まちカド木属性   作:ミクマ

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あんな感じやったんやろか

「葵クン、この服なんかどうかね」

 

「これもなかなか……」

 

 白澤の問いに対して感嘆の声を漏らす葵。

 両腕で広げられたそれは、かつて白澤が着用していたらしい衣服であり、『気に入るものが有れば持っていくといい』と、そんな提案を葵はされていた。

 

「それにしても……なんだかワイルドな感じな物が多いですね」

 

「僕にもツッパっていた時期が有ったのだよ。ここ最近は落ち着いているがね」

 

 白澤の言葉からは、どうにも時代を感じる単語がたまに出てくる。

 どれだけの年月を生きているのかが不明な白澤が語る、『ここ最近』の範囲は不明では有るが、彼の差し出した服は保存状態がかなり良かった。

 とはいえ立派なバク体型である白澤の持つそれらは、背の低い方であるとはいえ人間である葵に当然サイズが合う訳もなく、ほとんどの物はあくまでも“参考”として記憶に留める程度だ。

 

「ムム……やはり丈が合わないな……」

 

「そうですね……」

 

「……そうだ、今度服を見作ろさせてはくれないだろうか?」

 

 キラリと眼鏡を光らせながらそう言った白澤を見て、葵は僅かに口角を上げる。

 

「……もしや、袖の下というヤツですか」

 

「フフフ……」

 

「ワルですねぇ、店長……」

 

 妙なテンションで笑い合う2人。

 葵には、どこぞの同級生に影響を受けた“ワル”に対する密かな憧れが割とあったりする。

 もっとも、ソレを持ってする事は偶の早弁や放課後の買い食いといったしょうもないことばかりの上、知人にそれを知られれば悲しまれることはうけあいな為に表に出す事はない。

 

「……しかし、お財布は大丈夫なんですか?」

 

「たまになら、大丈夫だよ。葵クンはよく働いてくれているからね。

 最低賃金しか与えられない代わりと思ってくれたまえ。

 優子くんにも何か礼をしたいのだが……」

 

「あー……優子はまかない沢山食べて満足してるフシ有りますからねえ……」

 

 シャミ子の様子を思い浮かべ、思案する葵。

 

「……とりあえず、それは追々考えるとしようか。

 今は……例の件だ。スケジュールは問題ないかね?」

 

「ええ。リコさんに少し怪しまれましたが、大丈夫なはずです」

 

 “例の件”。それは白澤から葵に対する依頼。

 葵が『袖の下』などという考えに至った元々の要因。

 

 ■

 

「……」

 

 スマホを構え、無言でカメラのシャッターを連打する葵。

 ここは多魔動物公園、そこに展示されているユキヒョウのオリの前だ。

 

「前に来たときもそうだったが、葵クンは随分とユキヒョウが好きなのだね」

 

「……自分でも不思議なくらいですね。……あ、しっぽ咥えてる」

 

 葵は照れた表情と声をしつつも、目の前の振る舞いを見逃さまいと視線は外さない。

 しばらくの間葵は写真を取り続け、満足し悦に入るように息を吐き、スマホをかばんに仕舞う。

 

「……すみません、もう大丈夫です。

 こちらの方が順路的に奥なのに、時間取らせてごめんなさい」

 

「問題ないよ、頼んだのは僕の方だからね。それにタイミングを図るのも重要だ」

 

 謝罪を口にする葵に、白澤はそんな打算の混じった言葉を返す。

 白澤の目的とは、この園にいるメスのバクにアプローチを仕掛けることであり、葵はその付き添いとして訪れているのだった。

 

「バク一人だと少々悶着が起きてしまうだろうから、葵クンに付いてきてもらって助かるよ」

 

「……では、そろそろ行きますか?」

 

「そうする事としよう」

 

 そうして2人は来た道を戻り、マレーバクの元へとたどり着く。

 

 蝶ネクタイとサングラスを着け、髪型がソフトモヒカンという、それが一張羅であるらしい白澤。

 そこにいる一匹のメスバクへと花束を差し出し、メスバクが咀嚼を始めると、白澤は口をクワァ……と開いた。

 

(……すごい光景だなこれ。……ん?)

 

 決め顔をする白澤と、まんざらでもないらしいメスバクを見て引きつった表情をしていた葵は、覚えの有る声が耳に入ったような気がして周囲を見渡す。

 

(……気のせい、か?)

