まちカド木属性   作:ミクマ

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分かってるから

「……なぜだ。三日たっても泥の体が動いている」

 

 この日、等身大よりしろの寿命が訪れるはずだったが、まだそれは動いている。

 しおんの推察によれば、蛟の龍玉の力がよりしろを動かしているようだ。

 

「余、ゴミ拾いから逃れられないの!? 月一で酒ビン持って登山するの!?」

 

「サボると焼かれるっていうのもほんとだとおもう」

 

「嫌だぁぁぁぁ! 葵はなんか楽そうなのに! 何で余だけぇ!」

 

 頭を抱えて叫ぶリリスを見て、葵は笑いながらも一応のフォローを入れる。

 

「俺も時間ある時には手伝いますよ、結構余裕出てきましたしね」

 

「上から目線で言いおって! 葵の泣き喚く姿町内中に言いふらしてやろうか!」

 

「……今回ばかりは本当に感謝しかないんですよ、俺。

 リリス様の脅迫がなければ、絶対に優子は帰ってこなかったでしょうし」

 

 葵は顔を反らし、しおらしい態度でそう呟く。

 

「葵……」

 

「まあ今日は別に用事が有るんですけどね」

 

「きさまぁーッ!」

 

 そう言って葵は自宅に戻ろうとするが、そこに同伴する者達がいた。

 

「……どうしたのかな」

 

「せんぱいと蛟さんの関係……興味あるなぁ……」

 

 一人は目を輝かせてそう呟くしおん。そしてもう一人。

 

「良も……興味有るかも」

 

「……分かったよ」

 

 最近しおんと仲の良いらしい良子。

 良子がしおんから何か妙な影響でも受けていないかと、葵はそう心配しているのだが。

 とりあえずは二人と共に居間に入り、座らせる。

 そして、葵は部屋に作られた神棚に力を流し込んだ。

 

『……小僧。他に人間がいるな?』

 

 指示通りに葵が作った神棚に置かれた鏡。

 それを経由して蛟はその先の光景を視認できるらしい。

 ただし、距離がある故かそれとも葵の腕のせいかは不明だが、少々曖昧な視界になっていると葵は聞いた。

 

「蛟様の素晴らしいお話を聞きたいそうですよ」

 

 二人の姿を認識したらしい蛟を適当におだてる葵。

 こうなって数日ではあるが、葵はだんだん扱い方が分かってきた。

 

「まあ今日は元々、状況の整理の為の話し合いの予定でしたし。

 少しくらい……傍聴人が増えても構わないでしょう?」

 

『……良かろう』

 

 とりあえずは納得したような声を出した蛟。

 

『……先ずは、汝の力の性質だ。

 汝は其れを霊脈の力と称したが……我からすれば違う』

 

「へぇ……」

 

『確かに霊脈を元とはしているが、しかしこれは汝の……如何に例えるか……。

 ……そうだな。汝の色に染まり、変質している』

 

「色……」

 

 奇しくも葵が使っていた物と一致する例えが、蛟の口から出た。

 葵が他人に魔力を渡す時、己の力を他人のそれに染めた上で渡している。

 逆に、霊脈の力も葵に注がれる時に葵の生命力か何かに染まっているのだろう。

 

『それ故、我も少々制御に手間取る。

 此れを操るのに最も適した者は……矢張り汝だろう』

 

「……まあ、それは大体そうだろうとは勘付いていましたが」

 

 元々、葵自身が持つ魔力は皆無である。

 自身の力と拮抗させる必要の有る蛟より、外部からの力にだけ集中できる葵の方が()なのかもしれない。

 

『しかし……汝が今までに使っていた術は奇妙だな。

 消費するにしても、猶々適したものが有るだろうに』

 

「……?」

 

 軽く困惑している様子の蛟の指摘を聞いた葵は、しおんの方を見る。

 

「桜さんのメモにねぇ、それっぽい物はあるよ。

 まだ完全には解読できていないんだけれどねぇ」

 

「……やっぱり、俺を巻き込まないためにあえて控えめなものを……?」

 

「せんぱいが戦うって言ったら、その“もっと適した術”を教えたんじゃないかなぁ」

 

「……」

 

 紐の力と、桜による指導。

 それらのおかげで葵は生き永らえてきた。

 故に、その唯一教わった術式は間違いではないのだろう。

 

「適解と、最適解みたいなものか……?」

 

「せんぱいが生きるための術が適解で、戦うためのものが最適解。だねぇ」

 

『……我を置いて話を進めるな。傍聴人』

 

「こわいなぁ……」

 

 苛ついた蛟の声に、しおんはわざとらしく怯えるふりをする。

 

『……庭に出ろ。少々指導をしてやろう。

 我の力と、汝の力。適合すれば相応の力となるだろう』

 

「はぁ……?」

 

『地に手を付けろ。そして我が流し込む写像の通りに力を行使しろ』

 

