まちカド木属性   作:ミクマ

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if D-2 ちょっと尊敬するわ

「……あの、おか……清子さん」

 

 柴崎姉妹の引っ越し初日。彼女たちが挨拶を終え、シャミ子とのゲームに興じ始めてしばらくした頃の事。

 プレイしている作品が二人向けの物であるが故に後ろから観戦していたつつじは、ふと思い立ったように清子へと声をかける。

 

「どうしました? つつじさん」

 

「色々とお世話になるんで……その、今日はごはんを作らせてく……ださい」

 

 あまり慣れていなさそうな、たどたどしい口調の敬語でそんな提案を発するつつじ。

 そんな彼女に、娘の様子を感慨深そうに眺めていた清子は微笑みかけながら言葉を返す。

 

「それは嬉しいです。となれば今からお買い物に……」

 

「私たちのお母さんからしばらくのお金を貰ってるから、ごちそうさせてほしい……です。

 他にも色々と買いたい物もあるんで、スーパーなんかの場所を教えて下さい」

 

「……妹さんさえ良ければ、俺が案内するけど」

 

 清子とつつじの会話に加わったのは葵。

 見せたくない物も入り用になっているかと考えたものの、シャミ子の楽しみを何度も中断させたくない事と、更にはそれを見ていた清子の邪魔もしたくないという思いから、それを口にした。

 

「……ああ、じゃあ頼むわ」

 

 ポーズ画面になっているテレビの前でこちら側を見ていたシャミ子と芦花へと向けた、葵の視線を見てある程度を把握したようで、つつじはその申し出を受け入れる。

 

「葵君、良を迎えに行って貰ってもいいですか? 図書館に居るはずですから」

 

「わかりました」

 

「つつじさんの事を少々お待たせしてしまうかも知れませんが……」

 

「人ひとり増えるくらいなら大丈夫……です」

 

 と、清子とのそんなやりとりをすると立ち上がって玄関へと向かう二人。

 しかし葵は一度動きを止めると振り返り、見送っていたシャミ子へと声をかける。

 

「そうだ優子、俺の家のゲーム好きに持ち出していいから」

 

「むむ……喬木さんのコレクションも興味をそそりますね……」

 

「俺もドリームキューブとプレキャス2までしか持って無いけどね。

 首くらいまでレトロに浸かってるようなもんだけど、気になるなら優子に案内してもらって」

 

「……えっ。キューブとプレキャス2ってレトロなんですか……?」

 

「……」

 

 愕然としたかのようなシャミ子の反応に、葵は口を滑らせたと悟った。

 

 ■

 

「……で、りょう? ……ってのは誰なんだ?」

 

 外に出て道を歩く中、あまり穏当ではない雰囲気を纏わせていた二人だったが、つつじは葵に対してぶっきらぼうに問いかけた。

 家族という事は察しているのだろうが、そういえば詳細は話していなかったと葵は思い返す。

 

「優子の妹だよ。勉強熱心でね、よく図書館に行ってるんだ」

 

「……その名前もよくわかんねえんだけど。優子なんだかシャミ子なんだか……」

 

「“シャドウミストレス優子”。愛称と言うかあだ名がシャミ子だよ。

 俺と清子さんは優子の方で慣れてるけど、好きに呼んであげてね」

 

「変な略し方……」

 

 最近触れられる事がほぼ無かったその点へと、つつじが真っ当かつ普通の感性でのツッコミを入れた事に、葵はある種の感動すら覚えていたのだが表には出さない。

 その後も二人は大した会話を交わさずに、つつじが口をまごつかせながら二種類の単語を繰り返していたことにも葵は触れず。

 

「じゃあ、良ちゃんのこと呼んでくるからちょっと待っててね。

 妹さんのことある程度紹介しとくから、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」

 

「きっ……緊張なんかしてねえよ!」

 

 そうして図書館へと到着したのだが、つつじがそんな叫びをぶつけるも意に介さず、中へと入って行く葵。

 しばらくの後、借りた本の入ったバックを携えた葵とともに、軽い足取りで良子が入り口のドアをくぐって外に出て来た。

 

「良ちゃん、この人が柴崎つつじさん」

 

「はじめまして! 優子の妹の良子です」

 

