まちカド木属性   作:ミクマ

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何度も落ち込まないの

「ああやばいやばい……。遅刻だこれ」

 

 とある朝、葵はシャミ子を追い走っていた。

 彼女の母親から昼の弁当を任されている彼は、今日寝坊をしてしまっていた。

 急いで用意したそれを持って、先に行かせた彼女を追っていつもなら進まない別の学校への通学路を行く。

 そしてようやく、最近見慣れてきた角としっぽが目に映る。

 

「優子っ! 追い付いた……。桃?」

 

「葵! 桃がなんだかすごい熱みたいで……」

 

 何故かコーラのボトルを持ち、ふらつきながらシャミ子に支えられている彼女は明らかに良好には見えない。

 二人の声を聞いた桃はゆっくり顔を上げ、息を吐いた後喋りだす。

 

「葵……? 私は大、丈夫だから……。学校、遠いんでしょ……?」

 

「いやいや、いくらなんでもこんなの見てほっとけないから」

 

 ついさっき駅から発進したらしい電車を横目に、葵は桃の言葉を否定した。

 

「次は葵の学校ですよね。私、その間に水か何か買ってきますね」

 

 葵は桃の肩を支えて近場のベンチに運び、葵の携帯で学校に連絡を入れたシャミ子はそれを返し、代わりに小銭を受け取る。

 

「シャミ子の……家に行こうとしてたんだよ」

 

「……結界か」

 

「うん、そうだと、思う……」

 

 葵が電話を終えたのを見た桃は不調の推測を話し始め、返された言葉を聞いて納得していた。

 桃は浅い呼吸を繰り返しながらも言葉を続ける。

 

「やっぱり……シャミ子の許可が必要、なのかな……」

 

「あまり無理してしゃべるな……。体調戻ってから優子に言えば、喜んで招いてくれるだろうからさ」

 

 そこにシャミ子がボトルを持って戻ってくる。

 

「買ってきましたよ。お水、飲めますか?」

 

「変な夢を見たんだ……あまり、覚えていないけど嫌な夢……。でも……最後は安心する感じの……」

 

「最後は……安心したんですか」

 

「うん……」

 

(夢? ……優子の一族って……)

 

 桃の絞り出した言葉を聞いたシャミ子は驚きと不安の混ざった表情でそう返す。

 葵はそれを聞いて思考を始めるも、続く言葉でかき乱された。

 

「あと露出魔が出てきた気がする」

 

「露出魔……?」

 

 その予期せぬ言葉と、キャップを回しながら何故か顔をムッとさせるシャミ子を見て忘れてしまった。

 

「少し、楽になった。家に戻るよ……あっ」

 

「あぁそんないきなり……」

 

 葵は立ち上がろうとしてよろける桃を支え付きそう。

 会って数週、強い面ばかり見てきた彼女の弱々しいその姿に、彼は複雑な心境を抱く。

 

「二人共……ごめんね……」

 

(……いつも気を張ってるだけで、本当はこれが素なんだろうか……?)

 

 ■

 

 そうしてたどり着いた桃の自宅。

 シャミ子が公民館と勘違いするようなそこは、葵としては10年以上ぶりながら記憶に刻まれた通りで、思わず郷愁を感じる。

 

(………二段目)

 

 が、しかし一つだけその記憶と異なる部分があり、そこに葵は目を引かれるがそばに病人が居る故にすぐ視線を戻した。

 桃はお礼を言って帰らせようとするも、ここまで来て二人が置いていく訳もなく門を開ける。

 

「いろいろと心配だしね」

 

「そうです心配……じゃなくて! ここまで来たからには多少情報を盗んで変えるのが礼儀! おじゃましまぁす!」

 

(素直じゃないなぁ、優子)

 

 シャミ子が思わず漏らした本音に内心葵はニヤニヤしつつ、ナンバーロックである玄関ドアの暗証番号を聞く。

 

「暗証番号はごろごろにゃーちゃん……間違えた、56562」

 

「ごろごろにゃーちゃん覚えました!」

 

(たまさくらちゃんといい、猫好きなのか……)

 

