まちカド木属性   作:ミクマ

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これは実際には余が見た単なる夢

「ここは……?」

 

「夢の中でしょうか?」

 

 あたり一面は薄暗く、ひし形に近い八面体の宝石のような飾りが放つ仄かな光に照らされた空間。

 建造物と言えるようなものはばんだ荘のみで、自然の地盤ではない足場が見渡す限り続いている点は以前に潜入した結界の裏側に似ているが、あれとは雰囲気が異なる。

 ばんだ荘の住人たちと、加えて葵は気がつけばそんな妙な状況に置かれており、殆どの面々は困惑していたのだが、シャミ子や良子には心当たりがあったようで、推測を口にしていた。

 

「……え? これやっちゃうんですか? 

 この話かなりテーマが特殊な上に現状未収録で単話での配信もされてないからどうにかして紙の雑誌手に入れるか国会図書館行くかくらいしか新規に読む手段ないのに、知らない人困惑すると思うんですけど。

 せめて()()()()()()待ちましょうよ」

 

「ええい! やかましいぞ葵! 

 この手のノリならばお主は慣れたものなのだから、余を満足させる方法でも考えんか!」

 

「いやぁ……向こうとは大分方向性違いますよこれ」

 

「今回用意するのはこれだ!!」

 

 何かに感づいた葵は異様な早口での愚痴を垂れるものの、やたらとテンションの高いリリスは意に介さず。

 続く言葉も軽く流したリリスはどこか虚空へと視線を向けた後、お披露目をするかのようにばんだ荘へと両腕を広げる。

 やや上方を指したその先は2階の外廊下であり、転落を防ぐための手すりには

 

ガチバトルしないと

出られない廃墟

 

 などと印字された垂れ幕が取り付けられていた。

 

「“〇〇しないと出られない部屋”シリーズだ……!! 良、本で見た事ある……!!」

 

「そんな本ある?」

 

(……アレじゃないよな……?)

 

 垂れ幕を読んで戦慄する良子の言葉で、葵は不安をよぎらせた。

 誰からとは言わないが押し付けられ、保管している物品の中にはお子様に見せるにはあまり相応しくない品も混ざっている。

 そういった物は人目につきにくい場所に収納しており、「ヨシュアとの写真はずっと見つけられていなかったのだから、隠し場所のセンスはあるはずだ」と自分に言い聞かせるものの、やはり不安は拭えない。

 

「……葵、なんかやらしい顔してる」

 

「!? ……や、やややらしいって何が……」

 

「フレッシュピーチの服見てるときみたいな顔」

 

 考えている内に、やけに己の趣味趣向を理解されているのが微妙に腹立たしい、などと脳内が移ろいでいった葵だったが、いつの間にか振り向いていた桃による、ジト目で放たれた一言によって血反吐を吐きながらその場に崩れ落ちた。

 

「おい! 決着をつけるならガチバトルをせんか!」

 

「ごせんぞ、どういうことなんですか……!?」

 

「実はばんだ荘にこのようなお便りが届いたのだ。

 見よ!! この熱意溢れるお便りを!!」

 

 そう言ってリリスが取り出した一枚の手紙には、

 

 ゴミあねきへ

 多魔市で一番強いのってぶっちゃけ誰ですか

 

 PS.像のころのほうが好きでした。

 

 というメッセージが記されている。

 そんな疑問へ答えるため、という名目でリリスが住民たちの対立を煽っている中、未だ倒れ付す葵へと近づき、耳元でしゃがみこむ者がいた。

 

「せんぱい、一緒に逃げよぉ……」

 

「無駄だ! 余のために用意されたこの場から逃げ果せると思うでないぞ!」

 

「……」

 

 暗い表情で葵へと連れ添っての逃走を申し出たしおんを、ニヤケ顔で静止するリリス。

 しかししおんはどこからともなくチェーンソーを取り出すと、いつの間にか現れていた謎の黒い壁を破壊し、リリスの言葉に反してあっさりとその姿を消す。

 葵自身はしおんに乗っても良いとは思っていたのだが、思った以上に精神的ダメージが大きく、復帰が遅れる内にしおんは謎の壁ごと見えなくなってしまっていた。

 

「余よりも自由な行動を取りおって……! 

 奴の正体的にこういう事への干渉能力があるということか……!? 

 まあよい! とにかくガチバトルしないと夢から覚めさせん! とっとと始めんか!」

 

「えぇ……」

 

「誰が勝つかなんて開始時の距離感とかで変わってこない? 

