まちカド木属性   作:ミクマ

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闇に縁があるってなんだよ

 時は少々遡り、葵の学校での話だ。

 ここは府上学園高校。何故かハゲと変人が大量に集まっている事で有名な、せいいき桜ヶ丘に負けず劣らず奇妙な学校である。

 ある日の昼休み、一生徒である喬木葵は教室で弁当をつついていた。

 

「風間さんお昼一緒に食べましょー」

 

 そんな折、教室に二人の女生徒が入ってきた。

 一人は烏山千歳、この学園の生徒会長であり相応のカリスマを持つが、大抵のことを暴力で解決しようとするため恐れているものも多い。

 もう一人は柴崎(しばさき)芦花(ろか)、非常に小柄な金髪の少女であり、学園では“最強の闇”の二つ名を持つ裏ボスとして名が通っている。

 そして、そんな彼女に呼ばれ凄まじく面倒そうな顔をしている男子生徒は、葵のクラスメイトである風間堅次。

 彼は最近有名になってきた不良グループ、風間一派のリーダーであり、そしてそれ以上にツッコミ役として名が知られている。

 

「何でお前らと机囲んでメシ食わなきゃいけねぇんだよ。じゃあな」

 

「そんな……ん? 風間さんさりげにお弁当ですか!? 不良なのに!」

 

 痛いところを指摘された堅次は誤魔化そうとするも、千歳から衝撃の事実を暴露されてしまう。

 

「フッ、芦花。私は知っているぞ。そいつはいつも妹に弁当を作ってもらっているのだ!」

 

「妹さんに!?」

 

 不良に見合わぬその情報にクラスの男子たちからは大ブーイングが巻き起こる。

 そして寄ってきた者たちによって堅次の弁当が赤裸々にされてしまうも、その中身は普通のものであった。

 それに安堵して好き勝手感想を言われ、堅次は苛ついている様子だ。

 

「味も見ておきましょう」

 

「食うな! ……くっそ、バレたくなかったのに」

 

 その情報の出処は千歳の手元にある手帳であるらしく、堅次は苛つきつつもその情報網に内心感心していたのだが、そこであることに気がつく。

 その手帳には河原中と名前が書かれていた。

 その名は堅次の幼馴染であり、生徒会副会長にしてメガネのドMな少年のものである。

 

「私のモノは私のモノ。奴の物は要るモノだけ私のモノ」

 

「なかなか美味です」「美味! ぜひ妹さんを俺にください!」「いや俺に!」「俺も」

 

「パクリじゃねーか! それにお前らさっきから馴れ馴れしいな!」

 

 怒涛のボケと空腹により更に積もる堅次の苛つき。

 それはどこか焦燥感に駆られているようで、それを遠巻きに眺めていた彼はふと思い立ち声をかけた。

 

「ちょっといいかな」

 

「あん? お前は……」

 

 クラスメイトではあるが親しいという訳ではない彼、喬木葵が話しかけてきたことに堅次は困惑し、その隣で千歳は手帳をパラパラとめくる。

 

「『二年B組 喬木 葵

 成績良好であり一年次は当時の生徒会に予備役員として在席していたが、その知名度は知る人ぞ知ると言った所。

 特筆すべきはその身体能力、前会長から見初められたそれは未だ発展途上であり、最上位層には及ばないものの、一矢報いる可能性を否定できるものではない。

 彼の本気の一撃を喰らえば俺でもどうなるかはわからない。というか喰らいたい』」

 

「うわキモ……。『ちなみに、地元で他校の女生徒と親しそうに歩く姿が目撃されており、生徒会のことは知らないがその話だけは知っているという男子生徒が結構存在している』」

 

「あぁ、お前タマによくパシらされてる奴か。で、何だ」

 

 手帳を読み上げた千歳は、因縁の相手に関わる内に彼を見かけていた事を思い出した。

 葵は自身に対するその妙な評価に苦笑いをしつつも要件を言う。

 

「ちょっと風間くんに聞きたい事を思いついてね」

 

「あん? 俺に?」

 

「風間くんって、古文の授業の時だけは必ず真面目に授業受けてるよね。不良なのに。次の時間も古文だけど、何かあるのかなって」

 

 葵が上げたその疑問に、クラスメイト達から確かに、そういえばという声が上がる。

 堅次はそれに少し照れながらもこう答える。

 

「あー、古文担当のショーン・コネコネ先生は……。なんつーか俺の恩人なんだよ」

 

「そんな情報ここに載ってないぞ」

 

「この件は俺たち全員の思い出だからな……。どうしてもと言うなら話してやらんでもない」

 