 ソファーでいいと言う桃を、本当にそれで良いのかと思いながらも寝かせ、シャミ子の言葉で体温計を探す葵はデスクに倒された写真立てを見つけた。

 ホコリが被っている訳ではなく、比較的頻繁に見返している様子に思える。

 

(……いやいくら何でもプライバシーだし、今は体温計と薬だ)

 

「葵? そこはもう探しましたよ?」

 

「ああ、そうだったね。ごめんごめん」

 

「……もう帰っても大丈夫だよ」

 

「まだ帰りません! 今日は勝てる戦です!」

 

「戦って……」

 

 ファンシーな見た目のただの棒(ハートフルピーチモーフィングステッキ)を持ってテンションの上がっているシャミ子と、苦笑いをする葵の元に一つの影が迫る。

 魔法少女のナビゲーターである猫のメタ子はシャミ子にじゃれ付き、神託を行うと今度は葵の元に寄る。

 

(メタ子の方は……覚えてるのか?)

 

 自身の周りをぐるりと周回し、観察しているようにも見えるメタ子に葵はおずおずと手を差し出すと、メタ子が顎を載せてくる。

 嫌われている訳ではないのだろうかと、そのまま葵は顎を擦りもう一方の手で毛並みを繕う。

 

「時は来た」

 

「……うーん」

 

 シャミ子と同様に神託は貰えたものの、やはり分からないと葵は首を傾げる。

 少し呆けてそのままじゃれつきを継続していたが、急に起き上がった桃によって正気を取り戻す。

 

「あっ! 冷蔵庫やっぱダメ!」

 

 焦る桃はキッチンに入るも、ゴミ箱を倒して転んでしまう。

 遅れて葵も追いかけたが、支えることは叶わなかった。

 

「急にどうしたんですか!?」

 

「……見ちゃったか」

 

 シャミ子の持つ皿に乗った謎のモニュメント、それを見て桃は体調由来の物だけではない程に頬を染め、物体が以前に約束したハンバーグだと解説する。

 溢れたゴミをしゃがんで拾っていた葵は顔を上げ、少し呆れたような顔で口を開く。

 

「作ったことなかったなら言ってくれればよかったのに。俺自身は約束の相手じゃないんだしさ」

 

「……だってあんな意地悪言うから恥ずかしかったし」

 

「葵!? 桃に何したんですか!」

 

「うぐ……ごめん桃」

 

 シャミ子に詰め寄られた葵はバツが悪そうに謝った。

 

「私のためなら、いただきます!」

 

 シャミ子はハンバーグのようなものを少し見つめた後、一口つまむ。

 咀嚼し飲み込むと、顔を輝かせておおよそ料理に対するものとは思えない感想を口にする。

 それを聞いた桃は若干引き気味なものの、シャミ子の強さを褒め称えた。

 

 シャミ子は改めて冷蔵庫の中身を確認し、桃の普段の食生活を心底心配している様子だ。

 

「葵、今日のお弁当ってどんな感じですか?」

 

「うん……? あぁ、今日は消化に悪い訳じゃないけど、凄くいいって程でもないかな」

 

「そうですかぁ……」

 

 シャミ子の問いに対し葵がその意味を一瞬考えて答えると、今度はシャミ子が思案している。

 

「そうだ桃。今度うちにご飯食べに来ますか? おかーさんハンバーグ得意なので教えてくれるかも。葵もいいですよね?」

 

「……! あ、あぁ、うん」

 

「……是非、そうさせて貰うよ」

 

「俺が教わったハンバーグは豆腐がメインで、鳥ムネとネギを混ぜるんだよね」

 

「フワフワで、きのこのあんかけが乗ってておいしいですよ!」

 

「……それ、ハンバーグかな?」

 

(何ていうか、割とズボラなんだな。桃)

 

 桃のことをシャミ子に任せ、葵は皿を洗っていた。

 ハンバーグが乗っていた物以外にも気になる食器を見つけ、続けて洗いながら思考する。

 

(さっきの優子のあの言葉……。まあ桃なら問題ないとは思うけど、優子に結界の事を話しといたほうがいいのかな)

 

「もーっ、今日の桃はほんと調子くるう〜!」

 

「優子? どうかした?」

 

