まちカド木属性   作:ミクマ

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思ってたよりだけど

「これから異次元の小倉を迎えに行くよ。

 小倉の様子からして超危険地帯ではないと思うけど、各自最大限に警戒していこう」

 

 令を言い渡す桃。

 その姿は闇堕ちフォームに似ているが、頭部に付いたパーツが彼女が光の魔法少女であることを示している。

 

「小倉が言うには、私とシャミ子と……あと、ついでに葵が行くのが良いみたい。

 ミカンとウガルルは外からのサポートをお願い」

 

「ついでって……まあ行けるんなら行くつもりだけどさ」

 

「……葵。『ついで』って、小倉が言ったんだからね? 私が言ったんじゃないから」

 

「大丈夫だよ。分かってるから」

 

「……」

 

 苦笑する葵を見て桃が暗い顔で弁解し、そして葵が慰める。

 桃に限らず、場にいる面々はいずれも戦闘フォームへと変身しており、それは葵も例外ではない。

 

「ところで……葵の服はそれでいいの?」

 

「うん? 確かに調整中ではあるけど、不安定って訳じゃないし。生身よりはずっと良いでしょ」

 

「アオイ、カッコいいゾ!」

 

「ありがとう、ウガルルちゃん」

 

 ウガルルが喜んでいる葵の格好。

 それは紅玉の夢の中へと入った時の、ウガルルの影響を受けた外装。

 未だ葵の戦闘フォームは本決まりしておらず、とりあえずとして“現実”に持ってくることに成功したそれを着用していた。

 

 なのだが、シャミ子はそれを見てソワソワしている。

 

「どうかしたの? 優子」

 

「え! ……えっと、今の葵も良いとも思うんですけど……その」

 

 言い淀むシャミ子。

 おそらくは今の状況を考慮してそうなっているのだろう。

 

「……私が考えてみたものはどうしようかなって……」

 

「ああ……それね。結構楽しみにしてたけど、また後で見せて欲しいな。

 参考にして作ってみるから、桃みたいに工場跡か何処かで調整しよう」

 

「むむむ……実際に見せるかもとなると悩みます……」

 

「……参考に、ね……」

 

 葵の提案にシャミ子は唸り……そして、密かにミカンも呟いていた。

 

 ともかくとして救出作戦は始まり、桃はとある和歌を半紙へとしたためる。

 それは“迷い猫と再開できる”と言う効果のあるおまじないであるらしく、その効果を利用して迷い子となったしおんの元へ繋がろうという魂胆だ。

 

「『もう一度会いたい』愛情と気持ちを込めて──。

 気持ち……気持ちを……気持ち…………?」

 

「桃がんばって!!」

 

 己の中に存在しないものをひねり出そうとし、桃は表情を引きつらせる。

 

「私、この歌知ってるわ。転勤する男の人が恋人に向けて送ったのよ♪」

 

「ろまんちっく!!」

 

「優子、興味あるならウチの古文の先生におすすめの本か何か聞いてこようか?」

 

「気持ち作ってる時に要らない情報くれるのやめて」

 

 もっと早く、中学の内にそう仕向けられなかったのだとか、そんな後悔もある葵だがそれを表に出すことはない。

 3人の会話を恨めしそうに聞きながらも桃が儀式を進める中、ミカンは二つのあるものを取り出す。

 

「シャミ子はこれをつけてね。

 魔力のビーコンよ。シャミ子達が帰ってくるための目印。

 私のほうでちょっとした音も聞けるから、私たちはお別れしても安心ね」

 

 そう言って、ミカンはシャミ子の首元のリボンに“柑橘類の断面を模した円盤”を取り付け、次に葵の方を向く。

 

「……葵も、つけて貰ってもいいかしら?」

 

「え? ……ああ、分かった」

 

 一瞬、その要請に対して『優子がつけているのならば……』などと思った葵だったが、ミカンのその少々寂しげな面持ちをみて受け入れた。

 葵が自らの手甲にビーコンを取り付けると、ミカンは葵へと顔を近づける。

 

