まちカド木属性   作:ミクマ

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それが見えるんだぁ……

「『……さて、と』」

 

 普通の人間であれば間違いなく致命的であるような大穴。

 葵が攻撃を加減すれば叱責を受け、最終的に遺す事となったソレ。

 しかしは依然変わりなくこの場に存在し、地形を操作して椅子のようなものを作るとそこに腰掛けた。

 

「『とりあえず、ここから先は内緒話だよ。

 頭の中で考えてくれれば勝手に推測するから、そういう事でよろしく』」

 

「私もそうするからぁ……」

 

「……」

 

 葵は未だ疲労から立ち直れず、隣に居る“しおん”に支えられて同じく作られた椅子に座る。

 

「『最初は……まあコレかな。

 桃達に見せたら不味そうだったから隔離したんだけど、早い所消しちゃって』」

 

 が軽く手を動かすと、人の頭程度の大きさの何かがふよふよと寄って来る。

 胸元まで近づいたそれを持ち、観察をした葵は目を丸くした。

 

(……狐? ……いや確か、フェネック……だったか?)

 

 四角い台座に、大きな耳を持つイヌ科の動物と思われる像が乗ったオブジェ。

 以前に動物園へと行った時などに見たリコの真の姿と、白澤が語っていた言葉から導いた推察を口にした葵だが、ふととある可能性が浮かぶ。

 

(……消す、って……コレが、間違いなのか?)

 

「ここに有るって事はそうなんだろうねぇ」

 

(……)

 

 本当に心を読まれていることに驚きながらも、葵は想起を重ねる。

 見れば見るほどに桃が抱き上げていた小さなリコの姿にそっくりな像、紅玉の一件で見た封印された白澤の姿。

 その二つを重ねれば、当然ソレに至った。の、だが。

 

(いやでも。確かにちょっと……いや、少し。

 ……()()、恨みは買ってそうだけど……そう簡単に封印されるのか? リコさんが)

 

「『リコさんは結構強いからね。

 一切の()()抜きでやれば……少なくとも、今の君には勝てるだろうさ』」

 

 なし崩し的にではあるものの、葵はリコの過去を僅かに知った。

 譲歩など無しに、敵を撃滅することに対する抵抗感の薄いであろう彼女であれば確かに……。

 

「『ましてやリコさんは幻術使いだ。

 “個人での逃走”を最優先に行動したら大体は成功するだろう。

 だから……彼女が封印されるとすれば、別の存在が関わってくるはず』」

 

(別の……)

 

 そんな可能性を提示され、葵の脳裏に浮かんだのは当然白澤の姿。

 しかしは首を振り、“しおん”が口を開く。

 

「むしろ、店長さんは自分の為に暴走したリコさんをかばう側。シャミ子ちゃんから聞いてるでしょ?」

 

(……なら、誰を……?)

 

「『君だよ、喬木葵』」

 

(……)

 

 驚愕の感情を得る葵。

 ただしそれは推察に対するものではなく、むしろソレに納得してしまった自分に対する物なのかもしれない。

 

(リコさんが、俺をかばって……)

 

「……シャミ子ちゃん達に変な邪推されたくないよね? 消しちゃいなよ」

 

 “しおん”からそう言われると、葵は再びオブジェを見つめる。

 迷いはあったが、己を騙すように手に魔力を込めてオブジェを握りしめると、それは泡沫となって消え去った。

 

(……俺が、封印されかけるような……そんな行動を起こすのか?)

 

「『“まちがい”だから何でも有りといえばそうだけどね。

 大方、自分が正しいと思いこんで一人で勝手に暴走でもしたんだろう。

 せっかく、最高(さいあく)()()()()が居たっての、に……?

 ……あっれぇ、誰の事だったかな』」

 

 反面教師とやらについて言及しようとした。しかし途中で言葉は途切れて首を傾げる。

 しばらく頭をひねったりして思い出そうとしていたが、結局叶わなかったらしく顔を上げた。

 

「『……まあ、自分も人のことをとやかく言える立場じゃないんだけどね。

 結局は、()()も失敗したからここに居るんだ』」

 

(……ぼ、く……?)