 接近戦なら桃や葵が強いだろうし」

 

「三すくみみたいに横並びになることもあるし、力量差があっても負傷とか精神面その他諸々の理由で負けることもあるだろうね」

 

 ミカンの苦言に補足をしつつ、「今の俺みたいに」と最後に付け足しようやくその身を起こし始める葵。

 現時点ではあまりやる気はなく、シャミ子がナントカの杖を変形させた巨大なうちわを手に、もはや懐かしくも感じる強気な調子で桃に襲いかかり、一瞬の内に組み伏せられる光景も微笑ましく見ていた。

 

「ウチはご飯とお銭がもらえないガチバトルはしたくない〜。

 ウチ最下位でエエの、辞退や〜」

 

「リコさん、300円あげるからまずミカンさんに幻覚を見せてください。

 魔法少女を同士討ちさせましょう」

 

「えっ……? えっっ……?」

 

 リコは概ね葵と似たような心境だったようだが、突如として良子から持ちかけられた交渉に戸惑いを見せる。

 どうやらあまり絡みのない相手からそれを提案されたことが意外だったらしく、良子の声色から察せられる本気度合いに、リコは珍しく引き気味の表情をしていた。

 

「え? やる気なん?」

 

「良は……良の軍師力でお姉を勝たせてほめられたい……」

 

「……はぇ〜、そうなん……。

 まぁウチも身内愛的なのには少し弱いから〜お代はエエよ〜」

 

 ごく一瞬、郷愁らしき物を表出させたリコは現金の代わりとして清子作の稲荷寿司を要求すると、戦闘フォームであるらしいチャイナドレスへと装いを変え、幻術の素となる葉っぱを取り出す。

 背後から向けられる凄まじい視線には気づかずに。

 

「マスター、占いで援護できる?」

 

「僕の占いによれば、リコくんは4行後に──

 

「オレ、ミカン守ル……!?」

 

 ──ウガルル君からの襲撃を葵クンに庇われるよ」

 

 同じように易者の衣装を身に纏った白澤の予言通り、鋭い爪による一撃は葵によって防がれる。

 目を大きく見開いたウガルルにとってその行動は全くの想定外であり、口角を釣り上げる葵から飛び退いた後、鋭く睨みつけた。

 

「アオイ! なんで邪魔するんダ!」

 

「いやぁ。せっかく良ちゃんがやる気見せてるんだから、すぐに潰しちゃうのはもったいないって思ったし、それに……」

 

「良いぞ葵! それっぽいセリフで火種を広げて行け!」

 

「……。こんな機会でもないとウガルルちゃんと思いっきり遊べないからさあ!」

 

 弁解を遮られ、リリスの口車に乗るのもどうかとは考えた葵だが、それ自体は本音であったためにはっきりと言い放って腰を落として受けの構えに入る。

 しかしウガルルは憤慨しつつも迷いがあるようで、葵へと襲いかかる気配はない。

 

「ウガルルは〜ん。はようウチを止めんと、葵はんにも幻術かけてあんなことやこんなことしてまうで〜」

 

「……んがぁーッ!!」

 

 今度こそウガルルは激昂し、そのような煽りを受けたものだから狙いは明確にリコへと向かう。

 ただ葵はリコの言葉を聞いて別の考えが浮かび、一瞬ビクリと痙攣した上で横に跳ぶと迂回をしていたウガルルの目の前に立ち塞がった。

 

「ちゃんとウチの事守ってくれて嬉しいわ〜」

 

「あーなんか理性とかそんな感じの物が消されて本能のまま体が動くー。

 火事場の馬鹿力的なアレが出て負担掛かってるから、ウガルルちゃんに無理矢理にでも止めてもらわないとまずいなー」

 

 凄まじい棒読みでの説明を行い、リコに合わせてウガルルの闘争心を掻き立てようと目論む葵。

 それをどこまで信じ込んだのかは不明ながら、目つきの変わったウガルルが放った本気の抜き手を横から叩いて弾く。

 

「アオイ……そんなにオレと戦いたいのカ?」

 

「俺心配性だからさ、元気なウガルルちゃん見て安心したいんだよ」

 

 夢の中、という状況下で色々と複雑にはなっているが、出自が出自であるウガルルがその体を存分に動かしているのを見て、それを感慨深く思っているのは普段においても同様である。