 庭に出た葵は、その指示に従う。

 そして僅かな間の後、葵の目の前には腰ほどの高さの若木が生える。

 この程度ならば以前の葵でも出来る。しかし。

 

「……消費が少ない……」

 

 この現象を起こすために使った力の量が、極めて大きく減っているのだ。

 

『汝の力の使い方は非効率的だ。

 己の躰を強固とする為のものは及第点としよう。

 しかし、他のものに流し込む場合には大きな損失が出ている。

 されど元来の膨大な力場故に、無理矢理に成立させていたようだがな』

 

「……」

 

『次の指導だ。もう一度写像を流し込む』

 

 葵は再び地面に手を付き、次の瞬間には若木が軽く見上げるほどの高さになっていた。

 しかしそれでも、葵の消耗は少ない。

 

「今のは……」

 

 蛟からのイメージ。それとは別に異質な力が葵に流れ込んでいた。

 イメージにはそれを制御する手段も入っており、それに従って葵は介入を行った。

 

『我の力で土壌に干渉をした。

 人が汚した土壌など、真に樹木が成長できるものではない。

 清涼なそれが存在して初めて強靭な植物が育つ。

 ここは汝の力にも多少は影響されているようだがな、淀んだ環境には負けている』

 

「なるほど……」

 

 そこで葵は部屋の中に戻る。

 葵が指導を受けている間、カメラを連射していたしおんは息を整えて口を開く。

 

「すごいもの見させてもらったよぉ……蛟さん、長生きなだけはあるねぇ……」

 

『……小娘。汝の話を聞いてやろう』

 

 割とちょろい蛟は、しおんの言葉で機嫌が良くなったらしい。

 

「私? ……そうだねぇ。蛟さんが土壌に適した力を持ってるのはよく分かったけど、封印されてるのにどうやったのかなぁって」

 

『小僧が身に着けている白蛇細工を経由している。

 此れは我と小僧の力が混ざりあった物だ。

 こうして声を届ける事の出来る所以も、此れによるものだ』

 

「混ざりあった……何でそんな物があるんですか?」

 

『其れは、あのシャミ子とやらが持っていた我の鱗を加工した物だ』

 

「……あの石ですか」

 

 葵がシャミ子に渡した白い石。

 それが無くなっていたと、キャンプの翌日そう語ったシャミ子は密かに泣いており、葵は慰めていたのだが。

 

「……勝手に取るのはやめてほしいですね」

 

『元は我の一部だ。先日再び汝らが山に入った時、あの鱗は小僧の力に満ちていた。

 心当たりはないのか?』

 

「……ウガルルちゃんの時……」

 

 あの鱗をシャミ子は肌見放さず持ち歩いていた。

 ウガルル召喚の際、葵は莫大な力をシャミ子に流し込み、そして鱗にも流れ込んだのではないか……と、葵はそう考える。

 

「つまりぃ……その白蛇さんは、せんぱいと蛟さんが力を送信し合うための……ランドマーク。目印って訳だね」

 

『加えて、小僧が建てた分社もそうだ。霊脈を経由し、我の覗き窓としている』

 

「霊脈……」

 

 そこまで解説を聞いた葵は、ふと思いつく。

 

「小倉さん。よくよく考えたら、よりしろの土ってこの家のじゃ駄目だったのかな」

 

「それは……」

 

『あの傀儡に我の一部を使ったのだな? 

 あれだけの力をもたせるのならば、ここの土では不十分だ。

 ここに届く霊脈の力はあくまで末端に過ぎぬ。

 先程言ったであろう、ここの土壌は淀んだ環境に負けていると』

 

「……だよぉ」

 

 解説役を取られたしおんが、少し落胆しながらも蛟に同調する。

 

「……しかしそれだと、俺に流れ込む力が減ってもおかしくないと思うのですが」

 

『汝と霊脈には極めて強い繋がりが有る。

 霊脈と距離があろうとも、その根源から直接流れ込んでいるのだろう』

 

「せんぱい、大変だねぇ」

 

『そしてもう一つ。霊脈は年月と共に組み変わることも有る。

 汝がその体質になった時点で、ここに太い霊脈が通っていたやもしれぬ。

 しかし、それが次第にこの地から外れて行こうとも不自然ではない』

 

「……ややこしいですね」

 

 蛟による長い解説を聞いていた葵は、しかめっ面でそう呟く。

 と。そこで、今までノートパソコンに向き合っていた良子が顔を上げる。

 

「大丈夫だよお兄。良、お話纏めてたからいつでも見返せるよ」

 

「良い子だねぇ、良ちゃん」

 

『そこの小娘の方が汝より頭が良いのではないか?』

 

「……」

 

 実際、葵自身にもそんな自覚は有る。

 兄貴分としての威厳を見せたいという思いも有りはするが、最近の良子の成長は著しく、もはやそれも出来そうに無い。

 そんな考えを葵が頭に巡らせていると、良子がムッとしながら口を開く。

 