 

「葵クン、どうかしたのかね?」

 

「あ、いや。なんでも無いです。上手く行ったんですか?」

 

「うむ。葵クンも挨拶するかね?」

 

 そんな白澤の言葉に乗って葵もメスバクへと近づき、数本ほど残っていた花を差し出すと、それも咀嚼を始めた。

 

「……よく食べる割に痩せてますけど……大丈夫なんですか? この子」

 

 ややあばら骨が浮いて見える様子のメスバクを見て、葵は心配混じりの疑問を浮かべる。

 それを聞いた白澤はメスバクと何やら会話を始め、少しの後に葵の方を見る。

 

「元々痩せ型らしい。飼育員さんには良くしてもらっているとのことだ」

 

「それなら良いんですが……」

 

「……葵クンは痩せぎすは苦手かね?」

 

「あー……はい」

 

 苦い表情を見せる葵。

 脳裏によぎるのは半年ほど前までの幼馴染みの姿であり、現在の元気な様子が夢や幻ではないかと、今でもたまに思ってしまう。

 

「……おわっ!?」

 

 と、そんな考えを頭に巡らせていると、柵に体重を預けていた片手にヌメリとした感覚が走り思わず声を上げる。

 葵がそちらに視線をやると、そこにはメスバクの長い舌が伸びていた。

 

「『心配してくれてありがとう』、だそうだよ」

 

「……はは」

 

 ■

 

「それにしても……ものっそい服やったな、アレ」

 

 とあるバー、そこにあるカウンター席。

 元魔法少女でありあすらに住み込みを始めた彼女、紅玉はそう言った。

 

「服ぅ〜? マスターは全裸ネクタイやったろぉ?」

 

「全……。いやそっちやなくてタカギの方や。ていうかまだ飲むんか、リコ」

 

 隣に座り、酔い潰れてテーブルに伏せるリコに対して紅玉は苦言を呈す。

 2人は白澤と葵を尾行して動物園を訪れており、白澤の求愛を目撃したリコはこうして酒に溺れて紅玉に愚痴を吐いていたのだった。

 

「葵はん? ……どんな服やったっけ」

 

「白いライダースジャケットに妙なサングラス着けとったやろ。

 おまけにあの死ぬ程似合っとらんオールバックや。

 服に喰われすぎとる……いやそんなレベルちゃうでアレ」

 

「ああ……そんなんやったなぁ。あれ多分マスターがノせたんやろけど……。

 マスターあれ本気で葵はんに合うとる思ったんやろか……解釈違いやわぁ……」

 

「根本的にタッパが足りとらんやろ、アレ。

 売店にあったこのヒョウのシャツでも来たら似合うんとちゃうか?」

 

「それはないわ」

 

「……」

 

 傍らに有る袋から取り出した、一目惚れして購入したらしい動物園限定のシャツを持って成された紅玉による提案は、急に酔いが醒めたかのようなリコによってピシャリと却下される。

 そしてリコは酒の入ったグラスを傾け、喉を鳴らすとテーブルに勢いよく叩きつけた。

 

「……思い返したら葵はんにも腹立ってきたわ!」

 

「またか……」

 

「なんで今日あんなに楽しそうやったんやあ!? 

 あすらのキッチンであんな顔見たこと無いで!? 

 ウチとおるよりマスターとおった方が楽しいんか!?」

 

「あぁ……?」

 

 再開されたリコの愚痴に紅玉は辟易するも、それが妙な方向に向かい始めたことを察知して眉をひそめる。

 

「それにあんなメスネコにデレデレしよってぇ! 

 ウチの方がしっぽ色味ええし長いし太いし毛並み良くてもっふもふやろぉ!」

 

「そこなんか……?」

 

「ああ! あの泥棒バクゥ! マスターだけじゃ飽き足らず葵はんにも色目使うとったなぁ!」

 

「バク相手に何言うとんねん」

 

「マスターかて厳密に言やあバクやのうてハクタクやから別種族なんや! 

 動物園の展示動物相手やからって油断しとった結果が今のこの有様や! 

 葵はんも人間やからって油断ならんでホンマぁ……」

 

「酔った勢いで何口走っとるんや……」

 

 葵を取り巻く()()を思い返して紅玉は僅かに赤面しつつも、リコの考えを幾ら何でも有りえないだろうと否定する。

 

「……なあ、リコ。アンタ何に嫉妬しとるん?」

 

「……? どういうことや?」

 

 続けて紅玉は、リコの愚痴を聞く内にくすぶっていた疑問をぶつけた。

 再びテーブルに突っ伏しグズグズと呻いていたリコは、それを聞くと戸惑った様子で顔を上げる。

 

「いや……アンタ最初店長に近づく園のバクにキレとったけど……。

 それとおんなじテンションでタカギの愚痴吐いとるやん。

 まさか本気でバクに取られる思うとるんちゃうよな?」

 

「……」

 

 沈黙。

 リコはテーブルに手を付いて上体を起こし、イスの背もたれに身を預けた。

 そして何故か、大きな耳を忙しなく動かしながら思考している様子だ。

 

