異世界ヒーロー   作:氷雨蒼空

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第二章 迷宮編
第十話 新たな動きと、ときどき大騒動


歪に歪んでしまった世界。

 

どんなに歪に歪んでしまっても、世界はどうにか存続しているのだから、それが神の力かはたまたこの星の生命力なのかは兎も角として、スラッダー=ハニーサックルにはそれはそれで興味深いことではあった。

 

もっともオブジェクト設計士である彼の、オブジェクト設計とオブジェクトを生身で倒す存在以上には興味はわかなかったのだが。

 

世界が存続しなければスラッダーの野望は叶うこともない。

 

それはそれで彼にとって非常に困る事態だった。それ故にヘルメスの不確かな“希望となる英雄の到来”や、フレイアの“希望の光の成長”などというこれまた不確かなものにすがるほど、綿密な計算や公式の存在しないものに頼ることなど、到底考えられないことだった。

 

自分は自分の道をゆく。

 

かつて一人の派遣留学生が自分とは違う形で、オブジェクトによるクリーンな戦争の在り方をひっくり返したように。

 

「つまり、俺と君は似た者同士というわけだ。学園都市第一位」

「あん? てめえと一緒にするんじゃねえよ。俺は俺で俺なりの悪党の美学を持ってる。てめぇのそれと一緒にするんじゃねえ」

 

色素が抜けた髪と肌を持つ少年は、薄暗い部屋の中で円卓の前に座り苛立ちの顔を浮かべると、その背後では半透明の存在がニヤニヤとした笑みを浮かべていた。

 

 

クリファパズル545。

 

その半透明はそのような名を持つ悪魔だ。もっとも少年に付き従うまでは別の悪魔によって産み出された存在だが、そのような“些末な過去”はこの場の者達にとってどうでも良いこと。

 

 

「成る程。契約上君と俺は対等だ。俺が持てる知識と技術で協力はしよう。それと」

 

少年───アクセラレーターの側に一人の女騎士が歩み寄る。

ヴェルサスと呼ばれる擬似鬼の力によって洗脳された“筈”のアルトリア。

 

「彼女と契約を結べば彼女は君のサーヴァントとして力を貸すだろう。もっともそうしなければ、彼女は霊的力を食うこともしないために存在はもうじき消えるだろう」

 

サーヴァントの性質を知り尽くしたスラッダー。

ヴェルサスという力があれば彼女の存在は維持できたが、研究途上であるヴェルサスの力を未だ完全に把握しているわけではない。

 

それ故にここに来るまでの道中でヴェルサスの力に抵抗してみせたアルトリアはに対し、スラッダーはヴェルサスを解除し、彼女に取引を持ちかけた。

 

決まったマスターのいない彼女にマスターを与え、聖杯戦争への参加資格を与えること。

 

かつて衞宮士郎との契約時に見せた真っ直ぐで高潔な精神の彼女であったが、その性格の依り処がない今、優先すべきは聖杯戦争に参加し生き残ることであった。

 

「魔力何てものは俺にはねぇぞ

「ベクトル操作。それを利用すれば存在する魔力を集めることはできるさ。その貯蔵カートリッジはこれだ」

 

そう言ってスラッダーは拳銃型の注入器と、マガジン式カートリッジをアクセラレーターに投げ渡す。

 

「用意周到じゃねぇか。気に食わねぇが利用できるもんは利用してやる。ただし」

 

突如アクセラレーターの目の前のテーブルがスラッダー目掛けて吹き飛んで行くも、それはスラッダーにぶつかることなく目の前で粉々にくだけ散った。

 

舌打ちをするアクセラレーターは、静かに立ち上がり背中を向けた。

 

「“あのガキ”に今度変な真似をしてみろ。俺がお前を殺す」

「これは怖いなぁ。ほんの実験さ。二度としないから安心したまえ。ただし君が協力的であるうちはだ。わかって頂けていると思うが、オラリオの町には草を仕込ませている。君と似たお人好しが側にいて守っているみたいだが、下手なことを考えない方が安全性は高いと思うがね」

 

 

「何が対等だ笑わせてくれるぜ。人質とっておいて対等なんて抜かしてんじゃねえ」

「対等さ。何せこっちは自分の命を獰猛な奴の前にさらしているんだからな。その気になったら殺せるだろう? その代わりに道連れを用意してるだけの話だからねぇ」

 

 

スラッダーの言葉に耳を傾けることなくアクセラレーターはアルトリアを連れ、薄暗い部屋を出ていくのだった。

 

