まちカド木属性   作:ミクマ

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何で泣いてるんですか!?

「葵、ちょっとこれにあなたの魔力流してみてくれない?」

 

 ある日の修行中に葵が桃から渡されたもの、それは乾燥した根や葉など沢山の植物の一部分だ。

 

「……何これ?」

 

「取り寄せた漢方の元」

 

「俺が流しこんだら、何に使うの?」

 

「シャミ子に飲ませるプロテイン」

 

「ああ……」

 

 桃がよく作り、シャミ子に飲ませているそれは何故か何時も光り輝いている。

 どうやって作っているのか、それを葵はまだ見たことは無いものの、魔力をどうこうしているのは察しが付く。

 

「でも、それに混ぜて大丈夫なの?」

 

「問題ない、私が全力で振れば混ざる」

 

「えぇ……」

 

 その適当な答えに葵は微妙に引くが、取りあえずはやってみようという事になり、まずは試しとして僅かに流し込んだ高麗人参を作ってみた。

 

「……うん。行けそうかな」

 

 微妙に成長したように見えるそれを桃はしげしげと眺め、そう呟いた。

 他の材料が入ったシェーカーに高麗人参を投入すると、桃はパクトを構える。

 

(あっ)

 

 葵は何となく、直感的に魔力を集中させる。

 次の瞬間、目の前に変身の完了した桃が立っていた。

 

「0.01。まあ、こんなもんかな。……どうしたの?」

 

「……ハッ! い、いや何でもないよ」

 

「……そういえば葵に魔法少女姿見せるの初めてだっけ」

 

「あー、うん。……似合ってるよ? 可愛いと思う」

 

「……お世辞は良いから」

 

 桃は少し顔を背けてそう呟くが、葵としては紛れもない本心である。

 あるのだが、しかし葵はそれ以上のことに気を取られている。

 先程葵はとあるものを見ていた。集中により諸々の身体能力と共に動体視力も向上し、桃の変身卍句(バンク)を僅かにだが認識していたのだ。

 それでも殆どは残像にしか見えなかったのだが、一瞬だけ桃の輝く笑顔が見えて葵はそれにときめいていた。

 

(あれ反則だろ……)

 

「出来たよ。……葵? さっきから大丈夫?」

 

 葵がそれを思い浮かべているうちに、プロテイン飲料は完成していた。

 困惑する桃に、葵は平常を装って返答する。

 

「それ、本当に大丈夫かな? 

 魔力を流した植物を人に摂取させるとか初めてなんだけど。

 それに、桃の魔力も混ざって妙な変質したりしてないかなって」

 

「心配なら、葵が飲んでみなよ。

 元々、私だけで作った物をシャミ子は普通に飲んでるし、大丈夫だよ」

 

「……なら、いただきます」

 

 桃から光るシェーカーを受け取った葵は、その中身を半分ほど飲む。

 そして特に何が起きるわけでもなく、近くのキッチンカウンターにそれを置いた。

 

「問題ないでしょ?」

 

「まぁ……」

 

「じゃあ、次は私」

 

「……えっ?」

 

 桃はそのシェーカーを持ち、残りを飲み干した。

 その意味に桃は気がついていない様であり、葵は頬を染めている。

 

「ね、大丈夫でしょ。……熱でもあるの? 本当にさっきからあなた変だよ」

 

「いやヘーキヘーキ、ホントホント」

 

 葵は桃に背を向け、そう弁解していた。

 

(これ無意識でやってんの? ズルくない?)

 

 ■

 

 とある放課後、彼らは河川敷に集まっていた。

 修行を強制されているシャミ子に、桃が問う。

 

「そういえばシャミ子、この前の変わった格好の件なんだけど」

 

「この前?」

 

「シャミ子とミカンが初めてあった時、ショッピングセンターで全裸になってたでしょ?」

 

 そのやり取りを聞いた葵は吹き出すと、激しく動揺しながらシャミ子に詰め寄り、裏返った声で問いただそうとする。

 

「全裸ぁ!? 何それ、何の話!?」

 

「桃! 変な表現しないでください! 全裸じゃないです半裸です!」

 

「そこはどっちでもいいや。あれがシャミ子の戦闘フォーム?」

 

「どっちでもよくあるかー! 全裸と半裸は全然別物です!」

 

 そんな桃に憤慨するシャミ子を見て、そこで葵は理解した。

 危機管理フォームについて説明しだすリリスの話を聞いた桃は、変身状態を継続し続けられるかと問い、シャミ子はそれに怯えている。

 この場で唯一その姿を知らない葵は純粋な興味でシャミ子に聞く。

 

「危機管理フォームってそんな変なカッコなの?」

 

「……嫌です! 葵にだけは見せたくありません!」

 

「えっ……そんな……ひどい……」

 

 葵はシャミ子に拒絶されると露骨に落ち込み、地面に座ってのの字を書き始めた。

 そんな彼を見た桃は謎の方向にフォローを始める。

 

「大丈夫。性能テストしたいと思ってたから、今から見れるよ」

 

「勝手に決めないでください! しかもこんな往来で!?」

 

