異世界ヒーロー   作:氷雨蒼空

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第十二話 強襲

「随分とよわくなったんじゃない楓。嵯峨飛燕流ってそんなもの?」

 

くるくると大鎌を振り回すフランチェスカ。その大鎌の重量を軽く扱える腕力からして、彼女がただ者ではないことは、初対面であるネロはすぐに理解する。

 

だが崩壊した世界の時からの付き合いであるネロは、彼女のことを知らない。なのに楓とフランチェスカが互いを知っていることに、

 

「奏者、あやつと奏者はどういう関係じゃ? 余は知らぬぞ」

 

「そうだ! マスター俺も初耳だ! お前俺の知らないところで女作ってたのかよ!」

 

ネロとモードレッドが極端に不機嫌な態度を見せたことに、若干の理不尽さを感じる楓。

 

「何で怒ってるんだ?」

 

「「別に怒ってない」」

明らかに怒っているとしか思えない発言なのだが、本人達が認めない以上追求しようがない。

 

「フランチェスカはヴェルズコーポレーションの令嬢“だった”。嵯峨財閥とヴェルズコーポレーションは長い付き合いで、彼女は幼馴染みで許嫁でもあった」

 

「「許嫁!!」」

 

まるで魂が抜けたように呆ける二体のサーヴァント。

 

「どうでもいいけとデカブツが襲ってくるわよ?」

 

空気を読まないことで定評のあるアクアの指摘に、

 

「「どうでもよくない」」

 

殺気と怒気の孕んだ声でモードレッドとネロが一喝。

 

「ちょっとヘイヴィア! 二人が理不尽に怒るの!」

 

涙ながらにヘイヴィアに鼻水を擦り付けながら喚くアクアに、迷惑そうにヘイヴィアはアクアを引き剥がそうとする。

 

「うっせぇ! 鼻水押し付けるんじゃねえ!」

 

そんなアクア達をよそに、楓とネロはゴライアスの攻撃を巧みにかわし、フランチェスカの不意の攻撃に対応を迫られ、危機的状況に陥る。

 

無論ゴライアスの標的の中にはフランチェスカも含まれているのだが、フランチェスカは巧みにゴライアスの死角を利用し、瞬間的なゴライアスの攻撃タイミングを先読みし、攻撃を誘導しているのである。

 

天性の戦場把握能力と言っても過言ではないそるに、ネロも敵ながらフランチェスカを内心で称賛していた。

 

(余が人間だった頃に戦場で会いたくないやつじゃな)

 

 

「奏者! 余に鬼の力を使え!」

「駄目だ。フランチェスカ相手に使えない」

 

「こんな時に敵に情けをかけるか」

「フランチェスカは敵じゃない!」

 

言い切る楓に対し、憤りを覚えたのはモードレッドでもネロでもなく、フランチェスカ本人であった。

 

 

「・・・・・・敵じゃない? 笑わせないでくれる? 私の両親を殺し、妹を殺し世界まで滅ぼしたあんたが!」

 

フランチェスカは大鎌を一回転させ、その刀身に蒼炎を纏わせる。

 

絶対焼失の蒼炎刀(ヴァナ・フランヴェルジュ)

 

蒼炎が存在するだけで放つ熱波は、側に迫ったゴライアスに触れることもなく燃やしはじめる。

 

「あの力・・・・・・宝具に相当するぞ奏者。ただの人間が通常扱える力でない」

 

ネロの疑問にもとれる言葉に、楓は白の刀である霊刀赤光(しゃっこう)と、黒の刀である霊刀焔影(えんえい)を構え、迫り来る霊気のこもった熱波を切り裂く。

 

 

「お前が俺を憎み殺したいのはわかるが、今は殺される訳にはいかない」

 

「そんなアンタの都合なんか知らないわよ!」

 

放たれる蒼炎を霊刀で切り払った時だった。

 

焔にまみれながら拳を振り上げるゴライアスに、ゴブリンスレイヤーが持っていたバニルの店で買ったカンテラをぶつけた。

 

次の瞬間、その場で大爆発が起こりゴライアスが腕を吹き飛ばされて唸り声を挙げた。

 

「くそーーーーー! 使うなら前もって言いやがれ! 耳がいてぇじゃねえか!」

 

