異世界ヒーロー   作:氷雨蒼空

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第一章 幕間

先の戦いにて若干街の雰囲気が変わったものの、それは別な場所でも見られていた。

 

「ラストオーダーちゃん、お菓子食べる?」

「ラストオーダーちゃん、新しいお洋服用意したわよ」

 

ロキファミリアの屋敷の中、一人の少女を中心に和やかな空気が広がっていた。

 

「ぐへへへ。ラストオーダーちゃん、うちと一緒にお風呂に入らへいだだだだだだ」

下心全開でラストオーダーに迫る主神ロキを、力業でねじ伏せるアイズ。

 

ラストオーダーがこの屋敷に来てからアイズに増えた新しい日課であった。

「ミサカはミサカはお子様ではなく一人前のレディですと、大人っぽく主張してみたり! でも可愛いお洋服とお菓子は欲しいかなと呟いてみたり」

 

「「「可愛いいいいいいいい!!」」」

 

最早ロキファミリアのマスコット的存在となったラストオーダーは、このように皆に愛されているのだが。

 

「ち。うっせー。少しは静かにしろってんだ」

 

ただ一人ベートだけはラストオーダーを特別扱いすることもなく、距離を置くように接していた。

 

のだが。

 

ベートが寝室から出てくると、決まってラストオーダーはベートにべっとりとなってしまうからして、女性陣が皆ベートに対して嫉妬の視線をぶつけてくる。

 

 

それはアイズも同じであった。

 

「ベート、どうやってこの子を懐柔したの?」

 

無表情に迫るアイズの気迫に、普段アイズを口説いていたベートもたじたじになる。

 

「ふざけんな! 俺は何もしてねぇし、このガキが勝手にくっついて来るんだよ!」

 

「照れなくてもいいのにと、ちょっと小突いてみたりとミサカはミサカは仲良しアピールしてみたり」

 

「ベート」

「ああくそ!」

 

小難しい言い訳も説明も苦手なベートは、その場からラストオーダーを連れて逃げるように屋敷を出たのだった。

 

 

 

 

「改めて明るい時に歩いてみると、素敵な街だねと、ミサカはミサカは心踊らせてみたり!」

「ああん? どこがだよ。子供が喜ぶようなもんは何処にもねぇよ」

「子供扱いしないで欲しいなあと、ミサカはミサカはおとなぶってみたり! でもミサカがいないと“あの人”は心配するだろうなぁってミサカはミサカはしょぼんとなってみたり」

 

何かを思いだし、どこか寂しそうにするラストオーダーに、ベートは面倒くさそうにため息をつく。

 

「ガキがいっぱしに大人の心配なんかすんじゃねえ。弱者ってのは弱者だ。強者になれねぇ。子供がいきなり大人になれるかよ。子供は子供らしくしてればいいんだよ」

「もしかしてミサカのことを慰めてくれてるのって、ミサカはミサカは心ときめかせて感動してみたり!」

「あぁ? なんで俺がお前を心配しなきゃならねぇんだよ」

 

そう言ってそっぽ向いたとき、

 

 

ぐ~~~~~~っ

 

ラストオーダーの腹から可愛らしぃ音が響き渡る。

 

「ミサカは何も食べないで出てきたわけだけど、お肉食べたいだなんて贅沢いわないよ?ってミサカはミサカはちょっと遠回しにアピールしてみたり!」

「ち!」

 

これまた愛想の無い返事ながらも、ベートはラストオーダーに歩くスピードを合わせ、この辺りで昼間からやっている店へと向かうのだった。

 

 

「いらっしゃいませにゃ・・・・ベートがとうとう子供を誘拐したにゃ」

「いら・・・・・本当にゃあ!」

 

ベートがラストオーダーを連れてきたことで、ちょっとした騒ぎになったものの、ミア母さんの一喝で静まりかえるという、いつもながらの豊穣の女主人。

 

「つうか、この店は趣味変えたのか? 店も心なしか広くなってるじゃねえか」

 

入り口側の壁が取っ払われ風通しが良くなったところに、照らす席が設けられていることに、元凶の二人がそっと顔を背ける。

 

