異世界ヒーロー   作:氷雨蒼空

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第一話 この素晴らしいくそったれの戦場へようこそ

見慣れない都市を一歩出たらそこは広大な平原だった。

 

まるでどこかを境目にした見えないトンネルを潜ったかのような、そんな一瞬の感覚に戸惑うクウェンサーは、突如地面に放り投げられて地面に顔を強打する。

 

「も、もう少し丁寧に扱ってくれないかな! 一応軍に所属する派遣留学生だけど、ハンドアックス投げるしか出来ない戦闘力ゼロの一般人なんだから!」

 

「ハンドアックス投げれるなら一般人にしちゃ上出来じゃないか。つうか軍人なのか一般人なのかはっきりしろよ面倒くせぇ」

 

 

「綺麗なお姉さんなのに口調が怖すぎる! でもそのギャップがまたいい! っていい加減ここがどこだか教えてくれませんかね? 俺の見立てじゃ資本企業軍に所属する極東の島国だと思うんですけど」

 

早口で捲し立てるクウェンサーに、流石のモードレッドも困ったように肩をすくめて見せた。

 

「お前の言う資本なんちゃらなんて単語は俺は知らねぇよ。本来ならこの時代に召還された時点で情報は入って来るんだけどな。(マスター)、もう到着してんだろ。何か知ってるか?」

 

 

モードレッドが突如岩場に向けて言葉を投げ掛けると、先程までそこにいなかった筈の楓が、まるでずっといたかのように片膝を立てて座って空を眺めていた。

 

 

「ここはお前のいた世界じゃない」

 

しばし訪れる沈黙の後に、モードレッドと楓の間で視線を往復させたクウェンサーは、困惑した顔を浮かべる。

 

 

「それだけ? 他にないの? 美少女ハーレムが待ってるとかお前が主人公だとかヒャッハーとか」

 

「お前が主人公だ。少なくともお前の物語ではなヒャッハー」

 

「おいマスター。何もコイツのノリに合わせる必要ねえだろ。なんだよヒャッハーって。何でもいいがそれだけ分かれば十分だろ。不満なのか?」

 

 

「不満しかないよ! むしろ不満以外何があるんだ! 俺の癒しはお姫様と爆乳上司のおっぱいと未だ見ぬラッキースケベ展開なのに! それに俺はオブジェクトの設計士を目指してるのにこんなところで寄り道してる暇なんかないんだよ」

 

「ったくギャーギャー喚くなよ。そんな事を心配していられるだけ幸せなこった。時期にそんな余裕もなくなるぞ」

 

呆れるモードレッドの言葉に首を傾げた時だった。

 

波打つような地面の隆起と、大気を揺るがすような轟音が三人へ迫ると、モードレッドは即座にクウェンサーの首根っこを掴んでその場から跳躍後退する。

 

次の瞬間には二人がいた場所の地面が陥没し、中から奇妙な触手にも似た手が地面から生えていた。

 

見るからにおぞましいシルエットのそれを、平然とした顔でみやる楓に、流石のクウェンサーもコイツは精神がぶっ飛んでいるのではと、疑ってしまった。

 

「おいマスター! 俺に暴れさせろよな」

「やれるのか?」

「え? 戦うの?」

 

楓の問いに対してモードレッドは得意気な笑みを浮かべてクウェンサーを投げ渡すと、空中から器用にも触手へ突貫する。

 

「マジかよ! エリートも真っ青な身体能力じゃないか」

 

 

「アイツはサーヴァントだ。マスターの俺から魔力を供給され活動できる、お前の知識にあわせて説明するなら、人間型に凝縮した小型オブジェクトだ。もっとも様々な状況と個人差から、個体能力はサーヴァント毎に異なる」

 

 

「凄い分かりやすいけど想像しづらいな! オブジェクトを最小限まで小型化したって、あんな動き出来るか特にね!」

 

楓の横で守られながら戦いを見守るクウェンサーは、そこで自分の異変に気付いた。

 

「あれ? サンタコスから軍服にハンドアックス装備までいつの間にか揃ってる」

 