 

「それで今度は誰をオラリオの町に派遣するのさ?」

 

先程まで存在すら感じさせなかった人物が、待ち遠しそうな様子で円卓の椅子に座っていて。

 

「嵯峨楓を殺すなら“同郷の者”がいいだろ」

 

スラッダーが目を向けたのは、燃えるような深紅の髪の、左頬まで覆った漆黒の眼帯の女性だった。

 

 

「フランチェスカ=ヴェルズ。君の出番だ」

「ふん」

 

 

 

 

 

鬼が封印されし地とされる岩手。それが嵯峨楓の故郷だった。

嵯峨家は古くからこの地を守護する家柄として有名で、嵯峨飛燕流装武術と呼ばれる様々な武器を扱う古流武術を開き、さらには世界屈指の金持ちである嵯峨財閥の家としたも有名であった。

 

その実家が所有する神社の境内を掃除するのが楓の朝の日課だった。

 

ある日のこと、いつもの日課をこなしていると、西洋のドレスにも似た装束を羽織り、白銀のプレートと籠手を装着する奇妙な出で立ちの少女と出会う。

 

「ふむ。実に良き神聖な場所じゃの。余の城として使用するのも吝かでない。そこの者。どうじや? 余と契約せぬか?」

 

突然の来訪と、意味不明な言葉を口にする少女に対し、楓は半ば可愛そうなものを見る目を浮かべ、朝食として持参したお握りを彼女の手に持たせた。

 

「コスプレ日本旅もいいが、ちゃんとパンツは穿いた方がいい」

 

少女の衣装の際どさを率直に指摘して、再び何事も無かったように掃除を始める楓。

 

 

「それが余と奏者の初めての出会いじゃ」

 

 

 

豊穣の女主人の昼間の部の開店前の朝、一仕事終えたネロはアーチャーが入れてくれたコーヒーを口にしながら、モードレッドに楓との出会いを話していた。

 

 

 

「あん? お前痴女だったのか」

 

「違うわ!」

 

一日の始まりは決まって平凡で他愛ないもので、二体のサーヴァントが早朝のティータイムに談笑している頃、主は今では日課となるアルバイトに顔を出していた。

 

かつてとある世界が聖杯戦争で滅び、封印されていた鬼が平行世界へとその魂を分散させた。

 

その結果、魂が強力な力で互いを引き寄せあい今に至っている。

その鬼の魂の核を有する嵯峨楓は、滅んだ世界から偶然にも別世界に飛ばされていた。

実に様々な世界を渡り歩いた。

 

およそ十代半ばの年齢で止まってしまった肉体で、肉体以上の年月を経験してきたが、その大半は孤独だった。

時に寂しかったかもしれない。だがそんな感情はとっくに忘れていた。

だが疲れだけは今も感じている。ふと気を抜けば、今すぐにでもこの旅路を終わらせたいとさえ思う。

 

だが終われない。悪意によって世界が再び破壊されようとしている。

 

それを止めるために、楓はこの世界に来てから旅をしていた。

 

「なのになんで俺はこんなことを・・・・・」

 

「ふははははははは! 何を憂いている。鬼の魂を宿す哀れな宿命を持つ、見た目の割りに更年期を通り越した精神年齢の男よ」

 

「憂いてない」

 

「ではあれか。一周回って思春期であるな。ふははははははは! 恋に励んで見るが良い! そして多いにフラれ我に悪感情を捧げるが吉と出た」

 

人の心を見透かしているのか、これ以上言葉で返してもバニルに勝てないと悟り、楓は更に口数を減らしていると、ミアハファミリアのナァーザが不機嫌そうな顔で何かを探しすように歩いていた。

 

「おっと、鈍感系主に好意を寄せるも未だ叶わぬ哀れな犬娘よ。うちのポーションを買っていくのが吉とでた」

 

 

売り言葉が三度の飯より大好物なのか?