「で、あんたのことだ。そこの可愛らしぃ嬢ちゃんに飯を食わせに来たんだろ。勝手に作っちまうけどいいね?」

「どうせ勝手につくんだろうが。好きにしろよ。あと、ラストオーダー。このハバアは怒らせるとこえぇから怒らせんなよ」

「あんた早速私を怒らせたいのかい?」

「・・・・・何でもねぇ」

夜に向けた店の準備が行われているなか、特別に食事を用意して貰ったラストオーダーは、ご機嫌な様子でミアの用意した食事を平らげると、眠くなったのかそのままテーブルに突っ伏して眠ってしまう。

 

「ったく。どこでもお構い無く寝やがって」

心底面倒そうにしながらも、ベートは会計を済ませて立ち上がった。

 

「この子を置いてくのかい?」

「あん? ちょっくら調べものがあんだよ。少し出てくる」

 

そう告げたベートに対し、ミアは呆れたようにリューへ告げる。

 

「空いてる部屋のベッドに寝かせてやりな」

「わかりました」

 

もうじきで夕方にでもなるかという頃、オラリオの街の闘技場付近を歩いていたベートは、一人の情報屋と会っていた。

 

「子供の情報ねぇ。あんたが欲しがってるような情報に繋がるかどうかは」

「いいから教えろ。些細なことでもいい」

いつになく真剣な顔のベートに、情報屋の男は自信なさげな顔を浮かべながらポツリポツリと話し始める。

 

「ここ一ヶ月前からだ。オラリオの街の外で異変が確認されたのは。交易に訪れる連中が極端に減ってんだが、そのうちの幾つかの行商人が言うのさ。地形が変化してるとか、見たこともない建物をみたが、蜃気楼のように消えたとか。そんでその目撃情報が出始めた頃から、外の世界から来たという連中と出会ったって話もちらほら聞こえるようになったんだ」

 

 

ここ最近ベートの周囲でもそれらしい人物はベート自信も見かけていた。加護無しでダンジョンに挑んで難なく生きて帰ってきた連中。

スラッダー=ハニーサックルの存在や、そいつが話していた内容から情報屋の言っている情報に信憑性はあった。

 

だが、ベートの欲しかった情報はラストオーダーが現れた最初の地点に関する情報である。

そこに彼女の元の世界に繋がる何かがある筈。

 

「やっぱりスラッダーの野郎を捕まえるしかねえのか」

 

出会った時からラストオーダーについて知っていて、彼女を手に入れようとしていた。

 

ならばその驚異を排除するついでにもなるというもの。

 

「礼だ」

情報屋は過剰とも思える礼金に驚きつつも、受けとるとそそくさとその場から走り去っていく。

「だが今のままじゃ、駄目だ」

 

ベートは今一度スラッダーの従える存在との戦いを思いだし、今の自分ではスラッダーを捕らえるどころか、鬼の手やヴェルサスと言った存在に負けると自覚していた。

 

確かに仲間と共に挑めば勝てる相手であるが、スラッダーは恐らく更に強化してくることは間違いないとベートは確信している。

 

「さて。どうすっか」

 

普段考えることが苦手なベートは、頭を悩ませながらもときた道を戻るのだった。

 

 

 

 

ベートがラストオーダーを迎えに豊穣の女主人へやって来ると、ラストオーダーはブカブカのウェイトレス制服に身を包み、愛くるしい笑顔を振り撒いて客から次々と注文を取っていた。

 

その光景に一体何が起こっているのか、ベート自身困惑するのだが、戻ってきたベートにミアが笑って説明する。

 

「実にいい子を拾ってきたじゃないかベート。お客に大人気過ぎて注文に厨房が追い付かないくらいだ。それに比べ他は」

 

「なにおー! 頭がおかしいとはなんだ! 今この場で私が頭がおかしいことを証明して欲しいならその喧嘩買いますよ! 黒より黒くいだい!」

 

まさしくミア母さんの拳骨で黙らされ店の奥に引きずり込まれるめぐみんに、

 

「お前はそれでも客か! もっと下卑た視線を向け、卑猥な注文の仕方があるだろ! 冒険者の矜持を見せてみろ! むしろやって見せろ!」

 

多くの男冒険者をドン引きさせるダクネス。

 

「あん? お前ら肉が足りてねぇんだよ肉食え肉」

オラオラ営業するモードレッド。

「余のお勧めはこのサラダじゃな。もっとも魚も良いがこの料理の良いところは彼の」

 

説明がやたらと回りくどくながったらしいネロ。

 

「すみませんすみません!」

 

皿を割ったり注文を間違える凛という、中々に濃い面子が揃っている。

 