 

 は自嘲するように語るが、葵が引っかかりを覚えたのはその内容では無く彼の一人称。

 思い返せば先程の戦闘の最中、は一度だけ自身の事を『ボク』と称していた。

 その時の状況故に触れる余裕などは無かったのだが、葵にとってそれは強い違和感のある事。

 持っていたの正体についての推察が、がらがらと崩れ去る。

 

(……貴方は、誰だ? 俺と……優子達の……何なんだ……?)

 

「『……ボクも、君と同じように桃達を大切に思ってる。

 だけど、こっちの桃達にとって大切な『葵』は……君。

 だから……ボクは、“まちがい”なんだ』」

 

 乱れる思考での問いに、は寂しそうな表情で言葉を返すと、彼は自らの額の辺りを片手で掴み上へと引っ張り始める。

 まるで、怪盗物の作品に出てくる謎素材のマスクの様に顔の表皮がズレて行き、その下には別の顔が存在していた。

 

(……違う。これは……俺じゃない)

 

 顕になったそれ。

 一見すれば、喬木葵に似てはいる。

 ただ、鏡で毎日見ている己の顔と比べれば……説明のできない程に詳細な部分に違和感があった。

 

「まあ、生活環境も習慣も大きく違うんだ。当然、差は出てくるよね」

 

 そして、その口から出てきた声も異なる。

 先程までの声はまさしく喬木葵そのものであったのだが、そちらも作り物であったらしい。

 

「自己紹介がまだだったね。ボクの名前は……千代田葵」

 

(……千代、田?)

 

 単語という名の飛び道具に殴られたかのような、そんな錯覚を葵は得る。

 

「君は、ボクの事を……失敗した未来の自分。そう考えていたんだろう。

 それは合っているとも言えるけれど、前提からして間違ってもいる」

 

(……)

 

「ボクと君は本来交わることのない存在。

 君から見て10年以上前に桜さんの弟及び、弟子として。

 そして……桃のお兄ちゃんとして過ごすのを選んだのがボクだ」

 

 混乱しながらも、葵は思考する。

 千代田桜によって助け出された直後の自身が、その様な立場に成る事を望むのだろうかと。

 “桜の弟子”という事はつまり、強くなる事をより早く望んだという事だが……。

 

(……知りたく、無い)

 

「それが良いと思うよ。ボクも、君の記憶を蝕むような真似はあまりしたくない」

 

 極めて個人的な感情を持つと、はそれに同調した。

 

「どうしても、君にはこっち側でそれなりの戦いを見せてもらいたかった。

 けれど……桃には話さないでいて貰う。ボクの余力を以て、呪いを掛けさせてもらった」

 

(……?)

 

 言い放たれたの言葉を聞き、一瞬思考が止まる葵。

 そしてそれの意味をゆっくりと飲み込むと、表情を歪ませる。

 

「……俺に、また……っ! 桃から逃げろって言うのか……!?」

 

「葵くん……」

 

 思わず、先程の忠告を忘れて叫ぶ。

 同時に立ち上がった葵だが、隣に居る“しおん”に制される。

 

「ああそうさ、逃げろ。得意だよね?」

 

(ッ……。何で……)

 

「桃と、君が一緒に暮らしていたかもしれない。

 ……それを知った所で、桃にとって何の救いになる? 

 最初は喜ぶだろう。だけどその先の思考を止める事なんて出来ない。

 ボクという、間違った存在がここに居た。

 それだけで()()()()に振り切れることすらあり得る」

 

(どう、いう……)

 

 葵は問いを出すも、は聞いていないかのように……。

 いや、もしかしたら実際に聞いていないのかもしれない。

 自分に言い聞かせるかのように、は言葉を続ける。

 

「『千代田桃と喬木葵が共に暮らすこと。それ自体が間違いへと繋がるんじゃないか』

 ……なんて、桃には思ってほしくないよね? 