「でも町やシャミ子に危機が迫ったら、往来だろうと何だろうとバリバリ変身しなくちゃいけないんだよ」

 

「えぇ……」

 

 そんな桃にシャミ子は引いている様子だ。

 葵は立ち上がり、笑顔で桃の言葉に同調しだす。

 

「そうそう、だから早く早く」

 

「やっぱりさっきの落ち込み演技じゃないですか!」

 

「そんな事ないよ。俺だって町を守りたいんだからさ、優子の出来ることを知っておきたいんだよ」

 

「じゃあ何なんですかその笑顔は! 葵そんなキャラでしたっけ!?」

 

 ノリノリで煽てようとする葵に困惑するシャミ子は、どうにか話を反らそうと言葉を絞り出す。

 

「そんなに戦闘フォームが好きなら、自分で変身すればいいじゃないですか!」

 

「え? 俺そんな物ないよ?」

 

「……そうなんですか?」

 

 葵が何かと戦っている事があるらしい、ということを聞いていたシャミ子はてっきり、魔法少女の様な戦闘フォームが葵にもあると勘違いをしていたのだ。

 シャミ子のその言葉を聞いた葵は、顎に手を当てて考え始める。

 

「うーん。今まで考えたことなかったけど、そう言われると欲しくなるかも……。

 でも俺は色々となぁ……」

 

「葵よ。お主は色々特殊な様だが、手がかりがないわけでもないぞ」

 

 心底悩んでいる様子の葵にリリスが助け舟を出すと、葵は顔を像に向ける。

 

「どういうことですか?」

 

「うむ、シャミ子の危機管理フォームについて話そう。

 これは今の所は余が助けて変身させているが、将来的にシャミ子が強くなれば自分自身で変身できるようになるだろう」

 

「……なるほど、つまり」

 

「そうだ、相応の魔力があれば自分に見合う戦闘フォームを作ることも自在だろう。

 とはいえ、やはりお主は特殊だ。まぞくの常識が当てはまるとも思えん」

 

「……いえ、参考になりました。じっくり研究してみますよ」

 

 葵は憧れの人の戦闘フォームを思い浮かべ、そこに並ぶ希望が見えて嬉しそうに笑う。

 そんな二人の会話を聞いていたシャミ子はあることに気がつく。

 

「ごせんぞ! 私自分で戦闘フォーム作れるんですか!?」

 

「今はまだ無理だろうがな」

 

(なら! いつかあの格好ともおさらばです!)

 

 その希望が儚くも崩れるのは三ヶ月程後のことである。

 そんなことも露知らず、シャミ子は修行に乗り気になりだす。

 

 ■

 

「桃が変身したら私も変身しますよ!」

 

 その言葉を聞いた桃はあっさりと変身し、シャミ子にも変身を催促する。

 すると、ミカンの言葉で話題は昔の桃のことに移る。

 

「昔の桃は変身の時、くるっと回ったりウインクしたりちょー可愛かったのよ?」

 

 それを聞いた葵は、つい先日に見た残像の脳内補正を始める。

 葵は最近、あの笑顔の虜になっているのだ。

 と、そんな中思考をぶった切る声が響く。

 

「葵っ! ……なんか変なこと想像してない?」

 

「……ソンナコトナイヨ」

 

「……もう、そんなことよりシャミ子だよ」

 

 葵に呆れた様子の桃は、彼に目的を思い出させる。

 その横でシャミ子はミカンに修行に同行している理由を聞いている様だ。

 

「別に良いでしょ。転校するまで暇なのよ」

 

「いや……わかるぞミカンよ」

 

 ミカンの言葉に謎の同調をしたリリスは、部屋に放置されるのがほとほと寂しいと涙を漏らす。

 そんな言葉をミカンが強気に否定すると、何故か邪神像が何処からとも無く現れた大蛇に締め付けられる。

 

「ご先祖が通りすがりの大蛇に!」

 

「……なにあれ」

 

 それを初めて見た葵が疑問符を浮かべると、桃が解説を始める。

 ミカンは過去のとある一件によりその身に呪いを受け、彼女が動揺すると周囲にささやかな困難が降り注ぐ、とのことらしい。

 

「ふぅん……」

 

「あ、そうだ。ミカンの呪いって植物に影響すること多いから、葵は気をつけた方が良いかも」

 

 桃は葵にそう言うと、深呼吸をするミカンの元へ向かい肩に手を載せ声をかける。

 その励ましによって今度はミカンのテンションが上がり、邪神像は蛇に飲まれた。

 

「そう言う方向でも出るのか……」

 

「……とにかく、約束でしょシャミ子。変身変身、頑張ろう」

 

 そう急かされたシャミ子は邪神像をもち、何度も「ききかんりー」と叫ぶも変身する気配はない。

 それを見る三人には凄まじい罪悪感が積もる。

 

「……ごめんね」

 

「……今日は腕によりをかけてご飯作るからね」

 

「やめてください!」

 

 変身できない理由について、危機感が重要とリリスが解説すると桃によってシャミ子のしっぽが看板に結ばれた。

 そして危機感を煽ろうとして、中技であるフレッシュピーチハートシャワーの構えに入る。

 

