まちカド木属性 作:ミクマ
「余にもおっきいよりしろを寄越せ!」
とある日、イライラしている様子のリリスはそう叫ぶ。
リリスもウガルルの様な等身大のよりしろが欲しいらしい。
「ウガルルのようなスーパーパワーなよりしろが余もほしい!」
「いや、ウガルルちゃんの場合は俺の力との相性が良かったのが大きいですし」
「それだけじゃないよ」
喚くリリスを葵は静止し、更に桃がよりしろを作れない理由を語る。
リリスの場合、強力な封印により魂がまぬけな邪神像に固く縛られている。
そのため、よりしろに憑依させても長持ちはしないらしい。
「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!
一生おりこうさんするからーっ! 靴とか舐めるからーっ!」
そう更に喚くリリス。
そんな姿を見てシャミ子は涙を溢していた。
「……と言っても具体的にどうすれば……」
シャミ子が泣くと葵は弱い。
葵はリリスへの同情と言うより、シャミ子の涙に動揺して多少協力的な態度になった。
と、そこで『おぐらボタン』と描かれた謎の機械が天井から吊り下がって出てくる。
「……これ家にいつの間にかついてたな……」
「せんぱぁい……遠慮せずに押してくれていいんだよぉ……?」
「うわ出た……」
葵がそのボタンを不気味に思っていると、天井からしおんが降りてくる。
「俺の家が戸建てだからって、好き勝手にいじられると困るんだけど……」
そんな葵の愚痴をスルーし、しおんはリリスの等身大よりしろが作れるかもしれないと言う。
ウガルルを召喚した際の材料の余りを使えば、古代の封印に抗えるかもしれないらしい。
「せんぱい、あの土まだあるかなぁ? あるならもう少しだけ頑丈に作れるかも」
「……まあいいか。リリス様、よりしろ作りますよ」
「葵……お主……」
■
「……で、小倉さん。また骨格作れば良いのかな」
「そうだねぇ……」
葵はウガルルの際の事を参考に、霊木の枝をいくつか採取して持ち出し、そしてしおんに問う。
「今回はウガルルちゃん程の加工はいらないし、意味もないかなぁ」
「……ふぅん」
「多少寿命は伸びるだろうけど、結局は封印が強すぎるからねぇ」
「……まぁ、出来る限りのことはするよ」
「せんぱい、ご先祖様に結構厳しいと思ってたけどぉ……ツンデレ?」
しおんのからかうような声に、葵は鼻で笑った。
実際の所、よりしろとは言え直接対面すれば何か感じる所はあるかもしれないと、葵はそう思っていた。
リリスとシャミ子から聞き出した身長を参考に葵は霊木を加工し始め、そして翌日。
「そんなわけで……お待たせー! 余、降臨だ!」
「……眠……」
結局葵は徹夜となり、あくびをしながら壁によりかかる。
「……葵」
「桃……大丈夫?」
「葵こそ……」
桃と葵の徹夜コンビはお互いにそんな心配をしているものの、ハタから見ればどっちもどっちだ。
そんな二人を置いて、久方ぶりの現世にテンションのあがっているリリスだったが、しおんの忠告に水を注される。
「その体十日で死ぬよ。これでもがんばって活動寿命を延ばしたんだよぉ。
魔力筋力いろんなところをコストカットして……。
せんぱいにもがんばって貰ったけど、三日延ばすのが限度だったよぉ……」
話題に上がった葵は未だ壁により掛かっており、今にも体が崩れ落ちそうだ。
「5000年引きこもったうっぷんを十日で晴らすのだ! 葵もついてこい!」
「……ハァ……」
葵は天井を見てため息をつくと、爪楊枝のパック丸々一つ分を使い杖を作る。
「俺疲れてるんですけど……」
「お主は前に余に威厳を見せてもらっていないと言ったな! 今こそ見せてやるぞ!」
「そんな前のこと今更……分かりましたよ」
■
今日は土曜日。
明後日からは学校であるため、シャミ子と桃に葵はとりあえずこの二日間、リリスについて行くことにした。
