異世界ヒーロー   作:氷雨蒼空

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第九話 それぞれの思惑

「くっくっく! 作戦は既に最終段階に達した。さぁどうする嵯峨楓に冒険者ども。俺を殺したところでオブジェクトは止まらないぞ?」

 

「あん。だからっててめぇをぶっ殺さねぇ理由はねぇ」

 

クラレントを構え直し、スラッダーのいる屋根の上へと跳躍するモードレッド。

 

「ち! なんてな」

 

スラッダーが指を慣らした瞬間、スラッダーの背後から現れる複数の触手群。

「コイツ! 以前の奴より強化されてやがる!」

「奇怪なものを! 悪趣味な奴じゃの!」

 

モードレッドの背後に迫った触手を、ネロがアエストゥス・エストゥスで切り払い背中を守るなか、

 

「く! コイツ、なんて、くは」

「ダクネスーーーーーーーー・・・・・?」

 

カズマが思わずダクネスの悲劇に叫ぶも、その声は徐々にしりすぼみになっていく。

 

カズマの様子の変化に、ダクネスの危機的状況に集中しているせいか誰もが気づいていない。

 

「くそ! 世話がやける!」

ベートが、触手に向けて蹴りを入れ、

「待ってなよクルセイダーちゃん!」

ティオナもウルガで触手を次々と弾いて行く。

 

「おかまいなく」

 

このクルセイダーの言葉が仲間を気遣ってのものだと誰もが思い、さらに必死に助けに集まるオラリオの冒険者達。

アクセルの冒険者の大半はダクネスの様子に見飽きて見放すものだが、ここはオラリオ。

 

「あの冒険者すげーぞ! 自らの危険に巻き込むまいとしていやがる!」

(違います。そんな高尚な考えなんてあのポンコツクルセイダーはもっていません!)

 

口許を押さえて、頬を涙で濡らすカズマを見た冒険者の一人、ロキファミリアの副団長のリヴェリアがそっと優しく肩を叩く。

「安心しろ。君の仲間は我々が何としてでも救出する」

 

(この人達の優しさが余計に痛い!)

 

「本当! うちの仲間がすみませーーーーーーん」

 

良心の呵責に耐えかねたカズマは、それはもう見事なジャンピング土下座を行っていたのだった。

 

そしてオラリオの冒険者達の健闘によりダクネスは無事に救出され、再びスラッダーとの戦いは膠着状態に陥る。

 

「さて、こちらの鬼の手をどうにも出来ないようだな。俺は今度こそ失礼させて貰う」

 

そう告げてその場から鬼の手に支えられて逃げ出すスラッダーに、援軍として到着したセイバーが追いすがる。

 

「逃がすものか!」

 

見えざる剣による攻撃を見えているかのように受け止める鬼の手。

 

「父上!」

 

加勢に飛び込むモードレッドに、横目でアイコンタクトをとると、即席ながらも息のあった連携で攻撃を仕掛ける。

 

そんな二人を前に鬼の手に守られていたスラッダーは、困った様子を浮かべながらも、未だ余裕を崩すことなく笑い続ける。

 

「いいねぇ。肉体は別でも魂は親子として繋がっているか。だが兵器にはそんなもの必要ないだろ」

 

「まだ言うかよ!」

 

「言うさ。だから貴様達の弱点をこの天才様がご教授してやろう」

 

スラッダーはそう告げ指を慣らした瞬間、予め仕掛けられていたアルトリアの側の爆弾を起爆させた。

 

サーヴァントを殺傷するに至らないまでも、指向性の威力はサーヴァントの隙を造るに十分であった。

その証拠にアルトリアの体に触手が絡み付くと、あっという間に飲み込んでしまう。

 

「ちちうええええええ!」

 

「悲観するのはまだだぞモードレッド。お楽しみはこれからだ」

 

漆黒の紫電を纏いながら、アルトリアを呑み込んだ鬼の手はアルトリアの霊装の如く変化し、その頭部を鬼の面で覆い尽くす。

 

「セイバー・ヴェルサスの完成だ。やれ」

 

「父上! 待てよ! 俺だ! モードレッドだ!」

 

「・・・・・・・」

 