「……よろしく」

 

「それで……」

 

 頭を下げてからの良子による挨拶に、控えめに返すつつじ。

 何故か気分が舞い上がっているように見える良子に若干気圧されていたつつじだったが、僅かな間を挟んで良子が口にした言葉に目を見開くことになる。

 

「つつじさんも闇属性の妹って本当ですか!?」

 

「!?」

 

 疑問と言うには少々遠く、ほぼ信じている情報に確証を持ちたいといった風の良子のそれを聞いたつつじは固まり、続けて彼女は元凶だとしか思えない人物に詰め寄った。

 

「どんな話吹き込んでんだテメェ!?」

 

「だって俺、よくよく考えてみたら妹さんの事ほとんど知らないし。

 なら良ちゃんが打ち解けられそうな話題にしようかなって。でも大した事は話してないよ」

 

「このヤロ……」

 

 ペラペラと口を回らせる葵に青筋を浮かべるつつじ。

 そんな剣幕を見て良子は呆気にとられ、そしておずおずとしながらも二人へと近づく。

 

「違うん、ですか……?」

 

「……違わねえけど……」

 

 視線を揺らがせる良子。それに見つめられたつつじは言葉を詰まらせるが、葵を一睨みすると良子の方を向き、身長に合わせて腰を屈める。

 

「妹として、どんな風にお姉さんを支えてるのか聞きたくて……」

 

「……つっても、ごはん作ったり一緒にゲームしたりで別に大したことなんか……。

 お姉ちゃんのほうが色々とスゴイし……」

 

「どっちも重要だと思うけどなあ。

 特にあの“お姉ちゃん大好き弁当”なんか、凄い元気もらえると思うよ」

 

「なんでお前がそれを……!?」

 

 いつぞやに芦花が学校に持ってきていた、海苔で愛の言葉が書かれた弁当を葵は例に出すが、つつじとしては極秘のものであったらしい。

 

「俺、風間くんと同じクラスだからね」

 

「まさか共謀してお姉ちゃんから奪い取りやがったのか!? 私の想いの丈を!」

 

「……お兄、人のお弁当取っちゃったの?」

 

「……違うよ? 色々あって……その、友達が食べてたのを見かけただけだからね?」

 

「……」

 

 どういうプロセスで繋がったのか分からない疑りを聞いた良子に迫られた葵は、声を震わせて弁解を返す。

 つつじは血反吐でも吐きそうな程に暗い顔で錯乱していたものの、狼狽する葵を見て途端に悪い顔を見せる。

 

「……お前の弱み見つけたわ……」

 

 ■

 

「それで、妹さんは何作るつもりなの?」

 

「確かホットプレートあんだろ? なら焼きうどんにするわ。そこそこ量作れるからな」

 

「ああ、そういえば島で作ってたね」

 

 商店街の入り口に立つ一行。

 葵が案内する店を決めるためにレシピを聞くと、間もなくしてつつじは答えるが、その後少し迷いながらも葵を挟んだ反対側を向く。

 そこに居るのは良子であり、一旦家に帰ってからもう一度出るかと葵は提案したものの、当人の希望でこうして買い物についてきていた。

 

「あー……良子……ちゃんは、食べられないものとかある? 

 焼きうどんなら……キノコとか」

 

「良、何でも食べられるから大丈夫ですよ」

 

「そっか……偉いな……」

 

 “緑の悪魔”が苦手であった、自らの過去を思い出して苦そうな顔をつつじは見せる。

 

「そういった細かい気遣いにお姉さんは支えられてるんですね!」

 

「……別に、お母さんも作ってるし、お姉ちゃんも……たまに作るし」

 

 バツが悪そうに顔をそらすつつじ。

 強く輝いている良子の瞳を直視するのは耐えられないらしい。

 

「柴崎さん、料理作れるんだね。

 なんていうか、お鍋爆発させてそうなイメージあったんだけど」

 

「そんな料理下手フィクションの中にしかいねぇよ!」

 

「台所爆発させる料理上手な子ならいるがね……」

 

 意外そうに語る葵につつじがツッコむと謎の声が一行の耳に入る。

 葵とつつじのものではなく、ましてや良子のものでもない。

 どこかで見たような覚えのある白黒が目に入った気がした葵は、キョロキョロとあたりを見渡すも、人混みの中に見つけることは叶わなかった。

 

