異世界ヒーロー   作:氷雨蒼空

8 / 15
第七話 オラリオ防衛戦

「ったく。ここでいいのか?」

 

街の外にあたる防壁から遠く離れた場所。ベートはクウェンサーを送り届けて下ろす。

 

「あぁ。恐らくここから先で食い止めないと、動力炉の自爆に街が吹き飛んでしまう」

「お前一人でできる話じゃねえだろう」

「心配してくれるのか?」

「寝言を言うんじゃねぇ。街が吹き飛べば寝床に困るんだよ」

 

そう告げると、ベートはそうそうに話を打ち切って立ち去っていった。

それを見送ることなくクウェンサーは、内心で再度ベートに礼を告げ、ここに来るまでに調達した双眼鏡を構える。

 

(考えろ。スラッダーはただオブジェクトを動かしたわけじゃない筈だ。アイツのこれまでのパターンから他に狙いがある筈。でなければ“あんな分かりやすい挑発”を仕掛けてこない)

 

頭の中でできる限りスラッダーの思考を投影してみせるが、それでもクウェンサーにそれらしい答えを導き出す為の情報が足りない。

 

「クウェンサーさーん!」

 

思考を張り巡らせているなか、ベルがパーティーメンバーと共にクウェンサーの元へと駆けつける。

 

「ベル。どうしてここへ?」

「ロキファミリアのベートさんにここを教えて貰ったんです」

「あの人って本当ツンデレだなぁ。でも助かったよ。俺としては手持ちの札が一つしかなくてね。そこでだ。君達に何が出きるのか詳しく教えて欲しい」

 

 

 

クウェンサーは、ベル達の戦闘能力やスキル等の詳細を確認し、端末にデータを打ち込んでいく。

 

「クラネルさん。バーボタージュさん。ミア母さんに言われ助っ人に参りました」

「ミャー達も助っ人に来たにゃー。何か出きることあるかにゃ?」

「アーニャだけじゃ不安出しにゃ。クロエもお手伝いするにゃ」

「はいはい。あんた達だけじゃ不安だからって寄越された私の身にもなって欲しいわ」

 

リューに続き、アーニャとクロエとルノアの三人も駆けつける。

 

(リューさん以外は近接戦闘か。困ったな。敵はセンサーに反応した瞬間に対人兵器の雨を降らしてくる。もうすぐで敵の射程圏内どうする?)

 

 

「お困りのようだな相棒」

 

突如現れたヘイヴィアに、クウェンサーは思わず自分の目を疑った。

 

「ヘイヴィア! この世界に来てたのか!」

「ったく。心配させやがって。それより時間はねえ。俺がどうやってここに来たかは後だ。援軍を連れてきた。詳細を説明するから俺とお前で作戦を立てるぞ」

「OK相棒」

 

普段の調子を取り戻したクウェンサーとヘイヴィアは、互いの端末を通して情報を共有する。

 

オブジェクトの推定された戦闘能力は、魔法による障壁と核にも耐えるオニオン装甲。

そして武装は下位安定式プラズマ砲の主砲が10門で、コイルガンに対人レーザー、センサー各種を備えている。

 

「おかしい。これだけの装備を備え、最初の発見地点からするに既に射程圏内に入ってるのに攻撃してこない。奴の目的は街を破壊することじゃないのか?」

 

「装備がブラフという可能性は?」

「低いだろう。条件付きで撃てない可能性もある。この魔法障壁というバリアだ。どうして核にも耐える装甲なのに障壁を張る必要がある?」

 

クウェンサーの疑問に、リューが口を挟んだ。

「破壊されたら困るのでは?」

「例えば何かの魔法道具を運んでいて、それを街に届ける配達屋なのにゃ~」

「アーニャの馬鹿な意見に耳を傾けなくていいバーボタージュさん」

 

(何かの装置。確かJPlevelMHD動力炉以外に・・・・・・まさか!)

