まちカド木属性   作:ミクマ

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間違いなんかないよ

「それなら……良の誕生日に、2人で買いに行くのがいいんじゃないでしょうか?」

 

 数週程度前、平穏に物事を考えられる機会のあった頃の事。

 良子の誕生日会について会議をしていた際、考えているプレゼントを購入するタイミングや場所について悩んでいた葵は、相談をしたシャミ子にそんな提案をされた。

 

「……いやでも、誕生会のための食事の準備をしなきゃいけないし……」

 

「葵、年末年始は毎日ご飯作って忙しくなりそうじゃないですか。

 ですから、葵にとっても気分転換になると思いますよ? 

 少し遅れちゃいますけど……始業式直前ですし、お休みの日にするべきです」

 

「そうかな……」

 

 シャミ子にそう勧められ、葵は声を漏らす。

 確かに、正月ですら休めない状況になり得る可能性は否定できない。

 だがしかし、日々の食事を作る行為が自身にとって辛いという事などあるわけもなく、大切な者達の為になりむしろ嬉しいことだ。

 

「それに、やっぱり葵の言った物はこっそり買うのはちょっと難しいと思います。

 ならいっそ、良自身に選んでもらったほうが確実ですよ」

 

「むむ……」

 

 とはいえ、シャミ子に言われたような事を悩んでいるからこそ、葵はこうやって相談をしている。

 唸る葵を見て、シャミ子は胸を張り得意げに鼻を鳴らす。

 

「夜のご飯は私に任せて、良と一緒にいてください!」

 

 ■

 

 そうして、1月7日。

 朝食及び、夕飯のことを考慮した軽めかつ早めの昼食を終え、葵は良子を連れ共に町に出る。

 

「このお店、初めて……だよね」

 

「ここ以外のお店でもいいし、ゆっくり歩いていようか。

 良ちゃんが気に入ったもの、好きに選んでほしいな」

 

 2人がたどり着いたのは、ショッピングセンターマルマの中に出店されているシューズショップ。

 日頃から共に衣服等の買い物に行っているとはいえ、普段使いをする靴はサイズの不一致が体の不調へと繋がりかねない物であり、下手を打てば怪我をしてしまう。

 シャミ子に相談した葵の悩みとは、良子の足のサイズに左右されるそういった物を、本人に内緒で購入できるかという事であり、結果としてはアドバイスに従うこととなった。

 

 そうして2人は手をつないでショップの内部を進み、目移りする良子を葵は微笑ましく眺める。

 しばらくそれは続いていたが、良子はとある場所で歩みと、そして視線を留める。

 その先には、太ももまでを覆う形状の、いわゆるサイハイブーツと呼ばれるタイプのブーツが並べられているコーナーがあった。

 若干呆けた様子の良子に、葵は腰をかがめて問いを出す。

 

「気になるの? 良ちゃん」

 

「……うん。お姉の……戦装束がかっこいいから」

 

「戦……。……ああー……」

 

 良子による返答の中の、『戦装束』と言う単語に葵は一瞬戸惑ったものの、すぐにシャミ子の危機管理フォームを示していることに気が付き、か細い声を出す。

 幾度となく目撃したことで多少なりとも慣れる事は出来たものの、それでも悪く言えば現実逃避を覚え(てしまっ)ただけだとも言え、直視せざるを得ない状況に陥れば未だに涙ぐんでしまうところはある。

 

 と、葵がそんな自ら勝手にダメージを受けるような回想をしていた中、良子は並べられたサイハイブーツを見始めていた。

 

「……やっぱり、子供用のサイズはないんだね」

 

「そのあたりは、しょうがないかな。

 ……良ちゃんが大きくなったら、また買いに来ようか?」

 

 落胆しているらしい良子に対して葵はそんな提案を出すも、良子の表情は変わらない。

 

「……大きく、なれるのかな」

 

「……良ちゃん」

 

 暗い声色での呟きに、葵は即座に返答が思い浮かばずに良子の名前を呼ぶことしか出来なかった。

 普段、良子はそういった話題を出す事はほぼ無いものの、同学年と比較して低めの身長にはやはり思うところはあるのだろう。

 

「……封印のせいで抑えられてた所はあるだろうし、栄養状態の問題もあった。

 清子さんはヨシュアさんの眷属になる前に今くらいの身長になってたみたいだし、封印が弱まったんだから、良ちゃんもきっとこれからだよ」

 

「……うん。お姉みたいなかっこいい靴、お兄に選んでもらうの楽しみにしてるから」

 

 葵は何一つ、確証を持った言葉をかける事は出来ない。

 しかしそのような失態を晒しながらも、良子は納得したように笑顔を見せ、葵は己を恨めしく思う。

 

