パーパルディア皇国 皇都エストシラント第3外務局。
其処に魔王復活及び援軍要請の知らせを受け、魔王討伐部隊の派遣要請の為、トーパ王国大使が訪れていた。
「──以上の為、神話に伝えられている魔王が復活致しました。我が国の騎士団が総力を挙げて対抗中ですが…既に世界の扉が陥落し、我が国は危機的状況に陥りつつあります。貴国が保有している、歩兵でも持ち運びが可能な魔導砲が極めて有効である可能性があります。如何なる規模でも構いません。討伐部隊の派遣をお願いしたいのですが…」
「無理だな」
第3外務局担当員は資料を読みながら、トーパ王国大使にも目もくれずに即答した。
「はっ…?け、検討だけでもして頂けませんか?我が国が突破されてしまえば、フィルアデス大陸全土に魔王軍が侵攻する事になります!」
「理由は言えんが、皇国は今、ちと忙しいのでな…小隊とはいえ軍を他国に派遣している場合ではないのだよ。これは貴国に対して嫌がらせなどをしている訳ではない。それに…50mの魔獣など、本当に存在している訳が無いだろう?目測を大きく間違えたに過ぎんだろう」
担当員の言葉は、けして間違いではない。
現在、パーパルディア皇国は フィルアデス大陸南方の島国 アルタラス王国の侵攻に向けて検討を始めたばかりだ。アルタラス王国は世界有数の魔石鉱山を有する豊かな国で、文明圏外国であるにも関わらず通常文明国並みの国力と文明水準を持つ。それ故に軍事力も通常の文明圏外国と比較して傑出しており、魔導戦列艦を保有する他、風神の矢等の独自兵器も開発しているなど、文明圏外国の中でも突出した特徴を持っている。
が、パーパルディア皇国からすれば息を吹き掛ければ吹き飛ぶ紙同然の弱小国。アルタラス王国侵攻の為に派遣する戦力は戦列艦含む砲艦200隻以上、ワイバーンの航空戦力を海上から投射出来る竜母10隻以上、陸軍戦力を輸送する揚陸艦およそ100。ワイバーン200以上、陸軍数千による大部隊。唯の文明圏外国ならばこれほどの軍隊は必要無いが、アルタラス王国であるという事を鑑みてこれ程の戦力が投射される事が考えられている。
流石の皇国とはいえど、これ程の戦力を動かすとなるとそれ相応の時間と準備が要る。その矢先に、この知らせだった。
「まぁ何にせよ我が国には関係のない話だ。それに…文明水準の低い古代に名を馳せた魔王如き、今更粋がった所でたかが知れた事だ。もしもお前の国が滅んで、それに満足せずにフィルアデス大陸に侵攻しようとするなら、その時は我が国も改めて考えるだろうし、瞬く間に滅して見せよう」
「そんな…!」
トーパ王国 フィルアデス皇国駐在大使は、パーパルディア皇国からの援軍獲得に失敗する事となる。
…最も、それが間に合うかどうかは別問題だったが。
同時刻、トーパ王国王都ベルンゲン。
「ギャアアアアアアッ!!」
「死ね、死ね、死ねェっ!!!!」
「オーク5体接近中ッ!!もう駄目だぁ!!」
「一歩も引くなぁっ!!我等が1秒でも多く王や民達が逃れられる時を稼ぐのだ!!!!」
其処は今、地獄と化していた。
王都に侵食する幾多の魔獣。振われる暴力に倒れる騎士。斬られ、貪られ、消費される民達。其処に人の尊厳や権利は何ら存在しない。
その光景は正に、
しかし不意に、魔獣達が引き始める。それはけして潰走などではなく、後退。しかし慌てている様子さえ見える。
地面が揺れ、そして何重にも重なる破壊音が響く。
「ッあああああああああ!!!!」
奮戦する彼等が見たのは。城下町を踏み潰して近付いてくる
だが、エルギヌスは彼等の目の前で止まる。そして蒼く輝く燐が、激しい点滅を始める。それを呆然と見る者、恐怖の表情に歪めて逃げる者、自分の死を確信して諦める者。彼等に共通した事は、
エルギヌスの膨大な魔力によって生成されたそれは、まるで制御された自然的な落雷を思わせる。しかしその実態は、
