まちカド木属性 作:ミクマ
「俺は風間一派の突撃ダンプカーこと横縞だ!」
「だいたい扉のところで頭をぶつけます。日本の平均身長を優に超える長山!」
「そして生徒会副会長にして風間一派の作戦参謀、河原中!」
昼休み、校舎裏で堅次が幼馴染達と弁当を食べていると、その三人が唐突に自己紹介を始めた。
最初に名乗ったのは三列モヒカンに三頭身程度の身長しかない横縞。
次はその名乗り通り身長が高くサングラスをかけた長山。
最後のは以前名の出た変態マゾ野郎の中。
「飯食ってるときに何だ突然?」
「ならば答えよう! 風間君と同じゲーム制作部(仮)に所属している子王八だ!」
「そして俺は風間くんのクラスメイトにして、最強の闇に三、四番目くらいに食らいついた男。喬木葵!」
後ろからの声に振り向く堅次。
そこには眩しいくらいに何かがキラキラしている青年、子王八と妙にテンションの高い葵が弁当を持って立っていた。
「あっ! もしかしてコイツラに紹介してたのか!?」
それに頷く風間一派達三人。
自己紹介を終えた子王は堅次らが囲む空間にスッと割って入って行く。
「えっ!? 何!? なんで真ん中で突っ立ってるんだ!?」
本人が語るところによれば、彼は狭くてギッチギチなところが好きであるらしく、堅次にケツを向けることを謝罪しながらもそれを継続する。
そんな子王を見て、中は何か通じる所を感じたようだ。
「堅次よ、お前の部活仲間はなかなか面白いな?」
堅次の所属している“ゲーム制作部(仮)”*1は、芦花や千歳も所属している……言葉では表わす事のできない謎の部活である。
「仲間ってわけじゃねえ、そもそも部室でほとんど顔合わさないし! なあ?」
「……仲間じゃ……ない?」
「コイツ初っ端からずっとめんどくせぇ!」
■
なんとか子王を立ち直らせた堅次達は何故か立ち上がった上で話を再開する。
「そういえば喬木よぉ。さっき言ってた最強の闇がどうとかってのは何だよ」
「この前のゲーム大会の時の話だよ。風間くん気絶してて俺の勇姿見られなかったんだよね」
「あぁ……お前いつの間にか負けてたな。つーかお前はお前で俺とあいつの勝負見てなかったじゃねぇか」
「いやあ、本当に残念だよ。風間くん凄い奇策で柴崎さんを下したらしいじゃん」
物理的に頭の痛い思い出を浮かべた堅次は言い返し、葵は心底残念そうな声で肩をすくめながらも勝者を称えた。
その言葉を聞いた堅次は頬をかきながらバツが悪そうに答える。
「いや……あれはなんつーか引き分けっつうか半分負けっつうか……」
「それでも勝ちは勝ちだよ。ゲームなんだから、策を巡らせてこそだよ」
「そう……か?」
堅次は微妙な表情をしながらも一応納得したような素振りを見せるが、葵の次の言葉に衝撃を受ける。
「俺みたいに策の講しようのないガチバトルより、そういう手の選べる勝負の方がずっといいさ」
「……は? お前、あいつとケンカしたのか?」
「ケンカっていうか……。まあゲームだけど割と泥臭い感じ?」
「あれは名勝負でした。芦花さんを蹴ろうとするのは戴けませんがね」
「柴崎さんならあの程度大丈夫って言うある種の信頼だよ」
葵と子王の会話を聞く堅次はマジかよと呟きながら頭を抱え、それを二人は覗き込む。
心配そうな二人に、幼馴染達が笑って答える。
「堅次は女性を殴れないからな」
「強い相手にケンカを挑めずにもやもやするあたり堅ちゃんらしいよな」
「まあ堅次が彼女とケンカすることはないだろうな」
葵と子王も三人に釣られ、その空間は笑いで満ちる。
堅次はため息をついた後、固い髪をガシガシとかきながら口を開く。
「……うるせぇよ。あークソっ……俺、あいつにそのうちって再戦挑まれたんだよ……」
「そうなんだ、そりゃ貴重な機会だね。まあ、よく考えて決着をつけると良いんじゃないかな」