「これからは秒単位のスケジュールだ。まずは銭湯巡りだ!」
「葵……」
「……おんぶする?」
ふらつく姿を見て、半ば冗談で言った葵の提案だったが、桃は真剣に悩んでいるように見える。
「……杖と……あと肩貸して」
「お主らは老人か!」
「……」
そのツッコミを聞き、葵が思わず寝不足からのギラギラした目で見つめると、リリスはたじろいだ。
そんな一幕がありつつも、一行は目当ての銭湯に到着する。
「……流石にこの状態で一人で風呂とかヤバそうですし、俺はロビーで待ってますよ……」
そうして三人を見送り、葵はロビーにあるマッサージ椅子に硬貨を投入して座る。
「あ゛〜……」
「……やっばり、葵さん。お久しぶりですわね」
「……? ……妃乃……」
「何でそんなに死にそうな目をしてるんですわ……」
もみ玉に押され、声にならない声を上げる葵に声をかけたのは万願寺妃乃。
「……どうしてこんな所に……」
「今日は正規に寮を出られるたまの休みです。
それでこの辺りをぶらついていたら、窓越しに葵さんを見たんですわ」
「ふぅん……」
「……ところで。しばらく見ない内に葵さん、何だか雰囲気が凄く変わっておりますわね」
「……?」
妃乃のその指摘に、葵は疑問符を浮かべている。
実際の所、シャミ子達への過去の告白を始めとしたここ二ヶ月ほどの経験で、葵は身に纏う雰囲気がかなり変わっていた。
「……妃乃が休みなのはわかったけど、もう少し高校の近くでも良いんじゃない?」
「この辺りにあるゲームショップに興味を持ったのですわ」
「あぁ……そういえばゲーム制作部だったね……」
「葵さんこそ、そんなお風呂に入れなさそうな状態で……どうしてこんな所に?」
「ああ……」
封印されしご先祖がどうとかは言うべきではないだろうと、なんと言うべきか葵は悩む。
「……海外から友人が来ててね、銭湯に興味持ってるみたいなんだよ」
「海外……?」
葵の説明は間違ってもいないだろう。
そんな言葉を聞いた妃乃はふと気がついたようだ。
「……付き添わないということは……その方、女性でしょうか?」
「そうだよ」
「……そうですか」
妃乃は少しムッとした様子だったが、疲れている葵はそれに気がついていない。
「そういえば、最近葵さんはテニスをやっておいでですか?」
「……最近は少し忙しくてね」
妃乃の問いに、葵は目を閉じて回想をしながらそう答える。
とある日、葵が気晴らしに練習をしようとした所、ボールを割ってしまった事があったのだ。
以前はこのようなことはなかった。
葵の身体能力は素の状態でも高くはあるが、魔力による強化が無ければ比較的常識的な範囲だった。
何故この様な事になっているのか。
葵の推察としては、“解放”を繰り返してより強い力に当てられた事により、己の体がどんどん変質しているのではないか……と、云うものだ。
「……まあ。葵さんは忙しそうですし、仕方ありませんわね。
体が鈍っている訳でも無さそうですし」
妃乃は何か他に言いたげな雰囲気ではあったが、それだけしか口には出さなかった。
「……せっかくですし、わたくしも少し入って行きましょうか。
葵さん、ごきげんよう」
「道具のレンタルはそこだよ……」
葵がそこを指差すと妃乃は去って行き、それと入れ違いにリリス達が戻ってくる。
「早かったですね……」
「時間がないのだ! 次はラーメン屋だぞ!」
リリスはそれだけ言って銭湯の出口へ向かい、立ち上がろうとする葵にシャミ子が声をかけた。
「さっき葵と話していた人……確かあの高校の人でしたよね。仲良いんですか?」
「……まあそうかな。それより桃は大丈夫なの?」
「私が手伝いながら服着せたんですよ。大変でした」
「……大丈夫じゃなさそうだね」
■
とにかく怒涛なリリスのスケジュールに葵達は振り回され、そして夜。
「初日最後のプログラムは家族で雑魚寝することだ!」
「私帰っていい?」
「俺も……」
枕を片手にそう宣言するリリスに対し、葵と桃は苦い顔をしている。
