まちカド木属性   作:ミクマ

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第二部
どっちが好きなの?


「ねえ、葵。どうして桃にアドバイスしてあげなかったのかしら?」

 

 土曜の夜。魔法少女に関する事を桃から聞き出すという目的の元、高級焼肉店のディナーコースへと向かうシャミ子と、そして別々に出た桃を見送った後、自らを含めた家に残る者達との夕食を終えた葵はミカンからそう問われる。

 『桃へのアドバイス』というのは、シャミ子からの誘いに動揺した桃が葵を含めた周囲の者に聞いた、服装等に関する意見であるのだが……葵はそれに応じなかった。

 その理由としては……。

 

「いやさあ……先に優子にアドバイスあげる事になったもんだから、二人同時に口出すとなると黒幕やってるみたいでどうにも罪悪感が……」

 

「桃、寂しそうにしてたわよ? そっちには罪悪感感じないの?」

 

「ぐうっ……!」

 

 うめき声を漏らす葵。

 そんな様子を見て、ミカンは少しのオレンジジュースが残ったコップを揺らしながらまた口を開く。

 

「シャミ子に先にって、何か考えがあるのよね? ……私には、手伝えないこと?」

 

「……」

 

 自らもまた寂しそうな、そんな口調のミカン。

 

「……ううん。いいわ。葵のことだから……“逃げない”って言ってもまた次に踏み込むのは時間がかかるんでしょうし。

 桃への埋め合わせ、何か考えておきなさいね」

 

「……ごめん」

 

 見透かしているらしいミカンの言葉に、また罪悪感を覚えながらもその日はお開きとなる。

 そして家に戻った葵だが、スマホが鳴りそれに出た。

 

「杏里? 何か用?」

 

『えーっと……シャミ子たち今どうしてる?』

 

「たま川にいるはずだけど……どうしたの?」

 

『……』

 

 葵の問いに対する返答は、息を呑む音。

 計画の発端である杏里は、第一声からして言い淀む様子であり、葵はスマホ越しながら怪訝な表情となる。

 

『……その。あのチケットね……無料じゃなかったんだ』

 

「……え゛?」

 

 思わず濁った声を出す葵。

 割引券であるものを無料券であると勘違いをしてしまっていたと、そう話す杏里は声だけでも分かるほどに狼狽している様子だ。

 

『……どうしよう』

 

「わざとってわけじゃないんでしょ?」

 

『そうだけど……』

 

「ちゃんと言えば、優子は分かってくれるよ。

 俺もちゃんと確認してなかったってのもあるし……」

 

 そう言うと、スピーカーから安堵の息をつく音が僅かに聞こえる。

 葵は平静を保っているように取り繕ってはいるが、スマホ越しだからこそどうにかそれが出来ているだけであり、普段とはかなり異なる杏里の様子に内心は穏やかではない。

 

「……もしかして、さっき聞き返した時の声がアレだったかな」

 

『……葵って、こういう事厳しいイメージあるから。

 買い物してるときに、すごい顔で計算? してた所何度か見たことあったし』

 

「あー……」

 

 控え目な声での言葉に、葵はほぼほぼ肯定に近い感情を得る。

 とはいえ、葵はどうこう言える立場ではないだろう。

 清子から仕込まれた節制術を元に行動している事が多くは有るものの、ここしばらくでかなり財布の紐が緩みだしている。

 

「とりあえず、俺は杏里と同じ側だから。

 安心……っていうのも変だけど、落ち着いてほしいな」

 

『……分かった。シャミ子へのお詫び、何か考えておくね』

 

 そうして2人は通話を終えた。

 

 葵はその後、気まずい雰囲気で帰ってきたシャミ子と桃を迎える。

 意気消沈しているシャミ子に葵は代金を負担する旨を伝え、消極的ながらもそれに同意するシャミ子。

 そんな二人の様子を見て桃は薄らに嬉しそうにしていた。

 

 ……まるで、貸しという名の何かが増える事を喜んでいるかのように。

 

 ■

 

 翌日、すなわち日曜日。

 桃による、『新しい戦闘フォームの試着に付き合ってほしい』という令により、シャミ子とミカン、そして葵はひなつきの廃工場に集まっていた。

 