「芦花さんはゲームへのこだわりが強いですからね。今この瞬間も勝負方法を考えてるかもしれません。約束を忘れたりなんてのはもっての外ですよ」
「わーったよ」
■
妙な展開になり、こっ恥ずかしくなってきた堅次はそこでようやく、二人の用事を聞いてない事に気がついた。
「……で? 何しに来たんだよお前ら」
「俺は単に弁当食うついでに雑談でもしようと思ってただけだよ」
葵はそこで初めて弁当箱を開く。
子王は部活のことで堅次に聞きたいことがあるようだ。
彼は部活動のあるはずの日に部室に向かっても、何故か鍵がかかっている事が多いのだと堅次に打ち明け、芦花に何か聞いていないかと訪ねる。
堅次はなにか心当たりがあるようで、今日は空いてる気がすると子王に答えた。
「では僕もお昼をいただくとしよう」
堅次は内心、用事が終わったのに立ち去らないのかと思ったが、葵がすでに食べ始めていたが為にツッコミを心の中だけで抑えた。
コイツと一緒で良いのかと思いながら幼馴染達を見ると、その全員がスタイリッシュな感じのサングラスを掛けており、横島は手に持つ昼飯が増えていた。
「お前ら買収されてね!?」
「僕なりに不良に似合うものを考えてみたのだが……風間君の分もあるよ」
「やめろっ!」
子王が無理矢理サングラスを掛けようとする事に堅次は抵抗するも、その甲斐なく掛けられてしまった。
そんな堅次を見て、葵は顔のそれを黒光りさせながら口を開く。
「似合ってるよ風間くん」
「お前も掛けてんのかよ喬木! お前どっちかっつったら子王と同じ買収する側じゃないのか!?」
何故か話題は堅次が獲得した闇の袋の話に移り、芦花の袋に興味津々の子王はその在り処を問う。
教室にあるカバンに入れて一応持ってきていると答えると、子王は急に何処かへ行こうとする。
「お前もしかしてそっちの用が本命か! 俺のカバンの中の袋に何する気だ!」
あれよあれよという間に、子王と中がカバンに顔をギッチギチに詰め込もうとする流れになり、二人は教室に向け駆け出す。
「ちょっ、おい!」
「ギチギチといえば、人をおんぶした時の背中への圧迫感……いいよね」
「お前はいきなり何を言い出してんだよ……」
近場でギッチギチという単語を連呼された葵は妙なことを口走る。
それを聞かれたことを特に気にした様子も無く、葵は一点を指差す。
「そんなことより、ほら」
「うおっ!? やべぇもうあんな遠くに!」
■
「なんですかそのサングラス?」
「友達に貰った」
葵は学校で体調を崩したらしい幼馴染を迎えに来ていた。
校門前、保健室からここまで彼女を連れてきた同級生は彼の姿を見るなり腹を抑えて笑い出した。
「なんでそんな笑ってるのさ。杏里そんなキャラだったっけ」
「葵がそんな変なの掛けてるせいだよ、笑わないほうがおかしいって……! クッ、フフフフ……」
「……まあいいや。優子のこといつもありがとね。後は大丈夫」
「どういたしまして……。あ、やっぱりダメ……ッ、フフッ」
今日は症状が重い方であるらしく、葵は彼女をおぶって家まで歩いていた。
「葵におんぶしてもらうのは久々ですね。最近は少し元気になれたと思ってたんですけど……」
「ゆっくり、進んでいけばいいさ。昔に比べれば、少しずつだけど元気になってるよ」
「はい……。葵におんぶしてもらうと、なんだかホッとします」
「……ホッとするのは俺も同じだよ」
「へっ?」
「何でもない」
背にかかる重み。その小さな体からは壊れてしまいそうな錯覚を覚えるも、彼女が確かに存在するという確証が得られるこの状況が葵は好きなのであった。
■
「喬木? 何だこんな所に」
またある日の放課後、葵はゲーム制作部(仮)の部室を訪れていた。
片手に紙袋を持つ彼は部員数の割にかなり広めのそこを見渡し、今いる者を確認する。