「……今なんか言ったか?」

 

「……いや?」

 

「……つーかお前、島でお姉ちゃんが干物焼いてたところ見てねえのかよ」

 

「俺途中で別の場所行ったし」

 

 同じように周囲を確認していたつつじは気を取り直して葵に問うも、返ってくるのは適当な言葉。

 

 そうして、立ち止まっていても埒が明かないとしてようやく商店街を進み始める三人。

 調味料については買いすぎても別の新居に引っ越す時面倒になるとして、塩や胡椒など頻繁に使うものだけに留めると決めて、八百屋での野菜、料理用とは別の雑貨や必需品を目的として買う。

 

「後は……肉か。店はどこだ?」

 

「ちょっと歩くけど、おすすめのお店あるよ」

 

 商店街の店舗に限らず大体の買い物を済ませた頃、最終的に残ったのは冷凍ができないとして後回しにしていたそれ。

 町を分ける線路の踏切を横断し、葵が案内したのは当然SCマルマ前の広場に面するマルマの精肉だった。

 

「あれ? 葵と良ちゃんと……初めましての人?」

 

「こんにちは杏里。この人は新しいご近所さんでね、案内してるんだ」

 

「葵、ナイス!」

 

「そうだ杏里、コロッケ3つちょうだい。長く置いてある方でいいから」

 

 こちらに気づいた杏里への軽い紹介を済ませると、朗らかにサムズアップを返される。

 そして葵は財布を取り出しながらショーケースの一点を指差し、そんな要求を出した。

 

「こっちでいいの?」

 

「だいぶ暑くなってきたしね。それにここのお惣菜は冷めても美味しいから」

 

「……」

 

「はい。良ちゃん、妹さん。清子さんには内緒ね」

 

 杏里からコロッケを受け取ると、振り返って内二つをそれぞれ手渡す葵。

 背を向けている杏里の表情が葵に見えることはない。

 

 そうして、本命であるつつじの買い物は6+2人分の物となる為結構な量になり、相応の料金を受け取って商品を渡した杏里は葵に対してニヤニヤとした視線を送る。

 

「お連れ様にこんなに買わせちゃうなんて……葵、もしかしてヒモデビュー?」

 

「なんでそんな発想が真っ先に出てくるのかな……」

 

 杏里と葵によるそんなやりとりを聞いていたつつじは、とんでもなく嫌そうな顔をしていた。

 

 ■

 

「……聞きてえんだけど。ああいうのって普通秘密にしとく物じゃないのか?」

 

 夜になり、食事を終えた頃につつじが葵へと声をかける。

 疑問を呈しているつつじの視線の先には、焼きうどんの乗ったみかん箱を囲んで妙な儀式をしている芦花とシャミ子がいた。

 

「ああ……まあ、俺……と、あと清子さんはそのつもりだったんだけどね。

 優子はそう思ってなかったみたい」

 

「……」

 

「明かされた方はびっくりするだろうけど、優子のそういう所は本当に凄いと思うよ。

 前向きで、人を引っ張ってくれて……心の底から、見習いたいと思う」

 

「……ああ、そういう事か」

 

 どこか遠くを見ている葵による言葉を聞くと、つつじは胡乱な目を向けながら深く納得したように声を出す。

 

「うん? 何の話?」

 

「お前のことが絶対気に食わないってよく分かった」

 

「そう? それは残念。でも優子と良ちゃんとは仲良くしてあげてね」

 

「お前に言われるまでもねえよ」

 

「清子さんにも、もっと気軽に接してもいいと思うよ」

 

「敬語使ってるお前に言われたくねえ」

 

「口調はそれほど関係ないと思うけどね」

 

「……」

 

 鼻を鳴らし、吐き捨てるように嘲笑すると、姉たちのもとに歩こうとするつつじ。

 しかし再び立ち止まり、葵へと向き直す。

 

「……お前に頼みたいことがある」

 

 ■

 

「多魔市さくらが丘……3の……」

 

「……ミカン?」

 

 翌日。朝と言うには少々遅い時間帯。

 ばんだ荘の前で何かの書類とにらめっこをしているミカンを見つけた葵。

 声をかけると、ミカンはその出元を向いて驚いているように見える。

 