「魔法少女が戦闘服を変えるのって珍しくて……多分最初は不安定だろうから、ここで試したい」

 

 このような場所を選んだことに困惑するシャミ子に、桃は説明を行う。

 

「シャミ子……今から新フォームに変身するけど、多分初見のシャミ子はびっくりすると思う。

 でも……なるべくノーリアクションで接して欲しい」

 

「へっ?」

 

「……お願い」

 

「??? は……はい」

 

 桃はやや影を落とした、複雑な表情でシャミ子に詰め寄ってそう言う様子を、葵は僅かに口角を上げながら眺める。

 

「……葵、そんなに目を見開いて楽しそうに見つめないで。真面目な話なんだから」

 

「ああ、ごめんごめん」

 

「葵は何か知ってるんですか……?」

 

「んー、半分知ってると言うか知らないと言うか……」

 

「……じゃあ、いくよ」

 

 自らの両眼を大きくカッと見開き、些細な動きを見逃さないようにしている葵を見て桃は口をまごつかせ、そして諦めたようにパクトを天に掲げた。

 

「フレッシュピーチセカンドハーヴェスト、ハ───トフルチャ──ジっ!!!」

 

 桃がそう叫ぶと、その身体のみならず周囲までもがピンク色の光に包まれ、どこからともなく謎のコーラスが流れ出す。

 ファンシーな雰囲気と化した空間を、何かの壁をブチ抜くかのように桃は舞い踊り、次々と衣装が装着されて行く。

 

「心あらたにここに見参!! フレッシュピーチセカンドフォーム!!」

 

『デーン!!』と、そんな効果音とともに、実時間以上に体感が長く思える舞いを終え、桃は両手でハートマークを作るポーズを取ってそう叫んだ。

 

「変身タイム、5,03秒よ」

 

「……やっぱり5秒の壁が切れないか……」

 

「いやでも桃、完全な新規でこれは流石だと思うよ」

 

 傍らにて木箱に座る、ストップウォッチを片手に持つミカンが伝えた秒数に桃はあまり満足していないようであるが、葵は素直な感想を伝える。

 が、それらの意味が理解できていないシャミ子は当然困惑していた。

 

「な……なんかふしぎな時間がありませんでしたか? 

 コーラスみたいなのが流れてたようなっ! ピンクの背景でした!!」

 

「……そこは引っかからなくていい」

 

「ええ〜っ!!」

 

「ちょっとは説明してあげたら?」

 

 言い淀む桃にシャミ子が詰め寄り、そこにミカンがフォローを入れる。

 曰く先程の桃の舞いは“光の力を体に降ろすためのもの”であり、魔法少女が変身するための儀式。

 それを“変身バンク”と呼んでいるようだ。

 と、シャミ子がそんな説明を聞いている間、葵は物知り顔でうんうんと頷いていた。

 

「ちなみにハートフルチャージとはいったい……」

 

「もういいでしょ!? ハートフルチャージしないと光の力が降りてこないんだよ!」

 

「そんなに恥ずかしがること無いのになぁ」

 

 葵は一切の建前も皮肉もなく、そう口にする。

 桃は赤面しながら葵に微妙な視線を送っていたが、そんな横でミカンは説明を続ける。

 

「あの時間は一種のトランス状態で……体が勝手に舞い散らかしちゃうのよ」

 

「でも……今までは一瞬で変身してましたよね?」

 

「今までは超高速で変身してた。熟練の魔法少女は大体高速変身を身につけてる」

 

「……」

 

 そんな中密かに、口角を上げた得意げな顔をする葵。

 安全な場所と言う条件があったとはいえ、桃がそれを曲げてノーマルな変身バンクを見せてくれたことへの優越感だ。

 割とアレな所へ思考が飛んでいる葵だが、それは別の事からの現実逃避でもある。

 

「敵の前で変身バンクしてたらつぶれミカンになっちゃうから♪ 

 新人の子は着替えに1分かかったり、うっかり全裸になっちゃったりしてかわいいのよ〜♪ 

 ちなみに昔の桃も──」

 

「ミカンさんが突然気絶した!?」

 

 何かを言おうとしたミカンであったが、桃の手刀によってその意識を刈り取られる。

 ちなみに、葵はミカンによる解説の殆どは耳に入っていなかったのだが、『昔の桃』と言う単語が発された瞬間にその体をミカンに向け、ガッシリと腕を組んでいた。

 つまるところ、話を聞くための腰を据えた姿勢である。

 