「恐らくこの世界でのお前の最適化が完了したんだろう」

 

 

淡々と説明してくる楓だが、クウェンサーには今一要領えない内容であるも、それでもはっきりと分かることもあった。

 

それは自分がいつも通り戦えると言うことだ。

 

「モードレッドの攻撃が通じてない。じり貧だぞ」

 

 

クウェンサーならではの冷静な分析の言葉を耳にした楓は、顎に手をあてる。

 

「あの触手との遭遇は二回目だ。前回は決定打が与えられず撤退した。今回はどうにか弱点を探りたいところなんだが難しいだろうな」

 

「おいマスター! 余裕かましてないで魔力寄越せ!」

 

楓は令呪が刻まれた右腕を掲げ魔力を発動すると、大容量の魔力がモードレッドへと流れこむ。

 

「一日三回の令呪だとしても貴重だ。これ以上無理だと判断したら撤退する」

 

「了解だマスター!」

 

 

俊敏な動きで触手の攻撃をかわしつつ、見た目によらない豪快な剣技を見せつけるモードレッドの動きに、クウェンサーは素人なりにも感動していた。

 

「凄い動きだ。ん? 待てよ。最適化されている?」

 

 

クウェンサーは自分の腰にタブレット端末が下げられていることに気付き、それを起動させるとクウェンサーの予想通り、現在の戦闘から得られた情報を表示させることに成功する。

 

「まさかオブジェクト以外の戦闘データが見れるとは。モードレッド耐えてくれ! 今そいつの弱点を見つける」

 

「あ? お前そんなことが出来るのかよ! っち! しょうがねぇ」

 

籠手だけ顕現させていた霊装から、全身へと広げたモードレッドは、霊装武器の剣で反撃の隙を与えないほどの連撃を叩き込み始める。

 

 

「アイツの今の消耗した状態で抑えられるのは残り三分だ。この場で撤退すれば、再度の襲撃に備えながらの移動となる。そうのれば」

 

「わかってる! これを逃したら俺達が危険ってことだろ! そんなこと今まで何度も経験してる! でもどんなに人間の常識を越えた存在であろうと、この地球上という同じ土俵に上がってるんだ。物理法則とかいろんな法則の影響を受けているのは確かだ。なら絶対に倒せないことはない。存在があるなら消滅だってある」

 

クウェンサーは、モードレッドが叩き込んだ攻撃箇所データを羅列していき、そこから細分化された数値の違いから、更に未だに攻撃が通ってない場所を割り出した所で走り出す。

 

「見つけたぞ! 伊達にオブジェクト相手に生身で戦ってきたわけじゃない!」

 

 

「な! お前何を!」

 

戦闘力皆無の少年が突如前に出たことで驚くモードレッドだったが、すぐに少年が何かを掴んだのだとさっした。

 

「このグラム単位がプラチナより高いハンドアックスの火力は伊達じゃない! どんなに化け物染みた存在の一撃でもこの火力の一点突破の威力を出せてないことがわかった。こいつは相手の動きを見た瞬間に体表の被弾部分を瞬時に硬化させ、内側の弾力を利用して衝撃を逃がしてる! ならそれを出来なくしてやればいい!」

 

モードレッドを盾に死角から飛び出したクウェンサーは、触手の体表部分に拳をぶつけると、まるでゼラチン質の如く柔らかい肉質の感触を感じる。

 

だが同時にそれは待ち構えていた捕食体勢でもあった。

 

突っ込んだ腕が、まるで締め付けられるような感触に見舞われたクウェンサー。

 

 

だがその瞳には恐れがなかった。まるで戦場を渡り歩いてきた者が浮かべる確信にも似た瞳に、モードレッドはニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

「モードレッド! 引っこ抜いてくれ」

 

「世話が焼けるぜ全く!」

 

 

触手への剣撃を止めたモードレッドが、クウェンサーを引き剥がして後方へ跳躍した時だった。

 

「人間が造ったものなら必ず壊せるのと同じだ。お前は俺達と同じ土俵にいるんだ! 思いしれえええええええええ」

 

