まちカド木属性   作:ミクマ

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いきなりしゃべる内容がそれ?

「こんばんは……」

 

「お兄、いらっしゃい。はい、タオルだよ」

 

「ありがとうね、良ちゃん」

 

 葵は吉田家の玄関にびしょ濡れで立ち、良子から渡されたタオルで体を拭いていた。

 清子から今晩の予定を事前に聞いていた彼は、自宅での下準備中に雷雨が降り注ぐのを見ると急いでばんだ荘に向かったのだ。

 しかし、食材を庇おうとして傘をまともにかけられず、このような状態になってしまった。

 

「清子さん、これをどうぞ」

 

「葵君……そんな無理して持ってこなくても良いのですよ?」

 

「いえ、めでたい席に家族として招いて頂いてるんですから、当然のことです」

 

「もう……。では、今日は一緒に楽しみましょうね」

 

 葵から食材を受け取った清子は笑ってそう返すが、彼女は妙な棒を持っていた。

 

「清子さん? 何ですかそれ?」

 

「実はフライ返しが折れてしまったのです。恐らく封印によるがっかり微調整のせいかと……」

 

「えっ……。なら俺、家から取ってきますよ」

 

「またびしょ濡れになる気ですか? 今日の所は木べらでなんとかします!」

 

 今日はホットプレートを囲んでのミニパーティである。

 実際の所、今度は傘をかける事ができるので濡れることはないのだろうが、葵はその優しさに甘えることにした。

 会話をしながら姉妹のいる居間に向かうと、二人に気がついたリリスが話し出す。

 

「葵も来たか。では改めて、余がプチ復活したからにはこの家の家長として……」

 

 なんだか長ったらしい話をしそうなリリスの声を、清子が像の前に缶チューハイを叩きつけて遮る。

 清子の勧めで捧げられたそれを飲むと、リリスは酔ってしまった様で朦朧とした声をシャミ子に心配される。

 更にはポン酒風呂に叩き込まれ完全に落ちてしまい、姉妹と葵はそれに怯えている。

 

「やはり清子さんを怒らせてはいけない……」

 

 ■

 

 葵がキッチンに向かおうとすると、清子がそれを静止する。

 

「葵君はお客様なんですから、座っていてください」

 

「今日は私も手伝いますから、三人もいたらキッチンが狭くなっちゃいます」

 

「いやでも、俺が持ってきた食材が……」

 

「貴方に料理を教えたのは誰だと思ってるんですか? 何に使うかなんて見れば分かりますよ」

 

「……お言葉に、甘えさせていただきます」

 

 暇になってしまった葵は、残る良子と会話を始める。

 

「封印が弱まったのって、お姉とお兄が魔法少女を調略して籠絡したからなんだよね?」

 

「ああえっと……。なんていうか……」

 

 邪神像に血が捧げられた経緯は、葵にとって苦い思い出なので返答に困る。

 良子の手前なのでそれを顔には出さないが。

 葵が考えていると、何故か良子は顔を輝かせる。

 

「言葉に出来ないくらいの激戦だったって事なんだね!」

 

「えっ……」

 

「さすがはお姉とお兄、抜群のコンビネーション」

 

「ああうん、そうだね……」

 

 どんどんヒートアップする良子に、葵は顔を引きつらせながらそう返した。

 勘違いを止めない事と、何よりその純真な思いを利用して言い辛い事を言わないでいる事に、罪悪感がどんどん積もっていく。

 

「良、お姉とお兄の参謀になりたいの!」

 

「そうなんだ……。なら()もそれに見合うぐらい立派にならなきゃね……」

「うん! 良も頑張るから、()()()()も頑張って!」

 

 輝く笑顔で夢を語る良子に、自分はそうはなれそうも無いと暗に示すも、それが伝わる訳もなく。

 葵は純粋な会話に水を指す自分に嫌気が指す。

 

(ほんとにごめん良ちゃん……)

 

「お兄? どうしたの?」

 

 葵は無意識に顔がうつむき、それを良子に心配されてしまう。

 慌てた葵はどうにか笑いかけながらしどろもどろにこう返す。

 

「俺、これからも良ちゃんに頼ってもらえるようちゃんと頑張るから……」

 

