「いやぁ本当に助かったよ。どこの誰か知らないけど本当にありがとう。俺は佐藤和真。カズマって呼んでくれ。こいつは仲間のアクア」
「ふふん。この水の女神たる私をいだい!」
「空気読め。助けてもらったのにそんな態度とってどうするんだよ!」
ヘイヴィアとセイバーとゴブリンスレイヤーは、雪原の先にあるアクセルと言う街にやって来ていた。
助けたカズマとアクアはこの街を拠点とし、冒険者として活動していると言う。
そして助けられたお礼として、三人はこの街のギルドの酒場で食事をご馳走になることとなったのだ。
最初冒険者というものが何か分からないヘイヴィアとセイバーだったが、同行者のゴブリンスレイヤーが、冒険者と言うこともあり、そのあたりのかいつまんだ説明のお陰で、二人は何とか理解することができた。
最も理解しきれなかったのは、アクアが女神を自称していることだけであったが。
「へぇ、それじゃあそこの人はゴブリンスレイヤーって呼ばれてるのか。しかもそっちのギルドでは一番上って凄いなあ。ま、かくいう俺も数々の魔王軍幹部を倒しまくって有名だけどな!」
「あらやだカズマさん。そこかしこでクズマたのカスマだの言われて有名の間違いじゃなくて?ぷーくすくす」
「おいこらやめろ! 初対面の人になんてこと言うんだ! しかも美人のセイバーさんいる前でやめろよな! お前こそ万年カエルに食われるのと宴会芸が得意なだけの駄女神じゃねえか!」
「あーまたカズマさんが言っちゃいけないこと言った! 取り消して!早く取り消して!」
何とも騒がしい二人を前に、ヘイヴィアは目の前のカエル肉を摘まみながら嘆息する。
「これがあのカエルの肉ですか。生きていた頃の姿から想像できない美味しさです」
セイバーの感想に激しく同意するヘイヴィアだが、来るまでの間に目撃した異様な数々の光景に、若干疲れはてた様子で、早く宿に戻り休みたい気分に駆られていた。
飛び回るキャベツとか意味わからん。本当にここはどこなんだ。
いくら考えたところで見つからない答えに悶々としていると、二人の人物がやって来る。
「帰ってきたと思えば随分と賑やかだな。此方の方々は?」
「ようダクネス。この人達は俺達を助けてくれた人達だ。紹介するよ。うちの前衛役を担っているダクネスと」
「我は紅魔族随一の魔法の使い手! 我が名はめぐみん!」
カズマの紹介を遮り、独特のパフォーマンスを交えたこれまた独特の自己紹介を始める少女を前に、流石のヘイヴィアも顔をひきつらせる他なかった。
(また濃い奴が出てきたよ。流石の俺もキャパオーバーだよ。どうすんの? こう言うの俺じゃなくクウェンサーの役でしょうが! 誰か早くツッコミ役現れてくれよ!)
そんなヘイヴィアの悩みとは裏腹に、自己紹介は進んでいく。
「私はセイバー。一応サーヴァントですがマスターは不在です
」
サーヴァントが何かこの場で知っている者はおらず、その結果、
「へぇセイバーさんって
サトウカズマの中で、彼女はこの世界でいうお役所勤めをしている人なのだと勝手に勘違いをする。
「へぇ、セイバーさんは見るからに騎士の格好をしているようだが、その、う、腕前の方は」
「自分ではそれなりにあると自負しております」
「どっかのクルセイダーとは大違いだな。誰かさんは防御力
だけが取り柄の攻撃が当たらないポンコツクルセイダーだからな」
「にゃは! こ、こんな時に容赦ない口撃・・・・・さすがたな」
顔を高揚させ息を弾ませるダクネスの様子に首を傾げるセイバーだが、ヘイヴィアの危機感知センサーは盛大に反応していた。
(え? 何この人、こんなまともそうな見た目して今の言葉を喜んでるの? 俺も蔑まれると高まるタイプだが明らかにヤバいだろ! いや、俺の予想が間違ってるだけかもしれないな)
「俺はゴブリンスレイヤーだ。主にゴブリン討伐を請け負っている」
「ゴブリン! その話を詳しく!」
ダクネスが興奮のあまりにゴブリンスレイヤーの手を握り、これでもかと言わんばかりに鼻息を荒くして身を乗り出してくる。
この時既にヘイヴィアの中で判決は決していた。
(この人あれだ。駄目な奴だ)
「ゴブリンの習性を逆手にとった戦術を使うことがメインだ。時には水攻めに火攻め。高価な魔法道具の使用も躊躇わん」