「ちょっと会長さんに用があったんだけど……。風間くん、何処にいるかわからない?」
「知らん。あいつらの行動いちいち気にしてたら気が持たねぇよ」
「じゃ、しばらく待たせてもらおうかな。来なかったらまた明日でいいや。ここの本読んでもいいかな」
「好きにしろよ」
葵は部室にある本棚から適当な一冊を取り出し、手近な椅子に座る。
しばらく沈黙が走るが、堅次がある事を思い出し口を開く。
「お前、元生徒会なんだったよな」
「まあ都合の良いときに呼び出される雑用みたいなもんだけどね」
「それ聞いた時は真面目な奴と思ってたけどよ、あの前生徒会戦の後じゃ絶対そう思えねぇな。……そういやあの時お前いなかったな」
前生徒会戦、というのは仮部の部員にして生徒会長である千歳と、先代会長との因縁から始まった部の存続をかけた戦いである。
それは仮部側の勝利で決着を見た。とはいえ当人たちにとっては半分遊びのようなものであったのだが。
「タマ先輩達から計画は聞いてたけど、あの日は家で用事あってすぐに帰ってたからね。……もし俺が参加してたら風間くん達どうしてたかな?」
「……知らん。子王が足止めでもしてたんじゃねえの」
「フフ、もしかしたら俺が用事ある日を知ってて決行したのかも」
葵は一度言葉を切り、自身の座る向かいの席を見る。
「……それにしてもこの先生いつもこんな感じ?」
「ああ……」
そこで机に突っ伏して寝ているジャージを着た女性、大沢南を見てそう言う。
とてもそうは見えないが府上学園の教師で、この部の顧問である。
「あっ、このゲームやってみてもいいかな」
「……お前って割と遠慮ねぇよな」
二人は部室のテレビの前に並んで格闘ゲームをプレイしている。
最初は堅次が押していたが、何戦かすると葵と拮抗し始めていた。
「お前上達早くねえか?」
「これの過去作は家にあるんだよね。後はネットで情報だけ見て覚えてた」
持ち前の力を無駄遣いして葵が三タテを決めると、二人はコントローラーを置く。
そこで入り口が開き、三人の人物が入って来た。
部長の芦花に千歳、そして堅次たちの後輩でもう一人の部員であるピンク髪の水上桜だ。
「おや喬木さん。何かご用でしょうか」
「タマ先輩から会長さんにお使い頼まれたんだよね。生徒会室は閉まってたからここで待ってた」
「あん? なんであいつ直接渡さないんだ」
「さあ? 俺は頼まれただけだし。じゃあこれね」
千歳は葵から受け取った紙袋の中身を持ち上げながら覗き込むと、何やら固まった。
そしてわなわなと震えだしたかと思うと、踵を返して部室から飛び出す。
「アイツ!」
「あっ千歳、なにか落ちましたよ。……行ってしまいました」
芦花はヒラヒラと床に落ちていった物を拾って確認する。
「これは……昔の千歳の写真? 何故タマちゃんの荷物から……お姉さん経由でしょうか? まあ、これは私が届けておきましょう」
「あー。先輩が怒って飛び出してったのも、他の中身が似たような物だったからかな?」
芦花の言葉から桜が推測をすると、“昔の千歳”について話だけ聞いている葵と堅次も納得したような表情を浮かべる。
そこで芦花は未だテレビに映っていた格ゲーのリザルト画面に気がつく。
「おや、お二人でゲームしてたんですか?」
「ああ、こいつつえーわ」
「運よく予習がハマっただけだよ」
二人の答えを聞いた芦花はアゴに手を当てて何やら考えている様子だ。
葵はそれを横目にテレビとゲームの電源を落とし、出口に向かおうとする。
「じゃ、用事も終わったし俺はそろそろ」
「待ってください。……ゲーム、お好きなんですか?」
「あぁー。そうだね、家では結構やるかな。レトロゲーばっかだけど」
「ほほう! 具体的には」
葵がいくつかのタイトルを上げると芦花は目を輝かせ、さらに問いを重ねる。
