「いい景色だ、美しい…」
目の前の光景を見て、ロウリア王国東方征伐艦隊海将 シャークンは呟いた。
4400隻もの大艦隊が帆を張り、風を目一杯に受けて大海原を進むロウリア海軍。その船内には大量の水夫と揚陸部隊を乗せ、マイハーク港に向かっている。余りにも多い大船団故に、最早海が見えないと言わんばかりに、360度にひたすら船が映る。
ロウリア王国が6年の準備期間を掛け、更にパーパルディア皇国からの軍事援助を受け、漸く完成したこの大艦隊。4400隻もの大艦隊を防ぐ手立ては、ロデニウス大陸に存在しない。いやそれどころか、列強国パーパルディア皇国さえも制圧する事が出来るのではないかと、シャークンは一瞬思った。
(いや…パーパルディア皇国には「砲艦」と呼ばれる、船ごと破壊出来る兵器があるらしいな…)
今のロウリア王国では、パーパルディア皇国に挑むにはまだ危険が大きすぎる。頭をよぎったその考えを打ち消し、改めてこれから征服する、東の海を見て。
(…なんだ、水平線に何か)
マッハ7で飛来した、総数102発の28cm砲弾と12.7cm砲弾が、ロウリア艦隊を貫いた。
「砲撃、命中。敵船撃沈数、推定200」
「砲撃続行、全艦撃沈まで撃ちまくれ。決して近づけるな」
シャークンが水平線近くで発見したのは。EDF日本支部より派遣、先程までマイハークにて停泊していた第7機動艦隊のアイオワ級フリゲート艦6隻だった。
彼等は単縦陣にて左舷砲戦を展開。左に指向可能な28cmレールガン3連装砲18基54門、12.7cmレールガン連装砲24基48門が各個射撃。途絶える事の無い極音速の砲弾幕は、4400隻のロウリア艦隊を蹂躙する。対フォーリナー機甲戦力兵器として開発された艦砲の威力は、直撃せずとも周辺に拡散される衝撃波だけで、木造船は粉々に粉砕。人体などは最早肉片と成り果てる。そして幾千幾万の破片が無事だった船に突き刺さり、貫通し、地獄絵図を作り出し、最期は砲弾によって粉砕される。
最早戦闘と呼ぶのさえ烏滸がましい、まるで的当てゲームのように吹き飛んでいく木造船の数々。それらを己の身体で体験しているロウリア王国海軍は、最早指揮や秩序も崩壊していた。未だ無事な各船は兎に角回頭し、全力で逃走の構えを見せている。が、無秩序に行われる逃走行為は、却って味方の船との衝突さえも引き起こす。中には発狂し、船から海に飛び降りる兵達もいれば、魔道通信でひたすらに助けを求める者もいる。
シャークンが「パーパルディア皇国をも打ち倒し得る艦隊」と豪語していた、文明圏外国最強の艦隊が。無慈悲に、冷徹に、無感動に、消えていく。
やがて、其処には静寂が訪れる。果たしてその海面に浮かぶのは、4400隻分の木造船の残骸と、幾万人の血で紅く染まった海面、そして幸運にも生き残ってしまった生存者達のみだった。その生存者の中には、将軍シャークンと、パーパルディア皇国の観戦武官もいた。
「…ロウリア王国海軍、全艦撃沈を確認。損害、皆無です」
「少なくとも、
「…第7機動分艦隊、海域を離脱。周辺クリア」
「浮上開始。
この時、ロウリア軍は海軍の悲鳴じみた救援通信を受け取ってしまっていた。
詳細は不明なれど、救援を求める声と悲鳴、次々と途切れる通信に尋常では無い事態に陥っていると把握は出来た。出来たが、肝心の一体何が起きているのかが分からない。
しかし、4400隻の大艦隊を見捨てるわけにも行かない。其処で、ロウリア軍は後方…王都防衛用に備えていたワイバーン250騎を全力出撃。艦隊を襲っている何かの正体が分からない以上、手加減する余裕など微塵も無い。
そうして天空に羽ばたいた、第三文明圏最強の死神達は。王都から60km地点の海上で、1匹残らず叩き落とされた。
アイオワ級フリゲート艦の分艦隊と別れ、王都マイハークに向けて一直線に侵攻していたセントエレモ級イージス戦艦6隻のレーダーは、その性能に違わず超遠距離からワイバーンの生体反応を捕捉。これを引き付け、第二世代VLSセル*1内に搭載された対空ミサイルを全艦一斉射。イージス艦から受け継がれたデータリンク能力やC4Iシステム、そして極音速対空ミサイルの威力は。一瞬にてワイバーン250騎を殲滅し、制空権を喪失させた。
当然、彼等はワイバーンの殲滅の為だけに来たのではない。ワイバーンを殲滅して制空を確認した艦隊は、次の一手を打つ。