突如襲いかかってく鬼面のアルトリアに対して必死に呼び掛けるモードレッド。

 

「そう! それこそが弱点だ。兵器のくせに人間の真似事をするという。それ故にいざ操られたら手も足も出なくなる」

「てめええええええ」

元凶であるスラッダーを追うにも、アルトリアによって阻まれ、どんどんその姿は遠ざかっていく。

他の者達はその場に残された鬼の手の群衆が、一般市民を襲い始めるのを止めるのに手がかかり、スラッダーへ迎えないでいた。

 

そうしてスラッダーを完全に取り逃がしてしまったところで、オブジェクトもいよいよ動きを見せ始めた時だった。

 

「まだだ。まだ終わらない。そうだろクウェンサー」

通信機もないのに、オブジェクトへ向けてそう呟く楓に、ネロが横に立ち並ぶ。

 

「奏者よ。もはやスラッダーは取り逃がした。鬼の手の討伐に人を割かれ、あのデカブツを止める手立てはないぞ?」

 

「いざというときに備える。ネロ、お前の固有結界を使う」

「その場合、余と奏者は無事では済まぬぞ?」

 

そう忠告するネロであったが、楓の瞳を見たとき、小さく首を横に降った。

 

「そうじゃったな。奏者はそういう人間じゃったのう」

 

「・・・・・だが、そうならない。信じるさ」

「あの少年をか?」

 

楓はそっとオブジェクトに背中を向けて歩き出す。

 

自爆機能が作動

 

「クウェンサーとお姫様。そしてそれを信じる仲間達をさ」

 

 

そして時は訪れる。この夜の闇に包まれた戦いに終止符を打つかのように、いや、打たれた終止符を受け入れるかのような、朝日が街を照らし出した瞬間、オブジェクトから聞こえた声。

 

 

《ヤッホー。オブジェクトの操縦機能を取り戻したよー》

 

《ヒャッハーーーーーーー! 姫様は取り戻したぜえ! 待たせてな皆!》

 

「ち! 浮かれやがって」

「ナイト君頑張ったみたいだねぇ」

「ったく。ここまで私達が協力したんだから当たり前じゃない」

 

まんざらでもない顔を浮かべるベートの側で、ティオナとティオネも嬉しそうに笑みを浮かべ、リヴェリアが駆けつけたフィンのアイコンタクトを受け頷くと、周囲を見渡して号令をかける。

 

「全員武器を構え! 鬼の手を殲滅せよ!」

 

「「「「おおおおおおおおお!!!!!」」」」

 

 

 

 

冒険者達が最後の追い込みでようやく鬼の手を殲滅したのは、日の出から三時間ほどたった頃だった。

もっとも最後の一時間あたりは町中をくまなく探し回る確認作業で、中心となったロキファミリアの団長のフィンが、殲滅完了の号令が終了時刻となった次第である。

 

夜半から朝方までのこの戦いは多くの冒険者を疲弊させたが、それ以上に派閥と言う垣根を越えた連帯感が、冒険者同士の笑い会う光景へと繋がっていた。

 

そして街の外の防衛に回っていた者や、“お姫様”と“ナイト”の凱旋がこの悲劇を僅かに明るいものに変えていた。

だからこそ光もあれば闇もある。

 

街の中へと運び込まれる布が掛けられた担架は、この日の悲劇を物語っていた。

 

わかりきっていたことだった。あの巨体オブジェクトを足止めするということは、それなりに過酷で命の危険が多大にあることを。

 

泣き崩れる者達の中には幼い子供もおり、それを目撃したクウェンサーは顔をうつ向かせる。

 

「胸を張れよナイト。お前は救ったんだ

「ああ。でもこの作戦を考えたのは俺でもある。責任は感じるよ」

 

通りを歩く凱旋組を眺めながら、楓は傍らに立つモードレッドに視線を向けた。

 

「助けられなかったな」

「あぁ。逃げられちまったが、必ず父上を助け出す」

 

拳を打ち鳴らすモードレッドは、悔しそうな態度から一変し既に気分を切り替えていた。ヴェルサス化したアルトリアがタイミングを見計らい、モードレッドの戦いから撤退した際、楓はモードレッドが追っていこうとしたのを無理に止めた。