「葵! ちょうどよかったわ。この辺りにあるばんだ荘ってアパートを探してて──」

 

「ここだよ」

 

「……へ?」

 

「ここがばんだ荘だよ」

 

 言葉に割り込むようにして葵がばんだ荘を指すと、ミカンは呆けた声を出す。

 そして二度教えられると建物を見て、その外観に対して不安げな表情が出る。

 

 昨日の今日で似たことを問われた葵は反射的に答えていたのものの、ミカンの持っている書類と反応からまさかという予感が浮かぶ。

 

「……もしかしてだけど、ここに引っ越してきたの?」

 

「よく分かったわね。そんなに大荷物のつもりは無かったけれど……」

 

「まあ、なんとなく。……ここ優子住んでるから、とりあえず案内するよ」

 

「シャミ子が? それはありがたいけど……葵は大丈夫なの?」

 

 少々心配そうな、ミカンの気遣う言葉。

 それは、葵がまぶたが重そうな表情をしており、なおかつ腰も若干曲がった体勢をしている事によるものだろう。

 

「昨日遅くまで起きててね、ちょっと前に起きたから少しだるいだけ。そのうち治るよ」

 

「夏休み初日から夜ふかしだなんて……葵、結構不真面目なのかしら。宿題サボってない?」

 

「一応計画立ててるから大丈夫」

 

「ちなみに私は転校生だから前の学校の宿題は追いかけてこないわよ! 羨ましい?」

 

 特に問われてもいないというのに、ドヤ顔で高笑いを始めるミカン。

 それを聞き、遊び放題にさせないようになっているのではないかと思った葵だったが、文書などは確認しているだろうし、当人が言っているのだから問題ないのだろうと否定した。

 の、だが。

 

(……?)

 

「葵?」

 

「──ああ、とにかく行こうか。俺も用事あるし」

 

「用事……って、その荷物のこと?」

 

 心の何処からか湧いた、ミカンへの異様な信頼感に内心首を傾げるが答えは出ず、名を呼ばれた事で意識を現実に戻した葵。

 続けて出されたミカンの問いは、葵が片手に下げる角ばった何かが入ったビニール袋を指したもの。

 それに無言で頷くと、葵はばんだ荘の敷地へと歩を進める。

 ただし向かったのは二階の吉田家ではなく、階下の柴崎姉妹が入った部屋。

 そこのインターホンを葵が押すと、ドタバタとした音が部屋の中から鳴り始め、しばらくすると扉が開いてつつじが姿をあらわす。

 

「おはよう。優子は起きてる?」

 

「今起きたところだから呼んでくる……。……あ! お前絶対入って来んなよ!」

 

 やはり眠そうにしていたつつじだったものの、ハッとなって背筋を伸ばすと葵を指差して叫び、玄関ドアが自然に閉じるのを待たずに手で閉めた。

 妙に焦った様子であり、葵の後ろに控えていたミカンには気づかなかったらしい。

 

「今の子は……?」

 

「昨日越してきた人。優子が住んでるのは上だけど、昨日はここに泊まってたんだ」

 

「……ふうん?」

 

 つつじの存在を疑問に思ったらしい問いに葵が答えると、ミカンは怪訝そうな表情を見せる。

 葵はそれに気づくこと無く、薄い壁の向こうから響く妙に大きい息を呑む音だとか、『これしかありません』などという芦花によるものらしき言葉に軽く耳を塞ぐ。

 

「おふぁようございます……あれ? ミカンさん……?」

 

 そうして再び時間が経ち、改めて最初に出てきた人物は寝ぼけ眼をこするシャミ子だった。

 シャミ子は葵に見覚えのないシャツを着ており、その理由として葵は高いテンションのまま翌日の着替えを忘れて寝間着のままで姉妹の部屋に入ってしまったのだろうと予測し、今身に着けているのは姉妹どちらかの着替えを借りたのだろうと当たりを付ける。

 

「正直高尾さんのを見るよりダメージが大きいかもしれません……。

 一体全体何がどうなればここまでの差が……!」

 