「……ねえ、葵。さっきの歌……私たちにぴったりだと思わない? 2()()()()()()

 ()()()()は立場が逆だけどね」

 

「……今度こそ必ず、無事で戻ってくるよ」

 

「ええ、待ってるわ」

 

 耳打ちに対して葵が言葉を返すと、ミカンは満足げな表情となって離れた。

 と、そんな事をしているうちに準備は完了していたようで、吉田家の玄関ドアに貼られた結界の紙が光り輝く。

 

「私が気持ちを作れてる間に結界を武器で攻撃して!!」

 

「は……はい!!」

 

「ミカンとウガルルは離れて!」

 

「……行ってらっしゃい」

 

 トン、と。

 葵はミカンから背中を軽く押され、半紙に向かってしゃがむ桃の隣へと歩を進める。

 

「とぇ───い!!」

 

「……でも闇堕ち薬はぼったくりだよね」

 

「えっ」

 

 シャミ子がナントカの杖で結界をつついた瞬間、桃がボソリと不満を呟くと、葵とシャミ子は顔をそちらへと向けるが、それ以上のことは出来ず。

 空間がうずまき、シャミ子と桃、そして葵は結界の中へと吸い込まれていった。

 

 ■

 

「ぎゃふん!!!」

 

「よっ……と」

 

「っ!!」

 

 尻もちをついて悲鳴を上げるシャミ子。

 葵は着地に成功したのだが、彼が両足と片手を使っているのに対して、桃はすでに有事のための構えを取っている。

 このあたりが“実戦経験”の差、というものなのだろう。

 

「ここは……」

 

「小倉が吸い込まれた結界の内部……だと思う」

 

「……つまり、成功したんですね!」

 

 どうにも形容し難い、上下感覚を見失いそうな眼前の光景を見てそう三人は結論づける。

 

「きさま結界に入る直前すごく不安なことを呟いてなかったか」

 

「気持ちを作るってむずかしいね……。……でも葵にはやらせたくないし」

 

「ゴフッ」

 

「シャミ子ちゃぁん……ここ、ここ……小倉はここだよぉ……」

 

 桃が漏らした本音に不意を打たれた葵が咳き込んでいると、足元から死力を引き出したかのような声がする。

 未だ地面に座っていた……かに見えていたシャミ子だが、実際には“小倉しおん”の背中に乗っていたのだった。

 

「小倉さんごぶじですか!?」

 

「さっきまで無事だった……」

 

「すみません、すみません!」

 

 シャミ子が退くと、しおんは少しの間深呼吸を行い、そして葵の方を見る。

 

……。……先輩。肩貸してくれないかなぁ……」

 

 葵のことを呼ぶ直前、妙な間を挟みつつそんな要求をしおんは出す。

 その言葉に桃が少しムッとしていたが、葵はしおんに向かって手を差し出した。

 

「先輩、思ってたよりがっしりしてるねぇ……。思ってたより、だけど」

 

「褒めてるのか貶してるのかどっちなのかな……」

 

 呆れながらも、葵はしおんを立ち上がらせる。

 そんな反応を見て嬉しそうにするしおんだったが、一つ咳払いをすると口を開く。

 

「ここは、結界が防いだ危険な運命の残骸をため込んだ場所。

 三人にはここの掃除をお願いしたい……。

 掃除したら時空のズレが近づいて帰りやすくなる〜」

 

 まずはそんな説明をすると、しおんは次に周囲を見渡す。

 天から木が生えていたり、階段が斜めになっていたりと何もかもが捻れている光景だ。

 

「ここ……いつものアパートの廊下っぽいけど、たのしい景色でしょ?」

 

「やぶれた場所だなぁ……」

 

「並行世界のばんだ荘が重なり合ってこう見えるの。

 ゲームで例えるなら分岐ルートのデータ残りカス。

 たとえば……シャミ子ちゃんの家の前の洗濯機がちょっと違うでしょ」

 