「……シャミ子はん等とくっついとって、女の敵とか思わんでもないけどぉ……。

 取る取らないとかどうこうは置いといて……それはそれとしてずっとあすらで働いてほしいとは思うかもなぁ……」

 

「アンタそれ……」

 

「ああでも無理かもなぁ……」

 

 何かを言おうとした紅玉に構うことなく、リコは言葉を続ける。

 

「だあって葵はんが店に来たんは魔力料理覚えるためやしぃ……もう覚えてもうた今は義理で働いとるだけで、その内辞めるんとちゃうかなぁ……。

 まあ今も葵はんは平日の昼おらんし、そもそも10年間キッチンは一人で回せとったしで元に戻るだけなんやけどぉ……」

 

「……」

 

「来たばかりの頃の葵はんはおもろかったなぁ。

 教えるために何食べさせてもおいしいおいしいって褒めてくれて……ちょっと魔力多めに混ぜても耐性あるみたいで、参考になるって言っとったわ。

 なのに最近は……敬意っぽいのは一応感じるけど、ウチのあしらい方覚えてもうたっぽいんよなぁ……」

 

 テーブルに落ちた水滴に一本の指先を浸け、ツツー……と滑らせるリコ。

 そんな行動をしながらの言葉に潜む意味とは何か。

 

「……ウチが、きょうだいと一緒にごはん作れてたんなら……もしかしたらあんな感じやったんやろか……」

 

「……さあな」

 

 ボソリと、独り言のように呟くリコと、その理解をあえて拒むかのような紅玉。

 2人は顔を合わせず、沈黙が落ちる。

 

「──ああ、葵はんかわええ耳しとるなぁ……

 

「……リコ? ……寝とる……」

 

 しばらくの後、聞き取れはするもののあまりはっきりとしない声に反応した紅玉がそちらを向くと、リコは椅子に座ったまま眠りに落ちていた。

 

「好き勝手喋って寝よって……。これアタシが運ばなあかんの? 会計どうすんねん……」

 

よう似合うとる……これで仲間やなぁ

 

「……タカギ呼んでやらせよ。全部アイツのせいや」

 

 ■

 

「シャミ子! あんなフロイトが手をたたいて喜びそうな悪夢見せてどういうつもり!? 

 葵もいつの間にあんな……ヘンなこと覚えたのかな!?」

 

「え……? 昨日はミカンさんの誕生日で徹夜でゲームしてました」

 

「みんなでピザ食べてたわよ」

 

「……え? あ? そうなの? ならいい」

 

 11月4日、つまりミカンの誕生日の翌日。その朝。

 顔を真っ赤に染めてミカンの部屋に飛び込み、謎の訴えをする桃に、その場にいた者たちは困惑しながらも現況を伝える。

 

「……あれ? 葵は?」

 

「葵ならそこに……」

 

「…………………………………………」

 

 熱が醒めぬ様子の桃が部屋を見渡すと、シャミ子は部屋の隅を指差す。

 そこには横になり、極めて小さな声で奇妙な()()()を口から漏らし続ける葵がいた。

 

「……何これ?」

 

「さっき、私とウガルルでちょっとからかったらこうなったのよ。

 ……盛大にいろいろ拗らせてそうな雰囲気あるし、多分色々思い浮かべて許容量超えたんだろうけど……まさかここまでとは思わなかったわ。

 しばらくこのネタは封印ね……」

 

「ところで、さっき桃が言ってた変なことってなんですか?」

 

「……なんでもない」

 

 純真なシャミ子による質問を桃がどうにか躱そうとしている中、ミカンは未だ倒れ付す葵をしげしげと眺める。

 

「……なんかこんな感じの怪談無かったかしら?」

 

「それは『ぱ』じゃなくて『ぽ』だねぇ。それに()も全然足りないかなぁ」

 

「ああ……ヨシュアさんごめんなさい……」

 

 ふと思いついた様子のミカンの言葉にしおんが補足を入れると、何故か謝罪の言葉を口にしながら葵がようやく起きる。

 

「……あ、葵。おはよう」

 

「おはよう、桃。……どうかした?」

 

「……朝ごはん、作って」

 

 そんな桃の要求。

 盛大にごまかされている気はしたのだが、頼みを断るわけもなく部屋を出るために立ち上がり、玄関へと向かう。

 

「……せんぱいの、昨日の陽夏木さんへのプレゼント……余興含めてすっごーく面白かったなぁ」

 

「……忘れて」

 

「忘れようとする必要なんか無いよぉ。モノは良かったと思うなぁ」

 

「……」

 

 靴を履いている途中に背中の方からかけられた、しおんからのからかいの言葉に、葵はため息を付く。

 

「あ、そうだぁ。明日実験のために先輩の家借りたいんだけど……何か甘いもの作ってほしいなぁ」

 

「急に話変わったね……まあいいけど。明日だね」




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