「葵! 助けてください!」

 

 そう助けを求められた葵はカバンから爪楊枝を取り出す。

 

「大丈夫。当たりそうになったら盾作ってあげるから」

 

「そう言う意味での助けを求めてるんじゃありません!」

 

「……あっ。ダメだ、連日の疲れが」

 

 いつの間にか発射そのものは前提になっている会話をしていると、桃が膝から崩れ落ちた。

 そんな桃に葵は急いで近づくと手を差し出す。

 

「ちょっと手、貸して」

 

「葵……?」

 

 次の瞬間、桃は自分の魔力が回復していることに気がつく。

 体調も先程よりはマシなようだ。

 

「これって……?」

 

「最近完成した新技、魔力を他人に渡すことができる。説明は後でするから今は寝ていて」

 

「そう、なんだ。ありがとう。少し休むね……」

 

 葵が近場のベンチに運ぶと桃は目を閉じ、小さく寝息を立て始める。

 葵は桃から手を離し、一息ついた。

 

「最近の桃は以前にもましてグイグイ系に見えます」

 

「思ったより消耗が激しくて焦ってるのかしら。私の呪いによる疲れも蓄積してるし……」

 

「俺も、何時もついてられる訳じゃないからな……。今のも一時的な処置でしかない」

 

「私がもう少し負担を減らせると良いんだけど……もう少し強くなりたいわ」

 

 寝ている桃を見るミカンは少し焦りながら、このままでは桃が魔力を消費しすぎて消滅するかもしれない、と語る。

 それを聞いたシャミ子は驚いて、ミカンに問い詰めている。

 

「えっ、知らなかったの!? 桃、隠してたのかしら? 私まだしくじったかしら」

 

「……ん?」

 

 動揺するミカンを横目に、葵はさきほど出した楊枝のパックが何やらひとりでに震えていることに気がつく。

 それはどんどん震えを増し、さらには光りだす。

 嫌な予感のした葵は咄嗟にそれを川に向かって投げた。

 次の瞬間川の上でそれが破裂し、奇怪なオブジェと化すと着水して水飛沫を上げる。

 

「植物への干渉ってこう言うことか……ていうかこれ不法投棄?」

 

「ご、ごめんなさい葵! そんなものにここまで影響がでるなんて……」

 

「いや、今は一旦落ち着いて……」

 

 ミカンは説明を続ける。魔法少女の身体は其の殆どがエーテル体に置き換わっており、魔力がなくなると形が保てなくなる。

 死ぬわけではないが、そうなると自力での復活は難しくなる、そう語った。

 葵は苦い顔でそれを聞いている。

 

「もしかして葵、知ってたんですか?」

 

「口止め、されてた」

 

「あのさっきのやつでどうにかなったりは……」

 

「回復するだけで、上限を上げるわけじゃないから」

 

「そうですか……」

 

 寝ている桃をシャミ子が複雑な表情で見ていると、そこで桃が起きた。

 シャミ子は顔を赤くして桃に修行を頑張ると宣言する。

 

「とりあえず、私を死ぬほどびっくりさせる方法を一緒に考えろ! 変身しなくていいから!」

 

「……ほんとにどうしたの?」

 

「私はっ……桃に……認められたいです。……いやっ敵として! 敵としてだぞ!」

 

 そう言われた桃は困惑しているようだが、正拳突きとアンクルロックと一本背負いの三択を示し、シャミ子を追い詰めていく。

 怯えが最高潮に達したシャミ子はそこでついに、危機管理フォームに変身したのだった。

 その姿を見た葵は絶句し、口を何度かパクパクと動かしたかと思うと涙をポロポロと溢しだした。

 

「葵!? 何で泣いてるんですか!?」

 

「……ごめんなぁ……」

 

「何で謝るんですか!?」

 

 葵はハンカチを取り出し、隠す様子もなく涙を拭き始めた。

 

「ふぐっ……ふぐっ……。うわぁぁぁん!」

 

 想定外な葵の姿に動揺したシャミ子は同じく泣きながら、捨て台詞さえ吐かずに逃げていった。

 葵もその後しばらく泣き続け、残る桃とミカンに心配されている。

 

「確かに見てると罪悪感は湧くけれど……。泣くほどかしら……?」

 

「……葵。私が倒れた時にやってたことの説明、お願い」

 

 未だ涙目の葵は説明を始める。

 曰く、自身の特殊な魔力を植物に流すように人に流すこともできる。

 しかし、そのためには自分の魔力を他人の色に染める必要がある。

 桃の魔力に染めるための試行錯誤が終わったのは本当につい最近で、この前桃が倒れた時にはまだ未完成だった、とのことだ。

 

「そんなことして、葵自身は大丈夫なの?」

 

「俺は魔力量だけなら凄まじく多いって言われたよ。

 でも魔法少女みたいに手段の幅がない。

 だから持ち腐れてる物を必要な所に渡してるだけ」

 

「……わかった」

 

 それを聞いた桃はまだ心配そうな表情であるものの、葵の言葉を信用することにした。

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