 

本当であれば追いたかったであろう気持ちが理解できるだけに、楓は小さく呟く。

 

「すまない」

「謝んな。お前は俺の相棒(マスター)だろ。もしあのまま追撃したら、もしかしたら罠にはまって俺も父上のようになっていたかも知れねぇ。お前は俺の身を案じてくれたんだ。感謝すれど文句なんかあるわけねぇ」

 

そう言って楓の肩を軽く小突いたモードレッドは、清々しさの混じる笑みを浮かべる。

 

「ちょっくら酒を呑んでくるぜ」

「余もいこうかの! あの店のワインは美味じゃ」

 

あれだけ戦った後にも関わらず、元気な二人を見た楓は自然と笑みがこぼれるのだった。

 

最も、この後に待ち受ける悲劇について、二人は知るよしもない。

 

 

 

 

スラッダー=ハニーサックルが仕掛けた戦いにより、街は結構な破壊に見舞われたものの、こう言った破壊に関しては慣れているのか、あちこちでは手慣れたように復旧工事が行われていた。

「ゴブリンか?」

「俺がガネーシャだ!」

 

どこかで見たようなやりとりを前に、うんざりしたような顔を浮かべるヘイヴィアと、これまた土木工事なんてやったこともなく、力仕事でヘトヘトになるクウェンサーは、オラリオの街の入り口で外壁工事を行っていた。

 

なぜゴブリンスレイヤーがここにいるかと言えば、彼自ら進んで名乗り出たからに他ならないのだが、その理由が、

『ゴブリン対策の一環だ』

 

という、実に彼らしいものであったことは言うまでもない。

 

「はぁ。何で俺達まで駆り出されるかねぇ」

「人手が足りないんだとさ」

 

これまた外壁工事に手慣れた様子のカズマが、意思運びに精を出しながらヘイヴィアに説明するも、それ以上に違和感ある光景に口を出さずにはいられなかった。

 

「それにしてもお前のところの自称女神様は芸達者すぎやしませんかねぇ! なんなのあのモルタル塗りの手際のよさ! いっそ冒険者やめて土木工事で食って行けるだろ!」

「そうなんだよ。どういうわけか、アイツはこの手に関しては器用さを発揮するんだよな」

 

アクセルの町から惨状を聞き付けた職人連中と共に、仲良く汗を流し、時には手伝いに来た男達にテキパキと指示を出すアクア。

 

最早アークプリーストの面影は見る影もない。

 

「ところでミリンダさんは? さっきまでオブジェクトのサブアームで手伝ってくれてたみたいだけど」

 

 

カズマは額に手を充てて周囲を探ると、クウェンサーが肩を竦めて見せた。

 

「我らの癒しであるお姫様は、豊穣の女主人の猫耳さん達につれてかれたよ。理由は聞いてないけど」

「あっちこっち大変なんだな。って! あの人まで何やってんの!?」

 

意外な人物が防壁工事の手伝いをしていることに驚くヘイヴィア。

 

その視線の先では、先の戦いで活躍したアーチャーが、手際よく作業を行っていた。

 

「人は見かけによらないと言うけどね」

「よらなすぎだろ」

 

こうして防壁補修工事は、アクアの神業とアーチャーのトレースにより、予想外のスピードで進んで行くこととなる。

 

 

 

 

「何で余が・・・・・」

「くそ! こんなの動きづらいだろうが!」

「クウェンサー喜んでくれるかな」

「くううううう。何でこの私がウェイトレスなんてぇ」

「くううううう。なんたる羞恥プレイ・・・・」

「何だかワクワクしてきますね!」

 

豊穣の女主人へと連行され、ウェイトレスの格好に着替えさせられた面々。

主な理由として、ネロとモードレッドは、店の側で暴れまくり外壁を壊し、民家を破壊しまくった弁償の補てんが理由。

 

ミリンダに関しては今回の一件はお咎め無しにされているが、人手が足りないという理由と、滞在中はミア母さんが面倒見てやるという半ば強制的な申し出から。

 

さしてダクネスとめぐみんに関しては、アクセルの町で追った借金返済の為に、ミア母さんに差し出された生け贄である。

 

