EDF日本支部召喚:Restart   作:クローサー

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最後の休息 2

二人が人類(EDF)に向けて杯を捧げた、その直後。

 

屋上から建物内に繋がるビルの扉が唐突に、凄まじい音を立てて開く。

 

「やっほー!!」

 

と共に、二人にとってはとても(色んな意味で)聞き覚えのある声が聞こえた。一瞬の視線の交差の後、同時に振り返る。

 

「やあやあスーくん、司令ちょーかん!探してたんだよー!」

 

そこに居たのは、兵器開発部の最精鋭の科学者 篠ノ之束。雪が降るほどの気温でもあるにも関わらず、いつもの格好(エプロンドレス&ウサミミ)を着ているのは寒さに強いのか、それとも気にしていないのか。

それはともかく。二人の姿を認めると彼女はすぐさま、当然のようにストーム1の隣に座って腕に抱きついてくる。そんな彼女の行動に彼は慣れているのか、特に声を上げる事もなく受け入れる。

 

「もー、何だってこんな人の居ない所に居るのさスーくん。兎さんは寂しいと死んじゃうんだよ?」

「下は人が多過ぎる。静かな所にいたかっただけだ」

「あー…すまない、篠ノ之博士。その背中の物はなんだ?」

 

早速2人の世界から弾き出されそうになった大石司令は、束の背中に背負ってある細長いガンケースに注目し、問いかけた。

 

「おっとっと、束さんとした事がすっかり忘れる所だったよ」

 

彼の腕から離れた束は、ガンケースを下ろして2人の対角線上の位置に置く。

 

「私が今ここにいるのは、スーくんに渡したい物が漸く完成したんだ」

 

カチカチと、ガンケースに施されているロック解除の操作を開始。4桁から成る暗証番号と指紋認証を終え、封を開けられたその箱が、開けられる。

そこにあったのは、一丁の武器。銃種はスナイパーライフル。それもサイズを見るに量産型のMMFシリーズではなく、高火力型のライサンダーシリーズか、ストリンガーシリーズのように思える。しかしそれでも、彼女が持ってきたその武器は、余りにも重厚な見た目と威圧感を持っていた。

 

 

「この武器の名は、ストリンガーJ9。全世界で唯一、マザーシップの装甲をも貫ける可能性がある…人類に残された牙だよ」

 

 

「J9…!?それは此処には十数丁分のパーツしか無かった代物だぞ!?まさか、再生産に成功したのですか!?」

 

武器の名を聞き、思わず大石は声を荒げた。

ストリンガーJ9。それはかつて存在していたEDF東京基地の兵器開発部が着手していた、新型スナイパーライフル。ライサンダーシリーズを「対巨大生物兵器」として見るのなら、ストリンガーシリーズは「対ヘクトル(機甲戦力)用」として見るのがいいだろう。

マンハンター(人狩り)」という異名さえも持つ、平均全高30mの二足歩行兵器 ヘクトル。その見た目に反した運動性能の高さ、各所に施された円形関節による衝撃吸収機構、両腕に固定装備された粒子マシンガンやレーザー砲、プラズマ迫撃砲による大火力。それらを統合した戦力評価は「ヘクトル1機につき、大戦前の1個機甲部隊に匹敵する」とさえ言われている。しかもタチの悪いことに、フォーリナーにとってはヘクトルはいくらでも替えがある駒の一つでしかないらしい。日本支部の機動部隊殲滅作戦やヨーロッパ戦線の第一次欧州防衛戦で、数百数千のヘクトルが戦列を成して歩くその光景は、最前線の兵士達に深い絶望を与える光景の一つとして余りにも有名だ。

更に同時期から巨大生物の甲殻変異により、スナイパーライフルの火力不足が徐々に問題視され始めていた。その為EDFはスナイパーライフルの高火力型の開発を開始。最終的にライサンダーシリーズとストリンガーシリーズの2つが選ばれ、開発が始まった。ライサンダーシリーズは巨大生物を即殺する威力、そして大群にも対抗し得る汎用性を。ストリンガーシリーズは、マンハンターを殺せる(狩れる)確実な大火力のみを求めて。

 

その果てに生まれたストリンガーシリーズの極致、ストリンガーJ9。それは大火力をひたすらに求め続けた科学者達の、オーバーテクノロジーの結晶。機関部には超小型のジェネレーターを搭載し、引き金を引くとジェネレーターが反物質を生成。同時に銃身が超電磁状態へ移行。結果、銃身の内壁に触れずに反物質弾は撃ち出され、形成限界射程である1600m内に存在するあらゆる物体を消滅させながら突き進む。

 

幸いにしてこの超兵器 ストリンガーJ9は開発に成功し、十数丁分のパーツの生産に成功していた。しかし不幸な事に、開発及び生産を行っていた東京基地が、フォーリナーの侵攻によって電撃的に陥落してしまった。

結果、設計図及び開発チームは東京基地から脱出する事は叶わず、EDFが手に入れる事が出来たのは、僅かに十数丁分のパーツのみ。組み立てる為の設計図も無く、バラバラのパーツだけでは武器にさえもならない。そしてEDFが欲していたのは「量産」だ。故にEDF日本支部は、ストリンガーJ9の再生産を兵器開発部に要求していた。しかし失われた人材のダメージは重く、そして原初の天才(天災)である篠ノ之束であっても、これ程の代物は手に余った。結果として、今日までストリンガーJ9の再生産は叶っていなかった。

 

しかし今、目の前には完璧な姿としてガンケースに収められたストリンガーJ9。大石が再生産の期待を抱くのも無理はない事だった。

 

