最後の休息
2017年。人類は歴史史上最大の、絶滅の危機に立たされていた。
宇宙から襲来した異邦人…フォーリナーは、人類に対して巨大生物を中心とした苛烈な殲滅攻撃を開始。対する人類は、制空権を全面喪失してもなお、
つまるところ、人類は1年と保たずにフォーリナーに敗北した。これは紛れも無い事実であり、真実である。
しかし、人類が敗北しても決して諦めず、抵抗を続けているのもいた。それがEDF日本支部である。EDF日本支部はフォーリナー大戦最初期から、極東戦線とは独立した日本列島防衛戦線を構築。日本列島という小さな戦線にも関わらず、最前線は北米戦線にも劣らぬ苛烈さであり、それ故に日本支部はしぶとく抵抗した。幾万の巨大生物を粉砕し、幾千のヘクトルを破壊し、十数の女王を倒し、数体の超巨大生物を仕留め、そして四つ足歩行要塞さえも破壊した彼等の質は、間違いなく人類最大戦力と言っても良いだろう。確かに北米戦線や欧州戦線でも、日本支部にも劣らぬ善戦は見せていた。しかし逆に言うと、日本支部は
しかしそれ故に、彼等は持ち堪え、そして孤立してしまった。最早自分達以外に味方は無く、敵は無尽蔵。最早希望もなく、この戦いが最早人類という種を1秒でも長く存続させる為の
生きたい。
ただそれだけの、ちっぽけな生存本能。しかしそれは何よりの活力となり、今日のEDF日本支部を支え続ける、唯一の柱となっていた。
その日の夜の日本列島は、場違いの雪が降っていた。
例年ならば11月に雪が降るならば精々北海道、信越地方や北陸地方だったというのに、今年は何故か関西地方でも雪が降っていた。異常気象ではあるのだが、今現在そんな程度の事に構っている暇など微塵もありはしなかった。
EDF日本支部は、人類の最後の砦は今、陥落寸前なのだから。
約7ヶ月間にも及ぶ総力戦の果てに、EDF日本支部は北海道、関東、中国地方西部、四国、九州を完全放棄。残された関西全域と東海地域、中国地方東部に絶対防衛線を設置して生き残った3600万人を護っているだけの状況だ。
既に一度、フォーリナーは絶対防衛線に対して猛撃を行なっている。総力戦によって奇跡的な撃退に成功こそしたが、EDF日本支部も最早有力な戦力は払底し、もう一度同じ規模の戦力が絶対防衛線に投射されたならば、それはEDF日本支部の終焉と同意義であった。
しかし、どうしてかな。フォーリナーはそんなチャチな事を面倒くさがったかどうかは知らないが、少なくとも日本支部の想定外の行動を起こした。
世界各地を蹂躙していたマザーシップが日本近海に出現。日本列島に向けて真っ直ぐ向かってきているというのが明らかになったのだ。
まさかの展開に驚いたが、EDF日本支部司令以下は遂に最期の時が来たと確信。最終決戦に向け、攻撃部隊の抽出が開始されていた。結果、編成出来たのはギガンテス10両を含めた陸軍1個大隊と空軍2個飛行隊。たったこれだけの戦力が、今のEDF日本支部が持てる全力の攻撃部隊。
たったこれだけの部隊で、敵の総大将を討ち取れる可能性は限りなくゼロに近い。マザーシップが飛来した第三次北米決戦の際、EDF北米方面軍は決戦要塞X3を対マザーシップに投入したが、結果は1時間と保たなかったらしい。EDFの最高戦力である決戦要塞を1時間で墜とした相手に、たかが陸軍1個師団で立ち向かおうなど、きっと後にも先にもない事だろう。いや、無ければならない。
出撃は明日、三重県の絶対防衛線第2ラインで行われる。攻撃部隊は最後の晩餐と宴を、大阪市の各飲食店を貸し切って行なっていた。天然食料も細々となり、最早飲食業は成り立たなくなっていたが、EDF日本支部は大金を積み上げて天然食料を用意し、大盤振る舞いを行う事にした。市民達にも不十分ながらも行き渡り、皆が皆、最後の宴を楽しんでいた。
その光景を、「彼」はとあるビルの屋上から見下ろしていた。
「…」
彼の足元には開けられた日本酒とお猪口が置かれており、少し飲んだ形跡もある。しかしその表情には、全く酔った様子も無い。彼はただ、無言で人々の談笑を見下ろしていた。
「こんな所に居たか、ストーム1…いや、◼︎◼︎」
振り返る。
「…貴方こそ、何故ここに?大石司令長官」
「何…私も静かに晩酌しようと思って此処に来たんだが、どうやら君が先客だったようだ」
そういった大石の右手には皿に山盛りに盛られた唐揚げと割り箸2本、左手にはお猪口が握られていた。…お猪口はしっかり用意している辺り、完全に確信犯である事は言うまでもない。