 

「さあお前達! チャキチャキ働いて貰うよ!」

 

この街の母と評される皆のママは、容赦なく少女達へ命令すると、自分も店の仕込みへと入る。

こうして新しく入った新人ウェイトレス達は、先輩の指導のもと、店の開店準備に追われることとなった。

 

 

モードレッドやネロが豊穣の女主人で働いている頃、楓はというと。

 

 

「へいらっしゃい! ウィズ魔道具店オラリオ支店へようこそ!」

「ようこそ」

 

アクセルの町からわざわざ出向いたバニルに取っ捕まり、どういうわけか店を手伝わされていた。

 

「なんで俺が」

「良いではないかふははははは! どういうわけかうちのポンコツ店主は使えないものを仕入れることに関してはスバ抜けた才能を発揮してな! 我が仕入れを行っている間に見張りがどうしても必要なのだ。その店貴様は打ってつけ! さあ気張って売るが良いわ。故郷を失い変える場所もないが仲間には恵まれた哀れなバイトよ!」

 

「ちなみにこれ、何を売ってるんだ?」

店の前で店頭販売している中、楓は商品の一部を摘まんでみる。

 

「よくぞ聞いてくれた! それはポンコツ店主が仕入れた旅の灯り事情を解決する優れもののパート2!メリットは内蔵魔力の循環によって灯りを永遠に灯してくれるもの!」

 

「・・・・・デメリットは?」

「一作目と同じで徐々に高熱を発して火傷するのと最終的に爆発するのは一緒だが、爆発の有効射程が広がったことか」

「悪意しか感じねえだろ!」

 

思わず楓は木箱にそれらを戻していく。

「ふむ。アクセルの町での売れ残りでな。そこで貴様には言葉巧みに売り飛ばして貰いたいのよ。なあに、ヴァリスでもエリスでもどっちでもかまわん。チャキチャキ売るがよい!」

 

そんな悪徳店員の足元に転がる黒焦げの女性を眺めながら、楓はそっと息をはいた。

 

(この店駄目だ・・・・)

 

 

 

 

 

オラリオの街から南東へと向かった先の小さな森。

鬱蒼と生い茂るその場所に、一人の猪獣人を従えた人物が足を運んでいた。

 

「わざわざ貴女がこの場所に足を運ぶなんてな」

「意外?」

「いいえ」

森の中でも切り開かれた場所の中で、横倒しになっている巨木に背中を預けていたスラッダーは、ローブを羽織り顔を隠した人物に視線を向けることなく話を続けた。

「ご依頼通りにベル=クラネルとクウェンサー=バーボタージュを共闘させてみたが、ご期待にそえましたかね」

「上場よ。で、貴方はこれからどうするのかしら?」

「このまま南下して次の準備に移りますよ。何せかなり消耗してしまった」

 

鬼の手を周囲に彷徨かせるスラッダーに、フードの人物は猪獣人にアイコンタクトを送る。

 

すると猪獣人は持っていた大きな革袋をスラッダーに投げ渡した。

 

「報酬よ」

「これはこれは。それではご用命の際には街に潜ませた草にでも言いつけてください」

 

そう告げて森の中へと消えていくスラッダーの背中を見送り、猪獣人は主へと尋ねる。

 

「宜しいのですか?」

「いいのよ。あの男はまだ使える。あの子にはまだまだ強くなって貰わなくてはいけないし、オラリオの街もこれでわかったはずよ。この世界に危機が迫っていることに。それには強い敵が必要。少なくともあの男はまだ使える。それに今から帰ってヘルメスにお仕置きしなきゃいけないもの」

 

くるりと踵を返すフレイアは、

 

「もっとも、目移りしそうな魂の輝きを持つ子供を見つけちゃった。あの子私のファミリアに入れたいわ」

「・・・・・お戯れを」

 

「私はいつだって本気よオッタル。嵯峨楓。あの子の輝きはまだまだ弱いけど、ベル=クラネルとは違う美しさがあるわ。さあて忙しくなるわよ」

 

上機嫌に森の中を歩く主人について歩きながら、オッタルは気ままな主のせいで頭を悩ませるのだった。

 

 

 

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