「……葵」

 

「桃の話って言ったら聞くしか無いでしょ」

 

 もはや言うことはそれだけしかない、といった感じの葵の言葉。

 それに桃は恨めしそうな視線を送っていたが、ミカンが目を覚ましたのを見るとこのフォームを作った理由を語りだす。

 

 リコと紅玉によるいざこざの際、小倉しおんによって投じられた薬品を避けられなかったことを桃は悔いており、それを課題としてスピード特化とすることにしたらしい。

 

「シャミ子はだいぶ“戦える子”になってきた。

 これからの役割はシャミ子の盾であり切り込み役。

 ……というわけで、これが私の新フォーム」

 

「桃……」

 

「シャミ子と()()()()()()()機動力重視」

 

「……」

 

「重戦士寄りの葵とも被らないし、しばらくこれで修行しようと──」

 

「まてーい!」

 

 ある単語に眉を顰めながらも、桃による説明を聞いていた葵。

 しかしそこに新たなる者の声が響く。

 

「そのフォームにものも───す!」

 

「ごせんぞ!?」

 

「おやリリス様。サボってると蛟様に焼かれますよ。誤魔化し面倒なんですけど」

 

「なまっちょろいわ! 余の力をもってすれば夜からやってもすぐ終わる!」

 

 夏休みの宿題を後回しにする小学生のようなセリフをリリスは吐き捨てると、お立ち台として使っていたドラム缶から降りる。

 

「ごせんぞなぜここに!?」

 

「つけてきた。このような楽しい場に余を呼ばずして誰を呼ぶ」

 

 リリスはシャミ子の疑問に答えると、次に葵に生暖かい視線を送りながら近づき、その肩にポンと片手を置く。

 

「余は分かっておるぞ? お主の心境を」

 

「うざ……おっと。その手を離さないとカエルになっていただきますよ」

 

「なんだその言い草は!」

 

 ドヤ顔で語るリリスに、葵は思わずどこぞの生徒会室のノリを思い出して暴言を吐きかけ、適当に取り繕う。

 そんな態度を見たリリスは忌々しげに葵から視線を外し、シャミ子を見る。

 

「……シャミ子にはこの戦闘フォームの問題点が分からぬか……」

 

「も、問題点……?」

 

「……ミカンよ、率直に言ってこのフォームどう思った?」

 

「ん〜……まあ正直……」

 

 リリスの問いに、ミカンは葵をちらりと見る。

 葵はまぶたを閉じ何も言わず、成り行きに身を任せる事とした。

 ミカンはそれを読み取ったようであり、やや控えめながらもその感想を口にする。

 

「クソダサきこと山の如しね」

 

「……あんまりクソとか言っちゃ駄目だよ」

 

 方向性の盛大にズレた諌めを放つが、葵がしたことはそれだけ。

 

「鬼ダセぇぞ」

 

「……!? たしかにシンプルだけど、そこは別に……」

 

「いやいや、ダサ桃だろう」

 

「どのへんが!?」

 

 大層な自身を持って作られたらしい、“セカンドハーヴェスト”と名付けられたそのフォームに、ミカンとリリスは指摘を加えていく。

 その中でも桃は、真っ先に指されたフリルに関してショックを受けたように見えた。

 

「……そこまで……言うこと……なくない……?」

 

「ギブ、ギブ!」

 

「……シャミ子は、どう……」

 

 反射的に出たらしい腕でリリスの首を極めている桃は、次にシャミ子へとその言葉の矛先を向ける。

 

「え! え……えっと。ほんとは……ローラースケートがちょっと違うかなって……」

 

「ローラースケート、早く動けるよ……? 機能的でしょ」

 

「滑ってるぞ。ローラースケートだけに」

 

「……葵も似たようなこと思ってるの?」

 

「……ノーコメント」

 

 強いて言えば、ボトムスに走る謎の白いラインが指摘されておらず気になってはいたが、どうにも意見しづらい位置にあるので葵は口にはしなかった。

 

「っ……さっき口上とかバンクとか見て満足してなかった!?」

 

「服には言及してないし……現実逃避は得意だし……」

 