 ボクも、君と同じようにネガティブなんだ。どうしてもその可能性を考えてしまう」

 

(……でも──)

 

「説得なり何なりをして、否定できるって? 確かにそうだろうね。

 だけど一度知ってしまったら、それは永久に記憶に残り続ける。

 ……それなら、最初から知らずにいる方がずっと良い」

 

 か細い声でのそんな説得に、葵は思わず納得して俯いてしまった。

 それでもどうにか、理が繋がらなくても反論を行おうと考えて顔を上げたのだが、と目が合い、その瞳を見た葵は吸い込まれそうな錯覚を得る。

 

「……今、納得してくれたね?」

 

「は……?」

 

「流石に、完全に反対する人間の行動縛るのは良心が痛むからさ。

 考え方が違うかもと思ってたけど……良かった良かった」

 

 何が愉快なのかは笑っていたが、いきなり心が変わったかのように葵をニタリとしながら見た。

 

「……『呪いを掛けられたから仕方ない』んだよ。

 それに縋って行け。好きなだけボクを恨め。

 そのビーコン経由で聞いてる人たちの説得は……まあ何とか頑張りなよ」

 

(何とか、って……)

 

「聞いてるのは、ミカンと、ウガルルちゃんと……後はリリスさんかな? 

 とりあえずリリスさんは大丈夫でしょ。

 あの人、なんだかんだで大人だし。頼みこめば黙っててくれるはず」

 

 顎に手を当てながら話すは、どことなく楽しそうに見える。

 

「ミカンは……桃が傷つくって言えば良いんじゃないかな。

 それでウガルルちゃんは、なあ。……まあ基本ミカンの言葉に従いはするだろうね」

 

(……)

 

 この瞬間、葵は理解した。

 この男はもう既に壊れてしまっているのだと。

 “壊れたから間違えた”のか、それとも“間違えたから壊れた”のか。

 その心の底が読めない事が、別人たる証。

 

「……何処かには、成功した“ボク”も存在し得るんだろう。

 だけど……ボクは何もかもを失った。

 桃ちゃんも、なっちゃんも。……シャミ子ちゃんも。

 君は……ボクみたいにはなっちゃ、ダメだよ」

 

 不気味に思う葵の感情すら読んだ様で、は縋るように語る。

 彼は立ち上がって葵の元へと歩いてゆくが、その足元からは光が漏れ、体が透け始めていた。

 

「……ああ、これを説明してなかったね。

 察してると思うけど、自分は生身の肉体じゃない。

 さっき見せたエーテル体換装とはまた別件だけど……」

 

 そこでは言葉を止めて視線を移し、向けられた相手である“しおん”は立ち上がり頷く。

 

「……任せて」

 

「……お願いします。後は……ああ、そうだ。

 君の記憶を覗いて、少し気になることがあったんだ」

 

(気になる、事?)

 

「……君が倒した魔法少女だけどね、多分もう復活してるよ」

 

「……は? ……え?」

 

 徐々に光は増して行き、どういう状態であるのか息絶え絶えといった様子のが発した言葉。

 それを聞いた葵は呆けた声を出す。

 

「……一体、どういう」

 

「声抑えて。……周りの状況からして多分。……断言は出来ないけど」

 

(……)

 

「それで、もう一つ。君が……倒した魔族。

 その事、もう少し良く思い出してみる、と──」

 

 葵にとっての、数少ない二つの“実戦経験”。

 葵が明確に加害者になったソレと明確に向き合えと、そんな指示を出そうとしたらしいだが、最後まで言うことは叶わずその場に倒れ付す。

 そして“しおん”は、ほぼ全身が見えなくなってしまっているの元へと寄りしゃがみ込む。

 

「……お疲れ様、葵くん。ゆっくり、休んでね」

 

「──」

 

 頭に手を添えた“しおん”に労われるとは唇を微かに震わせて破顔し、そして一際強い光に包まれると、彼の姿は消えていた。

 

「……」

 

 が消えた後も、彼の頭が存在していた高さで手を横に動かしている“しおん”。

 葵は呆然としながらも立ち上がって手を伸ばすが、それ以上のことが出来ない。

 