 そう言ってしおんが指し示したものは、外廊下に置かれたドラム式の洗濯機。

 玄関ドアが頭上に付いていたりはするが、それは確かに吉田家の前の光景に少し似ている。

 

「これは多分何らかの理由で洗濯機を買い替えた世界のかけら」

 

「乾燥が付いてます! 風アイロンって何!?」

 

「洗濯機ねぇ。うちのやつ最近うるさいんだよなぁ。中のベルトヤバいのかな」

 

 吉田家の二槽式洗濯機程ではないが、長年使っているソレが不調をきたしてきたのは、洗濯を行う量も回数も増えたことが影響しているのだろうか、などと考える葵。

 なお、()()()事そのものの理由と問題については考えないようにしている。

 

「こういうのを魔力でお掃除してあげて〜。ぺちっとね」

 

「これを捨てるなんてとんでもない! 持ち帰れませんか!?」

 

「どうにかならない? 小倉さん」

 

「……。それを持ち帰るとあっちの世界がバグっちゃう……」

 

 二人が問うとしおんは目を伏せ、そして答える。

 その表情はどことなく、諦めの感情が混ざっているように見えた。

 

 振るわれた桃の刀によって洗濯機は消され、すると周囲の景色の違和感が減る。

 洗濯機に代表される、“運命ゴミ”を掃除すれば元の世界に近付いて行くらしく、元の世界ではありえないものを探せばいいと、そうしおんは言う。

 

「ありえない物……ですか」

 

しゃみこ〜』

 

「!?」

 

しゃみこや、しゃみこや〜』

 

「キッ……!」

 

 不気味に響く声、その方向を見た葵は悲鳴を上げかけ、そして一応の武器として持って来ていた元爪楊枝の杖を構える。

 

「とんでけー」

 

「かっ飛ばせ!」

 

「ニューごせんぞおおお!」

 

 邪神像に細い手足が生えた謎の物体を桃はアンダースローで葵に向かって飛ばし、葵は杖をフルスイング。

 その結果、邪神像のような何かは天の星と化した。

 

「……なにあれ」

 

「……そういえば、葵はあの時居なかったっけ」

 

「何? もしかして学校の話?」

 

「……知らないほうが良いよ」

 

 それ以上桃は何も言わず、シャミ子も何故か涙目で答えそうにはない。

 先程のモノは、リリスが受肉した際の“まちがい”の可能性であるらしいのだが……。

 

「桃は投げる判断早すぎるし葵は迷わず打返さないでください! 

 もし本物のごせんぞだったら……」

 

「本物でも投げてた」

「本物でも打ってた」

 

 シャミ子の非難に、桃と葵は息ピッタリにそう返す。

 

「この世界、ちょっと苦手だから早く帰りたい」

 

「俺もどうにも違和感あるんだよね。外の霊脈との繋がりにフィルターかかってる感じ」

 

「それ、大丈夫なんですか?」

 

「繋がりそのものははっきりしてるし、蛟様に吸われてるのも変わらないけど……調子が狂う」

 

「……葵も早めに戻ったほうが良さそうだね。

 引き続き間違えてるところを探してみよう……」

 

 そうして次に向かったものは、ここに来たときから目を引く大木。

 それは部屋の窓を貫いてそびえていた。

 

「見てください! ミカンの大木です」

 

「誰がやらかした世界がわかりやすいね……」

 

「この前ウチの庭に苗木植えようとしてたの止めたんだけど……こうなるなら植えて貰った方が良いのかな……」

 

 ■

 

 ばんだ荘の庭……と、思しき場所。

 そこに軽く盛られた土の上に、何やら人の手が入った石と思われる物と、蜜柑とジュースが置かれている。

 

「またミカン……?」

 

「何か文字が書いてありますよ? えっと……

 『ウガルルちゃんごめんね』……?」

 

「ッ──!」

 

 近づいたシャミ子が文字を読み上げると、その瞬間何かが振り下ろされた。

 ……葵が、息を乱して杖を叩きつけたのだ。

 

「葵……」

 

「……ごめん。取り乱した」

 