 続けて出てきた芦花は、瞳に影を落としブツブツと何かを呟きながらシャミ子の横に立ち、そのシャミ子の服を見やる。

 裾の丈、特に前側が何故か足りていない様に見える、今にも引き裂かれそうな『あね。』というプリントが輝くTシャツを。

 

「あ、喬木さん。テレビまで貸して頂いてありがとうございました。

 ……そちらの方は?」

 

「初めまして! 今日こちらに引っ越してきた陽夏木ミカンです!」

 

「これはこれは。私たちも新入りですがよろしくお願いします。私は柴崎芦花、と……!?」

 

「お姉ちゃん? どうしたの……!?」

 

 やや緊張しているように見えるミカンの自己紹介に頭を下げて丁寧に返した芦花だったものの、それを上げる途中で固まり、続けて後ろから怪訝そうに顔を出したつつじも同じく固まる。

 

「晩白柚……!」

「サイドテール……!」

 

 カタカタと震えながら発された姉妹の言葉は互いに混じり合い、耳聡そうなミカンも含めた他の者には聞き取れず。

 

「……妹さん。コレ、冷やしてはいたけど生モノだし、早めに調理したほうがいいと思うよ」

 

 妙な空気になってしまった中で、葵はビニール袋をつつじへと差し出した。

 

 ■

 

「私もお話お聞きしてよろしいんですか?」

 

「ええ。ご近所さんになるんだもの、仲良くしたいわ」

 

 と、そんな会話を交わし、ミカンは自らの部屋へと芦花を招き入れる。

 シャミ子と葵も同様だったが、つつじは葵に渡された物を持って吉田家へと入っており、この場にはいない。

 

「それで……葵と柴崎さんはどんな関係なのかしら。結構仲良さそうに見えるけど」

 

 どことなくウキウキしたようなミカンの問いであるものの、葵としては単に同じ学校の生徒であり、なおかつ同じ部活の部員であると説明するだけである。

 そして、次に引っ越してきた理由を問われたのだが、やはりと言うべきかこの答えに対する反応のほうが遥かに大きかった。

 

「今後何度もこんな風に取られてしまうと考えると、むしろこっちが申し訳なく感じそうですね……」

 

「自然災害だしどうしようもないでしょ」

 

 そんな会話をしながら葵達は落ち着こうとするミカンを待つ。

 

「それにしても……高校生一人でお引越しとは思い切りましたね」

 

「柴崎さんたちも大して変わらないんじゃないの?」

 

「私たちはお母様が手配して下さいましたから。

 陽夏木さんはどうやって契約したんですか?」

 

 ミカンによれば、このばんだ荘は光闇割なる物があり、光や闇の関係者はかんたんに契約ができ、かつ家賃も格安となるらしい。

 

「そんな学割みたいなものが!? 葵、知ってましたか!?」

 

「安いのは聞いてたけど、契約どうこうまでは知らなかったなあ」

 

「あ、そういえば二人とも。この前は桜さんのことで取り乱してごめんなさい。

 引っ越しついでに整理しようと思ってた服だけど、よかったらシャミ子にどうかしら」

 

 この前の事、というのはシャミ子が父の所在を知り、桃が姉と吉田家の関係を知った日。

 かつ、ミカンが恩人の失踪を知って呪いを発動させてしまった日のことでもある。

 

 その事を申し訳なさそうに語るミカンはカバンからいくつかの服を取り出すと、葵の方を見た。

 

「まあこれくらいなら見せても大丈夫よね? 信用してるわよ、葵」

 

「……それ直接言わないでくれるかなぁ……」

 

「ミカンさん、ありがとうございます。早速合わせてみますね」

 

「……え?」

 

「ちょっ……シャミ子!?」

 

「モガァ!?」

 

 なんの抵抗もなく服の裾に手を掛けて持ち上げ始めたシャミ子を見て、ミカンはそれを止めようとしたのだが、突然部屋に悲鳴が響く。

 ミカンがそちらを見れば、謎の袋を頭に被せられて床に伏せようとする葵と、その前で腕を交差させる芦花がいた。

 

「申し訳ありません喬木さん。あまりにも唐突だったもので、この手以外取れませんでした」

 

「あー……いいよいいよ。むしろグッジョブかな……」

 

