーブルに突っ伏す。

 ミカンからの要請で葵はこれを行っているのだが、シャミ子とも良子とも異なるベクトルのやりがいを感じていたりする。

 

「アオイ……」

 

「いつものだね」

 

 顔をあげたウガルルに名前を呼ばれ、葵はウガルルの手を取る。

 魔力譲渡をして欲しい時特有の視線と声色。

 それを葵は感じ取れるようになっていた。

 ミカンからはあまり甘やかしすぎないようにと、そう釘を刺されていたりするのだが。

 

(お勉強頑張ってたし、これくらいはいいよね……)

 

 葵はいつも似たような考えで、結局はまた忠告をされてしまうのがパターンだ。

 そして寝息を立て始めたウガルルに毛布をかけ、葵はお菓子でもつまもうと部屋を出る。

 と、そこで玄関からの音を耳にし、向かった葵が見たのは良子。

 

「良ちゃん、どうしたのかな」

 

「……お兄と一緒にいたくて」

 

 そう言った良子をウガルルのいる部屋に向かわせ、葵はクッキーを持って戻る。

 良子は眠るウガルルをチラチラと見ていたが、葵の勧めでクッキーに手を付けた。

 

「……おいしい」

 

「それはよかった」

 

「……それでね、お兄。頭……撫でて欲しいな。今日はね……」

 

 最近、良子はそんな懇願をすることが多くなってきた。

 撫でられる“実績”と葵のトラウマを克服するという“名目”を並べて、そうお願いをする良子。そんな姿を見ると、葵はどうしようもなく心を揺さぶられる。

 

「だからね……」

 

「大丈夫だよ」

 

 揺らぐ眼差しで見てくる良子に、葵は少し震えながらも腕を伸ばす。

 そんな葵の手に向け、良子の方から軽く背伸びをするのはいつも通り。

 

「ん……」

 

「……」

 

 目を細める良子と、口を真一文字にしてやはりぎこちなく手のひらを滑らせる葵。

 

「……もういいよ」

 

「……うん」

 

 葵が撫でるのをやめた後、良子は葵の腕を抱くか、逆に葵の頭を撫で返すかのどちらかが定番である。

 今回は前者であり、少しの後に良子は葵を見上げた。

 

「……あのね。お兄は最近、ウガルルさんと一緒のことが多いけど……ウガルルさんの事、どう思ってるの?」

 

 良子からの予想外の質問に、葵は目をパチクリとさせた後に悩みながら答え始める。

 

「そう……だね。俺と、似た理由で壁にぶつかりそうになってて……それを止めたかった。

 それで、少しでも……やりたいことを見つける手助けがしたいなって」

 

「そう……なんだ……あと、お兄にとってウガルルさんはどんな……立ち位置?」

 

「立ち位置……? 知り合いとか、友達とか、そういうどんな関係性かってこと……?」

 

「……うん」

 

 問いの意味が分からずに葵がまた悩んでいると、良子が口を開く。

 

「……目標を見つけてほしいのなら、先生と生徒とかじゃないかな。それか、先輩と後輩」

 

「……うぅん? ……生徒……後輩……」

 

「お兄はウガルルさんの事、導きたいんでしょ?」

 

「……俺が先生……? よく分からないけど……良ちゃんがそう言うのならそうなのかも……」

 

「きっとそうだよ」

 

 俯いて悩んでいる葵を良子は撫で始めており、葵には良子の顔が見えない。

 

「……んが?」

 

「……あ、ウガルルちゃん」

 

 と、そこでウガルルが目を覚まし、良子を視認する。

 

「……ボスの妹……」

 

「お姉と、それとお兄の妹の良子です」

 

「……?」

 

 どこか違和感を覚えるもそれに対する答えは出せず、葵が疑問符を浮かべていると、良子に耳打ちをされる。

 

「お兄、ウガルルさんのことは撫でたりできるの?」

 

「え……?」

 

「……してないんだね。お勉強頑張った時のご褒美に、してあげたらどうかな」

 

「……うん、そうだね。ありがとう良ちゃん」

 

「?? 何の話してるんダ?」

 

 小声での二人の会話を聞き取れないウガルルは首を傾げていた。

 

「良、そろそろ帰るね。ウガルルさんも……お兄も頑張って」

 

 笑顔でそう言う良子が玄関に向け駆けて行く姿を見て、葵はつられて微笑んだ。

 

「よく分からなイ……アオイ、続き頼ム」

 

「そうだね、頑張ろうか」

 

 ■

 

「……という訳で、ボードゲームとか貸してくれないかしら」

 

 家に訪れたミカンに、葵はそんな頼み事をされていた。

 この日の翌日はシャミ子の誕生日であり、ミカン達は学校で誕生日会を計画している。

 その余興としての準備の一つがボードゲームという事だ。

 葵はミカンを連れてそれらがしまわれている部屋に向かい、収納からいくつかの箱を出す。

 

「とりあえず……このあたりかな。5人程度なら」

 

「おすすめとかあるかしら」

 

「そうだね……」

 