 ■

 

(何言ってんだ俺……)

 

 葵が勢いで口走った言葉を自身の中で反芻し、内心恥ずかしさで悶ていると、準備の完了した食材がホットプレートに乗せられた。

 焼けるのを待っている間、魔法少女の話題で盛り上がる。

 

「私と葵、色々あってその魔法少女の手伝いをすることになりました」

 

「前に言った三人で河原を一緒に走った人です」

 

 清子はその言葉に納得した様子で、木べらとフォークで見事にお好み焼きを返す。

 

「優子はそう言う道を選ぶのではないかと思っていました。魔法少女をただ倒すのではなく、仲良くなって封印も解いて……」

 

「えっ……仲良くなるっていうか、なにか強力な圧で手伝わざるを得なくなってたんです。事故です」

 

「事故!?」

 

「葵も魔法少女の側に回りました。敵です」

 

「敵!?」

 

「お兄! どういう事!?」

 

「誤解! 誤解! その子と協力したほうが優子が強くなれるって思ったんだよ!」

 

 良子に詰め寄られた葵は驚愕した目つきでシャミ子を見ながら弁解をする。

 そこでお好み焼きが出来上がり、清子により切り分けられそれぞれの皿に載せられる。

 シャミ子は涙を溢れさせながら食べ、がんばってよかったと感動している。

 

「これから私、お好み焼きって言葉を思い出すだけで、大きな山も超えられそうです!」

 

「……この席に座れるってだけで嬉しいですけど、実際に食べるとまたこうしたいって気力が湧きますね」

 

「喜んでくれて何よりです」

 

 そんな会話をしながら四人で数枚のお好み焼きを食べると、シャミ子は小さな器に入った生地をプレートに流し込んだ。

 

「葵! 今日は私が葵の好物を作りますよ!」

 

 そこに乗っているのは衣と和えられた玉ねぎと笹がきの牛蒡。

 材料からはかき揚げを連想させるが、ホットプレート故に揚げ焼きのようなものだ。

 シャミ子は色の変化と、清子に書いて貰ったらしいメモを交互に見直しながら、それを作り上げた。

 

「さあ、どうぞ!」

 

 シャミ子が皿に載せて差し出した揚げ焼きを葵は黙々と食べる。

 すぐに完食し、葵は目を閉じて呟く。

 

「……おいしいよ」

 

「やったぁ!」

 

「良かったね、お姉」

 

 ずっと昔の鉄板パーティで出されたそれ。

 葵は自分で子供っぽくない好みだと思うも、その時からそれが好物であった。

 未だ閉じているその瞼からは雫がこぼれていた。

 

「お兄も、良かったね」

 

 ……良子には、バレていたようだ。

 

 ■

 

 良子は酔いつぶれている邪神像にジュースとお好み焼きを捧げる。

 

「ごせんぞだいじょうぶ?」

 

「んぐぅ……良子か……。余のようなドアストッパーにも優しいなんて……!」

 

 その優しさに感涙したリリスは、自身が力を取り戻したらと北アメリカ大陸の支配権とユーフラテス川近辺の工事指揮権の贈与を提言する。

 

「ごめんね。領土与える系はお姉で、資源関係はお兄の権限にしていきたいかも。名目上のトップじゃダメ?」

 

「あれ!? なんか結構厳しくない!?」

 

(俺資源関係とかそう言う認識されてるの?)

 

 二人の会話を聞いていた葵は良子の自身に対する認識に疑問を抱いていた。

 そして自身も近づきとあるものを捧げると、リリスは困惑の声を上げる。

 

「……なんだこれは」

 

「玉ねぎですよ?」

 

「……何で捧げているのかを聞いているのだが」

 

「二日酔いに聞くって聞きますよ。俺は未成年だから実際は知りませんけれど」

 

 そこに置いてあるものは収穫したままの生玉ねぎであった。

 

「生で食えというのか!? ドレッシングも無しに!」

 

「え? なにか問題でも?」

 

「お兄、玉ねぎ好きだよね……」

 

 ■

 

 葵は料理を作って貰ったのだからせめてもと皿洗いをしていた。

 勿論、洗剤一滴をギリギリまで酷使するような洗い方である。

 その横でリリスに氷水を要求され、冷凍庫を開けたシャミ子はあることに気がつく。

 

