「……ふぅ」
本部との通信を終え、ストーム1は下半身の力を抜き、重力に従って腰を地面に落とす。
「………………」
そして、そのまま背中も地面に付け、再び大きく、大きく息を吐いた。
「…やったんだな、俺達は」
「…ああ、やった。マザーシップに、勝ったんだ」
「…なんていうか、実感が湧かないな。本当に奴が墜ちた事が、今でも信じられない」
彼の周囲にいた戦友達が、少しずつ言葉を紡ぎ始める。彼らの殆ども腰を落としていたり、地面に横たわっていた。
「…俺もだ。今この瞬間が夢か何かで、次の瞬間には目が醒めるんじゃないかって、疑ってる自分がいる」
「…だったら、随分とご都合主義的な夢だな。俺だったら衝撃波に吹っ飛ばされた衝撃で目が醒める」
「…」
暫しの沈黙。
「…マザーシップが墜ちて、万事解決。なんて訳が無いよな…」
「…巨大生物は、今も地底に穴を開けて巣を作っている。一刻も早くなんとかしないと、増殖し続けるぞ」
「…て事は…」
「俺達の戦いは終わっちゃいない。いや、まだ始まったばかりだ」
いつの間にか上半身を起き上がらせていたストーム1が、再び言葉を紡ぎ始める。
「俺達の敵は、地の底で嫌になる程の速度で、嫌になる程の数を増やす。そして俺達を喰らう。奴等の数は一体どれ程いる?幾万、幾十万、幾百万、幾千万…いや、幾億と。対して俺達は、ボロボロの陸空軍、海軍に至ってはたった数隻の艦船だけ。はっきり言って、戦力差は酷過ぎる」
「だけど、やらなきゃいけない。じゃなきゃ、さっきの2時間の戦いの意味が、今まで戦ってきた意味が無くなるからな」
『…』
皆が浮かべる表情は同じように見えて、しかし違っているようにも、彼には見えた。今頃降りかかってきた極端な疲労のせいか、少しボヤける視界に思わず苦笑した。
「ま…そう、だな。今はこの勝利をゆっくりと噛み締めておこうか。…迎えももうすぐ来るだろうしな」
2017年11月20日。
この日、EDF日本支部の動員可能な全戦力が最前線に集結していた。
マザーシップ撃墜直後、確認されていたフォーリナーの残存輸送船は大気圏外への離脱を確認されていた。そして多量のガンシップを吐き出していたマザーシップも撃墜され、大空戦から喪失し続けていた制空権も獲得する事は不可能ではないとして、僅かに残っていた爆撃機や攻撃機、そして戦闘機も全力投入する事を決定していた。そして陸軍も、必要最低限を除いた全戦力が攻勢に出る。
もしこの攻勢に失敗したら、などと考える事はない。それを考える事自体が無意味に等しい事だ。
全隊員の無線機に通信が入る。その通信相手は、大石司令長官。
『諸君。我々は4日前、フォーリナーの母船であるマザーシップを撃墜し、フォーリナー船団の撃退に成功したと思われる。この時が、この戦争に於いて最大のチャンスである事に間違いない。我々は動員可能な全戦力を以って、総反撃戦略…地球奪還作戦を発動し、地球を再び人類の手の中に取り戻す。しかし、日本列島にいる巨大生物だけでも、最低推定でも数百万以上と言われている。はっきり言おう。我々は既に致命的な数的不利の状況下にあると。そして我々に残された時間は少ない。我々に残された物資は、潤沢でもない。弾薬も、燃料も、食料も、あらゆる物資には限りがあり、そして今それらを補充出来る手段はほぼ無いに等しい。しかし、我々には科学による手段がある、頭脳と知恵による閃きがある、一騎当千たる君達がいる』
『───充分だ。0を1に変える為のピースは充分に揃っている。奴等に人類の意地汚さを見せてやろう。奴等に人類の底力を見せてやろう。奴等に、地獄を見せてやろう』
『さぁ、我々に残された勝機を見つけに行こうじゃないか』
──そう。マザーシップの撃墜は、フォーリナー大戦に於いて序盤の出来事に過ぎない。
そうだ、フォーリナー大戦は寧ろ此処から。今この瞬間からが本番、天王山に漸く辿り着いただけ。
人類は絶望的に追い詰められ、そして地球に巣喰った宇宙より来たし化け物共は、急速にその数を繁殖し、取り残された機甲戦力も生き残っていた人類の殺戮を続けていた。
1つの惑星に、絶対に相入れない種族が2つ。それ即ち、惑星全土に及ぶ生存戦争の幕開けとなる。
そして。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」
「EDF!!EDF!!」
「あ、アンタらはまさか…!!」
「EDF日本支部所属のレンジャー43だ。他に生き残りは居るか?」
『クソッタレが、数が多すぎるぞ!!!!』
『更に巨大生物の増援を確認!!これ以上は限界になります!!』
『此方ストームチーム、現地に到着。これより突撃する』
『この反応はッ…!!四つ足歩行要塞です!!』
『何ッだと!!!?直ちに後退しろ!!付近の戦力だけでは到底太刀打ち出来ないぞ!!!?』
『此方レンジャー62!!!!四つ足歩行要塞を確認ッ!!繰り返す、四つ足歩行要塞を確認!!!!』
『…待て、確かレンジャー62の現在地はッ…!!!?巫山戯るな、同地域に2機の四つ足歩行要塞だと!!!?』
「これが、クラス5の巣穴…縦穴だけでこれとか、冗談キツいぞ?」
「忘れるな、俺達の任務はあくまでも威力偵察だ。軽く小突くだけで──」
「レーダーに反応ッ!!…おいおい待て待て待て何なんだこの反応の多さ!!!?」
『緊急通達!!ヴァラク4体が戦闘地域に接近中!!繰り返します!!ヴァラク4体が接近中!!』
『ヴァラク4体ィ!!!?何だってそんな数が纏めて来るんだ!!!?』
『そんな事考えてる場合か!!退避、退避ィ!!!!』
『…なんだ、これ』
『…フォーリナーの…仕業、じゃない…明らかに、人同士で争ったんだ』
『…だとしても…なんでこんな事になってるんだよ…!』
「名は、なんて呼べば良い?」
「…ラウラ。ラウラ・ボーデヴィッヒ。お前の名前は何だ?」
「ストーム1と呼んでくれ」
三年半にも及ぶ、悪夢が始まった。