 そう言いつつも、堅次は待ってましたと言わんばかりに語り出す。

 曰く、ショーン・コネコネは堅次と中を含む幼馴染グループが幼い頃に助けられた命の恩人であり、その時に言われた一つの言葉は幼い堅次に多大な影響をを与えた。

 そして、年月が過ぎ偶然入学したこの学校で再開したとのことらしい。

 

「いい話だねぇ」

 

 回想の発端である葵を含めたクラスメイトたちはそれに感動していたが、そんな話をしているうちに堅次の弁当は食い尽くされてしまった。

 芦花が自らの弁当を差し出すもその中身は存在しない。早弁をしていたらしい。

 キレる堅次に千歳はため息を付き、自身のおかずから野菜一切れを箸でつまみ差し出すも床に落としてしまう。

 

「……あっ。……あーん」

 

「やり直すな! んな汚れたもん食えるか!」

 

「そんな失礼なことを言っていいのか? ここのクラスには確か……そこの船堀さん」

 

 唐突に名前を呼ばれ困惑しているおさげの少女、船堀について千歳は解説を始める。

 彼女は家庭的で優しく気配りも行き届いていると評判が高く、さらに毎朝一番に登校して教室の掃除や花の手入れを行っているらしい。

 

「それをお前汚いなどと!」

 

「ぐっ!」

 

「俺いつも登校遅いからなぁ……。気が付かなかったよ」

 

 そんな情報を聞いた葵らクラスメイトたちは深く感心し、船堀を讃えだす。

 

「船堀」「船堀!」「船堀っ!」

 

『ふーなぼりっ! ふーなぼりっ! ふーなぼりっ!』

 

「イジメかっ!」

 

 顔を真っ赤にした船堀を堅次は庇い、仕方なく野菜を千歳の箸から奪い口に含んだ。

 しかし千歳らはそれを見て引いている。

 

「お前もう昼休みなんだぞ? 朝から皆がどんだけ汚したと思ってんだ」

 

 そう言われた堅次は吹き出し、今日トイレに言ったというクラスメイトらの報告にツッコんでいる。

 

「俺は今日はまだ行ってないかな」

 

「なら言う必要ないだろ! 何報告してんだ!」

 

 同調してボケる葵にもツッコんだところでチャイムが鳴り、芦花たちは逃げ出していった。

 怒りの表情で机に突っ伏している堅次の元に、船堀が弁当の一部を蓋に乗せて差し出す。

 

「少ないですが、よかったら……」

 

「俺のもどうかな。俺が話引き伸ばしたのも悪いし」

 

「もらっ、とく……」

 

 二人に続いて複数の生徒達が同様の行為を始めると、そこで教室の扉が開く。

 ショーン・コネコネ先生に依るものだ。

 

「サア皆授業ヲ……。オット、資料ヲ職員室ニ忘レテキテシマッタ。スマナイガ五分程自習ダ」

 

『まさか風間くんのために……! 渋かっこいい……!』

 

 ■

 

 数日経った放課後、校庭に設置された立派なステージには50名程の生徒たちが立っていた。

 そこに司会であるメガネの女生徒、稲田がマイクを通して声を響かせる。

 

「というわけで、二年生によるゲーム大会をここに開催したいと思います!」

 

「ていうか参加人数多くね!?」

 

 スピーカーに負けない位大きな堅次の声が響く。

 

 どうしてこんな事になったのか。

 この大会は、とある賞品を巡って争う者たちに便乗した生徒会長が部下をこき使って立ち上げたものだ。

 参加者の紹介がされている間、堅次は近くに立っている人物に話しかける。

 

「……で。なんでお前は参加してんだ? 喬木」

 

「“最強の闇”が愛用する謎多き“闇の袋”。それが賞品と聞いてね、興味が湧いたんだ」

 

「あ!? まさかお前も子王と同じ……には、見えねえな。どういう事だ?」

 

 葵の答えに堅次は袋を求める変態の姿を思い浮かべるも、流石にないだろうと否定する。

 

「フフ……。俺はちょっと闇に縁があってね」

 

「闇に縁があるってなんだよ……」

 

 こいつもあの部の奴らと同類なのかと、堅次は変な納得をしていた。

 

 ■

 

 司会席にある箱、そこには参加者から集めた希望するゲームが書かれた紙が入っており、くじ引きで競技を決める方式だ。

 ザコをふるい落とすための一回戦の競技に選ばれたのは『おしっこ』だ。*1

 ステージから落ちたら脱落というシンプルなルールである。

 