その中でラストオーダーは、

 

「あまり飲み過ぎたら駄目だよ? ってミサカはミサカは奥さま風に心配してみたりして。でもお給金がないとミサカは今日もスープ一口の味しか幸せ噛み締められなかったりと哀願してみたり」

 

「「「「可愛いいいいいいいい!!!」」」」

 

そんな荒くれ冒険者の癒しポジションに収まっていたラストオーダーを見て、ベートは嘆息するとカウンターに座った。

 

「あ! お帰りと新妻風に色仕掛けで出迎えてみたりとミサカはミサカは上目遣いにみてみたり」

「馬鹿が。・・・・・・いつもの酒だ」

「いつものお酒かしこまり~ってミサカはミサカは笑顔で承ったり」

 

そんなラストオーダーの楽しげな姿を横目でみたベート。

 

(ま、焦ることはねぇか)

 

もう少し彼女が、この街の住人と楽しく過ごす時間に、柄にもなく思いを馳せるのだった。

 

 

 

 

 

 

「え? 装備品や道具を買いそろえて起きたいって?」

「ああ。生憎この街について俺は詳しくない。知っているところがあるなら紹介してほしい」

 

防壁補修工事が佳境に近づき、ゴブリンスレイヤーはこの街の職人に冒険者御用達の店を尋ねていた。

 

「うーん。となると、装備品に関してはゴブニュファミリアか、ヘファイストスかぁ。だが、どっちも値が張るもんばっかだ。まぁヘスティアファミリアにも腕のいい鍛冶士はいる。尋ねて見るのもいいんじゃないか?」

「わかった」

 

職人の情報を頼りに街の仲を歩き回っていると、言われた場所にヘスティアファミリアのホームは存在していた。

「でかいな」

 

そんな簡単な感想を口にしながら、呼び鈴を鳴らすと狐獣人の少女をがメイド服姿で出迎える。

 

「いらっしゃいませ。えーと、どなたかとお約束でも?」

「約束はない。人伝にここに腕のいい鍛冶士がいると来て尋ねた。もし約束が必要なら日を改める」

 

「ヴェルフさんですね。そう言えばこの間の戦いに参加されてましたよね」

「ああ」

 

小さく首を縦に振るなか、春姫がゴブリンスレイヤーを中に通して応接間に案内する。

 

「ただいまヴェルフ様をお呼びするのでお待ちくださいね」

そう告げて春姫が姿を消してから、暫くしてヴェルフがやって来る。

 

「待たせたな。俺に仕事を依頼したいって? 悪いが魔剣は打たないぞ」

「そんなものはいらん。ゴブリンに奪われでもしてら厄介だからな。俺が頼みたいのは装備の修繕と予備の製造だ。金ならある」

 

そう言って今装備しているものと同等の型の装備品を袋から出して見せた。

 

「大分使い込まれている。てかすげーよアンタ。これまでずっと同じ装備で戦い続けてんだろ。これは年季が入ってる。何だか心が踊るぜ」

「やれるか?」

「誰にきいてんだよ。むしろやらせてくれ。最高のものに仕上げる!」

「頼む」

 

そんなゴブリンスレイヤーの様子をいたく気に入ったヴェルフは、思わず尋ねていた。

「でも、こんな装備じゃ深層は大変だぞ。こういう装備でやりあえるのはゴブリンクラスじゃないか」

「俺はゴブリンスレイヤーだ。深層とやらが何か知らんがそこにゴブリンがいるなら俺は行く」

 

「そ、そうか」

 

返す言葉が出なかったヴェルフであった。

 

そして装備の修理とオーダーメイドを頼んだ次に向かったのは、オラリオの道具店だった。

 

 

「へいらっしゃい。そこの小鬼の尻ばかり追いかけてる実に執念深き男よ。道具の入り用なのだろう? 是非見ていくが良い」

バニルに取っ捕まったゴブリンスレイヤーを見て、本日もしぶしぶバイトに出てきていた楓は、二人のやりとりを黙って見ていることにした。

 

「これはなんだ?」

「お目が高いな客人。それはうちのポンコツ店主が仕入れた珍しい逸品でな。魔力エネルギーを循環させて点灯するカンテラだ。半永久的に点灯するがデメリットは、放熱機構がイカれていてな。徐々に熱くなって持てなくなるのと、最後に爆発する自爆機能付きだ」

 