「み、水攻めに火攻めだけでなく、高価な魔法道具によるプレイ・・・なんてレベルが高いんだ」
一人悶え転がり回るダクネスに、ゴブリンスレイヤーはただ一言。
「そうか」
常に冷静さをブレさせない鋼のメンタルを見せつけていた。
※
一方、ヘイヴィアがキャラの濃い女性陣達にゲンナリしている頃。
平原にて触手からの襲撃をやり過ごしたものの、クウェンサー含めた三人は、自分達が文無しの状態であることと、着の身着のままであることに困り果てていた。
「どうしよあモーちゃん! このままじゃ俺達ひからびちゃうんじゃないのか! こんな時に消ゴムみたいなレーションすらないなんて0,5世代のオブジェクトと生身で戦うより危機的状況過ぎる! チキンが食べたいチキンが!」
「うっせーモーちゃん言うんじゃねぇ。どうするんだ? モヤシが喚き始めたぞ」
「バジリスクか」
「いや、バジリスクはチキンじゃねえだろ。てか本気で狩りに行くとか考えるなよ? てかバジリスクって架空の生き物だよな?」
モードレッドはこの場でまともに正常な思考が働いているのが自分だけかと思い、果たしてどうすべき悩んでいると、視界の先に街らしきものを捉える。
「おい。向こうに街らしきものが見えるぞ」
「本当! マジ! モーちゃんお手柄だぜヒャッハー」
「ああうぜー。なぁマスター、アイツやっぱり斬るか?」
「行くぞモー。いくら空腹で腹と背中がくっつきそうでも、背に腹は変えられないとう言葉がある」
「お前までモー言うんじゃねえ。てかマスター、お前かなり腹減ってんのかよ」
「・・・・・・今ならラーメン10杯は余裕だ」
「どんだけだよ!」
空腹二人組を引き連れる形で街にやって来たモードレッドの視界には、中世ヨーロッパを彷彿させる街がの風景が広がっていた。
「近代都市の次は中世か。明らかに世界の状況がおかしくなってるじゃねえか。つか防壁デカいな!」
「はぁはぁ。ここどこだよ。もう歩きたくないんだけど」
「ったく本当にモヤシだなぁ。とりあえずなんなく入り込めたはいいがどうするんだよマスター」
「この街がどんな街か知る必要がある」
楓は行き交う人々を眺めながらフラフラと歩き始めると、どこかの店の制服らしき服をまとった少女にぶつかる。
「きゃ! すみません」
「すまない」
手を差し伸べた楓の手をとり、少女は立ち上がると楓をジーっと見つめて、どこか面白そうな者を見る目を浮かべた。
「もしかして他の街から来た方々ですか?」
「・・・・まぁそんなところか」
「そうなんですか! 私、シル=フローヴァと言います。良かったらこの先の豊穣の女主人っていう店で働いてるんですけど、寄って行きませんか?」
「俺達は一文無しだ。食事はしたいが、稼げる手段を探してる」
「ふむふむ。それではギルドへ行くことをお勧めしますよ。そこで冒険者登録を行えば冒険者になれますが、その後はどこかのファミリアに所属することをお勧めしますよ」
シルの丁寧な説明に耳を傾ける楓の後ろでは、クウェンサーがいよいよ空腹に耐えかねてフラフラと露店へ行こうとしていた。
「おいマスター。クウェンサーの空腹が限界らしいぞ。取り敢えず虫でも野性動物でもてっとり早く狩った方がいいんじゃねえのか?」
「空腹なんですね! それじゃあ私の弁当お裾分けしますよ」
満面の笑みで弁当箱を差し出してくるシルの好意に甘え、楓はそれを受け取ると、
「それじゃ私お店の支度があるので行きますね。今夜お待ちしております」
実にしたたかなものであったが、彼女の優しさに対して仇するわけには行くまい。
そう考えた楓は弁当箱を開けてすぐさま閉じる。
「・・・・カラフル」
パッと見の感想を口から漏らした後、楓の行動は早かった。
もはや行き倒れそうになったクウェンサーをみやるなり、
「モードレッド、クウェンサーを羽交い締めに」
「なぁ、マスター、俺もちょっと見えたんだが」
「何も言うな。全ての罪は俺が被る」
「え? ちょ、なに? その箱の中って凄くカラフルだけど、ある意味人間の胃袋に入れちゃ駄目な奴じゃないの? ちょ」
ちーん。
一口ほど口の中にシル手製の弁当を突っ込まれたクウェンサーのショクリポが開始される。