文句を言うヘイヴィアに、ゴブリンスレイヤーは、

 

「使う瞬間を敵の前で教えるものか。ゴブリンの前なら特にな」

 

 

「「「ゴブリンじゃないから!」」」

 

アクアとヘイヴィアとクウェンサーが涙目で抗議したものの、結局帰って来た言葉は、

 

 

「そうか」

 

 

素っ気ない言葉であった。

 

一方、攻撃を無力化されながらも、フランチェスカの攻撃は楓やネロを圧倒していた。

 

「こやつ化け物か!」

 

サーヴァントの腕力にも匹敵する衝撃を、なんとか受け流すネロ。

 

「サーヴァントに言われたくないわよ! ・・・・・・もっとも」

 

不敵な笑みを浮かべるフランチェスカに、ネロは咄嗟に楓を突き飛ばした瞬間、その胸に深紅の槍が突き刺さる。

 

 

「まず一体」

 

 

ネロを貫いた大槍が自動的に引き抜かれて持ち主の所へと戻る。

 

今まで姿を隠していたそれが姿を現すと、フランチェスカの側に降り立った。

「あまり好きじゃないやり方だが、ここは戦場だ。悪く思うなよ」

 

そう告げるサーヴァント。

 

「そ・・・・しゃ・・・・余は・・・・・これまでじゃ」

 

そう告げ光の粒子となって消えていくネロに、楓はその頭を優しく撫でる。

 

 

 

「・・・・・・ネロ。勝手に俺の側から離れることは許さない」

 

「駄目じゃ・・・・その力は」

 

 

楓は意を決した顔を浮かべた時。

 

《我が内に宿るは鬼の神と十一の楔。十の棺と鎖は己の旅路(あゆみ)と嘆きを表し、その道を理解するものはなく、ただ孤独に闇の中から太陽を恨めしく見上げるだけ》

 

 

「やめ・・・・・よ・・・そう・・・・・しや」

 

涙ながらに訴える消えゆくネロを、それでも繋ぎ止めようと楓が力を解放しようとした時、その胸をフランチェスカの刃が貫く。

 

 

 

「させない! あんたをここで殺す!」

 

「遅かったな」

 

 

不敵な依美を浮かべる楓に、大槍を持つサーヴァントが危機を察知してフランチェスカをその場から抱き上げるように引っ張り出す。

 

「一体何が起こってんだよ!」

 

一連の光景を見ていても理解が追い付かないヘイヴィアに、モードレッドが悔しそうな、それでいて悲しみの混じった視線を楓に向け話す。

 

 

「マスターはネロを助けるために賭けに出たんだ。本来解き放ってはいけねぇ封印の力を解き放ち、その霊力でネロを繋ぎ止めようとしてる」

 

「・・・・・その言い種じゃ何か問題あるんだろ?」

 

クウェンサーの質問にモードレッドは歯噛みする。

 

「本来鬼神の封印は十の封印を施す神の化身とそれを統括する神で構成される。その一つを目覚めさせるということは封印が弱まる」

 

「なんだよ封印って!」

「俺も詳しくは知らねえけどよ。マスターが特殊な力を備えているのだけは知ってる」

 

 

モードレッドがそう告げた時、楓の足元を中心に巨大な魔方陣が浮かび上がり、巨大な四本腕の巨神が姿を現した。

 

その四本腕が握る十本の鎖に繋がれた棺のうち、一つが蓋を開いた瞬間、中から一体の甲冑騎士の姿が現れた。

 

その甲冑騎士は光の粒子となり消失したと同時に、突如ネロの体が光に包まれ、貫かれた筈の胸は癒えたばかりか、霊装が突如変化しはじめる。

 

「本当に・・・・・・奏者は馬鹿じゃ」

 

力の解放で意識を失う楓を愛しそうに眺めたネロは、そっと楓の体を抱き締める。

 

「やべぇぞ! ゴライアスが敵に脅威を覚えた!」

 

かつてゴライアスの亜種と戦ったモルドは覚えていた。

 

ダンジョンにとって脅威とのる存在に対し、ダンジョンが産み落とした亜種かま敏感になることを。

 

蒼炎によって受けたダメージを早々に回復させたゴライアスが、豪腕を二人のいる場所に叩き付けた時。

 

 

