The Another World 作:MAXIM_MOKA
__兵器保管庫
「おめぇら...仕事が早いぞ...。」
信幸は思わずそう呟いた。
目の前では彼の部下たちが既に戦車や装甲車両などを用意しており、何人かは車両に乗り込んでいた。
その中には、信幸と成哉が愛用している、黒と赤の縦線付きの装甲車両もあった。
「我々は隊長達の部屋の隣に全員で生活していますので。あとわりかし隊長達の部屋って壁薄いんですよね、会話丸聞こえでしたよ。」
信幸はそれを聞いて、「迂闊なことは出来ねえな、する気もねえけど」と苦笑した。
「んじゃ、俺らも乗り込むか...あれ、涼香?」
成哉は車両に乗り込もうとした時に、涼香がいなくなっていることに気が付いた。
信幸もそれに気が付き、周りを見渡すと、キュルキュルという音と共に涼香の声が聞こえてきた。
「私は新しくこれ買ったので、大丈夫ですよ~。」
彼女はなんと小型戦車に乗っていたのだ。
正式名称は30式小型戦車で、砲の精度が良く、足も速く、しぶとい。
そんな三拍子が揃った戦車なのだが、欠点があった。
内部の広さとキャタピラの音がひどいのだ。
小型化した機体に無理に高性能な物を積み込みすぎた結果、機体が圧迫され、中は非常に狭く、子供二人が入れるかどうか程度のスペースであり、キャタピラは制作したチームが「キャタピラの音ってなんかよくね?」という適当な理由の結果、例のキュルキュルという音が鳴るようになってしまったのだ。
「あー...まあいいか。」
信幸は何かを言おうとしたが、その言葉を飲み込んだ。
「えぇ...。」
ジュリーは車両の数*1に少し引いていた。
「...乗るぞー。」
成哉は車両に真っ先に乗り込み、助手席に座った。
本人は少し我慢するような顔をしていた。
それはなぜか。
簡単に言えば、運転したいが運転したら絶対に車両が壊れるから、というのが理由だ。
「よっし、行きますかねー...。」
信幸は独り言を呟きながら運転席に乗り込み、シートベルトをした。
戸惑いながらもジュリーが車両後部に乗り込み、出撃準備が整った。
少し通信機を操作した後に、信幸は部隊全体に通信を入れた。
「うぃ、涼香にも通信は繋がってんな。よし、出撃だ。兵器保管庫管理者*2から許可は取ってある。任務開始だ。」
その言葉と同時に、信幸の部隊はゲートから外の世界へと飛び出した。
「おー、初めて外に出たが、いい景色じゃないか。」
成哉はそんな事を呟きながら腕と足を組んだ。
青空が広がり、緑の草原が広がり、まさか数日前にあんな大虐殺があったとは思えないほどだった。
「ここの丘はゲルーニャやスコッティングが神聖視してますから、手が付けられていないんです。数日ぐらいかけて南下するとゲルーニャの地方都市がありますよ。」
ジュリーが後ろからそう話す。
信幸は左手で運転し、口にペンを咥えてメモを取るという無駄に器用なことをした後に、車両を左折させた。
兵器保管庫は北のほうに位置しているため、右折したほうがいいと思うだろう。
しかし、丘の北側は傾斜が酷く、登ることができないのだ。
「なあジュリー、なぜゲルーニャはこの丘に侵攻してきたんだ?神聖なものととらえているのなら、そんなことできないだろ?」
信幸はふと疑問に思ったことをジュリーに質問した。
「ああ、恐らくですが、何らかの方法で丘にある門の先に別世界があることを知って、ゲルーニャ皇帝が「神の御言葉を授かった」とか言って侵攻させたんだと思いますよ。信仰しているといっても皇国の上層部は金と女と酒のことしか頭にない、腐ったゴミのような、腐ったゴミに失礼な連中ですからね。異世界に侵攻して、女とっ捕まえてヤったり、異世界のものを売って金儲けでもしようとしてたんじゃないですかね。」
信幸の質問に、ジュリーはかなり毒を混ぜながら答えた。
余程皇国に恨みがあるのだろうか。
「皇国は自国以外を下に見るところがあるんですよ。それで一回、最も新しい列強である朝日帝国の外交使節団を皆殺しにしたことがあったんです。自分たちが入るはずの座を奪ったってね。それ以来、定期的に私たちに食糧なり武器なり届くようになりましたし、皇国海軍は光の矢によって全滅。さらにルーシー連邦に見返りなしの救援を要請した結果、涼香さんが乗っている奴のデカいバージョンによって陸軍の2割が壊滅。遅かれ早かれいずれ滅ぶんでしょうが、貴方達の登場によってそれが2、3年早まったと思いますよ。」
彼女の舌は止まらず、朝日帝国がミサイルを、ルーシー連邦が戦車を保有しているという爆弾発言をした。
「ああ、でも安心してください。恐らくルーシーや朝日との戦争状態にはならないので。」
彼女が言ったその言葉に、信幸は疑問を抱く。
それになぜか気が付いたジュリーが口を開いた。
「あの二ヶ国、エルフの森...まあ、私たちの土地ですね。そこに軍人を500人ほど常駐させてるんですよ。あと外交官さんもいるので、交渉してうまくいけば心強い味方になってくれると思いますよ。皇国とは違って話が分かる人たちですから。」
信幸はその話を聞いて、列強に対する考えを変えた。
列強も大して皇国と変わらないのではないかと思っていたのだが、話を聞く限り、敵味方の判別ができ、常駐してるという軍人も、住人のエルフたちに暴行などを加えていないらしい。
「なるほど。じゃあ、列強との交渉も任務になるな。成哉、全隊員に任務追加のことをメールで送ってくれ。」
信幸が成哉に頼むと、「あいよ」という適当な返事とともに成哉はスマホを取り出し、画面を操作する。
数秒後、信幸の携帯が着信音を鳴らした。
メールを少し見てみると、綺麗にまとめられた文章が並んでいた。
「どうも。...!?」
信幸が成哉に軽く感謝した直後、突然信幸がハンドルを右に切った。
「うわっ!...矢!?なんで!?」
後ろからはジュリーの狼狽える声が聞こえる。
おそらくハンドルを切った際に、飛んできた矢がカーテンを貫通したのだろう。
「くそっ!!敵襲!!敵襲!!」
信幸は焦りながら通信を入れてそう叫んだ。
「...皇国兵ですね。」
ジュリーは矢を見て何かを察したのか、静かな声でそうつぶやいた。
この丘で再び、日本と皇国の戦いが始まろうとしていた。
ふう。