各艦の艦橋後方部のシャッターが解放。艦内から、中に兵士を満載した輸送ヘリHU04ブルートが2機ずつ、そして戦闘ヘリ EF24バゼラートが1機ずつ、計18機が極短距離の滑走路に移動。エンジンが始動し、回転数を上げてプロペラを動かす。やがてその勢いは空中へと浮かす程の浮力を獲得し、船体から機体が離れる。と、同時に。各パイロットは操縦桿を操作し、艦隊上空で編隊を構築。そして、全速力で艦隊から先行を開始。
目標はただ一つ。王城ジン・ハークの陥落、及びハーク・ロウリア34世の確保によるロウリア王国の降伏。
1個中隊を乗せたブルート編隊とバゼラート編隊は、高度100mの低空をおよそ300km/hの速度で王都マイハークに侵入。ヘリのプロペラ音で王都防衛隊に気付かれるが、それは想定内。直ちに作戦通り、ブルート編隊は3重の城壁を越えて王城上空へ、バゼラート編隊は散開し、城壁や防衛施設の破壊を開始。バゼラートから放たれる重機関銃の弾幕やミサイルの攻撃により、王都防衛隊や防衛施設は次々と破壊されていく。
そんな中。王都上空にたどり着いたブルート編隊は、ヘリボーンに最適な中庭にホバリング。其処から中庭の制圧射撃を開始。銃弾幕や雷による破滅の雨は、僅か10秒で中庭に居た兵士達を殲滅に追いやった。
「総員、降下」
総隊長の声を合図に、上空10mから次々と兵士達が飛び降りる。普通に考えて、10mからロープも使わずに飛び降りるなど、自殺行為だ。
だが、しかし。大半の兵士達は両足で着地し、そのまま何事も無かったかの様に走り出した。
何故そんな芸当が可能なのか。それは、EDFが採用している第3世代アーマースーツの恩恵による。フォーリナー大戦後、フォーリナーテクノロジーを存分に使用されたそれは、アーマースーツ内部に埋め込まれている人工筋肉繊維による筋力補強機能と、巨大生物の硬皮を参考にして生産された特殊素材による耐衝撃性が合わさり、正しい姿勢で着地出来れば100mからのパラシュート無しのダイブにも無傷で着地出来るという驚異の性能を叩き出している。他にも第2世代アーマースーツから継承された4つの圧縮空間で武器弾薬の携帯や継戦能力を劇的に向上させている上、ヘルメットに搭載された超小型生体電波両用識別式レーダーは、装着者の半径180m内に存在する生命体と機械を正確に認識する能力を持ち、同じレーダーを所持する者は「味方」として識別する機能も搭載している。このレーダーの前には、伏兵や罠などは無意味となる。
これが、最もEDFの通常兵科「レンジャー」の基本装備だ。そして此処から、
先程、大半の兵士達は着地したと描写した。では、残りの兵士達はどうしたのかと言うと。
冗談でも比喩でも無く、空を飛んでいる。そして更に特徴を挙げると、それは全て女性兵士で、背中に超小型のウイングを背負っている。そして彼女達の手には、ロングボウの様な武器やレイピアの様な武器を持っている事だ。
ウイングダイバー…またの名を、降下翼兵。それが彼女達の、兵科の名だ。
フォーリナー大戦を通して、人類はフォーリナーテクノロジーによって幾世代もの技術的ブレイクスルーを獲得した。その例は、数を上げればキリが無い。皆が想像する近未来の兵器や技術が大体半年くらいで現実の物となったと言えば、その凄まじさは分かるだろう。
フォーリナー大戦初期。追い詰められたEDFは戦局逆転を賭けて、その技術をふんだんに利用し、
女性のみで構成されたウイングダイバーは、「飛行ユニット/プラズマジェネレータ」と呼ばれる装置を背中に装備。エネルギー生産量にも限界がある為、ある程度の制限はあるが…しかしそれでも歩兵で唯一飛行が可能であり、三次元かつ高機動な行動が可能。そのエネルギーを利用した超兵器を使い、人類を最も多く蹂躙した巨大生物を、逆に蹂躙し尽くし得る力を得た
だが、その分欠点も多い。まず、ウイングダイバー自体の適正ハードルが高い。空中機動を行うと言うことは、高度な空間認識能力や可能な限り体重が軽い事が求められる。空間認識能力は男性が優れ、体重の軽さは女性が優れている。この点だけなら男性が居ても良いとは思うが、次が女性のみとなった最大の理由だ。
飛行ユニット/プラズマジェネレータを動かす為に必要な「AMS適正*2」が、