 

「くそ! だがわからない! アイツが街を破壊する理由はなんだ!」

「おいクウェンサー何かわかったのか?」

「落ち着け俺・・・・・・待てよ」

 

クウェンサーはヘイヴィア含めた一同をみた後、スラッダーの行動を思い出してみる。

 

「ここにいる戦力は?」

 

「あの巨大兵器がとてつもないものであると神ヘルメスからの情報があったので、各ファミリアの最高戦力が時期に集まる筈です」

 

そこでクウェンサーはスラッダーの真の狙いを知り、地面へと拳を叩きつける。

 

「奴の狙いは街から戦力を誘導しここに足止めすることが目的だ! そして奴のもう一つの目的は街にあるんだ!」

 

 

「じゃあ今からでも」

「駄目だ! 恐らくあの主砲は生きてる! 撃てるんだよ! だが連中の企みに気づいて戦力を戻してみろ。スラッダーは容赦なく街へと下位安定式プラズマ砲を撃ち込む。俺達に残されて方法は、オブジェクトを足止めし、自爆の有効射程圏内に街を収めさせないことと、主砲を撃たせないことだ。そして中にいる認識介入を受けているミリンダ=ブランティーニを何としてでも助けですこと。・・・・・・出来るのか?」

 

 

ふとそんなことを呟いた時。

 

 

「やりましょう! クウェンサーさん。敵が何を企んでいるのかなんて関係ありません! もうやるべきことはわかっているじゃないですか!」

 

 

ベルが、クウェンサーの肩を優しく叩くなか、その場に集まったアクセルの街の冒険者やオラリオの街の冒険者達が一斉に頷く。

 

「やってやろうぜ相棒。スラッダーの野郎にこれ以上好きにさせてたまるかよ」

 

相棒の言葉にクウェンサーはふと笑みを溢す。

 

「だな。お姫様を助け出す。そして街も守る。考えてみれば今まで俺達がやって来た当たり前のことだったな」

 

 

立ち上がったクウェンサーは、久方ぶりの相棒の拳に、己の拳へぶつけ、オブジェクトがいる方向へと視線を向ける。

 

本当の意味で戻ってきた戦場。

 

「「ただいま。くそったれの戦場さん」」

 

 

 

 

「もう、コイツ硬すぎ!」

「おまけに空中を飛び回ったり、かと思えばあの鎖も厄介すぎる!

アイツ一体レベルいくつよ!」

 

鬼兜を装着したライダー・ヴェルサスを前に、ティオナとティオネは決定打の一つも与えられず苦戦する。

ティオナの扱うオラリオ一の重量と評されるウルガの一撃が、ライダー・ヴェルサスの霊装に軽々と弾かれ、とっておきとばかりにティオネが持ち出してきたハルバートも、ライダー・ヴェルサスの体術であっけなく受け流される。

 

敵の防戦一方に見える戦いも、実のところ二人の疲労を誘う戦いにみえる。

 

「くっくっく。さしずめオラリオの上級冒険者もヴェルサスを前には手も足も出ないらしいな」

 

離れた場所で戦闘を眺めていたスラッダーも、ライダー・ヴェルサスの見当ぶりに笑みをこぼす。

 

思い通りに街がかき乱されていく様に満足していたが、それに水を差すものが現れた。

 

目の前に突如現れたその人物に、スラッダーは演技がかった口調で相対する。

 

「会いたかったよ嵯峨楓」

「俺はお前を知らない」

「こっちはお前を十分すぎるほど知っている」

 

拳銃をすかさず構えて楓目掛けて発砲すると、楓は屋根の上にある煙突を盾に隠れる。

 

「どうした? お前なら弾丸など斬ることが容易だろうに。それとも出来ない事情でもあるのかな?」

 

知っていながら敢えて尋ねてくるスラッダーの人を食った態度に、苛立ちながらも楓は深呼吸して気分を落ち着ける。

 

「性格が悪いな」

「褒め言葉だよ。さて、俺はこのまま退散させてもらう。出来れば君を貴重なサンプルとして捕獲し持ち帰りたいので、大人しく捕まってくれないかね?」

「お断りだ!」

 

煙突の影から飛び出した瞬間に弾丸が目の前に迫るも、楓はこれを難なく避けて見せる。

「流石だな。余力を残していたわけだ。でも想定済みだよ」

 

突如背後から衝撃を受けて前に押し倒された楓は、そのまま民家の屋根ごと押し潰される形で下へと落ちた。

 

「君の戦闘時間に制限があることは知っている。でなければ、たった一人で驚異的な戦闘能力でオラリオの上位冒険者を圧倒できる君が、わざわざサーヴァントなんて己にとって下等な存在を従える必要はないもんなあ」

「・・・・アイツら下等なんか」

 