「それじゃ、まぁ時間内までステージに残ってたら二回戦進出ってことで。はい始めー」

 

 向かってくる同期生たちを適当にちぎっては投げる葵。

 途中、あの噂を問い正してやるとかどうとか口走りながら突撃してくる者がおり、あの手帳に書かれていることは本当なのだと、微妙に嫌な顔をしながらあしらっていた。

 

 それなりに人数が減ってきた頃、ステージの一方が騒がしくなる。

 そこでは二人だけの女生徒の参加者の内の一人である高尾と、ステージから落ちかかっている堅次が何やら言い争っていた。

 

 その内容はよくわからないが、赤面しながら謎の言い訳をする高尾に、ステージに這い上がる堅次は苛ついているようだ。

 

 ……次の瞬間、無理やり閉められていた高尾のジャージのチャックがその乳圧によって弾け飛び、堅次の額を打つ。

 その弾丸(チャックボーン)を受けた堅次は脱落こそしなかったものの、白目を向いて気絶していた。

 そこで一回戦終了の宣言がなされる。

 

「やっべぇあれ……」

 

 思いがけず見つけたダークホースに葵は顔を青くしていた。

 

 ■

 

 準々決勝第三試合、そのカードは柴崎芦花と喬木葵だ。

 ステージで向かい合う二人、芦花が口を開く。

 

「先程の風間さんとの会話が聞こえていたのですが……。もしかして、周りに闇属性の方がいらっしゃるのでしょうか?」

 

「それは……」

 

「まあ、言えませんよね。……何にせよ、賞品が欲しければ私を倒すことです」

 

「……!」

 

 最後の言葉と同時に芦花から迸るプレッシャーが跳ね上がり、葵は冷や汗をかく。

 そんな二人の様子を見て、実況席の千歳と稲田が煽るような声を出す。

 

「おおっと!? 何やら因縁ありの様子だっ!」

 

「それでは闘志が冷めないうちに競技を決めましょう……。えーっと『紙風船バトル』?」

 

「それって……あれか」

 

「あっ、それ俺が入れたやつ。ちょっと待ってね」

 

 意味はわかるも言葉で説明し辛い、といった様子の千歳を見て、葵がそう声を上げる。

 葵は一度ステージを離れ、観客席に置いてある自分のカバンの元に向かう。

 その中からあるものを取り出すと、ステージに戻って掲げた。

 

「この紙風船付きのヘッドバンドを被って、潰されたほうが負けって奴だね」

 

 葵はそう説明するが、何やら口ごもる。

 

「その、つもりだったんだけど。まさかこうピンポイントで当たるとは思わなくて……。柴崎さんは身長的に……」

 

「構いませんよ。すべて、……捻り潰すだけです」

 

 言葉を遮りながら芦花は葵に近づき手を差し出す。

 葵は少し呆けるが、フッと笑った後にヘッドバンドを渡した。

 そして二人は距離を取り、紙風船を膨らませ装着する。

 

「両者の合意が取れたようなので! それでは、レディー……ファイっ!」

 

 その合図が鳴るやいなや葵は全力で前に飛び出し、その勢いのまま貫手を放つ。

 しかし芦花はそれを頭をずらすだけであっさりと避け、続くなぎ払いも軽く後退する事で透かす。

 しばらく葵による両腕の突き、なぎ払い、振り下ろしの暴風雨が続くも、いずれも当たることはない。

 しびれを切らした葵が紙風船を目掛けた回し蹴りの体制に入ろうとした瞬間、芦花の姿がブレて葵の胸めがけて掌底──否、張り手が突き刺さる。

 葵は衝撃を殺そうと後ろに飛ぶ。それはなんとか成功はしたものの、逃しきれないダメージはかなり大きい。

 

「ふむ、やはり見様見真似はいけませんね」

 

「見様見真似でこれ、ですか」

 

 そんな軽口を叩きつつも、葵はよく見知った一撃を想起して戦慄する。

 葵がよく聞く情報によれば、先程以上の一撃があるのだ。その怯えは正しい。

 葵は攻めあぐね、じわじわと時間が過ぎる。

 

「来ないのなら……、こっちから行きますよ」

 

(疾ッ……!)