ウイングダイバーは武器の特性上、EDFの兵士達の中でも1番多く接近戦が求められる。その為には、飛行ユニット/プラズマジェネレータを
が、それは
言うのは簡単だが、それがどれ程に困難な事かは、考えずとも分かるだろう。まず脳と機械の直結。これを行う為に、ウイングダイバーは脊髄部にAMS接続の専用機械を埋め込む為の専用手術を必要とする。これに失敗すれば、まず下半身麻痺は免れられない。最悪の場合は死亡だ。これを成功しても、次はAMS適正の問題が立ちはだかる。手術前に脳波検査などによって大まかにAMS適正は判明するが、実際に飛行ユニット/プラズマジェネレータとAMS接続し、どれ程に精密に動かせるか。そして脳に負担が掛からないかを調べる必要がある。此処でAMS適正が低ければ、ウイングダイバーになる事は出来ない。フォーリナー大戦後でも手術後、最終的にウイングダイバーになれる確率はおよそ70%と言われている。*3
フォーリナー大戦後であっても、このハードルの高さだ。当然、フォーリナー大戦中の開発時のハードルの高さは、この比ではない。何せデータが何も無いのだ。人類の未来の為とはいえ、これを乗り越える勇気を持つというのは、男性であっても中々厳しい。
しかし…ウイングダイバーの開発主任は、篠ノ之束は、これに躊躇しなかった。
フォーリナー大戦中でありながら、人類至高の
最終的な結論を言えば、彼女は手術を強行した。彼等の言い分も分かるが、それ以上に人類は追い詰められ、時間も無かった。最早倫理や躊躇をしている段階では無かった。そして、彼女はこの手術の成功を確信していた。何故ならフォーリナー大戦前から、
宇宙空間での活動を想定し、開発を試みていたマルチフォーム・スーツ。だが、束の独力では理論は出来ても開発を行うには資金や技術が足りていなかった。彼女がEDFに入ったのも、開発する為のコネや資金を手に入れるのが始まりだった。
しかし、フォーリナーテクノロジーがある今なら。兵器としてなら、開発出来る。彼女の夢も最早、フォーリナーによって打ち砕かれた。だからその夢を兵器に堕とす事に、そしてその身体を捧げる事に、何ら躊躇は無かった。
そして、篠ノ之束は原初のウイングダイバーとなり、ウイングダイバーの早期開発の礎となったのだ。
彼女が文字通り身体を捧げてまで作り上げた執念の結晶達は、異世界で空を舞い、雷やプラズマの刃、粒子砲を以って王城の窓から見える敵を殲滅している。最早歩兵の火力を超越し、近接航空支援じみた威力を発揮。しかも雷は人間を一瞬で黒焦げにするに留まらず、壁を反射し、射程限界まで建物内を暴れ回っている。
レンジャーや近接装備のウイングダイバーが突入し、雷攻撃は打ち止め。そのまま王城外の制圧、及び防衛に移行。
城内に突入した部隊は、恐ろしい速さで城内に浸透していく。立ち塞がる兵士達は瞬時に粉々に砕け、バリケードも弾幕や力技によって粉砕されていく。
その中でも、特に恐ろしい速度で進んでいく部隊が、一つ。
その部隊は、5名のレンジャーで構成された小隊。その4人は、第3世代アーマースーツの筋力補強機能を存分に利用し、「前に飛ぶ」事によって自動車並みの速度で城内を突き進みつつ、恐ろしい精度で接敵した兵士達を薙ぎ倒している。
味方さえも置き去りにする程の速さで、しかも王がいる謁見の間に
「隊長、突出し過ぎてると思うが大丈夫か?」
「問題無い、この速度なら敵も付いていける訳がない」
「そりゃそうですけどね…流石にこんな速さで突っ走るのは少し疲れますよ?」
「気張れ。その程度で疲れるような訓練をした覚えもないし、妥協をしたつもりもない」
「おら、隊長の言う通りだ。置いてかれるぞ」
「うっへぇ、それは勘弁です」
彼等は軽口を叩いているが、自動車並みの速度で城内を突っ走りつつ眼前の敵兵を千切っては投げている。はっきり言って人間業じゃない。
「…此処だ」
一同は、目の前に広がる大階段の前に止まる。隊長の直感は、この先にロウリア王国の王がいると、確信している。生体レーダーによると、何十人かが待ち構えているのは間違い無い。
「…陣形が妙、だな。待ち伏せか?いや、だとしても1番前に3人だけってのは…」
「…前進するぞ。警戒を怠るな」
