ベートが店を出て行ってからすぐのことだった。モードレッドがふと立ち上がり外に視線を向けると同時に、楓も立ち上がった。
「マスター。感じたな?」
「恐らくこっちに向かってくる」
「それは正確ではないな奏者。現にこうして余はここにおる」
いつの間にかカウンターに座りワイングラスを傾けていた少女を前に、モードレッドがクラレントを顕現して構えると、少女は気品ある動きで椅子から降り、モードレッドを真っ直ぐに見やる。
「“本物の王”を相手に
「おいマスター。本気で戦わせろ」
「許可する」
楓から膨大な魔力供給を受けた瞬間、モードレッドは白銀の霊装に身を包み、ベートはクラレントの切っ先を少女に向けた。
「構えろ。てめぇもセイバーだろ」
「ほう。馬鹿ではないらしいな。だが良いのか? この場で戦えば捲き込むことになるぞ。あぁ、そういえばいい忘れていたが」
まるでわざとらしく、演技を帯びた口調で少女はクウェンサーに視線を向けた。
「お主に恋い焦がれている男からの伝言じゃ。“アマゾンシティでの借を返す”だそうじゃ」
「な! スラッダー=ハニーサックルがいるのか!」
慌てて立ち上がるクウェンサーに、悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべる少女。
「なるほど。奴は奴でお主に因縁があったというわけか。奴ならこの通りを街の外に向けて走っていけば会えるだろ。もっとも早くせねば、今現在襲われている狼も死ぬじゃりうな。最もそれ以上に、この街が滅ぶやもしれん」
「どう言うことだ?」
楓はどこからともなく黒い刀を顕現する。
「奏者よ。お主の質問に応えても良いが、それでは余興としてつまらぬ。舞台とは拍手喝采を得るために観客を湧かせなくてはならんからのう」
「戯れ言はいいんだよ!」
襲い掛かるモードレッドのクラレントを、少女は燃えるような炎にもにた形の剣で受け止め、そのまま外へと誘導するように店の外に飛び出す。
「流石フェイカーじゃな。周りもみずに暴れまわるか」
「その口今すぐ黙らせてやるぜ」
一挙手一投足の動きに力強さと速さが伴うモードレッドの動きに対し、少女の動きはまるで風に靡く花の揺れを描くような、ふわりとした軽やかな動きであった。
さながら舞踏者さながらの軽やかなステップは、悉くモードレッドの剛を柔で受け流す。
「しゃらくせー!」
「まだまだじゃな。力はあっても単調じゃな。美しさの欠片もない。力業で押しとおるのは圧倒的強者が時間短縮する為の手段であり、中途半端な技量と力では子供の駄々か、三流役者のつまらぬアドリブにしか見えぬのう」
「いちいち意味わからねぇ例えしやがって!」
ぶん回す、振り下ろす、横にぶん殴る。
低レベル冒険者からしてみればモードレッドのそれは、破壊的なまでの暴力と恐ろしさに見えるのだが、目の前の少女にはさした脅威には見えなかった。
それを察してか益々モードレッドは苛立ちが募るも、同時にそのスピードが増していく。
直情型の傾向には必ずしもデメリットしかないわけではない。
その感情を時に力に替えることが出来るものだ。
(なるほど。かつてのマスターとの出会いがこやつを成長させたか。もっとも本人は覚えておらぬだろうが)
そして少女は奏者と呼んだ少年を一瞥した。
「良いのか加勢せず。サーヴァント一人では余を倒すのは難しいぞ?」
そう言葉を投げ掛けたが、楓はモードレッドを見やる。
「今加勢したらモードレッドが怒るだろ」
「あったりめーだ!」
「そう言うわけだ。それに」
楓は少女達に背を向ける。
「モードレッドは相棒だ。相棒ってのは最後まで信じるもんだろ」
そう告げると、モードレッドは小さく口許を弛めた。
「・・・・・ったく。いってくれるじゃねえか」
それまでの熱さを感じさせたものの中で、モードレッドの頭の中がクリアになっていく。
「マスター! 街の外から何か来やがる! こっちは任せろ」
