The Another World 作:MAXIM_MOKA
森へ 1
__丘での戦いから2日後...
信幸たちは全員暑さにやられてグデーッとしていた。
先日は春のように暖かかったのに対し、今日は真夏のような暑さなのは異世界ゆえだろうか。
「異世界って暑いんですね~...。」
涼香暑さにうなされながらそう呟いた。
室内温度は31度、外に至っては37度である。
信幸でさえも夏の暑さにやられて仰向けに倒れている。
ジュリーは案外平気そうだが。
「ほい、アイス。」
成哉は冷凍庫の中に入っていたアイスキャンディを取出し、ジュリー含めた三人に投げ渡した。
「す、すまん...。」
信幸はそう言いながら袋を開け、アイスを咥えた。
「???」
異世界にそういうものはないのだろう、アイスを持ちながら、ジュリーは頭にクエスチョンマークを浮かべていた。
「ちょっと貸してくださいね~。」
涼香はジュリーからアイスを取り上げると、その袋を開け、中身を取り出した。
「はい、冷たいので驚かないでくださいねー。」
涼香はそう言うと、アイスをジュリーに渡した。
「...はむっ。」
ジュリーは少し戸惑いながらも、アイスを口に咥える。
彼女は数秒間硬直した後に、目を輝かせた。
「ふふっ、気に入ったようですね。」
涼香は母親のような笑みを浮かべながらアイスを咥えた。
「この前商業区域*1に行った時に売ってたから買ってきたんだが、買ってきて正解だったな。」
成哉はそんなことを呟くと、アイスを咥えながら冷凍庫の扉を閉めた。
信幸は何とか復活できたようで、汗をかきながらも立ち上がっていた。
「暑いが、ジュリーの願いを聞いてやらんといけないな。」
信幸は少し嫌そうな顔をしながらも、銃器の軽い点検や、装備の点検などを始めた。
と言うのも、ジュリーが異世界基地に侵入してきた理由が原因であった。
__遡ること数日前、...
「私が侵入した理由なんですが、簡単に言えばゲルーニャ皇国による侵攻を食い止めるために、あなた方に協力してもらうためです。」
ジュリーはそこでいったん区切ると同時に、信幸から質問が飛んできた。
「ゲルーニャ皇国?」
その質問にジュリーは口を開いた。
「ゲルーニャ皇国というのは、私が住んでいたエルフの森と、この丘一帯を除いた地域を支配している、国土だけ巨大な帝政国家です。技術的には世界的に見て下の上、制度は下の下、数だけ列強に匹敵するようなゴミですけど。」
ジュリーはかなり恨みが溜まっているようで、軽く毒を吐きながら説明した。
「この際だから列強についても説明しましょう。こう言う話好きそうですし。列強というのは、ルーシー連邦、朝日帝国、スコッティング連合王国、フロッグ共和王国、リベーリャ連合の五ヵ国の総称です。ルーシーは陸軍、朝日は海空軍、スコッティングは制度、フロッグは料理や建設技術、リベーリャは観測技術や天文学、というように、各国は様々な分野で突出しており、制度的には上の中から上の上。列強よりも平和な国は辺境にある田舎国家程度だといわれています。」
ジュリーの話に三人とも聞き入っており、信幸はまたメモを取っていた。
「さて、話が脱線しましたね。協力といっても脅迫のようなものです。一人か二人を拉致して、従わなければこいつを殺す。帝国とあんまり変わらない手法ですけど、一番この方法が手っ取り早いらしいです。まあ、言われた通りに誰かを拉致しようと思って、そこの変態を土の塊でぶん殴ったら返り討ちにあって、今に至るわけですけど。」
ジュリーはまた毒を少し吐きながら、話を続けた。
「もう拉致とか無理だと思っているんで、手っ取り早く言いますね。我々エルフと協力してくれませんか?それなりの報酬...金塊10tでどうでしょう?」
彼女の提案を聞いて信幸は少し複雑そうな顔をする。
金塊と聞いた二人は既に返事は決まったようで、信幸の方をじっと見ていた。
「ぐぬぬ...金塊10tに加えて鉄鉱石15tだ。」
信幸は少し迷いながらも承諾する条件のハードルを少し上げた。
ジュリーは少し考えるような顔をすると、
「...いいですよ。これで交渉成立ですね?」
と言い、信幸に右手を伸ばした。
「...ああ。」
信幸は渋渋といった感じで彼女の手を握り、握手した。
横では成哉と涼香が信幸の背中越しにハイタッチをしている。
「...こいつら腹立つな。」
信幸は二人を見ながらそう呟いた。
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「ああ、忘れてました。」
涼香はとぼけたような顔をしながらそう言った。
「阿保ぉ!」
信幸はどこからか取り出したハリセンで涼香の脳天を叩くと、彼女の装備と銃器の点検も始めた。
「ああ、すみません。」
彼女は少し申し訳なさそうな顔でそういうと、信幸が点検していない装備や銃器の点検を始めた。
成哉も点検を始めると、部屋はしばらくの間静寂に包まれる。
「点検終わり。早く装備しろ、行くぞ。」
信幸はすぐに装備や銃器を装着し、ジュリーの手を引っ張りながら玄関の扉を開けた。
「うわわっ...。」
ジュリーは少し転びそうになりながらもなんとかバランスを取り戻し、歩き始める。
「ああ、待ってください!」
涼香は少し慌てながら信幸とジュリーの後を追いかけ始める。
「...ははっ。」
成哉は、少しおかしいその光景をみて笑うと、三人を追いかけ始めた。
かなり平和な風景だが、この後戦闘が起こるとは誰も予想していなかった。
【挿絵表示】
信幸達が通る予定のルートがオレンジ色です。
赤色は車両が通れない程度の傾斜になっているところです。
青色の線から内側は日本が領土として定めているところです。
エルフの森にある、茶色の四角は、森の入り口です。
他のところは木の間隔が狭く、車両が通れないんです。