「フリルは!? 葵好きなんでしょ!?」

 

「え? そうなんですか?」

 

「……ごめんね。もっと具体的に言っておくべきだったんだね……俺の責任だね……」

 

 桃の叫びにシャミ子がやや驚いたように反応し、場の全員に視線を向けられた葵。

 顔を逸らして弱々しくそう漏らすと、ポケットからハンカチを取り出して目を拭い始めた。

 

「前にその反応見たんだけどそこまで!? あのろしゅつまぞく服くらいひどいの!?」

 

「……大丈夫。アレよりはひどくないから」

 

「二人ともどういう意味ですかそれは!?」

 

 叫ぶ桃、涙声でフォローにならないフォローをする葵、流れ弾を受けたシャミ子。

 どうにも混沌とした現場だったが、葵が泣き止むと話は戻る。

 

「……というか、この姿は速度や機能の事を色々考えて……」

 

「機能をより上げてかっちょいいフォームに直そう。今ならまだ間に合うぞ。

 まー悪いようにはせん。危機管理フォームを発案した我を信じよ」

 

 そんな言葉に葵とシャミ子はまたもや瞳に影を落とすも、発した張本人たるリリスはそれに構うことはなく。

 

「まあ、真面目にだ」

 

 リリスは桃に対し、魔力外装に不安定さを感じているのだろうと指摘をした。

 だからこそ、暴発を警戒して廃墟であるここでテストを行うことを決めた、という桃の考えもリリスは当てる。

 

「余はこういうのの調整は得意だぞ。苦手分野なら周辺のものをきちんと頼れ!」

 

「……分かった」

 

「まずは布面積を減らそう」

 

「は?」

 

 リリスが桃の服をぺいへいと引っぺがし始めた瞬間、葵は己の両目を突いてそのまま仰向けに倒れた。

 目を手で塞ぎつつも指の間から桃を観察しているシャミ子をよそに、ミカンは葵へと近づきしゃがむ。

 

「……別に、今更そこまでしなくても大丈夫じゃないかしら。……ちょっと、嫉妬はするけど」

 

「……心の準備が出来てないと自分の魔力の制御が乱れてヤバい。割と真面目に……」

 

「よーし! ベースが出来たぞ!」

 

……ほんっとうに真面目にやってるんだよね

 

「……ていうか声だけでも心拍数上がってきたやばいしぬ」

 

 明らかに恥らっている桃の声を聞くと葵は呼吸を乱し、そんな様子を見たミカンは口を尖らせながらも葵の体を持ち上げ、地面に座った状態にさせた。

 

「……耳、塞いであげるから。準備できたら目開けなさい」

 

「合図とかは……」

 

「私にそこまでさせる気?」

 

 ミカンから、割と本気で怒っているように聞こえるそんな言葉で刺されると、葵は口を噤む。

 しばらくの後、耳を塞がれた状態でもはっきりとした『完成だ』という、そんなリリスによる叫びが耳に入ると葵はまぶたを開ける。

 『危機管理フォームと同程度ならばどうにか耐えられる』と、そういった考えの上だ。

 ……まさか、それ以上にひどいシロモノだとは思わず。

 

「……………………」

 

 目を開けたことでミカンの手は解かれ、葵はフラフラと立ち上がる。

 そして近場にあったドラム缶へと片手を乗せると、もう片方の手で自らの鼻を強く押さえた。

 

「バッ……こんなッ……! ベタなマンガみたいな……!」

 

 ドラム缶の天面に赤黒い液体がポタポタと垂れ、葵はズルズルとまた体勢を崩す。

 背中を向ける気すら起きない葵の視線の先、そこにいる桃はついに限界を超えたらしく闇へと堕ちたのだった。

 

「あの格好で戦うくらいなら死を選ぶ! シャミ子はへそしか見てないし! 

 葵は訳わかんない状態になってるし! 