「下等だろ? かつてお前のいた世界は滅んだ。その元凶は他ならぬサーヴァントだろ? 何故憎んでいないフリをする? 側に置いているのは憎いアイツらを無理矢理従わせることで鬱憤を晴らしてるんだろ?」

 

「黙れ・・・・・殺す!」

 

起き上がった瞬間に上方から落ちてきたそれに蹴り飛ばされ、楓は民家の壁を突き破って通りに転がった。

 

「マスター!」

 

モードレッドと少女が戦闘しながら移動繰り返し、奇しくもその場に偶然居合わせてしまう。

 

 

「どういうことじゃスラッダー! 奏者に関しては余の好きにしていいことになってる筈じゃ!」

 

「あっはっは。ヘルメスとだろ? 俺はお前と取引なんか一切しておらんよ。バーサーカー・ヴェルサス。やれ!」

 

鬼面を装着したバーサーカー・ヴェルサスが驚異的な突進力で地面を破壊し、楓へと迫るなか、少女がアエストゥス・エストゥスを構えてこれを阻止にかかる。

 

「立て奏者! このままでは死ぬぞ!」

 

「お前は・・・・・・」

 

「どうせ覚えておらぬじゃろ。雪が降る季節に出会ったことも、一緒にジンジャとやらでオマイリしたことも・・・・・奏者の世界が滅んだのは余の力不足じゃった。・・・・そんな余が聖杯に望んだのは、奏者が余とのことを忘れることを引き換えに、新たな新天地で生きることじゃった」

 

「もっともその世界は邪神によって歪に歪められ、そいつは新たなサーヴァントと出逢い、結局運命から逃れることは出来なかったわけだ。滑稽だな」

 

 

楓を嘲笑い見下ろすスラッダー。

 

「黙れよ・・・・・」

「ん? なんだ? サーヴァント如きが何か言ったかな?」

「黙れって言ってんだよ」

 

「くっくっく。わかってないなぁ。オブジェクトもエリートも、それ一つだけど戦争のあり方を変えた。サーヴァントも同様に、それ単体で戦争を起こせるわけだ。クリーンな戦争とはよく言ったが、そんな戦争の代名詞が感情を持つなど愚かなことだと思わないか? だから俺はこうして凶悪な兵器を管理下における術を生み出し、こうして御披露目しているわけだ。そしてそれがなかった為に」

 

スラッダーは楓を指差し口角を歪めた。

 

 

「そいつの世界は滅んだ。その元凶は他ならぬお前達だよ」

 

 

これまで楓がモードレッドに語らなかった過去。

その理由がスラッダーの話の中にあると知り、モードレッドは顔をうつむかせ楓に尋ねる。

 

「俺はマスターの過去なんて知らねぇ。恨まれてるならそれでもいい。俺はそれでもマスターのサーヴァントである以上従うまでだ」

 

そう告げるモードレッドに、楓はゆっくり立ち上がり、その背中にそっと優しくふれる。

 

 

「俺に従うな・・・・・お前は、お前は己の心に従え。そしてお前はマスターのサーヴァントじゃない。・・・・・・俺の相棒だ」

 

 

その一言が何よりもモードレッドの心を突き動かし、俯いていた顔が真っ直ぐ前をみた時、その顔は兵器でも眷属でもない、ただ一人の少年の友人の顔へと変わっていた。

 

 

「当たり前だ(あいぼう)。派手に暴れるぜ。“アレ”使っていいよな?」

「許可する」

 

楓から魔力を受け取ったモードレッドの霊装が変化していく。

白銀の甲冑が変化し、白と黒の燕を模した燕尾のように裾が背中越しに広がり、鉤爪のような手甲と龍の顔面を彷彿させるような流線型の胴部、そして顔はヴェルサスとは全く違う二本角が生えた鬼面へと覆われる。

 

 

「な! まさか鬼の力を逆にサーヴァントへ転嫁させているだと!」

 

「スラッダー、お主は奏者が成すすべなく鬼に呑まれるものと思ったのじゃろう。確かに奏者一人では呑まれるだけだった。だが、サーヴァントと固い絆で結ばれた時、一人では抑え込めなかった力は、絆の力へ転嫁される。奏者!」

 

「ネロ!」

 

かつて契約を結んだ絆の線が脈打つように甦り繋がると、楓の左腕に新たな令呪が浮かび上がる。

 