 その後も2人は店舗内を巡り、最終的に良子が選んだものはハイカットスニーカーと、フラットヒールのショートブーツの2つだった。

 葵が持つ、それぞれの靴が入った箱を輝く瞳で見つめているが、葵には少々気になる所がある。

 しかしそれは先程交わした会話にやや絡みかねない話題であり、葵は口に出すかを迷っているのだが……。

 

「良は一つ大きいサイズでいいよ」

 

「……え?」

 

「お兄、サイズのシール見てるもん。分かりやすい」

 

「……」

 

 良子の指摘に口をまごつかせる葵。

 どう返すべきか迷うが、今更建前が通用するわけもないと、そう葵は割り切ることとした。

 

「……俺としては、今の履き心地を優先したほうが良いんじゃないかって思うんだ」

 

「もしもすぐ履けなくなったらもったいないよ」

 

「すぐ履けなくなったとしても、それは良ちゃんが大きくなったってことだから。俺は嬉しいんだよ」

 

 葵がそう返答をすると、良子は沈黙し箱を見ながら考えている様子。

 早まって、良子を悩ませてしまうような言葉をかけてしまったかと、そう悔やむ葵だったが、次の瞬間には良子にまっすぐ見つめられる。

 

「……やっぱり、大きいのを買う。良、絶対に大きくなるから。

 ……今日は誕生日だから、お願い」

 

 そう真剣に請われれば断れるはずもなく。

 

 良子の選んだ物の会計を終え、2人は再びモール内の通路をぶらつき始める。

 他の店舗を巡ったり、ゲームセンターでいくつかの物をプレイしたりとはあったものの、そこまで深くに堪能したとまでは行かず、そして現在は休憩スペースのベンチに腰を下ろしていた。

 

「ずっと買ってなかったけど、だいぶ味増えたんだねぇ。これ」

 

 近くに設置されている、自動販売機で購入したポップコーンを2人で分け合って食べている中、葵はそんな感想をこぼす。

 

「お昼少なめだったけど、お腹空いてない?」

 

「朝の七草粥、いっぱい食べたから。すごく美味しかったよ」

 

「苦味取れてたか少し心配だったけど、ありがとう」

 

 礼を言う葵。

 店舗で売られている物を使用した以上、“材料そのものの品質”は一定の閾値は保証されており、適切な処理を行えさえすれば完成品の度合いも保証されている。

 とはいえ、過去の物理的に口内が苦い思い出を浮べれば、元来心配性な葵は不安をそう簡単には取り除けない。

 

「まだ時間の余裕はあるけど……次はどうしようか」

 

「……しばらくここで休んでたいな。お兄にも、休んで欲しい。……お願い」

 

「……もしかして、だいぶ前の優子との話……聞いてた?」

 

 葵の問いに対して……静かに、頷く良子。

 それを見て葵は息を吐き、今まで腕に通したままだった靴の化粧箱の入った袋をベンチに置いた。

 沈黙が落ち、しばらくの後に良子は口を開く。

 

「……お兄って、ゲーム……好きだよね」

 

「うん? ……まあ、かなり好きだね。

 ヨシュアさんとよく一緒にやってたのが大きいかな」

 

 良子に問われ、その視線を追い、ゲームセンター及び併設されたショップを見ながら葵はそう返す。

 

「……。……家に沢山あるのって、おとーさんが集めてた物……なんだよね?」

 

「……自分もそう思ってるけど……そういえば、直接聞いたことは無かった……かな?」

 

「そう、なんだ」

 

 顎に手を当て、思い返しながらの葵の言葉に、良子はそう呟く。

 過去のこのあたりの行動も、積極性に欠ける葵の性格を表していると言えるだろう。

 

「……おとーさんと一緒に遊ぶの、楽しかった?」

 

「それはもちろん。……優子と……それに、お腹の中の良ちゃんを差し置いて遊ぶのに負い目はあったけど……それでも、本当に楽しかった。

 今思えば、多分手加減とかはされてたんだとは思うけど……それを感じさせなかったかな」

 

 様々な点でシャミ子にそっくりな、全力を奮う姿の似合うヨシュア。

 葵に本気で向き合うための一つである、“全力の手加減”とも言うべき行動は葵の心を何度も滾らせてきた。

 

「お兄は、お姉と一緒に遊ぶ時あんまり手加減しないよね」

 

「そこは……色々迷ったこともあったんだけどね。

 手を抜いてる事がバレると優子は怒るし、それに……接待っていうのもなんか違うな。

 “楽しませる手加減”が出来るほど、俺は器用じゃないから」

 

 結果的にはシャミ子と共に興じることは出来ていたものの、何かを間違えていればシャミ子の楽しみを一つ潰していたのかもしれないと、そんな考えが葵の脳裏をよぎる。

 