 手首を振って芦花へとフォローの言葉をかける葵だが、その行為は顔を覆われた横倒しの体制で行われており、そんな奇妙な光景にミカンは混乱を隠せない。

 

「……葵、どうしたんですか?」

 

「シャミ子、本気で言ってるの……?」

 

「俺もさあ……色々思ってはいるけど、ほら言いにくいじゃん。

 清子さんに言ってもらうのもアレだし……」

 

「喬木さんも大変ですね……」

 

「とりあえず終わったら起こして……」

 

 シャミ子が本心から首を傾げる中、葵は畳に指でのの字をなぞりながら釈明をすると同情的な視線を向けられ、そして力なく腕をも倒した。

 

 そうしてシャミ子の衣装合わせは開始されたのだが、芦花がふと葵を見ると、被せたままの袋が一定の間隔で膨らんだりへこんだりを繰り返していることに気がつく。

 

「……喬木さん、呼吸荒くなってません? 本当に大丈夫ですか?」

 

「……布厚いから強めにしてるだけだよ」

 

 若干の間を挟んでの、葵の返答。

 頭部全て、すなわち顔面や額を覆われているという今の葵の状況ではあるが、()()()()ではないのだから即座に発狂すると言ったことはさすがにない。

 たしかに最初驚きはしたものの、呼吸を整えて暗い視界に目を閉じて身を委ねれば、葵にとってはむしろ。

 

「なんか闇の包容って感じで落ち着いてきたかも……」

 

 そんな呟きではあるが、小声であったことから袋の中だけで反響して外には届かない。

 

「なんだか、葵と柴崎さんって息合ってるように見えるわ」

 

「ふーむ。私は炎属性、喬木さんは木属性。

 五行で言えば木生火、手を組んだ時の相性が良いのかも知れません」

 

「……何言ってるかよく分からないわね……」

 

「でもやっぱり、一番相性がいいのは私のこの燃えるような想いを更に強く滾らせてくれる風属性だと思います☆」

 

 キラキラとしたオーラを醸し出し、頬に手を当てて甘ったるい声で謎のアピールを披露する芦花。

 それを見てミカンは呆気に取られるが、いつの間にか素に戻った芦花にウィンクをされて正気を取り戻す。

 

「というわけで陽夏木さん。私と喬木さんはあくまでも友人関係なので安心してくださいね」

 

「な……なんの事かしら」

 

「……なるほど。まだそこまでは行っていないと」

 

「あ、あの、ミカンさん……!」

 

 芦花からの探るような視線に、思わず顔をそらしたミカンへと声が掛けられる。

 その主であるシャミ子は我が身を抱き、声を震わせていた。

 

「肩の出ない服はありませんか……!?」

 

「出るのばっかりね……」

 

「引っかかってずり落ちない……なんとスゴイ……!」

 

 恥ずかしがるシャミ子の服の一部を見て、芦花は顔を驚愕に染める他ない。

 

「喬木さん、もう終わりましたよ」

 

「……あふん」

 

 最終的にシャミ子が元の服装へと戻ったことで、芦花は葵から袋を剥ぎ取った。

 が、しかし葵は僅かに名残惜しそうな表情を浮かべており、それを見た芦花は数瞬の思考を挟む。

 

「……喬木さん。くれぐれも子王さんみたいにはならないでくださいね……」

 

「──!?」

 

 まぶたをギンと開き、黒く濁った瞳で葵を射抜いた芦花は、切実な要望を絞り出す。

 凍ったかのような空気が流れるが葵自身はあまり現実味がなさそうに起き上がり、シャミ子は空気ではなく言葉自体の意味がわからない様子。

 

「……ミカン? どうしたのそれ」

 

「え? ……あっ……つい……」

 

 一番大きな反応を見せたのはミカンで、彼女は片手の甲に沿わせるようにして魔法少女としての武器であるクロスボウを具現化させていた。

 変身まではしていなかったものの、それは無意識に行われていたようで、葵に指摘されたミカンすらも驚いている。

 

「……なんか凄いわね、柴崎さん。

 葵が普段からこんな環境で鍛えてるなら、ちょっと尊敬するわ……」

 

 本気で嫌悪するものに対する芦花の闇の心は、歴戦の魔法少女すら戦慄させるらしい。

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