そしてネロの霊装に深紅の衣装を上書きするように、モードレッドとは別種の新たな強化霊装が顕現された。

 

「くっくっく。いいねえ。良い戦闘データが得られそうだよ。バーサーカー・ヴェルサスとアサシン・ヴェルサス。嵯峨楓は生きてさえいればいい、他のサーヴァントは始末しろ」

 

スラッダーの命を受けてアサシン・ヴェルサスが影から這い出ると、モードレッドへと襲いかかる。

 

「余と舞踏したいのならそれなりに踊れるようになってから出直せぃ」

 

二本の白と黒のアエストゥス・エストゥスを器用に操り、アサシン・ヴェルサスの死角を利用した攻撃を、まるでダンスでもするように弾く。

 

ドーン!

 

まるで神の鉄槌の如く一撃が振り下ろされ、その衝撃波が通りの石畳を盛大に破壊し、周囲の民家まで巻き込むほどのクレーターを生み出す。

 

そのクレーターの中心にいた筈のモードレッド。

 

「そんなもんかよ。全然だ。全然心踊らねぇよ」

 

バーサーカー・ヴェルサスの大剣を二本の指で挟み、瞬間的に手のひらで塚見直したモードレッドは、そのまま奪いとって横薙ぎに払うと柄部分をバーサーカー・ヴェルサスの側頭部へ叩きつける。

 

バーサーカー・ヴェルサスの巨体を容易に吹き飛ばす力に、流石のスラッダーも一筋の汗を頬に流し始める。

 

「このオラリオのレベル6を圧倒する力だぞ! それを容易に越えるとかありえん!」

 

「随分と勉強熱心だが、だからどうした」

ズルズルとライダー・ヴェルサスを引きずって屋根づたいに姿を表したのは、狼姿へと変身してベートだった。

 

「な! ライダー・ヴェルサスが敗れただと!」

 

 

「花鳥風月! どうぞどうぞ! アクシズ教をよろしくねみんなぁ!」

 

転移魔法の事故により、オラリオの街中に飛ばされた“魔法だけ”が優れたアクアは、偶然にも通りかかった先でベートや数々の冒険者に出逢い、片っ端から支援魔法を掛けまくっていた。

 

幸運値と知性以外はカンストしてるアークプリーストの支援魔法は、基礎ステータスからしてカズマと比べ物にならない冒険者には効果は絶大で、その結果、一人では苦戦するヴェルサス系サーヴァントも、アクアの支援魔法で強化されたレベル6冒険者複数人の前では形無しであった。

 

「なんなんだ! あんな冒険者オラリオにいなかったぞ!」

「くそ、こうなったらこの場を逃げてオブジェクトに支援砲撃を」

 

「スティール!」

 

胸元から取り出した筈の端末は、スラッダーの手元からいつの間にか無くなっていた。

 

このオラリオの街に飛ばされたのは何もアクアだけではなかった。その証拠に、パンツを剥ぎ取るしかいつもは発揮されない奇妙なスキル使いの少年が、得意気な顔で通りに立っていた。

 

「観念しろスラッダー=ハニーサックル! このカズマ様がきゃああああああああ」

決め台詞を決める前に、バーサーカー・ヴェルサスに襲いかかられ絶叫するカズマだが、済んでのところでダクネスがバーサーカー・ヴェルサスの攻撃を受け止めた。

 

「魔王軍の幹部でもなければ戦闘能力もないと油断したんだろ。まったくこれだからカズマは。・・・・・だか、この巨人、中々やるぞカズマ!」

「はいカズマです」

「この重い一撃は私好みだ! 家に連れ帰っていいだろうか!」

 

「「駄目に決まってんだろ!!」」

 

スラッダーとカズマの双方からダメ出しされ、オラリオの冒険者たちから変な者を見る視線に晒されるダクネスは、一度身震いし、

 

「・・・・・興奮してないからな」

 

平常運転の姿を見せるのだった。

 

「何はともあれ逃げ場もなければ切り札を失ったなスラッダー。どうするのじゃ?」

ネロがアサシン・ヴェルサスに止めを差し、スラッダーの前に迫って見せる。

 

「逃げ場がない? それは俺じゃなくお前達のほうさ」

 

 

そう告げた時、街の防壁が突如破壊され、巨大な建造物ことオブジェクトがその姿を現したのだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。