 葵が顎に手を当て考えている中、ミカンはとある事に気がつく。

 

「……あら? そっちの箱は何かしら?」

 

 収納の中にはまだ箱が残っていた。

 ミカンがそれを指差すと、葵は軽く汗をかいて一瞬沈黙し、その後震えた声で話しだす。

 

「……あれはやめておいた方がいいよ」

 

「そう言われると気になるじゃないの」

 

「いやほんとに……」

 

 引き攣った笑顔で止める葵を見て、ミカンはムッとしていたのだが、すぐにニヤリとした顔になる。

 

「……見せて?」

 

「ちょっ……!」

 

 収納に向け伸びて行くミカンの腕を葵は掴むも、しかし魔法少女なだけあってその力はかなり強い。

 力を発揮すればどうにかは出来るだろうが、怪我をさせるのはダメ。

 そんな考えが、葵にその行為を躊躇わせる。

 

「ぐぬぬ……」

 

「葵、優しいのね?」

 

 拮抗し膠着する取っ組み合いの中、ミカンはニヤニヤしながらからかうようにそう言う。

 その間葵は唇を噛んでいたが、ミカンが口角を釣り上げるのを見ると嫌な予感がした。

 

「行きなさいウガルル!」

 

「んがっ!」

 

「ウガルルちゃん! 良い子だから待って! ほんとに!」

 

 合図と共に、ミカンの後ろに控えていたウガルルが収納に向け飛び出す。

 そして、そっちに気を取られてしまった葵はミカンに押し負けてしまい、押し倒される。

 

「……ミカン」

 

「あ、ごめんなさい」

 

 ミカンは軽く赤面しそう謝っていたが、しかし楽しそうでもあった。

 

「取ってきたゾ!」

 

「いい子ね、ウガルル」

 

 ウガルルの持ってきた箱を受け取り、彼女の頭を撫でると、ミカンはその箱を眺める。

 そこには──。

 

【宇宙エロ本そうだつゲーム】

 

 ──そんなタイトルが描かれていた。

 

「……なっ……!?」

 

 それを視認したミカンは先程にも増してその顔を真紅に染め、声にならない声を出す。

 そんな様子を見て、未だ仰向けで倒れていた葵はようやく上体を起こし、そして頬を掻いた。

 

「……だからやめておいた方が良いって言ったのに……」

 

 葵はため息をつきながらそう漏らす。

 

「アオイ、何だこレ」

 

「……」

 

 ウガルルからの純真な疑問に、葵は眉間を押さえ沈黙する。

 そんな二人の様子を見て、ミカンはある程度の正気を取り戻したようで、箱を床に置くと赤面のまま我が身を抱きしめながら問う。

 

「……え? こういうのが葵の趣味なの?」

 

「違うっ! ていうか趣味って何かな!?」

 

 少し怯えた様子のミカンに、葵は顔を真っ赤にして叫び否定する。

 

「……夏休み終わってから、学校で人に渡されたんだよ……捨てるのも悪いし……」

 

「……本当に? 私をこうさせるための策略じゃなくて?」

 

「どういう考え方をしたらそんな答えに至るの……」

 

 冗談ではなく本気でそう思っている様子のミカンを見て、葵はまたもため息をつく。

 未だ赤面したままのミカンはチラチラと箱を見ていたが、少しするとおずおずと手を伸ばし箱を開ける。

 

「……すごろく……ルールは割と真面目なのね……」

 

「……何してるの?」

 

 謎の行動に葵が軽く引いていると、ミカンがふと思い立ったように口を開く。

 

「……これ、シャミ子達に見せようかしら。葵が持ってたって」

 

「いきなり何言ってるの!? やめて!?」

 

 いたずら混じりのミカンの言葉だったが、葵は心の底から拒否している。

 

「優子達に知られたらどんな反応されるか……ッ!」

 

 シャミ子や桃からの軽蔑の視線を想像した葵は、本気で怯えている様子だ。

 

「……冗談よ」

 

「うぅ……」

 

 半泣きの姿を見たミカンは密かにキュンと来ていたりするのだが、それに葵は気がついていない。

 

「……とにかく、学校での誕生日会は任せたよ。こういうの、優子は初めてだから」

 

「もちろんよ……そういえば、葵の誕生日プレゼントって何なの?」

 

 葵自身は誕生日会には不参加であるが、当然プレゼントは用意している。

 

「それは──」

 

 ■

 

 翌日。

 葵は学校で桃からの携帯へのメッセージを確認する。

 

『葵はシャミ子の誕生日プレゼント何にしたの?』

 

 葵はそれに答えると、逆に桃のプレゼントが何か問い返したのだが、何故かそこで返事が途切れる。

 桃の既読無視はよくあることだが、葵はなにか嫌な予感がした。

 

『桃?』

 

 まだ返事はない。

 

『まさかとは思うけど用意してないなんてことはないよね?』

 

『闇落ちするからやめて』

 

 その返事だけは爆速で届き、葵は引かざるを得ない。

 

『まあ桃の選んだものなら優子は何でも喜ぶと思うよ』

 