「……さあ、残りの話をしようか。葵くん」

 

 背を向けたまま目を拭い、しばらくの後に“しおん”は立ち上がって葵と向かい合う。

 彼女の掛けているメガネは傾いていたが、葵はそれに触れることはなく。

 

(……未来の情報とか、聞いているのかな。

 色々違いはあるんだろうけど……参考くらいには……)

 

「……残念だけどね。あの葵くんは、そういった記憶は殆ど持ってなかった。

 “ここ”に来る為に肉体の全てと記憶の殆どを捨てて、消費を軽くしたみたい。

 葵くんの記憶を読み取って、それと私の推察を併せてどうにか話を合わせていたに過ぎない」

 

(……どれだけロスがあっても、問題ない位の魔力があるんじゃ……?)

 

 先の戦闘において、“彼”は葵に対してその様な事を言っていた。

 その言葉が適するのは喬木葵だけではなく、“始まり”が同じであった千代田葵も同様ではないのかと、そう言った旨の疑問を葵は出す。

 

「確かに、その理論は間違ってない。

 ……本当に、()()を出しても良いのならだけれど」

 

(どういう……?)

 

「時間を移動する事だけが目的じゃなかったから。

 肉体を捨てたってことは、あの葵くんは戻る前の時点で供給が得られなくなってたんだと思う。

 その上で“私”を分裂させて、葵くんと話をする為のこの隔離空間を創って、そして葵くんに呪いをかけられるだけの余力を残す。

 その具体的な術式なんかを考えたのは私だから……戻る前のあの葵くんには、どれだけの魔力を残しておくべきなのか分からなかったはず」

 

(……)

 

「そもそもね。単純にまっすぐ、自分自身の居た過去に戻るだけでも莫大な量のエネルギーが必要になるの。

 ましてや、あの葵くんがした事は……自分とは全く別の自分が居る、平行世界への移動。

 それにどれだけの代償が必要なのか……流石の私も、簡単には導き出せないかなぁ……」

 

(……いや、でも)

 

 魔力を節約する必要があったが故に負担を軽くした、それは理解できた。

 だが、記憶の取捨選択は出来なかったのだろうか。

 より有用な記憶を残せなかったのかと、葵は思う。

 

(技を見せびらかす事なんかより、未来の情報の方がずっと有益なはず)

 

「それは、“しなかった”んじゃなくて“出来なかった”。

 この“まちがい”が集まる結界の裏側に存在する為に、優先された記憶がある。

 葵くん、シャミ子ちゃん達と見てきた“まちがい”がどんなものだったか覚えてる? 

 個々の物じゃなくて、全体的な傾向として」

 

(傾向……?)

 

 葵視点では激戦であった為に、その直前の記憶は印象の薄い物となってしまっていたのだが、目の前の彼女に問題を出される事が嬉しく思え、葵は頭をひねる。

 しかし良い答えは思い浮かばない。

 

(……どうしてそうなったのか分からない物ばっかりで、傾向も何も──)

 

「“どうしてそうなったのか分からない”。それが傾向。

 ある程度の推察が出来る物も有るけれど、見える物だけでは確証は持てない。

 ここは“過程”が薄れて、“結果”が表出する。そう言う場所」

 

(結果……)

 

「技や術を扱えるという“結果”の記憶は残せても、何をきっかけにして覚える事になったのか。

 そういった“過程”の記憶は消えてしまった。

 あの葵くんは……“サクラメントキャノン”の事、忘れてたでしょ?」

 

(……あの反応……)

 

 戦いの最後に放たれた大技が、千代田桜のソレを参考にしたのかという葵の問い。

 不明瞭なあの返答はそういう事だったのかと、葵は納得の感情を得る。

 葵の記憶を読み取ったのにも関わらず、聞かれるまで気が付かなかったのは、あくまでも喬木葵が“サクラメントキャノン”を直接見たことが無いからだらうか。

 その上、よくよく考えてみれば葵が聞いたことの有る蛟の言葉を借りてばかりでもあった。

 

「……そして、大切な()を失ったという“結果”は覚えていても……何を間違えてそうなったのかという“過程”は分からない。あの葵くんはそう言ってた。

 少しだけ、希望的観測もしてたみたいだけど……残った記憶を把握した結果、君と戦う事を決めた」

 

(……!)