 日常の運動や修行でも感じられるそれは、負傷という憂いがなく本気を出せるこの場ならばなおのこと。

 

 こちらからは攻勢に出ず、あくまでもウガルルからの猛攻を捌くに徹する中、自身の面倒を見てくれていた者たちも同じだったのだろうかと考えると同時、それに応えられているのかと物思いに耽っていたのだが、身体にかかる負担が別口で増加していることに気がつく。

 

「……リコさん? なんか本気で幻術かけようとしてません?」

 

「あら〜、バレてもうたわ〜。

 葵はんのこと、ウチの好きなようにしたろうと思うたんに、効かないもんやな〜」

 

「ああ、()()()()()()()()()()()()()()()、体に限界ギリギリまで魔力満たしてると魔法的な干渉を無効化出来るかもしれないんですよ」

 

 企みが見破られたというのに全く持って変わらないリコの雰囲気に毒気を抜かれ、そんな将来の可能性を語る葵。

 体質的に考えると諸刃の剣であるため、実用に耐えうるかはともかくとして、それを聞いて何かを思いついたらしい良子が口を開く。

 

「リコさんの幻術が効かないなら……大軍にお兄一人で突っ込んで、リコさんが広域の強力な術かけるとかできるんじゃないかな」

 

「はえ〜、良子はん頭ええな〜。

 葵はんって、同格以上と戦うよりも全体的に格下の群れを一掃するのに向いた性能しとる気ぃするわ〜」

 

「それ褒めてるんですかねぇ!?」

 

「ウチと手ぇ組んだ時の相性が良さそうっていうのは、褒めとるよ? 

 戦い以外のところでもおんなじやなぁ」

 

 いつも通りの笑顔で発せられたそれにどの程度の皮肉が混じっているのかは読めないものの、リコはとにかく嬉しそうであった。

 

 と、葵はやりとりを交わしつつウガルルとは拳を交わしていたのだが、それを最初は眺めていたシャミ子は少し前からどこか考え込んでいるようで、おずおずと手を上げる。

 

「あのー……葵って、リコさんの幻術効かないんですか?」

 

「完全な耐性持ってる訳じゃないから、状況次第で破れる場合もあるって感じだけど」

 

「……」

 

 シャミ子はまたそこで沈黙してしまったかと思うと、みるみる内に頬を赤く染めて震えながらも再度口を開く。

 

「……夏祭りの時の、浴衣って……」

 

「…………、…………………………」

 

「隙有りダ!」

 

 挙げられた指摘を聞いた葵はピタリと硬直し、ウガルルはそれを好機と見て拳を胸板へとまっすぐ突き出す。

 爪による攻撃ではなく、握りこぶしに留めているのは彼女なりの慈悲だろうか。

 

「グェーッ!!」

 

 素っ頓狂な悲鳴を吐き出しながら軽く打ち上げられ、自由落下により地面へと叩き付けられる葵。

 それを見計らったかのようにミカンは葵の元へと歩みを進め、彼女が纏うえも言われぬ雰囲気にあてられた葵は指示を受けるでもなく自然と正座を組み、先程のシャミ子との会話を聞いて勘付いたのだろうかと考える。

 

「葵」

 

「いや、言い訳させて。あの時見えたのは一瞬だけですぐ目潰したし、不慮の事故で……」

 

「なんとなく察したけど違うわよ。さっき私の事、守ろうとしてくれなかったでしょう?」

 

「……」

 

「良ちゃんがシャミ子の事助けようとするのは微笑ましいし、たまにウガルルに思いっきり遊ばせたいっていうのは同感だったから傍観してた。

 けどそれはそれとして、葵が守ってくれようとしなかった事に傷ついたわ。

 私の事、めんどくさいと思う?」

 

「……俺に比べれば全然めんどくさくないでしょ」

 

「なあぁ〜にをやっとるか! 

 余が見たいのはそんな犬も食わんような論争ではない! 

 葵に及第点をくれてやるとしても、桃とミカンにはまだ本気を見せてもらっとらんぞ! 

 これは実際には余が見た単なる夢! 