「……蛟さん。お兄の事、悪く言わないで」

 

『む……?』

 

「良ちゃん……」

 

『……フン、我の話は終わりだ。約定を忘れるでないぞ』

 

 言い捨てるようなその言葉が終わると、蛟の気配は途切れる。

 そして葵は壁に寄り掛かり、深いため息をついた。

 

「……疲れた」

 

「お兄ががんばってるの、良は分かってるから」

 

「……ありがとう」

 

 抱きつきながらの良子の言葉に、葵は弱々しくお礼の言葉を漏らした。

 

「……あ。そうだ、小倉さん。

 よりしろに埋め込んだ骨格……蛟様の話だと、弱い植物みたいな言い草だったけれど、大丈夫かな」

 

「えっとねえ……土壌が微妙でも、10年かけてせんぱいが成長させたのは間違いないから。

 あの樹そのものはすごく強靭なはずだよ」

 

「……ならいいや。小倉さん、話に付き合ってくれてありがとね」

 

「……せんぱいに素直にお礼言われると、ちょっと違和感あるかもぉ……」

 

「……どういうことかな」

 

 ■

 

 数日後。葵は学校から直帰して、テレパシーによる誘導でリリスの元へ向かった。

 どうやら、シャミ子が危機管理フォームに変身できなくなったらしい。

 これまでは、邪神像の中のリリスが変身の手助けをしていたが、よりしろに移ったことでそれが難しくなったようだ。

 

「っていうか今までの変身が特殊だったのだ! 

 そろそろ自立せよ! 自分の力で変身するのだ!」

 

「……あっ! いよいよ私が自分で戦闘フォーム作れるんですね!」

 

 いつぞやのそんな決心を思い出したらしいシャミ子は、ウキウキな様子だ。

 対して、同じ時の事を思い出していた葵は言葉に詰まっている。

 

「……」

 

「……そういえば葵。初めてシャミ子の戦闘フォームを見た時、泣いてたよね」

 

 桃にも同じ事をツッコまれ、更に苦い顔になる葵。

 

「最近は見ても平然としてるけど……」

 

あれ見るともう何も考えたくなくなるんだよ……

 

 焦点の合わない目にスンと漆黒の影を落とし、抑揚のない声でそう呟く葵に、桃は珍しく怯えていた。

 そうこうしている内に、シャミ子は新しい戦闘フォームを思いついたらしい。

 

「シャドウミストレス優子、裏フリースあったかジャージフォーム! ……めこっ」

 

 シャミ子はもこもこした暖かそうな服装になるも、次の瞬間には地面にめり込んだ。

 リリスの一族には肌を隠す格好が合わず、こうなってしまうとの事だ。

 元の制服に戻ったシャミ子は、また別のことを思い出す。

 

「……そういえば、葵も戦闘フォーム作ってるんですよね?」

 

「ん? ……ああ」

 

 例によって、河川敷で葵が号泣した日。

 あの時聞いたリリスのアドバイスを元に、葵は戦闘フォームの精製に挑戦し始めていた。

 

「……ちょっと待ってね」

 

 本当に極々僅かな一瞬、葵の手足が光に包まれすぐに消える。

 そこには手甲と、脚絆のついたブーツがそれぞれ装備されていた。

 

「とりあえず、これは安定して出せるかな。全身の分はちょっとまだ考え中だけど」

 

 それを見たシャミ子は目を輝かせ、しっぽを激しく振りながら葵の装備の観察を始めるも、少しするとキョトンとした顔になる。

 

「あれ? これって……」

 

「ウガルルちゃんの一件の時に着けてたの覚えてる?」

 

「……単なるおしゃれだと思ってたんですけど」

 

「シャミ子、気づいてなかったの?」

 

 葵は微笑んでいたが、対して桃は少し呆れた様子だ。

 

「これ着けると魔力操作が楽になる感じするんだよね」

 

「ちょうどいい格好は自分を強くするんだよ。もちろんシャミ子のやつもね」

 

「……ちなみに、桃はどうしてピンクのひらひらを選択したんですか?」

 

 シャミ子にふとそう問われた桃は、目に影を落とす。

 

「……物心ついたらあの格好だったし、そこそこ強かった。

 私だって変えれるなら変えたい……」

 

「す……すみません」

 

「……俺、あの格好結構いいと思うけどね」

 

「……からかわないで」

 

「本心だよ」

 

「……」

 

 葵は桃の闇落ちフォームもかなり好みだったりするのだが、経緯が経緯であるためそれを口には出さない。

 

「まあ優子、いろいろ考えてみるといいよ」

 

「……葵の戦闘フォームの事も考えてみてもいいですか?」

 

「うん? まあいいけれど……」

 

 葵の真なる戦闘フォーム。

 それが日の目を見るのは、近くもあり、遠くもある。

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