 

 芦花は右手の指を二本突き出し、葵の目、目掛けて迫る。

 身長のハンデを潰すために体制を崩すことを選んだらしい。

 

「奥義・暗黒の目潰し!」

 

「アッぶっ! なぁっ!」

 

 風船を潰さないよう、葵は片腕でのバク転を行い死にものぐるいでなんとかそれを避ける。

 準備もなしに行ったそれのせいで片腕が痛くなり、息を整えていると実況席からの声が耳に入る。

 

「これは……柴崎選手がやや有利、なんでしょうか」

 

「いや、芦花はまだ遊んでいる。喬木選手にとってはかなりキツイ展開だろう」

 

 そう言われ悔しさから葵は唇を噛むも、自分自身そう分析しているのでなんとも言えない。

 

(でも、遊ばれている今ならまだ勝ち目が厚いはずだ。なんとか不意を打てる方法を……)

 

 足技、葵は自分の持つ手段の中でそれが一番速度に長けると思っている。

 しかし先程は回し蹴りに反応されてカウンターを受けてしまった。

 頭の更に上にある風船を狙う必要がある以上、角度が露骨で読まれやすいのだ。

 

(使うの、避けたほうがいいのか……? 体制崩されやすいし、何より頭の位置を下げざるを得ない)

 

 戦況は膠着する。葵は痛めた片腕の分攻撃が弱まり、芦花が遊びをやめればすぐに決着がつくだろう。

 その上、芦花の持つ最速の一撃は未だ姿を見せない。

 と、ここで再び芦花の右手がチョキの形を取るのを葵の目は捉えた。

 また避けられても、もう片腕を潰せればいいという二段構えによるものだ。

 

(くっ……いや、これは……!)

 

 葵は上体を反らして先ほどとは反対の腕をつく。

 そこから再びバク転を行う、と見せかけて浮かせた足の関節を折り畳むと、片手の指の力だけで跳躍し一気に開放する。

 それは斜め上方向への足を揃えた突撃だったが、寸前でしゃがまれ惜しくも避けられてしまう。

 葵が頭上を飛び越えた事で、二人の位置は入れ替わる。

 

「今のは少し驚きました。しかしもう、両腕がダメなんじゃないんですか?」

 

「いいや、最初に使った腕は回復してきました。まだ行けますよ」

 

「……あまり、無理するものではないですよ」

 

 葵はその瞬間、全身を今までに経験したことの無い凄まじい悪寒に包まれる。

 反応、反射すら超えた何かによって全力でその場から飛び退いた葵は、自分がつい先程までいた場所を見る。

 そこには、巾着袋を振り下ろした芦花がいた。

 

「……やりますね。初見で避けたのはあなたが初めてですよ」

 

「ハァッ、ハァッ、ハッ……。知ってなきゃ、絶対に無理でしたよ……!」

 

 そこからはもう消化試合の様な物だった。

 葵の手刀を何度か避けると、芦花は三度目潰しの構えを取る。

 葵は上体を反らし始め、そこで気がついた。

 

(違うっ……! これは!)

 

 葵の目に映るもの、それは芦花の右手の指に引っかかる紐だ。左手には何も持っていない。

 上体を反らす勢いを殺せず、足も状況を打破できる位置ではない。

 バク転ではなく、先程の袋攻撃の時のようにバックジャンプをしていれば、あるいは。

 

「しまっ……! モガァ!?」

 

「……お疲れ様でした。なかなか楽しめましたよ」

 

 葵は闇の袋を被せられ、当然それによって中の風船も潰れた。

 そして彼は背中から倒れ、薄れゆく意識の中でこう呟く。

 

「これが……闇……」

 

「試合終了〜! 激闘を制し準決勝に駒を進めたのは柴崎選手だ!」

 

 ■

 

「今日は残念だったなぁ……」

 

 家への帰り道、葵はジャージをボロボロにして歩いていた。

 彼の幼馴染よりさらに小柄な、闇属性の少女との戦い。

 何処にそれだけの力が隠されているのか、それを知るチャンスだったのだが収穫はなかった。

 

「葵!? どうしたんですかその格好! それにその腕は!?」

 

 葵は考え事をしている間に自宅の前についており、隣のアパートの一室から出てきた件の幼馴染に心配されていた。

 腕をヒラヒラと振り、問題ない事をアピールしながら返答する。

 

「へーきへーき、ほらこの通り。それより、あんま遅くに外出ちゃだめだよ」

 

「こっちのセリフですよ!? もう……遅いからおかーさんがご飯つくって待ってますよ」

 

「はーい。今日は何かな?」

 

「今日はですねぇ……」

 

(もし優子が覚醒する日が来たら、何か聞いてみるのもいいかな)

 

「葵、聞いてますか?」

 

「うん、今日のご飯も美味しそうだね」

 

 その日が意外と近い事を、葵はまだ知らない。

*1
押し合いっ子の略。

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