 怪我や悩みはすべて夢オチになり余の記憶にしか残らぬ!」

 

「なるほど、何をしても夢オチになる。

 怪我も悩みも残らない、了解」

 

「おやっ?」

 

 空気をぶち壊し己の望みを通そうとしたリリスだったが、余計な説明を加えてしまったことで桃からの羽交い締めを受ける。

 そのままあれよあれよという間に魔力で出来た紐によって縛られてゆき、塞ぎ込んだままのシャミ子が止めることもなく身動きを封じられてしまった。

 

「ミカン!」

 

「葵に肌晒すことに、シャミ子の中でどういうボーダーラインがあるのか問い詰めたいけれど……桃はもう終わらせたいみたいだし行くわね」

 

 そう言い残すと、ミカンは魔法少女の姿に変身した上で桃の元へと向かう。

 直前にミカンは何らかの目配せをしており、その相手であるウガルルは何やら葵へと手を伸ばそうとしていたのだが、少し離れた地面から突如として平たい何かが生えた光景を目にして、猫のように退避した。

 

 その平たい物体はどうやらチェーンソーのブレードのようで、飛び出したそれは円を描くように刃を走らせ、支えを失った内側の部分は自然と底へと落ちてゆく。

 ぽっかりと開いた穴の縁に人の指が引っ掛けられ、葵はそれを警戒の眼差しで見ていたのだが、そこから動きを見せることはない。

 

「……せんぱぁい、助けてぇ……」

 

 葵はため息を付きながら穴を覗き込み、中にいたしおんを丁寧に引っ張り上げた。

 インドアなしおんがひ弱なことは周知されているが、現在の彼女はどういう訳か普段に輪をかけて衰弱しており、地面に下ろした所で立ち上がれずに伏せてしまった。

 

「裏で何やってたの?」

 

「チェーンソーの振動……知識としては知ってたけどやっぱり私に使えるものじゃないねぇ……」

 

()()()()ホッケーマスク被ってたのに、一緒に装備できないじゃん」

 

「アレはイメージ強いけど実際には使ってないからセーフ……」

 

 痙攣の症状を見せるしおんは這いずって座る葵へと近寄り、支えを求めてしがみつく。

 顔色の悪い彼女のその行動は、それこそどこかのホラー映画のようであったが、流石に口には出さない。

 

 そうこうしている内、桃とミカンはリリスを満足させるという名目で、それぞれの持ち技を一通りリリスへと放つという事で合意したようだ。

 

「サンライズアロー!」

「フレッシュピーチローキック!」

「ねえ、お兄」

 

「うん?」

「スコーピオンアロー!」

「さっきリコさんを庇った時、良とウガルルさんの話してたけど……お兄は、どっちが重要だと思ってるの?」

「フレッシュピーチしっぺでこぴんババチョップ」

「どっちも同じくらい、じゃ駄目?」

 

「……」

「サジタリウスアロー!」

「……良ちゃんが軍師になりたいなら、それ経験できる機会は重要だと思ってるよ。

 正直、細かいこと考えるのあまり得意じゃないし、良ちゃんがそうなってくれるなら嬉しい」

「フレッシュピーチブロックで殴る」

「柑橘汁」

「技か!? それ技か!?」

 

 魔法少女の華麗な技の数々を鑑賞しながらも、葵は良子からの問いに自身の考えを返していたものの、どうやらあまり満足の行くものではなかったようだ。

 どこか警戒した様子で葵たちを伺っていたウガルルを、良子はただただ感情を表出させる事なく、見つめていた。

 

「クッ、ククク……この程度で闇の始祖たる余が屈してなるものか……!」

 

「……葵、最後お願いしていい?」

 

 その裏で、桃は締めとなるフレッシュピーチハートシャワーを放ったのだが、しぶとくもリリスは強気な態度を崩さない。

 一息ついた桃からの頼みを聞いた葵は立ち上がると、周囲の者たちへの退避を指示。

 桃とウガルルそれぞれに担がれたシャミ子としおんを含めた面々が十分に距離を取ったことを確認すると、両掌へと過剰なまでの魔力を集中させる。

 

「……おい、葵よ。お主にとって()()()、こういう流れで使っても良いものなのか?」

 

「さっき及第点くれるって言ってましたけど、どうせなら満点ほしいですよね。

 夢の中で死ぬと目が覚めるってよく聞きますし、きっとあっさり終わりますって」

 

「それは一般人の話であって、夢魔に当てはまるとは限らんぞ」

 

「この技、俺自身も結構反動きついんで……リリス様にだけ苦しい思いはさせませんよ」

 

「もしやそれは口説き文句のつもりで言ってるのか?」

 

「ああ後、連続で夢オチになるのはちょっとアレですし、爆破オチにでもしておきましょう」

 

「どちらにせよ夢オチなのは変わらんではないか!」

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