 

バニルの度々挑発する言葉に楓は呆れながらも、この場の様子を眺めていると、ナァーザは物凄い剣幕でバニルに突っ掛かってくる。

 

「あなたの差し金? 営業妨害もいいところ」

 

感情乏しい声音でも感じられる怒気に、バニルは陽気な笑いで返して見せる。

 

「ふははははははは! 見えるぞ。そうか。あの性悪女神にポーションを駄目にされたのだな! なるほど。我輩もあの性悪女神にいずれ一発きつーいやつを食らわせてやろうと思っていたところだ。だが何分奴は見通せんので正確な場所などわからぬが、大方の予想はできるわ。アクセルの街で借金を背負ったあやつらは、この街で一攫千金を狙うもダンジョンのレベルの高さについていけず、本日もサトウカズマの止まっている馬小屋で内職に精を出している頃だろう。行ってみるがよいわ!」

 

バニルの情報を元にナァーザは颯爽とその場を走り去っていく。

 

その10分後。

 

 

「アンタねこの陰険悪魔! アンタのせいで寝泊まりしてる馬小屋から追い出されたじゃない!」

 

 

アクアがバニルの店に早速乗り込んできて、早くも因縁をつけてくるが、

 

「日頃の行いを棚上げして悪魔のせいにするとは、さすが頭の可笑しい連中で有名な宗教の首魁であるな。普段から女神らしく振る舞っていれば良いものを、貴様の悪感情だけはくそ不味くてかなわん。早々に立ち去るが良い」

 

「言ってくれたわね! なら女神らしく振る舞ってあげようじゃない。セイクリッドいだだだだだだ」

 

「この馬鹿! 元はお前が悪いんじゃねえか! 駄目にしたポーション代金だけじやなく、バニルの店を壊して借金増やすつもりか!」

 

「ち!」

バニルの舌打ちに横目で見ていた楓は嘆息する。

つまりは、ナァーザをけしかけ、アクアに乗り込ませたところ、この店を破壊させて売れない商品と水増しした店の修理代金と、慰謝料をぶんどるつもりだったか。

 

見通す力がなくても楓には容易に読めてしまった。

 

「何でもいいが、俺は上がるぞ」

 

「そこの日々旨くもない陰鬱な感情を垂れ流すあわれなバイトよ。上がるついでにそこの性悪女神を連れてダンジョンに潜るが吉とでた」

 

 

「は?」

 

 

仮面ごしに楓を見透かしたように見てくるバニルは、ピンと人差し指を立て、

 

「行ってくるがよい小僧。冒険というものにな」

 

 

 

 

 

『そこの日々クルセイダーの熟れた肢体に欲情してる男の世界ではロールプレイングとやらが流行っているらしい。仲間を募り難関突破することで、貴様に欠けていたものが見えてくるだろう。ついでに店の為になるものを見繕ってくるが良いわ。バイト代を弾むぞ。ふははははははは!』

 

そんなバニルの胡散臭い送り出しの言葉を思いだしつつ、楓はアクアと一緒に街中を歩いていた。

 

ちなみにカズマは、アクセルの町から来たダストという友人と共に『ちょ、ちょっと、遊郭・・・・・じゃなくこの街を友人に案内してくるよ~』と言われ、半ばアクアを押しつける形で早々といなくなってしまった。

 

「この街のダンジョンは噂では一攫千金が凄いらしいのよ! これで一山当てればカズマさんも泣いて羨ましがるに違いないわ!」

 

「一攫千金が凄いのはこのダンジョンに限ったわけじゃないけどな」

 

この知性が足りてないアクアに、既に不安しか感じられない楓は、仲間を募るために豊穣の女主人へと足を運ぶと、

 

「丁度いいところに来たな嵯峨楓。早速だが世界の為に死んでくれ。いや、手短な願いで言えばこの店の為に死んでくれ」

 

 

「随分とスケールが途端に小さくなったな」

 

困り果てたアーチャーの顔から、不機嫌そうなモードレッドへ視線を向ける。

 

「貴様のサーヴァントが酔っぱらい客を今週だけで56人ほど【ディアンケヒト・ファミリア】送りにしてくれてな。【戦場の聖女(デア・セイント)】がお冠だ。さすがにミアに昼間を任されている私の給金にも響く。最も貴様が死んでくれればこんな茶番をせずに済むのだがな」

 

「じゃあ何で殺しにこない」

 

「我がマスターがどういうけか中途半端な慈悲を拗らせてしまってな。無論以前の私ならそんなものを無視して貴様を殺しに行っていただろう。だが今は“あの時”と状況が違う。今はマスターの気まぐれに振り回されるのも悪くないと思ってるわけだ」

 

アーチャーの言う事情に耳を傾けながら、楓はモードレッドを一度みやり、少しばかり嘆息すると、モードレッドの側に歩み寄った。

 

まるで子供のように拗ねた所に可愛らしさを感じてしまった楓だが、それを口にするほど楓も野暮ではなかった。

 