 あとローラースケートが滑ってるって何!? 頑張って考えたのに!!」

 

 顔を真っ赤に染め、闇堕ちフォームで叫ぶ桃に、他の面々は圧倒されている。

 

「す……すまん……。っていうかそこ?」

 

「すみません……つい……」

 

「……すらっとしててかわいかったわよ」

 

「いえーいろーらーすけーとさいこー」

 

 片腕を振り、ろれつの回らぬ舌で当人的には最高のフォローを葵は送っていた。

 

 ■

 

 コオロギの鳴く夕方、ばんだ荘。

 葵は杖を作ってどうにか立ち上がり、闇落ちしたままの桃ともに吉田家へと戻ってきていた。

 

「なるほどね……それで闇落ちしちゃったんだぁ……」

 

 天井裏から顔を出す小倉しおん。

 彼女に桃が闇落ちしたことを伝えると、以前と同様に機嫌を直せば戻れると、そんなアドバイスを受ける。

 それを聞いたシャミ子が部屋の隅で落ち込む桃を励ましている中、葵もまたうずくまっていた。

 

「ぁぁぁ……」

 

 両手で顔を抑え。声にならない声を上げる葵。

 しょっちゅう醜態は見せているために今更といえば今更なのだが、泣き腫らすタイプの物と本日のソレとはまた異なるものだ。

 と、そんな状態の葵の耳に聞き慣れぬ電子音が入る。

 

「……小倉さん?」

 

「……せんぱいが鼻にティッシュ突っ込んでるのが面白くて、つい撮っちゃったぁ……。

 ていうかせんぱいの血って、何かの素材になりそうだよねぇ……」

 

「……」

 

 とっさに葵は鼻をガードするも、しおんは微笑む程度で特に何もしない。

 そして彼女は葵のもとを離れ、反対の隅にいる桃たちへと近づく。

 

「……というか、“闇堕ちフォーム”をそのまま使えば良いんじゃないのかなぁ」

 

 桃が闇堕ちした際に自然と生成されたものであるのだから、無理に改造をせず光の魔法少女としても扱えるように調整しては、とそんな説明をするしおん。

 

「闇堕ちフォームの再利用……その発想はなかった。ていうか……小倉詳しいね」

 

「あっ……。……金魚さんとお友達になって色々聞いたんだぁ……」

 

 ピシリ、と葵は固まる。

 動揺している内に捕獲してしまったジキエルがどのような目にあっているのか考えるが、シャミ子の隣で震えている良子を見て『まあいいか』と、そう思考を放棄した。

 

 ■

 

「……もう大丈夫」

 

 更に時間は進み、夜の桃の部屋。

 正式に、魔法少女としての活動を闇堕ちフォームと同じ格好で行うことを決めた後、葵は闇堕ちから回復した桃に魔力を渡していた。

 

「だいぶ遅くなっちゃったけど……ごはんどうする?」

 

「……じゃあ、冷凍のうどんでいいよ」

 

 要望を聞くと、葵は桃から離れる。

 そのままキッチンへと向かおうとしたのだが、服のポケットから折りたたまれた紙が落ちていった。

 

「何これ?」

 

「あー……まあいいか。見たいなら見てもいいよ」

 

 照れている様子の葵はややぶっきらぼうに許可を出す。

 困惑しながらも桃が紙を開くと、そこにはとある絵が描かれていた。

 

「これ、私……?」

 

「スタイル良いし学ランとか似合うかも、なーんて考えたんだけどねえ」

 

 そのイラスト。

 目深に学帽を被った桃が、襟詰めをボタンを止めずにマントのようにはためかせ、地面に木刀を突き立てている姿のもの。

 

「……このワイシャツは?」

 

「優子が喜ぶかなって」

 

 内側に着たワイシャツは下の方のボタンが止められておらず、その隙間からは素肌が見えていた。

 

「まあ、もう必要ないしね。忘れて」

 

「……」

 

 桃は沈黙していたが、葵が背を向けると紙をテーブルへと乗せ、折り目を伸ばし始める。

 それを葵は感知していたものの、特に何かを言うことはない。

 

「……ねえ。葵は……フレッシュピーチみたいな服と、闇堕ちフォームみたいな服の……どっちが好きなの?」

 

「どっちもいいとは思うけど……個人的にはピンクのほうが好きかな。

 でも自分の趣味と外受けが良いのは別だって分かってるつもり」

 

 ……というのは黒系とピンク系との両方を推す一つの理由であり、その本音としては。

 

「これ以上フレッシュピーチのディープなファン増やしたくないし」

 

「……!」

 

 治りかけの毛細血管は、ちょっとした要素であっさりとまたすぐ破れる。

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