「なんでもないです! ……あの、うちならうどんとかあるかもしれないので、見てきますね」

 

 シャミ子は小声で話し、葵は水音を聞きながら考え事をしていた事で()()に気づく事が出来なかった。

 シャミ子の提案に乗り、葵は桃の家に残って先程見逃してしまっていた小さなゴミを拾っていると、床に掠れた赤い何かを見つける。

 

「これは……」

 

「シャミ子、何処!?」

 

「優子ならそこのメモどおりに家に……ッ!」

 

 いつの間にか起きていた桃が周りを見渡し、顔を上げた葵を見つけると慌てた様子で左手の甲を見せて問いただす。

 ソレの意味をすぐさま察した葵は戦慄し、青褪めていく。

 

「早く行かないと……!」

 

「ああそんな急に動……」

 

「駄目っ……! もし捧げられたら私は……。街を、守れなくなる……!」

 

 葵の言葉を遮りながらも、何かに怯えるような表情と弱々しく震えた口調で絞り出された桃のその言葉に、葵の心は激しく揺り動かされる。

 

「……わかった。肩貸すよ」

 

 ■

 

「ごめん、俺が気づくべきだった」

 

 その謝罪の言葉を聞く余裕すら無さそうな程に焦る桃を連れ、葵はばんだ荘に向かう道を進む。

 葵は、自身にとってよく見慣れたその建物が視界に入った所で指差すが、桃はその外観故に困惑している様子だ。

 

 狭く、人を支えながら登るには手間取るばんだ荘の階段を登りきった所で、吉田家の玄関扉の隙間から光が漏れ出した。

 

「遅かったか……」

 

 廊下で振り返ったシャミ子は、ふらつく桃と深く後悔した様子で唇を噛む葵を見て驚いていた。

 シャミ子は病人を連れてきた葵に対して叱責するも桃に庇われ、続けて行われたやり取りを聞いて困惑している。

 

「俺のせいだ」

 

「今はいいから、話を続けよう」

 

「なんの……ことですか?」

 

 玄関扉に仕掛けられた、魔法少女の干渉を防ぐその結界について桃は説明を始める。

 しかしシャミ子はあまり理解できていない様で、桃の言葉を遮って家の中に連れ込む。

 

「せめて座って話しましょう! 葵もです!」

 

 珍しく二人を押しているシャミ子は、居間に置かれた箱の前に座らせる。

 桃から体調やうどんの希望を聞きだすと、未だ落ち込む葵の分も含めた二杯分の素うどんを作り出した。

 

「俺も……?」

 

「いいから! 食べてください!」

 

 出されたものを食べない理由もなく、葵は手を付け始める。

 黙々とうどんを啜ってすぐに完食し、傍らでは桃がシャミ子にめんつゆがどうとか、出汁がどうとか聞いていたがそれは耳に入らずに呆けていた。

 

「……葵? どうしたんですか?」

 

「……へっ? どうしたって……」

 

「だって、泣いてるじゃないですか」

 

 シャミ子にそう言われ、自身の顔に触れるまで葵は自らが涙を流してることに気づいていなかった。

 自分でもその理由がわからず、混乱しながらも返答する。

 

「へ? なんで……? 優子の手料理が凄く美味しくて……それで……」

 

「手料理って……冷凍のうどんとボトルのめんつゆですよ?」

 

「……ごめん。少し、待って」

 

 ■

 

「時間取らせた、もう問題ない」

 

「本当に大丈夫ですか……?」

 

 葵の調子が戻り、お椀を片付けたシャミ子が戻ってきたところで桃が話を再開する。

 先程まで彼女が僅かに笑みを浮かべていたことには、当人含め誰も気がついていない。

 

「それで、さっき封印解いたよね?」

 

 そう問いかけるも、シャミ子はピンときてない様子で桃は再び問う。

 そんな問答を何度が繰り返したところで、ようやく気づいたらしいシャミ子は驚きの声を上げた。

 

「ほんとに、忘れてたんです……。桃、病気だし怪我してたから……」

 

「やっぱり俺が注意してれば……」

 

「何度も落ち込まないの、とられたものは仕方ないから。それで、何の封印が解けたか分かる?」

 