「余は誰かと寝るのは子供の時以来なのだぞ。これくらい付き合え!」
「そういえば……葵、昔はよく一緒に寝てましたよね」
「……昔の話だよ」
懐かしそうなシャミ子の言葉を聞いた葵は顔を反らし、それを見たリリスがニヤリとする。
「おんやぁ? 葵よ、照れておるのかぁ?」
「……」
「ホレホレ、素直に言うてみるが良い。ホレホレほげぇっ!?」
「ごせんぞぉ!?」
葵をつんつんと突きながら煽っていたリリスが唐突に悲鳴をあげ、電気を流されたカエルの如く身体を痙攣させた。
「ああやっぱり、このよりしろ……こういう干渉もできるみたいですね」
「なん……だと……」
これまでの逆襲とばかりに葵はニヤケ顔を返し、リリスは口をパクパクと動かしている。
「これに懲りて……」
「あの……葵……」
わざとらしく煽り返すような声を出そうとした葵だったが、もじもじとしたシャミ子にそれを遮られた。
「……優子?」
「一緒に寝るの……嫌ですか?」
「……嫌じゃ……ないけど……」
不安げなシャミ子に見つめられた葵は言葉に詰まり、そして。
「……布団持ってくるから少し待ってて」
「はいっ!」
■
二日目、日曜日。
この日も三人は連れ回され、移動中の一幕。
「……ッ! ついに出られたか! 人の作りし道に……!」
道端の茂みから出てきたのは、衣服をボロボロにしてふらついている女性。
シャミ子達は見知らぬ女性のその姿に驚いていたが、心配して駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「……大沢先生。何してるんですかこんな所で……」
「葵、お知り合いですか?」
「この人は……ウチの学校の大沢南先生だよ」
「喬木か……」
とりあえずの処置として、南を近場のベンチに座らせ話を聞き始める一行。
「教職員の業務から開放されて遊ぼうと思ったんだがな……」
「……学校にもいつもそんな感じで出勤してますけど、どういうことなんですかね」
「休日は諸々運行時間変わるし、いろいろ大変なんだぞ……」
「どんな秘境に住んでらっしゃるんですか……?」
「八王子だ……」
極めて、と言う程でなくとも十分に栄えているはずのその地名を聞き、シャミ子達は何故こうなるのか答えにたどり着けず、首を傾げる。
「……喬木、地元じゃこんなに女子とつるんでるんだな……」
「……今は俺の話はいいでしょう」
「葵の学校の話……興味あります」
「優子……」
話題が変な方向に行こうとしている事を察知し、葵はそれを止めようとするも、興味津々のシャミ子を見て眉間を押さえる。
「喬木はな……二年に入ってから不良グループとつるんでるんだ」
「えっ……? 葵、不良だったの……?」
「いやそれは……」
南の話を聞いた桃達に疑惑の目で見られる葵。
その話自体は紛れもなく事実であるので、葵はどう言い訳をするか悩む。
「葵がたまにボロボロなのはそういう事だったんですか……?」
「葵よ……あまりシャミ子たちを心配させるでないぞ……」
「そっちはまた別件で……ケンカしてるわけじゃないから……」
「ボロボロになるような事が別にある方が心配ですよ!?」
シャミ子による正論に、葵はぐうの音も出なかった。
「フフフ……喬木、親がいないと聞いていたが……心配はなさそうだな」
南は珍しく教師らしい言動をしていた。
こう見えて、件の不良グループがケンカに明け暮れていた時、南はギリギリまで庇っていたくらいなのだ。
「あの、先生。葵のこと、よろしくお願いしますね」
「喬木は学校じゃ面倒ごとは起こさんぞ……」
「それでもです。学校の出来事を葵は全然聞かせてくれませんから」
少ししんみりした空気になっている中、葵はシャミ子達に背を向けていた。
「……あ〜……先生。もう大丈夫でしょうか」
「ああ……面倒かけたな」
そうして一行は南に挨拶をして離れようとしたのだが、また呼び止められる。