「んーん、残念ながらストリンガーJ9の再生産は出来てないままだよ。銃身とかの構造解析は出来たけど、機関部のジェネレーターは未だにチンプンカンプン。どうやったら燃料無しに反物質を生成できるのか全く分からないもん」

「なら…」

「だけど」

 

 

「実物があるのなら、設計図無しでも組み立てる事くらいは出来るよ」

 

 

 

「ッ…!」

「ふっふっふー、司令ちょーかん。このくらいで驚いてどうするの。私を誰だと思ってるのさ(・・・・・・・・・・・)?」

 

彼女の表情に浮かぶ絶対の自信。見方を変えればまるで傲岸不遜そのものだが、事実、彼女を上回る頭脳は今現在の人類に存在していない。

 

「この一丁は、此処(大阪本部)に現存してたパーツの中で一番状態が良い奴だけを選んで組み立てたよ。オリジナルのデータがほぼないから、どのくらい性能を取り戻せているのかは全く分からないけど…それでも、試射データによると射程は1600m。輸送船の装甲を貫通する事に成功したから、威力は十分にある。だからといってマザーシップの装甲まで貫通する事が出来るかは、確約は出来ないよ。そして私が明日の作戦の運用に耐え得ると太鼓判を押せるのは、この一丁だけ。これを、スーくんに任せたいんだ」

「…」

 

彼は、静かにストリンガーJ9の銃身を撫でる。掌に伝わる金属の感触と無機質な殺意。

 

「俺で良いのか?」

スーくんだから(・・・・・・・)、だよ。私が知ってる中でも、そして司令ちょーかんの中でも、スーくん以上の戦闘能力を持った兵士は知らない。今のEDFの 戦闘教義(戦闘ドクトリン)は、少数精鋭主義による機動遊撃戦。一番良い武器を、一番の兵士に与えるのは当然でしょ?」

「…確かに、な」

 

会話が途切れ、沈黙の時間が生まれる。

 

「…司令ちょーかん。その…2人だけで話したい事があるんだ。少し、良いかな?」

「…そうだな。私も最終作戦の計画内容の最終確認がある。気が済むまで話していて構わないさ」

 

大石はそう言い、持参したお猪口を置いたまま立ち上がり、そのまま屋上から退出。ドアが閉まる音が響き、正真正銘2人だけの空間となる。

 

「…」

 

束は無言で、彼に真正面から抱きつき、顔を彼に見せないようにする。直後、すすり泣く声を彼の鼓膜が拾う。

 

「………そーくん(スーくん)。私と一緒に、逃げようよ」

「…」

「なんでそーくんが、まだ…戦い続けなくちゃいけないの?明日はまだ1000人も戦ってくれる人がいる。それに…」

 

 

「もう、人類が勝てる訳がないよッ!!」

 

 

「たった半年で日本以外の軍隊は全滅して、もう私達しか居ないッ!!もう私も、そーくんも、皆も、もう勝てない事くらい分かってる事なのにッ、何でまだ戦い続けようとするの…!?もう、何もかも投げ出して2人で逃げて、最期まで一緒に居ようよ!!それで、それで…ッ、もういいでしょ!?」

 

彼女の心の底を表す号哭。あらゆる抑えを破壊し、彼女が叫んだ言葉は、果たして彼の内に届くのか。

 

「…なら、何でお前は逃げ出す手段を作るよりも先に、こんなもの(ストリンガーJ9)を組み立てて、俺の元に持ってきたんだ?」

「分からないよ…私にも私が分からないんだよ…!!私の中に今、フォーリナーを憎んで憎んで堪らない私と、こんな戦いから逃げ出そうとしている私が居て、あの頃からずっと私の心の中で戦って、心を荒らして、私をおかしくする…!!もう私自身がどうしたいのか、私でもよく分からない…!!」

「俺も似たようなもんさ」

「え…?」

 

彼の言葉に、思わず束は顔を離して彼の顔を見る。彼の表情は硬く、その奥に潜む感情は読み取れない。

 

「俺の中にも、戦い続ける事に疑問を持っている俺もいる。其奴に対して俺は、ずっと明確に答えを出し続けている。それが正解か不正解か、それ以前に正解があるのさどうかさえ分からないが、そんな事は知ったこっちゃない」

大事なのはな、自分を信じる事(・・・・・・・)だ。何事にも最終的には自分の実力で結果は決まる。なのに自分を信じれなくて何が出来る。なのにお前と来たら…自分自身がブレッブレな状態なのに、此処まで完璧な武器(ストリンガーJ9)を仕上げて来やがって。間違いなくお前は天才だよ。幼馴染の俺が保証してやる」

 

次の瞬間、今度は彼が彼女の身体を抱擁し、耳元で囁いた。

 

「だから、ちょっと待ってろ。明日にはあのクソッタレな球体を叩き墜として、お前の元にもう一度帰ってくる

「ッ…!!」

 

再び、彼女の涙腺から涙が溢れ出す。

 

「…それは、私への愛の告白と受け取っても良いのかな…?」

「残念だが、まだ「幼馴染」としての言葉だ。俺と付き合いたいなら、次のチャンスを待つ事だな」

「…卑怯だよ、ホント…卑怯。束さんを弄ぶなんて、君じゃなかったら激おこぷんぷん丸なんだから…」

 

 

「…約束、だからね。私を1人ぼっちにするなんて、絶対に許さないから」

「分かってるさ。兎は寂しいとすぐに死ぬ、だろう?」

 

 

この時、第三者が居たのならば。逆三日月(二十六夜)の淡い光に照らされた2人は、極上の芸術品の如く美しい姿となって見えた事だろう。

 

最後の夜が、深けていく。




この半日後。残された全人類は、人類史上最も長い1日(ザ・ロンゲスト・デイ)を迎える事となる。

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