 

「・・・・・モードレッド。一緒に冒険しよう」

 

不機嫌そうなに腕を組んで壁に寄りかかっていたモードレッドは、ちらりと楓をみやると盛大にため息をついた。

 

「お前も少しは誘い文句勉強しろよな。そんなんじゃ一生モテねぇぞ」

 

 

「必要があるのか?」

 

「あるんじゃねぇのか。お前だって大人になったら結婚考えるだろ」

 

そう言われ楓は考えたこともないと首を傾げる。自分のいた世界が滅び帰るべき世界もなく、この先もどうなるかわからない。

それゆえに自分の将来など思い描いたことなどなかった。

 

ましてや鬼の力を宿し、日々その侵食と戦う毎日。

 

それ故に自然とついて出た言葉。

 

「俺に必要なのはお前だモードレッド」

 

「は?」

「え?」

「「にゃー!!」」

「あら」

「た、大変! か、カズマさんに知らせなきゃ!」

 

 

買い出しから戻ってきたリューとクロエ、店の掃除を手伝っていたアーニャとクロエ、アーチャーに厨房から追い出されたばかりのシルと、その場で退屈そうに待っていたアクアが、楓の告白に顔を真っ赤にして驚きの反応を示した。

 

「奏者よ! 余のことも忘れているのか!」

 

店の外を掃き掃除していたネロが慌てて楓に詰め寄り、今まさに修羅場が始まりかけたところで、

 

「ネロ。勿論お前だって俺には必要だ。二人がいてくれないと俺は困る」

 

本人は鬼の力を抑制する意味で告げたつもりであったが、モードレッドとネロは柄にもなく顔を真っ赤にして照れを隠すのに必死であった。

 

「やれやれ。どうでもいいが、準備の邪魔だ。そこのあまり役に立たないサーヴァントを引き取ってダンジョンに行くなりなんなりしてくれ」

 

どこか温かな眼差しを向けてくるアーチャーに、楓はコクりと頷いて店を出ようとし、

 

「人手がへったからアクアを置いて行こうか」

 

以前アクアが一度だけ豊穣の女主人を手伝った時の悲劇を思い出してのか、アーチャーは、

 

 

「店の酒を駄目にする気かたわけ」

 

即答で断ったのだった。

 

 

 

「アーチャーの奴すげえ剣幕だったが何をしでかしたんだお前」

 

新たな仲間を募るために、街中を歩いていた楓達だったが、モードレッドはアクアにふと豊穣の女主人でやらかしたことを尋ねる。

 

「私はただお酒を運んでいただけなのよ! そりゃトイレ掃除とかは滅茶苦茶喜ばれたけれど、私の神聖な浄化能力がお酒を水に変えちゃうのは仕方がないじゃない! それでお酒や料理を運ばせて貰えなくなったから、得意の宴会芸を披露してあげたのよ! そしたら宴会芸目当てのお客さん達ばかり増えちゃったのよ。でも仕方がないじゃない! 私の宴会芸が料理の魅力を上回ってたんだから!」

 

 

「そりゃミアが怒るのは無理無いことじゃな」

 

アクアが断られた理由に一同は納得。

 

「しかし仲間を集めると言っても宛はあるかの奏者よ」

 

ネロの問いかけに、楓は今一度バニルの助言を思い出す。

 

 

『攻守に優れたパーティー編成も大事であるが、物資の運搬とそれを守るための適材適所の人材を集めるが吉だぞ小僧。やたらと人数を増やせばその分だけ分け前は減る。それも考慮仲間を集めるがよい』

 

その言葉を思いだし楓は今一度三人を見るが、ネロは近接戦闘は得意だが、宝具の特性と本人の資質からして指揮官的な役割が適している。

 

更にモードレッドは完全に前衛特化型でアクアは魔法に優れた後方支援系。

最もアクアに関しては、カズマがこっそり楓に耳打ちした来た情報から、ステータスは知性と幸運以外カンストしているが、必ず何かしらやらかす問題時。

 

あまり単独で行動させずに監視役をつけた方がいいとか。

 

そんな奴を押し付けてくるなよと今更ながらに思う楓だが、既に事態は進んでしまっている以上どうしようもない。

 

「とりあえず運び屋(ポーター)と、遠距離攻撃を1人、前衛と中衛を一人ずつ加えるか」

 

最も臨時で仲間になってくれる者がいればの話だが。

 

楓は1人胸中に不安を抱えながら街を歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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