 

 明らかに悲痛の見える表情で語り継ぐ“しおん”を見て、葵は息を詰まらせる。

 

「……ここからは、私の推察。

 身体も、記憶も……多分、他にも色々なものを失ったんだと思う。

 自分の名前と出自だけは最低限保持したけれど、残った物は膨大な魔力と、虚しい孤独の記憶だけ。

 そんな状況に自分から飛び込んで、それでもしたい事があった。

 ……なんだか分かる?」

 

「……分かり、ません」

 

 思考しても浮かぶことはなく、思わず敬語でそう口にした葵。

 しかし、葵の反応を目にした“しおん”は何故か嬉しそうに見えた。

 

「……葵くんは、自分に自身がない。

 だから……自分が強くなれるって、そう思って欲しかったんじゃないかなぁ……」

 

(……けれど、あれだけ……いや。あれ以上の力を持っていても失敗したんじゃ……)

 

「あの葵くんより、更に強くなればいい。可能性は有るよ」

 

 葵がネガティブな思考を浮かべると、“しおん”はそれを遮り葵の喉を見る。

 

「ここで起きた事を、葵くんから桃ちゃんに話せなくなる呪いを教えたのは私。

 ……私も、下手に話せば桃ちゃんがへこむと思うからそうした。

 だけどね……もしかしたらって思うんだぁ……」

 

(……?)

 

「あの葵くんには言わなかったんだけどねぇ。

 その呪いは葵くんの“同調する心”がキーになってるから、反発すれば弱まる。

 もちろん、呪いそのものの強さに勝てるだけの力が必要だけど……葵くんが、確実に桃ちゃんを支えられる様になれば解ける……かも、しれない」

 

(……)

 

 そう言われるも葵は俯き、纏まらない思考をぐるぐると巡らせていると、肩に手を置かれる。

 顔を上げれば、当然正面には“しおん”の顔。

 透き通ったレンズ越しの彼女の瞳を見て、葵は思わず背筋を伸ばす。

 

「……葵くん。君は強くなれる。私には、それが見えるんだぁ……」

 

「……はい」

 

 ……それこそが、葵にとっては『無条件に信用できる』……過程であり、結果。

 

 ■

 

(……だけど、態々こっち側に来る必要はあったのか……? 

 自分の居た過去に戻ったほうが、消費は抑えられるんじゃ……)

 

 しばらくの後、葵はそんな疑問を頭に浮かべた。

 “しおん”の話す理論にある程度の納得は得られたが、やはりそこが引っかかる。

 

「……そこなんだけどね。

 あの葵くんが持っていた魔力が、思ったより少ない気がしたの。

 もしかしたら……自分のいた過去と、そしてこの時間軸。

 両方に意識を飛ばしたんじゃないかなって」

 

(両方……?)

 

「そうだとしたら、こっち側に来た理由は多分私……と、小倉しおんの為なんだと思うなぁ……。

 あの葵くんは、その目的の記憶すら捨てたのかもしれないけど……」

 

 ……そうして。

 ここでようやく、“しおん”は己が小倉しおんとは別人であると表明する。

 その言葉は、ある程度葵が予想していたものではあったのだが。

 

(……貴方は、一体……?)

 

「私は智慧と時間と書物を司るまぞく、グシオンの末裔」

 

(グシ、オン……)

 

「……この自己紹介も、とっても久しぶりだなぁ……」

 

 その名前に葵が強い既視感を抱きたたらを踏んでいると、グシオンは感慨深そうに微笑む。

 

「……だいぶ前に退場して、ここには居ないはずの存在。

 短い間だけど……葵くんの気の赴くままに、一番しっくり来る名前で呼んで欲しいな」

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