「そういう点でも、ヨシュアさんは凄いなって思うよ。

 最初はお父さんがいない分の代わりを務めたいって思ってたんだけど……そう上手くは行かなかったね」

 

「……おとーさんはおとーさん。お兄は、お兄だよ。

 お兄と遊ぶお姉がとっても楽しそうにしてたの、良はずっと見てた。

 お兄も、本気で良達に向き合ってくれてた」

 

「本気……」

 

 葵は座席に手のひらを付き、天を仰ぐ。

 

「……俺の……高校の友達がね、『ゲームで本気にならなくて良いのは子供と遊ぶ父親だけ』って、そう言ってた……らしいんだよ」

 

「……らしい?」

 

「俺はその場に居合せられなかったんだよね、残念ながら。

 直接聞いてたら、もっと早く自分を納得させられてたかも知れないけど」

 

「……とっても、良い言葉だと思うな。

 やっぱり、お兄のしてきた事に間違いなんかないよ。

 お兄のこと、本当のお兄みたいに思えるくらいの事を良にしてくれた」

 

「……ありがとう、良ちゃん」

 

 話す内に肩を落としていた葵の、座席に置かれている手に良子は自らの片手を重ねる。

 

「もっとお兄とお話し、したいな」

 

「そうだね……」

 

 葵は思考し、一つ誕生日に相応しい話を思いつく。

 この場で話すには少々プライベートな話題かも知れないが……アーケードゲームの音が鳴り響くここで、顔を突き合わせてヒソヒソと話すのも良いのかも知れない。

 

「……良ちゃんと初めて会った日の話、しようか。

 10年前に、清子さんから出産の色々が落ち着いたって電話が来た日のことなんだけどね──」

 

 ■

 

 夜。誕生会の途中、食事を終えた後、準備を任せた代わりとして後片付けを引き受けた葵。

 キッチンで洗い物を行っている葵に、一人の影が近づく。

 

「お疲れ様ぁ、せんぱい」

 

「……しおん。みんなの所にいなくて良いのかな」

 

「……ああいう姉妹愛は私には少し眩しすぎて、少し休憩挟もうかなぁって……」

 

 視線の先、未だ盛り上がる会の中で微笑ましい光景を眺めて、しおんは目を細める。

 

「それに、いつものせんぱいのおも〜い想いも聞きたい気がするしねぇ」

 

「……なんかもう、ソレが恒例になり過ぎて……役割押し付けてるみたいになってる気がするんだけど」

 

「せんぱいがどうしてもってお願いしてくるならぁ、そういう立場に収まってあげるのもやぶさかじゃないよぉ。

 それに、これも私しか知らないことになる訳だしねぇ」

 

 ニヤニヤと、眼鏡を光らせながらそう言うしおんを見て、ちょうど洗い物の終わった葵はタオルで手を拭き、振り向く。

 

「……靴っていうのは、足を守って歩行を助けるためのもの。

 俺が、良ちゃんがこれから進む道を支えてみせる……ただそれだけだよ」

 

 豊かな才を持つ良子が将来的に何をするのか、それは葵には想像もつかない。

 幸か、不幸か。

 どうやら、シャミ子や桃のような()()()()の素質も持っているらしい良子が、ソレを選ぶ可能性もあるのかもしれない。

 何かに強制されてではなく、本人の意思で進むのならば……。

 

「この先、良ちゃんが選ぶ何かを俺は支持する」

 

「……それ、言ってあげたら良ちゃんは喜ぶと思うけどぉ……」

 

「言葉にしたら足枷にしかならないさ。

 だからこれも、内緒にしてほしいな。また借り作る事になるけど」

 

「……ふふ」

 

 良子達の居る居間の方へと数歩進み、しおんと背を向け合う形になった葵には、声を漏らすしおんの表情は伺い知れない。

 

「……じゃあ早速、せんぱいをからかう権利使っちゃおうかなぁ。

 せんぱい、また来年も似たような感じでプレゼント送るつもりぃ?」

 

「流石に、もう少し普通に考えて送るつもりだよ」

 

「……ふ〜ん。今がコレだと、ハードル上がっちゃいそうな気もするけどぉ……ていうか、上げさせちゃおうかなぁ……」

 

「……現実逃避したくなってきた」

 

 しおんによるからかいの言葉に、半ば冗談ながらも葵は思考が飛びそうになり……ふと、思い出す。

 数週前、しおんの誕生日に言った事。

 それと似た言葉をまさに今日、良子にかけられていた。

 

(……俺は、俺。他の誰でもない)

 

 しおんに対して気取った事を言っていたが、自分自身を棚に上げていたのかもしれない。

 それを……気付かされた。

 

(……ああ、やっぱり)

 

 幾ら時を経ようが、葵が良子に敵うことはない。




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