 そう謝り、歯を軋ませる葵。

 今までにその可能性を考えずにいた訳ではなかった。

 今のこの状況が、数多の幸運のもとに成り立っていることを突きつけられている様で、そして己のネガティブさを直視させられているかの様でもあり。

 

 ■

 

「……誰のもの? コレ」

 

 一行の目の前には、一体のマネキンがある。

 そこにはうす緑のワンピースと、頭部には黒髪のウィッグが乗せられていた。

 

「サイズ的に……私のものじゃないですね……」

 

「ミカンは……もうちょっと明るい色好きなイメージかな」

 

「ていうか、カツラ使う人なんていたっけ?」

 

「……」「……」

 

 桃の疑問に、シャミ子と葵は顔を見合わせる。

 二人に心当たりこそあるのだが、それでもサイズに違和感はあった。

 

「使うかどうかは別にして、黒髪って言ったら俺か、小倉さんだけど……」

 

「私はこういうの趣味じゃないかなぁ……」

 

「“まちがい”なら趣味が合わなくても……いやそうなると消去法も崩れるのか……」

 

「……あの〜」

 

 頭を悩ませる一行。

 そこでシャミ子がふと思いついたように声を上げる。

 

「思ったんですけど……服の方は、葵のものじゃないでしょうか……?」

 

「……え?」

 

 放心する葵をよそに、シャミ子はマネキンから服を外す。

 そして目視で葵に合わせると、納得したように表情を綻ばせた。

 

「……やっぱり、葵にぴったりですよ! 

 葵の服のサイズは分かってますし、そうじゃないかな〜って」

 

「……いやいやいや。なんで俺が……」

 

「それが、“まちがい”って事なんだと思うよぉ」

 

 “まちがい”なら何でもありだという、そんな理論。

 一瞬それに葵は納得しかけるが、必死に首を降る。

 

「……じゃあウィッグの方は何? 

 あれ重ねるやつじゃなくて、肌に貼り付けて完全に覆うやつでしょ?」

 

「……服とセットになってるってことは、先輩がそうなっちゃうんじゃないかなぁ……」

 

「えぇ……」

 

 とっさに葵は自らの頭を押さえる。

 “そう”なれば桜の紐も桃からもらったヘアゴムも着けられなくなり、それはある意味でとてつもなく忌避すべき未来だ。

 

「大丈夫。髪だけで葵が決まるわけじゃないから」

 

「……」

 

 知ってか知らずか、桃はそんなフォローを葵にかけた。

 

 ■

 

「だいぶ元の世界に近づいて来ましたけど……」

 

「なかなか間違いが見当たらないね」

 

「“サイゼリャー”の間違い探しみたく、むずかしい系かもしれません」

 

「アレ難しいよねえ。立体視使ってもちょっと手間取る」

 

「葵! 立体視は邪道ですよ!」

 

「え〜」

 

 漫才を挟みつつも間違いを消して行き、時間は進む。

 

 しおんが腹の虫を鳴らした事がきっかけで桃との仲が進展したように見え、シャミ子と共に葵はそれを微笑ましく見ていた。

 

「……うん?」

 

 そんな折、唐突に葵は浮遊感を覚える。

 

「葵? その……後ろの、何……?」

 

 桃が震えながらも葵の背後を指差す。

 葵が振り返ると、そこの空間がねじ曲がっていた。

 まるで、この結界の裏側に入ってきた時のように。

 

「……! 足が、付かな……っ! 吸い込まれる……!」

 

 葵はジタバタともがくも、それが功を奏すことはない。

 吸い込みの勢いはまたたく間に強くなってゆく。

 

「葵っ! 手を……!」

 

「桃……っ!」

 

 飛び出した桃だが、無情にもお互いの手は空を切る。

 そして気が付けば、葵の姿は消えていた。

 

「あお……い……? あおい……! あ……」

 

 途切れる声。ごく僅かな沈黙。

 次の瞬間には慟哭が空間に虚しく響くも、それに答える声は無かった。

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