何を言うまでもなく大石はストーム1の右に位置取り、手すりに背中を預けて座り込んでストーム1との間に皿とお猪口を置く。ストーム1も座り、大石から割り箸を受け取った。
「ありがとうございます」
「いや、寧ろこれだけなのが申し訳ないくらいだ。君が下に降りてくれれば、他にも色々と振る舞えるだろうに」
「騒がしいのは少々苦手です」
「…頂きます」
2人は割り箸を割り、唐揚げを取って一口。今となっては貴重な天然食料、その中でも更に貴重な肉類も今日に限っては盛大に放出されていた。パリっという音と共に程よく熱い肉汁が口の中に入り、旨味を舌に伝える。
「…今じゃ、かつてはたった数百円だったこの唐揚げも貴重な食料か」
「あらゆる産業が崩壊した以上、仕方ありません。経済そのものも最早意味が大して無く、そもそもとして我々は日本列島の外に出る事は出来なくなりましたから」
「………」
二人は言葉を交わす事も無く、唐揚げを肴に日本酒を楽しむ。30分もすれば、唐揚げが盛られていた皿は空となり、代わりに用無しとなった2つの割り箸が置かれていた。
「…………………………」
「…………………………」
ただ静かに、時間だけが過ぎるその空間。その空気を、大石は断ち切った。
「…明日は、決戦だな」
「…ええ」
「………勝てると思うか?」
「…こんな形で聞きたくはないですが、勝てると思いますか?北米の決戦要塞X3をも墜とした相手に、たかが陸軍1個大隊と空軍2個飛行隊が敵うならば、この戦争は今頃人類が勝っています」
「…そうだろうな」
グイッと、お猪口の酒を一飲み。アルコールが喉を通過する感触を明確に感じつつ、新たな酒を注ぐ。
「私も焼きが回ったな。ひたすらに目の前の人達を守ろうとして考えて考えて考え抜いて、その果てがこんなザマだ。何千万の市民を守るために数万の兵士に余計な負担を掛け、戦術的勝利に何の意味も無い指揮さえも取ってしまった。数十の市民の為に、数百の兵士を失う意味が果たしてあったのか、今でも考えてしまう。…結局、守りきれなければ意味が無いというのにな」
「………」
「…すまないな、こんな暗い話などするべきではなかったか」
「いえ、1人で溜め込み過ぎるよりは良いです。それに、ほぼ勝ち目はありませんが、可能性は決してゼロじゃあありません」
「…何?」
思わず、大石は彼に顔を向ける。彼の表情は、苦笑いそのものだった。
「明日の最終作戦に出撃する陸軍部隊は、全員が志願者です。下で軽めに見てみましたが、多くの者達が「大切なもの」を失い、ある意味で
「………」
「どちらにしろ、最悪の中で最善を尽くすしか無いでしょう。そんな都合が良い展開は早々起こる事がありませんし、そもそも全滅も覚悟の上。それに…」
「家族を殺したクソ野郎どもを1匹でも多くブチ殺したいという点では、自分も彼奴らと全くの同類です。その序でに、人類の意地汚さを見せつけてやります」
そう言って、彼はお猪口を右手に持った。
「…そうだな。存分に暴れて来い。最後の大舞台だ、幸い武器弾薬だけは存分にある。奴等に目にものを見せてやれ」
大石もそれに同調してお猪口を持ち、二人は同時に逆三日月に向けて掲げた。
「人類に」
「EDFに」
そしてその酒を一口に、景気良く飲み込んだ。
大石司令長官
EDF日本支部司令であり、フォーリナー大戦に於いて最後まで徹底抗戦を貫いた人物。彼の指揮と士気無くしてフォーリナー大戦の勝利はあり得なかっただろうが、彼の信念を貫く際に犠牲となってしまった兵士も居る。
戦後、それを繰り返さぬように努力する事となる。
ストーム1
[[非公開]級軍事機密に付き、[非公開]以外の者は閲覧不可能]。フォーリナー大戦時に於いて一個軍団にも匹敵する程の戦果を打ち立て、マザーシップを撃墜して人類の勝利を導いた英雄。戦後は壊滅したストームチームを再編成、ストームリーダーとして現在もEDF最精鋭部隊隊長として活躍している。
ストームチーム
EDF歩兵隊の遊撃部隊。フォーリナー大戦に於いてはレンジャーチームでは危険度が高い任務にも積極的に投入された為、フォーリナー大戦末期にはストーム1を除き壊滅。戦後は再編成によって、ストーム1(現ストームリーダー)が率いるストーム1、精鋭ウイングダイバーチーム スプリガンのストーム2、精鋭フェンサー部隊 グリムリーパーのストーム3によって構成され、日本支部のみならず人類が誇る最精鋭部隊となる。