彼等はアサルトライフル AF100の装弾数を確認し、再装填。銃口を階段の先に向け、静かに、しかし迅速に階段を上がる。
「ヒッ…!!」
果たしてそこに居たのは、悲愴な表情を浮かべたメイドが2人。反射的に引き掛けた指を理性で強引に止める。
明らかな、非戦闘員。戦意もなく、武器も無い。
「…ほう、止まるのか。破れかぶれの賭けだったが、お前達は──」
メイドの後ろの暗がりから、1人。銀の鎧に身を包んだ男が現れる。そして男が瞬きした瞬間、運命は決した。
銃声が1つ。隊長の持つAF100から放たれたその銃弾は、メイドの間を通り抜けて男の胸部に命中。その威力を存分に発揮して、男の上半身を粉々に粉砕。無事だった下半身と上半身の残骸は、その衝撃で後方に勢いよく吹き飛んでいく。
そして、残りの4名からも弾幕が展開。これもまた、メイドの2人を避け、柱や壁の回転扉に隠れていた兵達を次々と射殺。障害越しだが、AF100の威力ならば貫通はとてもたやすい事。
「──クリア」
数秒後、レーダーの反応には自部隊とメイドの2人、そして奥の1つを除いて全てが消失していた。
メイドの2人は銃声に驚いて腰を抜かして、ガタガタと震えている。目の前で爆音が響き渡ったら仕方のない事ではある。
隊長は武器を下ろし、2人に近付いてしゃがみ、視線を合わせる。
「怪我は無いか?」
2人はコクコクと、頷く。
「なら良かった。…佐藤、神谷。此処を確保していろ」
「「了解」」
呼ばれた2人は了承し、周辺の警戒に当たる。さりげなくだが、メイドの2人を守るように立っている。
「俺達は王を確保する。さっさとこの戦争を終わらせるぞ」
ハーク・ロウリア34世は、玉座でガタガタ震えて何処かの神に命乞いをしていた。
服従と言っていいほどの屈辱的条件を飲んで、漸く取り付けた列強の支援。
その支援によって列強式兵隊教育を6年間の歳月をかけて施し、漸く完成したロデニウス大陸統一の為の大軍団。
資材も国力の限界ギリギリまで投じ、数十年先の借金までして作り上げた軍隊で、更には念には念を入れ、石橋を叩いて渡るかのように軍事力にも差をつけた。
そうして圧倒的勝利でロデニウス大陸を統一する筈だった。その筈なのに。なのに、なんでこんな事になっている?
扉の前に積んでいた即席のバリケードが一瞬で破られ、緑色の服を着た奇妙な3人が部屋に雪崩れ込んできた。
手には魔法の杖の様な物を持ち、帯剣はしていない。どうやら全員魔術師の様だ。ロウリア34世の脳裏に、古の魔法帝国軍のお伽話が浮かぶ。
「まさか……貴様ら、魔帝軍か!?」
恐怖に震えながら叫んだその言葉に、1人の兵士が前に出る。
「我々はEDFだ。ハーク・ロウリア34世、この戦争を終わらせる。抵抗はするな、命が無駄に減っていくだけだ」
直後、王都制圧部隊及び第7機動本艦隊は以下の通信を受信した。
『此方は王都制圧部隊総隊長、ストームリーダー。ロウリア王 ハーク・ロウリア34世の捕縛、及びロウリア王国の降伏受諾に成功した。現在、ハーク・ロウリア34世自らの手で魔導通信を通じ、ロウリア王国の降伏を発信させている』
こうして、ロデニウス大陸の雌雄を決する筈だった大戦争は、僅か2日で終結した。
用語解説
ウイングダイバー
設定を考えてる内に、アーマードコアと(申し訳程度の)IS要素がミックスされた。
地球防衛軍では名前しか分かってない「サイオニック適正」の代わりに、アーマードコアの「AMS適正」に変わったせいでよりヤバイ兵科に。
本文では記述していなかったが、ISの理論が前もってあった事も相まって早期開発を可能とした要因の一つだった。何よりの要因は、篠ノ之束の献身である事は変わらないが。
AMS適正
アーマードコア4、FAに登場する単語。脳と機械の制御装置を接続し、操作を思考によって行うという、マシン・生体制御システム。詳細は省くが、適正が低いと脳が負荷に耐え切れず、廃人化もあり得る。
篠ノ之束
ウイングダイバー関連の設定を定めるに辺り、彼女も頑張ってもらう事に。実戦こそしてないが、原初のウイングダイバーとして数多くの基礎データを収集。ウイングダイバーの開発に文字通り身体も使って大貢献した。
今も彼女の背中にはAMS接続専用機器が存在している。(そもそも、神経と繋がってしまっている為、手術で摘出も不可能)