スイッチが押されると同時に触手の内側から盛大な爆発が起こり、触手の血肉が周囲へ飛び散るように霧散する。

 

が、爆発の瞬間に察知したのだろう。

 

触手へ体内にあったコアらしきものを守るために、その周囲に魔力を張り巡らせたのか、触手の一部とコアだけを残して未だ残存していた。

 

「くそ! 今のでも決定打にならなかったのか!」

 

 

「いや上出来だクウェンサー」

 

そう告げた楓が既に動き出していた。

 

 

「くそが。ったく美味しいところだけ持ってくかよフツー。まあいいけどな」

 

 

 

魔力をほとんど使っていたモードレッドも、半ば悔しそうにしながら、霊装維持を解いて怪物と己のマスターの戦いを見守る。

 

 

「砕け散れ」

 

 

嵯峨飛燕流刀技・砕破(さいは)───

 

足音も立たない高速機動からの直進で、眼前に迫るコアを勢いを活かし、ブレることのない太刀を叩きつけることにより、まるでバターを切るかのようになます決まりにする芸当。

 

それが高速の中で一太刀のみならず二度三度行われると言う神業に、流石のサーヴァントであるモードレッドも驚きを禁じえなかった。

 

「・・・・魔術使いの魔法ならいくらでも見てきた。でも魔法を凌駕する剣技なんて使うマスターは今までなかった。全く今回のマスターは何者なんだってんだ」

 

「知らないのか?」

 

地面に下ろされたクウェンサーは、土埃を払いながら尋ねるも、モードレッドから返ってきたのは気のない返事だった。

 

「知らねぇ。アイツは自分のことを話さないからな。こっちのことも聞いてこなねぇし。どうせアイツにとって俺は駒だろうし、俺もそう考えて自分の為に行動したほうが楽だしな。つうか、お前やるじゃねえか見直したぜ」

 

サーヴァントなりに加減しているつもりなのだろうが、クウェンサーの背中を力強く叩いたモードレッド。

 

お陰でクウェンサーは勝利した戦いで唯一の負傷者となったのだった。

 

 

 

 

 

一方。片割れが大平原で活躍を見せた頃、馬鹿もう一人はとても頼り甲斐のある同行者と共に、雪原の中を歩いていた。

 

「何この組み合わせ。俺史上初の会話の少なさなんですけど。あらやだ、こういう時って普通クウェンサーが何かしらとんでもないお約束ごとをしでかして賑やかにしてくれる筈なんですけど! 俺賑やかしじゃないからね!」

 

「ヘイヴィア。少し落ち着いた方がいい。雪原での歩行は体力を普段以上に消耗する」

 

 

セイバーからの忠告に、涙が溢れそうになるヘイヴィア。

 

決してセイバーからの助言や優しさに感動した訳でもなく、今の状況を嘆いているからに他ならない。

 

ましてやトナカイコスから突如軍服へ変換された状況の困惑すら解けていない中、セイバーが霊装か何かかなんて問い詰めてくるものだから、それはもう精神のすり減りは半端ではなかった。

 

わからないものは答えようがない。

 

答えようがないものだから察して欲しい。

 

そんなジレンマを抱えながら歩くヘイヴィアの前では、これまた寡黙な人物が斥候役として前を歩いていた。

 

こんなくそ寒い冬の雪原を、まさに威風堂々とした乱れのない歩行で歩き続けるゴブリンスレイヤーに、ヘイヴィアは思わず中身がターミネーターなのではと疑ったものだが、本人の自己申告で人間であると聞かされ、一応は納得することにしていた。

 

 

「足跡がありますね」

「ゴブリンではないな」

「ねぇ、いちいちあんたはゴブリンと比較しないと物を例えられない病気なの?」

「そのような病気は聞いたことがない」

 

皮肉を真面目な返答で返されたヘイヴィアは、口をへの字に曲げて、一応はスマートバレットが仕込まれたライフルのスコープで周囲を探る。

 

 

「反応は見当たらねえな。集音器を使ってみるか」

 