「買おう」

「即答かよ。本当にかうのか?」

「無論だ。爆発の威力と有効射程を聞いておきたい」

 

真剣に尋ねるゴブリンスレイヤーを前に、楓は一応確認した。

 

「こんなもの買って一体何に使うんだ?」

 

「無論決まっている。ゴブリン退治だ」

 

「そんな客人にはもうひとつ素晴らしい商品をお店しよう!」

「是非見せて貰おう」

 

楓はこの時悟った。この世界に危機が訪れてはいるが、それはこの世界のゴブリンにとっても同じなのだと。

通常は売り物になら無い凶悪な魔道具も、ゴブリンスレイヤーかかれば立派なゴブリン殺しの道具になる。

いわばこの二人はゴブリンにとって出会わせてはいけない存在なのだと。

 

「故郷なきバイト少年よ。我輩は人間の悪感情が好物である。故に人間に害しかないゴブリンが滅んでくれた方が好都合なのである」

 

楓の心を見透かしたように答えたバニルに、ゴブリンスレイヤーは一枚の仮面を手に取った。

「それは我輩の仮面を模造したものでな。それをつけると滋養強壮にきき気分が高揚する効果が得られる優れもの。お一つサービスしてしんぜよう」

「貰おう」

 

余談だが、バニルの仮面を被った謎の冒険者が、

「ふははははははは! 絶好調! 絶好調過ぎるぞ!」

と、高笑いを浮かべゴブリンを虐殺して回っている目撃情報があったとか。

 

その正体は未だ謎であるが、唯一一人だけ知っていたのは楓だけである。

 

 

 

「何だか窮屈な思いをさせてごめんね姫様」

「ううん。クウェンサーが謝ることじゃないよ。クウェンサーは私のことを助けてくれたんたよ?」

 

スラッダーによるオブジェクトでの襲撃事件。一応ミリンダ=ブランティーニはお咎め無しとされたが、スラッダーの細工を警戒し、ギルドは彼女を幽閉する方向で動いていた。

しかし神々の会議デナトゥスで、彼女の幽閉に反対したのはヘスティア筆頭に、タケミカズチ、ミアハ、ヘファイストス、フレイア、ヘルメス達。

過半数に満たないまでも、先頃活躍が目覚ましいファミリアとそれに、フレイアとヘルメスが反対したことで、妥協点で豊穣の女主人で預かるという形で落ち着いたのだ。

 

本来であれば自由の身になれたのに、戦いが終わって助け出されてから幽閉では、功労者のクウェンサーも納得いかないだろうし、それに付随して嵯峨楓が仮に反乱に手を貸した場合、オラリオは間違いなく打撃を受ける。

 

もっとも豊穣の女主人に預けておいた方がミリンダにとっても安全であることは、クウェンサーも知っていたので、後になって報告を受けても揉めることはなかった。

 

「へいお待ち」

 

「って、アンタ今度はここで働いてるのかよ」

「悲しいかな。我が主が皿を割りすぎてクビなり、俺が皿の弁償ついでに生活費を稼いでいる。もっとも都合がいいことであるのは否定せん」

 

普段の霊装と違い、凛によって用意された白のワイシャツと黒のズボンとサロン姿は、オラリオの婦女子達に大人気で、豊穣の女主人は昼間からアーチャー目当ての女性の客で盛り上がっていた。

「都合がいいって監視のことか?」

若干険のある言葉で返すクウェンサーだが、アーチャーは苦笑で返す。

「護衛と言って欲しいな。ミリンダ=ブランティーニとラストオーダー。彼女達二人を狙ってスラッダーの刺客が来るだろう。幸いここにはガサツだが腕の立つセイバーと、サボりぐせがあるが腕の立つセイバーがいる。マスターが苦労する姿が目に浮かぶようだ」

「なんだとこら」「なんじゃと!」

 

モードレッドとネロが揃って抗議の声を上げるも、アーチャーはこれを無視。

 

「何にしても貴様は自分がすべきことに集中しろ。貴様は彼女のナイトなのだろう? クウェンサー=バーボタージュ」

 

 

アーチャーの喝ともとれる言葉に若干不貞腐れながらも、店を出るときには、

 

「クウェンサー、頑張って!」

 

いつぞやと同じく、小さな声でクウェンサーにこっそりエールエールを送るミリンダのお陰で、くさくさした気分はどこかへと消えていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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