唯の無機物には一切の被害は無い。何故ならその怪光線は、物理的攻撃力は何ら保有していない。魔力を保有する生命や兵器に対してのみ、その即死の威力を発揮する。ラヴァーナル帝国が打ち立てた「余分な損害を最小限にしつつ、確実に家畜を殺処分させる」というコンセプトは、およそ2万年が経過した今でも、凶悪な程に、悪魔的な程に有効な攻撃手段となっていた。
エルギヌスが咆哮する。魔獣達が駆ける。人が貪られる。
王都ベルンゲンは、死都となりつつある。しかしまだ、まだトーパ王国の王が住まう王城ニーベルには、辛うじて魔獣の侵入は防いでいる。王都防衛隊はニーベル周辺に最終防衛線を構築し、1人でも多くこの地獄から逃れられる為の時間を作る。生還はあり得ない、決死の任務。それにもかかわらず、彼等は剣や杖を取り、奮戦している。
「…ふむ」
その光景を、魔王ノスグーラは上空に浮遊し、俯瞰していた。
「やはり、少し手間取っているな。被害は相当出ているはずなのに、人間の戦士達は全体的には引く様子が見られない…」
右手を顎下に添え、観察する。
「…起点となっているのはあの城、か。エルギヌスに破壊させるのが1番速いが…」
ニヤリと、笑った。
「あの時振りに本気を出す事だ。あの城で試すとしよう」
刹那、魔王よりエルギヌスにも及ばずとも劣らぬ膨大な魔力が活性化。空中に浮く魔王の直下に巨大な魔法陣が出現する。当然、それは騎士達からしても良く見えるが、しかし魔王に届く程の射程を持った攻撃方法を持っていない。故に彼等は悠々と攻撃準備をする魔王を睨む事しか出来ない。
そして攻撃準備が整い、魔法陣が消滅した。
どんな攻撃が飛んでくるのかと身構えていた城の騎士達は、拍子抜けた顔を見せる。
「…ん?」
ふと、騎士の1人が顔を上げる。
雲に覆われていた一部分が、ニーベル城のほぼ直上の雲が赤く、紅く変色し始めている。それはまるで太陽の様な色に徐々に紅く、鋭く。
あれは何だ、そう口を開く前に。
そしてその災害は、ニーベル城に直撃。その膨大な物理エネルギーと魔力エネルギーを解放し、爆発。爆煙がニーベル城を覆い尽くし、何者からの視界からも掻き消える。
「…総魔力の6割と長時間を浪費してこの程度か。やはり割りに合わんな」
魔王軍の侵攻から2日後の
これによってトーパ王国は戦力の7割、国力の8割、国土の3割を喪失。王族の避難こそ、海へのルートでギリギリの瀬戸際で完了した。が、しかし、戦力と国力を北部に集中していたトーパ王国の打撃は既に致命的であり、魔王軍の攻撃に耐える事は不可能だった。これによりトーパ王国の王族達はパーパルディア皇国に亡命する事となる。
王都ベルンゲンを陥とした魔王軍は、勢いそのままにトーパ王国南部に浸透。文字通りの破竹の勢いで次々とトーパ王国を侵略。
グラメウス大陸に巣食っていた魔獣達が、怪物達が。遂に第三文明圏に解き放たれる。その時、第三文明圏のあらゆる人間達は知る事となるだろう。
そして、第三文明圏に迫りつつある危機を。
「やはり国土の復興は遅れているな…」
「はい、やはり先の北海道の件が大きな遅延を生んでいます。再び本格化させるには安全が確約出来ておりません…」
「仕方あるまい。焦って余計な被害が出るよりは確実性を取ってくれ。今ならクワ・トイネ公国から山程の天然食料がある」
「おーい司令ちょーかん。例の建造の進捗報告書持ってきたよー」
「ご苦労、篠ノ之博士」
「ほいほーい。それじゃ私は久しぶりの休暇取ってくるね。あ、スーくん何処に居るか知らない?」
「頼むから、問題行為は控えてくれよ…?」
Q.何で日本支部は第三文明圏の危機をまだ知らないの?
A.原作日本と比べると超引きこもり体質なのが原因。未だに国交をロデニウス大陸にしか持っておらず、それ以外の国家とは接触すらしていない。しようとした時期はあったが、北海道の巨大生物再出現でその予定は彼方に飛んでった。
用語解説
アルタラス王国
フィルアデス大陸南方に位置する島国で、文明圏外国に分類されるものの、世界有数の魔石鉱山を有する豊かな国。
本来の歴史では、既にパーパルディア皇国から侵略を受けて占領下に置かれている。が、本作ではバタフライエフェクトによって未だ侵略を受けていない。