差し込み口にプラグを差し込み、イヤホンを耳に差し込みながら、マイクを様々の方角へと構えてみると、僅かに何かが聞こえた気がした。

 

 

「何かの呻き声だ。方角からしてしてこっちだな」

 

ヘイヴィアが煽動する形で前を歩き続けると、そこには巨大なカエルが鎮座していた。

 

その大きな口を天を仰ぐように向け、今まさにその口から人間の足を生やしているのである。

 

正確には呑み困れている最中なのだと理解した時、

 

「ゴブリンではないな」

 

「みてわかるだろ! てか助けないと駄目だろ! 俺のスマートブレットじゃ巻きこんじまう!」

 

「俺が右の側面から回り込む」

 

「なら私が左から回り込みましょう」

 

即席メンバーとしては中々に連携がとれた行動力に感動しつつ、出番がなくなったヘイヴィアは大人しく待とうとした。

 

ズシン!

 

背後から聞こえた大振動と、地面を染める大きな影を見るまでは。

 

 

 

「いやあああああああああああ! 俺美味しくないから! どっちか片方助けに来てくれよ!」

 

 

 

「持ちこたえろ」

「貴方なら大丈夫ですヘイヴィア」

 

すっかりライフルを持っていること忘れ、雪原の中で逃走劇を繰り広げるなか、二人は無事に手際よくカエルの餌になりかけてた水色の髪の女性を助け終えていた。

 

これならまたアラスカの方がましだったのではないか? こう言う時には機転の利く相棒がハンドアックスなりなんなりで対処するだろうが!

 

 

俺の役回りじゃねえ!

 

なんて叫び散らしながら逃げ続けたところで、雪の中から犬神家よろしく張りに、雪原から足をにょっきり生やす生き物を発見する。

 

 

「つうかおい! 俺達やけに発見物が多いな! せめてダイヤとかなら喜べるのに!」

 

 

「ゴブリンか?」

 

 

「ちげーよ! つうかいい加減しつけーよ!」

 

 

 

 

「そうか」

 

明らかに興味なさそうな態度のゴブリンスレイヤーは、救出した人物をセイバーに預け、まるで手慣れたように雪原を滑走してカエルに迫ると、棍棒でその頭部を殴打し撲殺して見せた。

 

まさに一撃必殺と言わんばかりの芸当を、離れたところから見ていたセイバーは感嘆の感想を漏らす。

 

「お見事ですゴブリンスレイヤー」

「ゴブリンよりは楽だ」

「・・・・・助けられておいて言うのもなんだけど、あんた本当にゴブリン討伐専門にしてるのか?」

「無論だ。俺はゴブリンスレイヤーだからな」

 

そうですかとため息混じりにいいつつ、ヘイヴィアは雪原の中からニョッキり生えた足を引っ張ると、黒髪の少年が凍死寸前の状態で発見される。

 

 

「うああああ。ありがどね。どこの誰だかわがらないげどだすげでぐれでありがどねえええええ」

 

 

「わ、わかりましたから抱きつかないで、・・_・その・・・・生臭い・・・・・」

 

普段は冷静沈着なセイバーであっても、カエルの唾液の臭いだけは我慢できなかったようだが、ゴブリンスレイヤーはカエルの死体に歩みよって、突如唾液を撥水性のある革袋に詰め始めた。

 

「な、何してるんだゴブリンスレイヤー」

 

若干嫌な予感を覚えたヘイヴィアの予測は正しかった。

 

 

「愚問だ。この唾液は人間の体臭などを誤魔化すのに使える。特に女の匂いに敏感なゴブリンは相手にな。ゴブリン討伐に行く時はこいつを使う」

 

 

そう言って視線を向けられたセイバーは、何とも言えない表情を浮かべた後、

 

 

「私はサーヴァントですので」

「サーヴァントが何かは知らん。女であれば例外はない。使ってもらう」

 

ヘイヴィアはこの時セイバーに心の底から同情すると共に、ゴブリン討伐に行くことがないように内心でそっと祈るのだった。

 

 

 

 

 

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