「清浄なる光、意思を持ち大剣、全てを射抜く大槍を持つ万神の加護の前に、我が意志は不屈とならん! 我が意志に応える万神の剣(ファーラグラッハ)

 

その拳がまるで微塵切りの如く砕かれる。

 

「今だ! モードレッド!」

 

 

「クラレントオオオオオオオオブラッドオオオオアーサアアアア!」

 

片腕を破壊され怯んだゴライアス亜種に対し、モードレッドが渾身の宝具の一撃をぶつけた。

 

混線を避けるために一時フランチェスカを待避させたサーヴァントは、今一度大槍を構え、狙いを意識のない楓へと定める。

 

それはこの戦いにおいて明確な勝利を納める為の最善の手段。

 

今ならばマスターが求める結果が得られると考えたサーヴァントの独断であったが、それを許すほど向こう側のサーヴァントは無能ではなかった。

 

ネロは明確な敵意を持って次の攻撃の準備をしていたことに、大槍のサーヴァント───ランサーは小さく舌打ちをす。

 

「随分といい女に恵まれてるじゃねえか。今回は退かせて貰うか」

「ちょ、ランサー!」

「お嬢ちゃん。悪いが今回は退かせて貰うぜ。流石に状況が悪いんでな」

ランサーはマスターの安全を最優先してその場を立ち去る。

 

 

「ったく。逃げ足が速いぜ」

 

力を出しきったモードレッドがぼやくなか、クウェンサーは走り出していた。

まだ戦いは終わっていない。

 

モードレッドの宝具の一撃を食らって尚コアを残すゴライアス亜種は、即座に自己再生を始めていた。

 

「ベルから以前聞いていた。巨大な怪物でもコアを破壊すれば消滅するって。強化されたハンドアックスとコアの強度、どっちが上か確かめてやろうじゃないか」

 

ブクブクと泡を浮かせて自己再生を始めるゴライアス亜種に近づいたクウェンサーは、その手からハンドアックスを放り投げ、爆発の余波に巻き込まれまいと岩陰に逃れた。

 

「これが俺達冒険者のチームワークだ!」

 

コアにへばりついたハンドアックスが、クウェンサーの起爆スイッチによってひび割れを起こし、最終的に砕け散ってゴライアス亜種が消滅する

 

「ハンドアックスの威力を高めてあげた私のおかげでもあるわね。さぁて今回のドロップアイテムは何かしら!」

 

「お馬鹿! 何でお前はそうやってフラグを立てるの!」

 

普段であればカズマの役割であるツッコミを、ヘイヴィアが反射神経の如くツッコんだ矢先だった。

 

階層に広がる大規模な振動が起こり、その場に地割れが起こる。

 

 

「くそ!」

 

モードレッドは近くにいたヘイヴィアとアクアをの体を掴むと、近くの入り口まで投げ飛ばす。

 

「ゴブリンスレイヤー!」

「こっちは問題ない」

 

咄嗟に入り口へと待避したゴブリンスレイヤーはそういうと、持っていた縄をモードレッドへ向けて投げ渡す。

 

ゴライアスへハンドアックスを投げつける為に離れていたクウェンサーは、ただ一人地割れの中へと飲み込まれそうになっているのを見て、モードレッドはゴブリンスレイヤーに小さく首を横に降って見せた。

 

 

「馬鹿を助けに行ってくる」

 

 

そう言ってモードレッドはクウェンサーの元へと走り出す。

 

一方、意識のない楓を抱き抱えていたネロは、地割れを跳躍で交わしながら入り口へと向かう。

 

「奏者だけでも!」

 

先ほどの力の覚醒で回復はしたものの、大技を使ったせいで残された余力は少なかったネロ。マスターを抱えて走る力は残っていても、地割れのスピードには敵わず、いよいよ飲み込まれそうになり、とっさに楓をゴブリンスレイヤーにめがけて投げようとした時、楓の体がずり落ちた。

 

 

いや、すり落ちたのではなく、楓自らネロから離れ、その体を抱き上げていた。

 

「奏者!」

 

気づいた時にはネロを浮遊感が包み、楓の姿が遠ざかっていく。

 

ゴブリンスレイヤーがネロの体を抱き止めた時、楓の姿は地割れの中へと飲み込まれ、クウェンサーやモードレッドの姿さえも見えなくなっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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