「じゃりじゃりした新食感のサンドイッチの中身が、異次元な香ばしさを口の中で放ち、これはもう不味いか旨いかで語る次元じゃない・・・・・うぅ。この味に慣れそうな自分が怖い」
「おいマスター。クウェンサーの精神が崩壊仕掛けてるぞ」
「問題ない。食べて死なないのであればな。確かに新食感だ」
「ある意味逞しいマスターで助かったよ。じゃあそろそろ」
そこで自分の体が楓に押さえつけられたことに気付くモードレッド。
「おい。ふざけんな。マジで何しようとしてんのかわかってんのか?」
まるで幽鬼の如くゆらりと立ち上がったクウェンサーは、シル手製の弁当箱からサンドイッチを一つ掴み、ゆっくりとモードレッドに迫り来る。
サーヴァントに負けず劣らずのパワーを誇る楓に、流石の危機感を感じてフルパワーで逃れようとするも、
「令呪を持って命ずる。されるがままに受け入れろ」
「てめえ下らねえことに令呪使ってんじゃねえ!」
令呪を駆使した命令を前に、口を閉じることも拘束を解く力も発揮できず、盛大に口の中へと未知の物質が詰め込まれた。
その時モードレッドは見た。
視界いっぱいに広がる虹の中で、天使の姿をしたアルトリアが手招きをしている光景を。
「父上・・・・・今そちらに・・・・・・がく」
ちーん。
※
「よ、ようこそ。は、初めての方でしょうか?」
「冒険者登録したいんだが」
道行く人々に奇異の視線を向けられながらも、何とかギルドへの道を尋ねてようやく訪れた楓達。
「え、えと、登録の前に・・・・・・治療された方が」
奇異の視線の原因は、楓達のパンパンに腫れ上がった顔にあった。
原因と言えばシル手製のサンドイッチが始まりだったのだが、その後にどさくさに紛れ、クウェンサーがモードレッドの胸を触ったのが止めと言えた。
お陰でそのとばっちりが楓にも及び今に至るわけだが。
「取り敢えず・・・・・登録を頼む」
「わ、わかりました」
これ以上モードレッドを不機嫌にさせてはならないと、スマートに手続きを済ませた楓達は、早速ダンジョンへと向かおうとした時、受付の女性に呼び止められる。
「ちょっと待ってください。どこかファミリアへの所属はありませんか?」
「そう言えばそんなものがあったらしいな。ファミリアに入らないと不味いのか?」
「え? 知らないのですか? この街には多くの神様がおられるのですが、その何れかの神のファミリアに所属して恩恵を授からないと、ダンジョン攻略はまず不可能とまで言われております」
そう言われても宛が全くない楓達にとって、ファミリア探しを行っている暇はない。
「んなもん問題ねえだろ。なぁマスター。さっさと行こうぜ。路銀稼がないと日が暮れちまう」
モードレッドに急かされる中、楓は受付嬢に黙礼だけしてその場を立ち去って行くのだった。
※
「エイナ? どうしたの?」
同僚のギルド職員が心配そうに訪ねてくると、エイナ=チュールは先程登録したばかりの新米冒険者のことを思い出す。
「えっとね。さっき冒険者登録した人達がいたんだけど、どこのファミリアにも所属してないみたいだったの。それなのにダンジョン攻略に挑むみたいで、止める暇もなく行かれちゃってさ」
「たまにいるよね。でもまぁ、ダンジョンに入ればわかるんじゃない? 命の危険を知れば引き返してくるって」
呑気な笑みを浮かべる同僚に、エイナは不安を隠しきれずに顔をうつ向かせる。
「ごめん。ちょっと出てくる」
あの冒険者達をそのままにして置けない。一ギルド職員がすべきことじゃないかも知れないけど、それでもやっぱり“あの時”と同じ思いも、泣く羽目になるのも嫌だから。
走り出した先にて、白髪でルベライトの瞳を持つ少年が、エイナの姿を偶然にも見かけ声をかけてくる。
「エイナさーん! どうしたんですかぁ?」
「ベル君! 良かった!」
息を整えながらベルの前に歩み寄ったエイナは、今にも倒れそうな勢いでベル=クラネルの肩を掴む。
「お願いがあるのベル君!」
※
ダンジョン。この迷宮都市にて重要な場所とされるこの地は、冒険者にとっての生活の糧を得るための場所。
魔物を倒しその魔石を集め、時にはドロップ品を回収して売ることで冒険者は生活している。
