グラメウス大陸方面の防衛を担っていた国家、トーパ王国の滅亡。
このニュースは複数の魔導通信によって、比較的速く世界に拡散されていたのだが、世界の反応はかなり鈍かった。しかもそれは、魔王の脅威が直接的に晒される範囲内にある第三文明圏南部に於いても。
世界の中で三番目に遅れた文明の国家が一個滅んだ程度で、この世界は騒がない。特に近年では第三文明圏列強国のパーパルディア皇国が周辺国家を併合し続けている為、余計にそういった感覚が麻痺していた。「たかが第三文明圏の田舎国家が一個無くなっただけだ」と。「たかが北の蛮族の国家が、古代の蛮族に蹂躙されただけだ」と。世界の関心は所詮そんなものだ。弱肉強食、弱いものは強きものに蹂躙され、そしてその強きものも、より強きものに蹂躙されるだけの世界。関心ごとは自国の利益になるか否か、それだけだ。
それ故に、彼等は甘く見ていた。古代より蘇りし人類への悪意を。
トーパ王国を制圧した魔王軍は、大きく分けて3つに分割された。
一つは、魔王ノスグーラ及びレッドオーガ率いる魔王軍本隊。魔王軍の5割を率いて第三文明圏東海岸沿いに沿って南下を開始。
一つは、マラストラス及びブルーオーガ率いる魔王軍分隊。此方も魔王軍の5割を率いて、第三文明圏中央部に向けて進撃を開始。
此処で妙な事に気付いた方もいるだろう。魔王軍の戦力は2分割で完結している。それなのに3つに分割されているのは、矛盾していると。
確かに魔王軍の戦力は既に無い。しかし最後の一つは、それだけは
最後の一つ、それは。エルギヌス単体による、
トーパ王国陥落の連絡を受けて、フィルアデス大陸最北部の5ヵ国は即座に其々の軍隊を抽出、連合軍を結成。元トーパ王国との国境線に厳重な防衛線を構築した。
トーパ王国と変わらぬ高緯度の為、ワイバーンによる航空戦力は連合軍には存在しない。しかしその代わりに5ヵ国の軍隊による121万もの兵力とパーパルディア皇国のお下がりである旧式の魔導砲を171門も揃えていた。
5ヵ国連合軍とはいえども、これ程の数を揃えるのは並大抵の事ではない。しかし最前線となってしまったヌシ王国が殆どの戦力を対魔王軍に振り向けた事によって此処までの戦力を用意できた。魔導砲に関しては約半数の95門、国内の魔導砲をとにかく掻き集めていた。昔にパーパルディア皇国の旧式魔導砲が大量在庫処分を行なっていたお陰だ。*1
集結した5ヵ国連合軍の戦力を見た指揮官達が、「これならば魔王軍の攻勢も不可能ではないのでは?」と思うのも無理は無いだろう。人間よりも強い魔獣が群を成している以上、其れ相応の被害が出てしまうのは確実だ。しかし、しかしだ。たかが数万の魔獣に対して、121万もの兵力と171門もの魔導砲。これ程の戦力を投射すれば、如何な魔王とて倒れるだろうと。そう思って、何人かの指揮官は攻勢計画を考え始めていた。
ヌシ王国国境線 5ヵ国連合軍防衛線。
そこは今、凄まじい轟音が響き渡り続けていた。
「撃て撃て撃て撃て、撃ちまくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!」
数十門の魔導砲が秩序無く乱射される。その照準はたった1体の超巨大魔獣、エルギヌス。
魔導砲だけでは無い。遠距離攻撃方法を持つあらゆる兵士がエルギヌスに向けて攻撃していた。怒涛の数の弓矢や魔法が次々とエルギヌスに着弾する。
放たれ続けるその大火力は、パーパルディア皇国の軍隊を以てしても、何も考えずに突っ込めば大損害を負う事は確実な程。しかしそれ程の火力を受けて尚、エルギヌスは全く痛がる様子を見せない。ただゆっくりと、恐怖を煽るように一歩、また一歩を踏みしめる。
悉くの攻撃が、エルギヌスの強靭な皮膚の前に弾かれる。それどころか魔法や魔導砲の砲弾の爆発は、エルギヌスにとっては唯のエネルギー補給にしかなり得ない。
それは、2万年前のグラメウス大陸蹂躙の際。ラヴァーナル帝国軍と戦っている最中に獲得した、エルギヌスの進化の一つ。この能力によって、ラヴァーナル帝国はその一切の攻撃能力を事実上消滅する事になったのだ。どれだけ技術が最先端であろうと、ラヴァーナル帝国軍の兵器の根本的な分類が「魔導攻撃」であるという事実は変わらない。
魔導銃も、魔導砲も、アトラタテス砲も、誘導魔導弾も。天の方舟も、パル・キマイラも、パルカオンも、果てにはコア魔法でさえも。
そして再び、その理不尽が牙を剥く。
彼我の距離、僅か100m。
突然バチバチと、エルギヌスの身体から厭な音が響き始める。そして、蒼く輝く鱗が一層激しく点滅する。その変化を、連合軍は気付く事が出来ない。魔導砲や魔法の攻撃によってエルギヌスの巨体の多くの面積を目隠ししてしまっているからだ。
エルギヌスの口から放たれた怪光線。それはトーパ王国の時とは
照射が終わる。
怪光線を受けた箇所にあるのは。
死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体。
唯、其れだけが広がっていた。
瞬間、その事実を十数秒掛けて漸く認識。
それをエルギヌスが逃がすわけがない。先程の威力の怪光線は出さないが、しかしそれが無くても十二分。咆哮の後、エルギヌスは駆けた。その巨体に反した鋭い機動力は、人間を容易く踏み潰し、轢き飛ばし、吹き飛ばす。
後の展開は、語るまでも無い。この時点で、フィルアデス大陸最北部の運命が決定されたのだから。
Q.エルギヌスの強さどうなってるの?
A.設定深掘りしてたら魔法版ゴジラになった。