「そうだ……そこの……褐色の奴」
「む? 余か?」
「お前の声……どこかで聞いたような……」
「お主とは初対面のはずだが……?」
「……今度こそ、もういいぞ」
■
三日目、月曜日。
「本当に良いのか? 葵」
「ええ。俺は優等生ですから、少しくらいは問題ありません」
シャミ子達は当然学校へ行く日であるものの、葵はこの日休むという宣言をしていた。
裏で清子に土下座をして許しを貰うという一幕があったのだが、それは隠している。
「それに、リリス様を一人にしてたらとんでもない無駄遣いとかしそうですし」
相変わらずハードなスケジュールをこなし、そして昼。
本日リリスの望む昼食は、ショッピングセンター内にあるピザバイキングの店。
「一昨日あんなラーメン食べて吐きそうになってたのに……大丈夫ですか?」
「お主が魔力をちょちょいのちょいとすれば消化できる!」
「そういう事言ってるんじゃないですけど」
受肉初日。
シャミ子達と共に向かったラーメン屋でリリスが食べた、豚の餌などと言われそうなそれ。
リリスはグロッキーと化していたのだが、葵が魔力でよりしろに干渉し、無理矢理消化をさせると平常に戻っていた。
「……まあいいです。入りましょうか」
入店するやいなや、リリスはカウンターに並べられたピザを山盛りにして席に座った。
リリス程ではないが、葵も何だかんだで育ち盛りの男子高校生故にそこそこに盛る。
「正直な所、お主は余を嫌っていると思っていたのだが」
「……」
葵のリリスに対する心境はかなり複雑なものだ。
リリスについて色々と考察している事はあるし、思う所もある。
しかしリリスがいなければシャミ子達と葵が出会う事はなかった。
それは紛れもない事実である。
「……別に、嫌っているわけじゃないですよ」
「だが好いてもおらぬだろう?
一昨日も言ったが、余に威厳を見せてもらっていないという葵の言葉、余は結構根に持っておるのだぞ?」
「……次の持ってきます」
「さっき店員の言っていたマシュマロのピザ、余の分も頼むぞ」
葵は考えを整理できず、とりあえずで先延ばしにする。
確かに葵は以前威厳がどうのこうのとは言った。
しかし、桜の情報を得ようとした時やウガルルの召喚時などに発揮された、リリスの溜め込んだ知識。
それは紛れもなく威厳と言って良いだろう。
なにより、シャミ子の急激な成長を語る上でリリスの話を欠かすことは出来ない。
(……ダダこねる子供か俺は……)
威厳を見つつも、それを認めない。
葵は自身をそう評価し、自分に嫌気が差す。
「どうぞ」
「感謝するぞ」
「……俺はリリス様の助言はありがたいと思ってますよ。
余計なことさえ言わなければ、ですけど」
「お主、小倉しおんの言った通りやはり……」
リリスのそんな指摘を聞き、葵は顔を反らしなんとも言えない表情になる。
「まあ、優子が貴方を敬っている限り……俺も相応の態度は取るつもりです」
「ククク……やはりお主を懐柔するならシャミ子からだな」
「あんまり優子に妙なこと吹き込むようなら、どうするか分かりませんけどね」
「ククッ……」
葵の忠告はニヤリとした顔で行われ、リリスもそれにつられて笑った。
「お主の方から配下にしてくださいと、そう土下座をするようにしてやろうぞ」
「……やってみて下さいよ。
そこらの子供に負けるその身体で出来るかは知りませんけどね」
口では認めなくても、葵は既にそこそこリリスを敬っているのかもしれない。
盛りすぎたピザをリリスが残そうとし、それを葵が無理矢理ねじ込んだりしつつも、二人の昼食は終わった。
そしてその後も葵はリリスに付き添い夜を迎え、体力のないよりしろを葵が支えながら帰路を進む。
「明日は何処行くつもりなんですか?」
「明日は朝から夜まで一日遊園地に籠もるつもりだぞ。葵も行くか?」
「……まあ、後一日ぐらいなら付き合いますよ」
「やはり、ツンデほげぇっ!?」