「おかーさん! 冷蔵庫の様子がおかしいです! ひんやりが出ていません!」

 

 それを聞いた清子は冷蔵庫に耳を当てるも、動作音は聞こえないようだ。

 

「大丈夫……! おかーさん最新式の冷蔵庫欲しかったから、壊れてくれて逆にちょっと嬉しい。

 ……とはいえこの買い置き食材どうしましょう」

 

「そうだ! 葵の家の冷蔵庫を借りてもいいですか?」

 

 シャミ子はシンクの方に振り向きながら葵に問う。

 その瞬間、次の一滴に手を出そうとしていた葵が洗剤のボトルを握り潰した。

 

「……葵?」

 

「……俺も、呪いの軽減に喜んでいろいろ買い込んじゃった……」

 

 シャミ子たちは絶望した。

 

 未だ降る雨によりびしょ濡れになりながら、葵は清子と共に自らの家の冷蔵庫に向かい、どうにか詰め込めないかと試行錯誤する。

 しかし結局、入り切らない分を今調理して食べることにしたのだった。

 

 ■

 

 千代田邸、チャイムを聞いた桃は玄関を開ける。

 

「どうしたの二人共、こんな雨の中」

 

「敵情視察です。……体調はどうですか」

 

「まだ熱はあるけど週明けには登校できると思う……。何で葵は傘さしてるのに上半身までずぶ濡れなの? そっちこそ体調崩すよ」

 

 葵からの返答はなく、シャミ子は自身の持つ作りおきの弁当箱を桃に渡す。

 

「何? これ?」

 

 続けて、無言の葵から彼が持っている物を受け取って更に桃に渡した。

 

「貴様の家の素敵な最新冷蔵庫をまぞく領土として侵犯しに来ました!」

 

「おすそ分けってこと? ていうかほんとに中入りなよ。特に葵」

 

 葵は首を横に振る。

 シャミ子は弁当箱の中身を説明し、葵の持っていた方について続ける。

 

「それ全部、玉ねぎメインの惣菜だそうです。ですよね? 葵」

 

 葵はやはり無言でコクリと頷く。

 

「何で玉ねぎ?」

 

「玉ねぎは血流にいいんだよ。血、奪っちゃったしせめて健康になってほしいな」

 

「……いきなりしゃべる内容がそれ? ……でもありがとう。普段こういうの食べないから本当に嬉しい。シャミ子もありがとう」

 

「か、勘違いするなよ魔法少女! 葵の言った通りきさまの血液をキレイにして培養して奪いつくして……え〜っと、なんかもう思いつかない! お大事に!」

 

「お大事に〜」

 

「……雨、気をつけて。……ほんとに葵は平気なのそれ……」

 

 ■

 

 平気ではなかった。

葵は盛大に風邪を拗らせていた。半日程度で三度もずぶ濡れになれば当然だろう。

 その日のシャミ子の弁当は清子に任せ、学校を休んだ葵は布団の中で電話をしていた。

 

「結局風邪引いたのかよ喬木」

 

「いや、件の友達とは別件……ゴホッ」

 

「……まあ無理はすんなよ」

 

「あ、そうだ。アレには普通に間に合うと思うよ」

 

「あ!? お前アレの事知ってんのか!? アレってなんだよ!」

 

「いや俺も詳しくは知らないよ、ゴフッ。柴崎さんに聞けば?」

 

 そこで葵は電話を切り、電池が切れたように布団に突っ伏した。

 

「とっくに聞いたっつーの! ……おい? ……切れてやがる」




喬木葵の食卓事情

基本的に、チラシを睨む清子さんからのアドバイスでスーパーなどで買うものを決めている。
数年前からはその目利きに免許皆伝を貰い一人で決めることも多い。
喬木家の庭の家庭菜園には大量の玉ねぎが植えられている。
そのうち何割かは葵が意図的に魔力を流し込んで妙なことになっており、これは自分だけで消費している。
原作の描写を参考に、度を過ぎていない現物支給であれば、封印の弱体前でもペナルティは来なさそうなのでこういう設定にした。

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