「結構渋い趣味ですねぇ。きっかけとかあるんですか?」
「元々友達のお父さんがいろいろ集めててね。それ借りたり友達と一緒にやってたら、って感じかな。自分で買うにも財布に優しいし」
「なるほど……」
芦花はまたもなにか考えている様で、そんな部長を見た桜はなにか察したようにニヤリと笑う。
「一つご提案があるのですが……。喬木さん、よろしければこの部に入りませんか?」
その言葉に葵はキョトンとすると、今度は彼の方が思考を始め少しすると口を開いた。
「んー。俺、家の方で用事あること多いから、ほとんど幽霊部員みたいになっちゃうと思うけど」
「問題ありませんよ、どうせノルマとかそういうのも無いですし」
「……うん。じゃあ、入ってみようかな」
「はい、歓迎させていただきますよ。それでは……」
そうすると芦花は入部届の用紙がしまわれている棚の元に向かった。
その間堅次が、自身が入部した時の事を思い浮かべながら苦い顔で葵に話しかける。
「おい、本当に良いのか? こんな適当で滅茶苦茶な部で」
「風間くんが真面目に通ってる辺り結構落ち着ける部なんじゃない?」
「……いやいやいや無い無い無い」
葵の言葉に、堅次が一瞬虚無の表情を浮かべ必死に否定していると、芦花が用紙を差し出した。
「ではここに名前とクラスを。……これで高尾さんの部より人数が上になります」
「……オイ、ナチュラルに誰ハブりやがった……。
つーか実績じゃボロ負けどころのレベルじゃねぇだろ」
「……。あ、それと入部したからには属性を決めましょう。何か希望とかありますか?」
高尾さんの部、というのは(仮)のついていない、真面目な活動をしている本物のゲーム制作部のことだ。
堅次から痛い指摘を受けた芦花はそれをスルーし、葵にそう問う。
芦花の言う属性とは、仮部の部員たちがキャラ付けとして勝手に自称しているだけで、特殊能力とかを持っているわけではない……筈である。
「うーん……。じゃ、木属性で」
「ほほう、木属性といえば生命力の権化と言った感じですね。なんとなく喬木さんにぴったりな気がします」
「名前から適当に決めただけじゃねぇのか?」
そんな事を言う堅次に葵と芦花、さらに桜の視線が突き刺さる。
困惑する堅次に対して桜はやれやれと肩をすくめ、呆れたような声を出す。
「はあ〜。先輩はわかってませんねぇ」
「そうですよ。喬木さんのオーラを読み取れないなんてまだまだですねぇ」
「……何で俺はなじられてんだよ」
三人の会話を聞いた葵は薄く笑い、今度こそ出口に向かう。
「今日の所は帰ろうかな、明日からよろしくね」
そうして彼は部室を出ていった。
「さて、新入部員も入ったことですし部内将棋の駒を作りましょうか。地に根を張る、ということで他の駒に動かされないような……」
「それ相撲系と同じじゃねぇのか」
■
「あっ、これ懐かしいですね」
角としっぽの生えた彼女、シャミ子は葵の家で彼と共に遊んでいた。
そんな中、彼女は葵の部屋で昔一緒に作った爪楊枝製の工作を見つける。
「爪楊枝といえば……この前の飛び道具修行の時は驚きました。葵が爪楊枝をたくさん持ってる理由があんな事だったなんて……」
「安いしたくさん持てるから、便利なんだよね」
「葵って……それを使って魔法少女みたいに戦ってたりするんですか?」
心配そうな声でそう聞かれた彼は腕を組んで、悩みながら答える。
「うーん、この街は桃がずっと守ってきてくれたらしいからね……。俺自身は、あんまりかな」
「でも、全然って訳じゃないんですよね? あんまり危ない事して、葵がいなくなったりしたら嫌です……」
「……俺は絶対に、いなくなったりはしないよ」
帰りを迎えてくれる者がいる故に、光でも闇でもない木属性として彼は日常を生きる。