「最初からそのつもりだ」
そう言い残して走り去る楓のを背中に視線をむけた少女は、どこか寂しそうな瞳を一瞬浮かべる。
「妬けるのぅ」
「あん!?」
刃と刃を交差させる中、少女はモードレッドを睨み付けた。
「気が変わった。やはり奏者の隣に立つのは余が相応しい」
「アイツは俺の相棒だ。何処の馬の骨かもわからねぇサーヴァントに渡せるか!」
「それは余のセリフじゃ
※
「くそ~あんなのチートだろ! まじ滅茶苦茶じゃないか!」
「おいてめぇ! 颯爽と現れて潔かったの最初だけじゃねえか!」
スラッダー相手に物語の主人公宜しくとばかりに登場してものの、ライダー・ヴェルサスに二発目のハンドアックスが通じなかったクウェンサーは、ベートに担がれ街中を逃げ回っていた。
そして反対側に担がれている少女が、
「ぶー。ピンチが全く好転していないとミサカはミサカは不満を述べてみたり!」
「そんなダメ出しされた所で、俺の専門はオブジェクトなんだからしょうがないでしょ! クウェンサー君だって化け物相手には無力なんです! って同情誘うように言ってみてり!」
「ミサカの口癖真似しないで欲しいってミサカはミサカは本気で怒ってみたり!」
「お前らうるせぇーーーー! 黙るか放り投げられるか選ばせるぞ!」
そう言いつつも、見捨てることができずに、追いかけてくるライダー・ヴェルサスから逃げ続けるベート。
するとクウェンサーの持っていた端末にノイズが走る。
《いいのか? そのまま逃げ回って。君は知らないようだが、この世界に実は招待されたエリートがいる》
(無線が使える? それにエリートってまさか)
《懐かしいことを思い出させてやろう。“真実の鏡”って言えば思い出すかな?》
「スラッダー! まさか」
《お察しの通りだよ。今現在この世界の“一部の技術”を用いて建造した魔導技術応用型オブジェクトがこの街に向かっている。そのエリートの名前は》
「おいてめぇ!」
クウェンサーはベートの手から無理やり抜け出て地面へと転がりながら着地すると、その手の無線機を握りしめる。
《ミリンダ=ブランティーニ。君のお姫様だよナイト君》
わなわなと震えるクウェンサーは、思わず通信機を地面に叩きつけそうになりながらも、そっと口許に近づけた。
「スラッダー。俺はお前を絶対に許さない! 今すぐお前をぶっ殺してやりたいがお姫様を助け出してからだ」
《出来るとでも? それじゃあまず障害物を突破しないとな。せいぜいタイムリミットまで足掻いてみるといい。今回は前回と違って難易度は上がってるぞ》
くそ! 拳を足元の屋根へと叩きつけるクウェンサー。
「話は聞こえたぜモヤシ野郎。助けたい奴がいるなら手ぇ貸してやる。でも勘違いすんじゃねぇ。馴れ合いは御免だ」
「あぁ。今だけでもいい、ここを突破して街の外に行き、この街を破壊しようとしてる兵器を止めたい!」
「ち! クエストだったら金を貰う案件だが、街の危機となればそうも言ってらんねぇ」
「何ごとかと思えば随分面白そうじゃんベート」
「団長が見てこいって言うから来てあげたけど退屈しなさそうね」
ティオナとティオネが軽快な足取りで屋根の上に着地すると、ベートの横に並び立つ。
「バカゾネスが何しに来やがった」
拳をうちならしながらベートは歯噛みすると、足元にいたラストオーダーが不思議そうに二人を見やる。
「あなたのお仲間? っとミサカはミサカは尋ねてみたり」
「わぁ可愛い! なにこの子超天使みたいで可愛いんだけど」
ティオナがラストオーダーに抱き付きそうになったところ、ベートは反射的にラストオーダーをつまみ上げてそれを防ぐ。
「こいつはわけありのガキだ。どういうわけか狙われてんだよ」
「そうなのです! なのでミサカはこの狼さんに保護者代理を求めていると、ミサカはミサカは愛くるしく本人に懇願してみたり」
「あははは。ベートがこもり! 超似合わないんだけど」
「だね。ファミリアのみんな教えなくちゃ」