『そうかな』

 

『そうだよ

 でもダンベルだけは止めたほうがいいと思うよ』

 

 返事はなかった。

 

 ■

 

「おかえり皆。優子、誕生日会はどうだったかな」

 

「とっても楽しかったです!」

 

 日が沈んだ頃、帰ってきたシャミ子達を葵はばんだ荘の前で出迎えた。

 プレゼントの入った袋を沢山持ち、心底嬉しそうな声を上げるシャミ子を見て、葵はつられて笑う。

 その後、葵はシャミ子を家に招いた上で話を続ける。

 皆からのプレゼントを見せてくるシャミ子だったが、少し暗い顔になり口を開く。

 

「ほんとは葵も一緒なら良かったんですけど……」

 

「流石に休みでもない時に入るのは無理だよ。

 その代わりお菓子とか持っていってもらったけど、どうだったかな」

 

「いつも通り、凄く美味しかったですよ」

 

 と、そこで葵はプレゼントの中に、二世代ほど前の据え置きゲーム機が存在している事に気がつく。

 

「これ、リコさんと店長から貰ったんです!」

 

 そのゲーム機は葵も持っており、それをシャミ子も使ってはいるのだが、そこそこ高価な物故に呪いによるペナルティを考慮し、あくまで葵の家に置いておく事にしていた。

 

「なら、俺のソフトもいくつか貸すよ」

 

「いいんですか!?」

 

「もちろんだよ。で、それで……」

 

 そこで葵は立ち上がり、部屋の棚に置かれている彫刻の掘られた木箱を持ち出すと、テーブルに置く。

 

「きれいな箱ですね……」

 

「俺からのプレゼント。開けてみて」

 

「はい……」

 

 葵の勧めに乗り、シャミ子はその箱を開ける。

 その中には、動かないようクッション材にセットされた多数のヘアアクセサリーが入っていた。

 

「こんなに……すごくきれいです」

 

「ぜひ使って欲しいな」

 

「でも……高かったんじゃないですか?」

 

 心配そうなシャミ子の問いを葵は否定はしない、が。

 

「これまでは、呪いのせいであまり良いものを送れなかったからね。

 これは10年分のプレゼントだよ。

 優子の色々な髪型、俺に見せて欲しい」

 

「……! はいっ!」

 

 もう夜ではあるが、シャミ子はせっかくだからとこの場で髪を結いはじめる。

 シャミ子は自分自身でやりたいと言い、それを見ていた葵は途中で気がついた。

 

「それって……」

 

「はい。葵と、おそろいです」

 

 後ろに流す葵の髪型。

 それは中性的な印象を与えられる様に試行錯誤をしたものだったが、シャミ子のそれからはまた違う印象を葵は感じた。

 

「どうですか?」

 

「うん。すごく……似合ってるよ」

 

 葵は目を潤ませながら笑い、シャミ子はそれを見て少し慌てている。

 葵のそれにはどんな意味が、どれだけの意味が込められているのか。

 

「もう……葵、最近はすぐ泣くんですから……」

 

「……本当に、似合ってる」

 

「ありがとうございます。これ、一生大切にしますね」

 

 二人は微笑みあい、そして夜は更けていく。

 

 ■

 

「そういえば葵、他にプレゼントの候補とかあったの?」

 

 翌日、ふと思い立ったようなミカンに葵はそう問われる。

 

「そうだね……香水とか考えてたんだけど……」

 

「ヘアアクセにした決め手は何かしら?」

 

「優子が……使ってる姿をはっきり見ることができるから……かな」

 

 葵はそんな理由を少し恥ずかしそうに答え、次に微笑むと言葉を続ける。

 

「まあ香水も薄めの物でも分かりはするけどね」

 

「……葵、結構鼻が効くのかしら」

 

「そう……だね」

 

 絶対に引かれると思っているので言いはしないが、葵は人がシャンプーを変えた日などは敏感に分かったりする。

 

「鼻に限らず……五感は昔から良いほうかな。力のせいもあるけど」

 

「それだと、良すぎて逆に苦労する事とかあったんじゃないかしら?」

 

「……まあ、それなりにあったかな」

 

 ■

 

「……葵くん?」

 

 訓練の途中、ふとした拍子に葉の付いた枝が頭部に当たり、唐突に硬直した幼き葵に桜が声をかけるも、反応はない。

 

「あ……ああ……ああああ……っ!」

 

「葵くんっ!?」

 

 声にならない声を上げ、頭髪をめちゃくちゃにかき乱し始める葵。

 その脳裏には、額に乗るあの手のひらの感触が明確に想起されていた。

 

「葵くんっ!」

 

「ぁ……」

 

 過呼吸になっていた葵を、桜は抱きしめ背中をゆっくりと擦る。

 

「大丈夫……大丈夫だから……」

 

「さくら……さん……」

 

 肩越しに、葵の顔に桜の髪が触れる。

 そこから漂う香りが鼻をくすぐると、幼き頃の葵はそれが絶対的な安息だとそう記憶に、そして心に強く刻み込んだ。

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