 心当たりのないらしいシャミ子に桃は調査を提案すると、それに同調する謎の声が響いた。

 

「ごせんぞ!?」

 

「ご先祖って……」

 

 その声も尊大な口調も完全に初めて聞く葵は、シャミ子の口走ったその単語を聞いても困惑を禁じ得ない。

 声の主は吉田家に伝わる像に封印された始祖で、封印の解除により話せるようになったという事をシャミ子と桃、そして像からの声との会話によりなんとかそれを理解した。

 

「えっと……リリス、様? でしたっけ」

 

「むっ! お主は葵だな! 可愛い子孫を助けている姿をいつも見ていたぞ!」

 

「はぁ、ありがとうございます?」

 

「これからも我が一族のために尽くすが良いぞ!」

 

 元よりそのつもりではあったが、わざわざそう言われた事に葵は微妙にモヤっとする。

 そんな会話を終えると、シャミ子が心ここにあらずと言った雰囲気で電話の応対をしていた。

 どうやら資金に関する呪いが弱まったらしく、それを聞いた桃は修行の激化を宣言する。

 当然シャミ子は嫌がるが、シャミ子への借りと家族の話を盾に押し通していた。

 

「まぁまぁ、今回は俺にも責任あるし、清子さんや良ちゃんを守りたいのは俺も一緒。だから俺も頑張るよ」

 

「むう……葵がそう言うなら」

 

 その後、桃は助っ人を呼ぶ事を考え携帯を眺めていたのだが、連日のダメージと今日の弱体は流石に無理があったらしく、顔をどどめ色にして倒れた。

 

 ■

 

「あ、れ?」

 

 桃の意識が覚醒する。

 空気からして外だと推測するも、すぐにそれ以上のことに気がつく。

 

「あ、起きた?」

 

「葵!?」

 

「あっ、ダメだよそんな暴れたら。流石にあの状態で引きずるのはアレだし、俺が話し引き伸ばしたせいもあるし勝手だけどこうさせて持ったよ」

 

 桃は葵におんぶされていた。

 想定外の状況に慌てるが、葵の言葉を聞いて赤面しつつも一応の平常心を取り戻し、そうすると桃はあることに気がついた。

 周りにもう一人の姿が見えないのだ。

 

「シャミ子は?」

 

「買い物行ってもらってる。桃の家で合流するつもり」

 

「……そう」

 

 それを聞いた桃は、シャミ子の部屋を見て気になった事を続けて問う。

 

「……ねえ、あなたって何処に住んでるの? あの部屋に住んでるって感じじゃなかったし、他の部屋も空き家に見えた」

 

「あぁ、隣にばんだ荘と同じくらいボロい家あったでしょ? あそこ」

 

「やっぱり、一人暮らしなんだよね?」

 

「そうだね、遺……貯金が結構な額あってね。

 それに桜さんの口利きと清子さん……、優子のお母さんにいろいろ叩き込まれたおかげで、なんとかやっていけてるよ」

 

「そう、なんだ……」

 

(今、遺産って……?)

 

 不明瞭な答えを聞いた桃は当然の疑問を浮かべるも、自身にも聞かれたくないことがある故に、それを表に出すことはなかった。

 

 ■

 

 電話が鳴る。葵はそれに映る番号を見て納得した表情を浮かべ応答する。

 

「はい喬木です」

 

「よう。今日なんかあったのかってあいつらがうるさくてな」

 

「あぁ、まあ俺は問題ないよ。ちょっと近所の友達が体調崩してね、その看病してたんだ」

 

「そうか、ならいいけどよ」

 

「もしかしたら明日も遅刻か、休みかもね。皆にも伝えといて」

 

「あいつらもそこまで心配してるわけじゃねぇだろうけどな……。ま、じゃあな」

 

「心配かけて悪かったね、風間くん」




喬木家

ばんだ荘の隣に存在する戸建て。
(原作でそのへんに設定あってもおかしくないので具体的な位置は決めてない)
外観は蔦や木が大量に絡みついており、ばんだ荘に負けず劣らずボロいが、中は比較的普通。
それでもあちこちにヒビが目立つのだが……。
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