「おいふざけんな!」
顔を真っ赤にして憤慨するベートだが、そんなベートを無視してティオナとティオネは武器を構えてライダー・ヴェルサスと対峙する。
「はいはい。しっかり守ってあげなさいよベート。ここは私達に任せてその子を安全な場所に連れていく。はき違えないでよね」
普段は団長べったりのティオネに対して、ベートは複雑そうな顔を浮かべつつ頭を掻くと、ラストオーダーを小脇に抱え、反対側にクウェンサーを抱える。
「礼は言わねぇ。俺はコイツらを送り届けてから戻る」
「はいはい。さっさと行きなさいよ」
「アイズなら酒場で待機してる。多分その子を預けるなら酒場が一番安全なんじゃない?」
「ち」
二人にその場を任せたベートは、夜の闇の街へと消えて行くのだった。
「さーて。いっちょ一暴れしますか」
「そうね。団長との憩いの時間を邪魔してくれた礼をしなきゃ」
※
オラリオで騒動が起こる少しほど前に遡る。
アクセルの街のギルドの酒場では、この後オラリオの酒場で起こるであろうドンチャン騒ぎとは正反対の光景が広がっていた。
有り体に言えばお通夜ムード、正確に言えば反省会。
アクセルの街では有名なカズマのパーティーが、大抵こういう時は、ほとんどの冒険者が察して声を掛けてこないのだが、実のところ、パーティーメンバーがメンバーだけに誰もトラブルに巻き込まれたくないので、腫れ物を扱うように触れないでいるだけである。
「ねえねえカズマさん。私思うの。今回の件は私頑張ったと思うの。ほら、めぐみんがやらかしたのは仕方がないとして」
「仕方がない話ですむかぁ! なんなの! あの場でなんでエクスプロージョンを撃てるわけ! ダンジョンとは言え王国では有形文化財に指定する話があったって話じゃん! そうじゃなくてもダンジョンとし機能すれば、経済的な効果が生まれるから保存の方向で動いてたって話だろ! その結果がこれだ」
ばん! と、テーブルに置かれたのは請求金額の書かれた一枚の羊皮紙である。
桁にして八億エリス。
改めてその数字を目にした一同は、そっと目を伏せるも、
「大変だな。まぁ俺達は部外者だから」
「そうなのか?」
「お馬鹿~! そこは空気読んでいつものように“そうか”とか“そうだな”って言えばいいんだよ!」
ヘイヴィアがゴブリンスレイヤーの肩をガクガク揺らすなか、ダクネスはゴブリンスレイヤーの元へ歩みより、そっとその手を握る。
「ゴブリンスレイヤー。一時とは言え背中を預けあった仲だろ私達」
ここぞとばかりに道連れを増やそうとするダクネスに、ゴブリンスレイヤーは鉄兜越しに首を傾げてから、
「背中を預ける前に突っ込まれていたな」
正直な感想でダクネスの企みをぶち壊すばかりか、ドMの性癖を刺激。
「にゃは! や、やるな。まさかそんな切り返しで」
「変態は放置するとしてだ。めぐみんがやらけしたツケをヘイヴィア達にも負担させるのはどうかと思う」
「どうしてカズマさん! なんでこういう時だけ常識人ぶるのよ! 普段はクズマとかゲスマの名前に相応しい行動ばかりとるのに」
「よーしアクア! 今すぐ表でろゃ! 今日という今日は容赦しねぇからなぁ」
アクアのほっぺたを両手で摘まんで取っ組み合いを始める中、突如ギルドの職員達が慌ただしくなった。
「た、大変です! 冒険者の皆さんは集合してください!」
受付嬢のルナが、魔道具で街全体に召集を掛ける中、カズマ達はいの一番に集まる。
そしてギルドから集まった冒険者に対し、水晶を通した映像が見せられた。
「なにこれ! デストロイヤーマークIIかなんなわけ?」
「嘘だろ! オブジェクトじゃねぇか!」
思い付きで口にするカズマの横でヘイヴィアが水晶を食い入るように見つめて叫んだ。
「オブジェクト?」
「核にも耐える
「前回のデストロイヤー以上じゃねえか! しかも核が通じないんじゃめぐみんの爆裂魔法だって通じねえ!」