時には大物の魔物を倒して名声を得ることで名を上げるものもいるだろう。
時にはラブロマンスもあるかもしれない。
一攫千金の夢だけでなく、様々な出会いが訪れる場所でベル=クラネルは出会ってしまった。
ファミリアの加護が当たり前と言うこの街の常識、ひいてはこの世界の常識が定着している中で、登録したての冒険者が、そんな枠組みから外れた常識外の実力で戦っている姿を。
「マスター、こっちの牛頭は俺がやる! クウェンサー、下手なところでハンドアックス使うんじゃねぇぞ」
「ったくオブジェクト相手ならいざ知らず、こんな化け物相手にするなんて俺ってついてないよなぁ」
「どうでもいいが俺から離れるな」
ベルの仲間である命と同じ刀と呼ばれる武器を構えた少年が、いとも容易くミノタウロスを真っ二つにせしめたばかりか、明らかにレベル4、いやそれ以上の力を感じさせる。
似たような特徴的な銀色の髪に鮮血食の瞳を持つだけに、どこか親近感が沸いてくるが、それ以上に目を離せなかったのが、戦いの中でモードレッドと呼ばれた少女だった。
全身を白銀の甲冑に突如身を包んだかと思えば、小柄な体躯に見合わない豪快な腕力で、軽々とミノタウロスの一撃を片手で受け止めて見せた。
「おいおい。見かけ倒しかよ」
しまいには掴んだミノタウロスの大剣を握り潰し、そのまま拳だけでのしてしまった。
明らかにミノタウロスのパワー負けに見える戦いだが、ベルの目からみてもクウェンサー以外は全く本気を出しているようには見えなかった。
(す、凄すぎる!)
エイナに頼まれてこっそり助けにやって来たはいいが、レベル4に上がった自分以上の実力を前にして、出番がないと悟ったベルは、このまま帰ろうと振り替える。
「よう。覗き見は終わりか?」
「ひ、ご、ごめんなさいいいいいいいい」
ジャンピング土下座をスタイリッシュに決めたベルを前に、モードレッドは眉を吊り上げ楓をみやる。
どうするんだと暗に尋ねたのだが、ベルの悪意のなさを早々に感じていた楓は、肩をすくめるだけであった。
「えーと、俺達の戦いを覗いてたのは、ギルドの人に言われてたってこと?」
自分がこの場にいた理由を懇切丁寧に説明したベルに、クウェンサーが代わりに応対することとなった。
他の二人はと言うと、
「おいマスター、こっちは魔石と角が回収出来たぜ。つうか楽勝過ぎて退屈だ」
魔物からのドロップ品回収に勤しんでいる最中である。
「でも凄いですよね。加護もないのにミノタウロスをあっさり倒せちゃうなんて。僕なんかミノタウロス倒すのに結構死にかけたんですよ。あははは」
「おいおい、あの二人と一緒にしないでくれよ。あの二人は別格で俺は一般人。機転の良さと手先の器用さだけが取り柄の一般人さ」
自嘲気味に笑うクウェンサーだが、そんな物腰の柔らかいクウェンサーにどこか親近感を覚えたベルは、思わずクウェンサーの手を握っていた。
「そうなんですか! てかクウェンサーさんの話が色々聞きたいです! 良かったら今晩僕のホームに皆さんで来ませんか!」
突然の誘いにクウェンサーは嬉しそうに頭を掻くも、唐突にサンドイッチのことを思い出す。
「お誘いは嬉しいんだけど、豊穣の女主人ってお店? そこで勤めてる女の子に半ば強引に貸しを作らされたと言うか、取り敢えず行かなきゃいけないんだよねははは」
「あー・・・・シルさんですね。わかります。悪気はないんですけどね。それじゃあ僕も一種行きますよ。僕の仲間や神様も紹介したいんで」
「いいのか? 見ず知らずの俺達なんか一緒にいて」
「大丈夫です! クウェンサーさん達いい人だって僕わかりますから! それじゃあ僕先に戻って仲間に知らせてくるのとお店の席予約してきますね!」
善は急げとばかりに走り出すベルに、クウェンサーはどこか面白そうなものをみるような笑みを浮かべていた。
「ったく。いきなりオドオドしたかと思えば忙しなく走っていって。まるでウサギみたいな奴だな」
「確かに。でも、ゴリラみたいな馬鹿力の女性よりは可愛げあ 」
途中でモードレッドに顔面をわしづかみされたクウェンサーは、直後に視界いっぱいの虹の川を目撃し、その先で上半身裸のヘイヴィア=ウィンチェルに手招きされる夢を見るのだった。