「それだけじゃねえ! プラズマ式推進装置使ってるから逃げようにもあっという間に追い付かれて対人兵器で秒札される」
二人のやり取りを聞いていた冒険者達だが、あまりの専門用語の多さに話についていけなくても、カズマの言う爆裂魔法が聞かないという言葉は理解出来たらしい。
不穏な空気が広がる中、さらに残念な話が飛び込んでくる。
「先程偵察隊が魔法を放ったところ、魔法による結界が張られていたそうです」
「終わった」
項垂れるカズマの横で、ヘイヴィアは過去の経験を必死に思い出し、レーダー分析官として対抗策を必死に考える。
そんな時だった。
この世界に来て今までお飾りにしか過ぎなかった通信機に、突如ノイズが走り出す。
《いいのか? そのまま逃げ回って。君は知らないようだが、この世界に実は招待されたエリートがいる》
《懐かしいことを思い出させてやろう。“真実の鏡”って言えば思い出すかな?》
《スラッダー! まさか》
《お察しの通りだよ。今現在この世界の“一部の技術”を用いて建造した魔導技術応用型オブジェクトがこの街に向かっている。そのエリートの名前はミリンダ=ブランティーニ。君のお姫様だよナイト君》
《スラッダー。俺はお前を絶対に許さない! 今すぐお前をぶっ殺してやりたいがお姫様を助け出してからだ》
《出来るとでも? それじゃあまず障害物を突破しないとな。せいぜいタイムリミットまで足掻いてみるといい。今回は前回と違って難易度は上がってるぞ》
一連のやり取りを聞いていたヘイヴィアは、黒幕がスラッダー=ハニーサックルであることを知り、さらにクウェンサーがこの世界にいることを知った。
「くそぅ! ちゃんと来てるじゃねえ相棒!」
「なんだかよくわからないが、その相棒な連絡取らなくていいのか?」
カズマの指摘に思わず通信機を見やるヘイヴィアだが、スイッチに掛けた指を外した。
「今は駄目だ。オブジェクトはこの通信回線を傍受する。恐らくだがスラッダーはわざと通信回線を使いクウェンサーに連絡をとった。そうすることでクウェンサーと同じ大隊もしくはそれに近い軍の人間がいないか確認するためだ。恐らく俺だ。これまでにオブジェクトを生身で破壊してきたのは、俺と相棒だけ。スラッダーが警戒しているのは俺と相棒。ここで喜んで連絡とったら喜んでアクセルの街を襲いに来るだろうぜ」
「それじゃあこのままアイツを野放しにすると?」
セイバーが怪訝そうな顔を向けてくるが、ヘイヴィアはライフルを背負い直して皆を見渡す。
「んなわけねえ。お姫様が操られてる。ナイトが助けに向かうってんなら、俺はそれを手助けしに行く。もとよりあの怪物と戦いなれてるのは俺だけだ。ここで手伝いを頼んで死なれたら寝覚めが悪い。そんじゃちょっくら行ってくる。短い間だったが世話になったぜ。悪いが馬車を借りていくぜ」
ヘイヴィアは通り過ぎ際にカズマの肩を軽く叩くと、入り口の前でゴブリンスレイヤーが立ちふさがった。
「なんだよ。今回の敵はゴブリンじゃないぞ」
「そうだな」
「そう言うわけだ。あんたが無事に元の世界に帰ることを祈ってるぜ」
その脇を通りすぎようとした時。
「俺の仲間が行っていた。・・・・選択肢があってないようなものは選択肢とは呼べないと」
「で?」
「何がなんでも援護する。だからバックアップは任せろ」
鉄兜で隠された表情は読み取れないものの、ゴブリンスレイヤーの気持ちを察しないほどヘイヴィアは鈍感ではなかった。
「死んでも知らねぇぞ」
「覚悟の上だ」
「おいおい。ちょっと待ってくれよヘイヴィア。まさか自分達だけで格好つけようなんてしないよな」
呼び止めるカズマにヘイヴィアは真剣な瞳で見やるも、彼らが皆覚悟を決めた冒険者の目をしていることに、照る臭く頭を掻いた。
「やれやれ。どいつもこいつも馬鹿野郎だぜ。わかった。その命、俺に預けてくれ。作戦をこれから説明する」
こうしてアクセルの街の冒険者ギルドにて、オブジェクト反抗作戦が静かに行われるのだった。