The Another World 作:MAXIM_MOKA
5分ほど道を進んでいると、急に明るい場所に出た。
半径50mほどの、円形の広場だ。
「お、正解の道だったようですよ。」
ジュリーのその言葉を聞き、信幸はハンドルを離し、腕の力を抜いた。
車両の天井を見上げ、額の汗を袖で拭う。
「…んぁ…あ、通信機付いてる。」
その時、成哉の目が覚めた。
信幸が蹴った衝撃が残っているのか、肩をさすっている。
「うわ、会話ダダ漏れかよ」と呟くと、成哉の通信機を切った。
「おお、すまん。…ん、どこだここ?」
成哉はそう言いながら、周囲を見渡した。
ジュリーがめんどくさそうな顔をしながら、成哉に説明する中、信幸は車両から降りた。
数分間浴びてないだけで、非常に眩しく感じる。
その時、エンジン音と共に、信幸達がきた道から一両の車両が入ってきた。
どうやら捕虜を引き渡しに行った隊員のようだ。
信幸の近くで停車すると、隊員が何かを持って降りてきた。
持っているものは布に包まれており、細長い形状をしていた。
「隊長、お待たせしました。…あ、これは上官から渡せと命令されたものです。どうやら部屋のドアに突き刺さっていたようですよ。」
隊員はそう言うと、手に持っていたものの布を剥いだ。
中からは網目模様の、木で作られた鞘が現れた。
「…日本刀?…まあ、貰っておこう。」
信幸はそれの正体を呟くと、隊員の手からそれを受け取った。
「にしても、よくここが分かったな。」
信幸が隊員に対してそう言うと、隊員は、
「ああ、タイヤの跡が残ってたんですよ。」
と返事をした。
信幸は「なるほど」と呟くと、刀を担いだ。
その時、ジュリーが歩いてきた。
「なんか魔力の匂いを感じましたよ。…お、これですか。ちょっとこっちに来てください。」
ジュリーは担がれた刀を見た後にそう言うと、信幸を引っ張った。
「うおっ!」
信幸はそのまま引っ張られていく。
「…少し親子に見えてしまいました。」
隊員はその光景を見て、少し微笑みながら呟いた。
「ちょっと貸してくださいね〜。」
ジュリーはそう言うと、信幸が担いでいた刀を掴み、持ち上げる。
刀の鞘を外すと、中からは少し青みがかった、銀色の刀身が姿を現した。
ジュリーは刀身に指を滑らせ、何かを描いていく。
魔力が込めてあるようで、指の跡は紫色に光っていた。
数分ほどそれが続くと、ジュリーは刀身を信幸に見せた。
刀身には直線と円が組み合わさった、幅一ミリ程度の模様が浮かび上がっていた。
「この刀、どうやら魔力をため込む性質があるようです。」
ジュリーはそう言って説明を始めた。
にしても、魔力に関するものは見ればわかるのだろうか。
「ああ、これは私の特技みたいなものです。周りからはよく絶対魔力感なんて言われてますけど。で、この模様は簡単に言えば武器を通して魔法を使えるようになる、魔力回路です。魔力を込めると、」
ジュリーがそこで言葉を区切ると同時に、刀の模様が紫色に光った。
「こうなるわけです。これだけだとただのおしゃれな光源ですが、魔法をイメージしながら振ると、」
今度は刀をジュリーが上空に向けて振ると、刀の風圧が黄色い光に変換され、空へとまっすぐ進んでいった。
数秒後には雲を真っ二つにし、そのまま進んでいった。
さすがにジュリーもこれは予想してなかったのか、少しフリーズした。
「ま、まあこうなるわけです。では、お返ししますね。」
ジュリーは刀を鞘に戻し、信幸に返却した。
「ん、どうも。」
信幸はそう返事をして刀を受け取ると、後ろを振り返った。
そこには、車の陰からこちらを除く隊員たちがいた。
「...はぁ...。どうなるかはわかりませんが、皆さんにも魔力流してみますか?」
ジュリーのその提案を聞いた隊員たちは無言のままこちらに近寄ってくる。
全員表情に出てはいないが、どこか嬉しそうな雰囲気があった。
「...はあ、相変わらずうちの部隊は自由だな。」
信幸は苦笑いをしながら独り言を呟くと、自身の車両へと戻っていく。
後ろからは、バチバチという魔力が流れる音が聞こえた。
「...にしても、あの声はなんだったんだ?」
信幸は誰もいない車内で一人そう呟いた。
どの道に進むべきか迷っていた時に聞こえた、少女の声。
ジュリーの声ではないし、車両の中に少女がいたなんてことは絶対ない。
そもそも、頭の中に響くように聞こえたのだ。
信幸があの声について考えていると、またあの声が聞こえた。
『…面白い。』
興味深そうなその声は、また頭に響く。
『人間、お前は面白い。』
信幸に向けられたであろうその声は、楽しそうにも聞こえる。
『3日後。3日後に会おう。』
最後の声は響くわけではなく、真後ろから聞こえる。
信幸が急いで後ろを振り返ると、一瞬だけ、緑色の光が視界の端に映った。
しかし、すぐにその光は消えてしまった。
「…何だったんだ?」
信幸は冷や汗をかきながら、そう呟いた。
光が見えた所には、一枚の木の葉が落ちていた。
綺麗な深緑色をした、本当に今千切って来たという感じのものだ。
「…3日後、ねぇ…。」
信幸は謎の声が言っていたことを思い出し、その言葉を呟いた。
この声の主と会えることが、なぜか少し楽しみになっている自分がいた。
その時、後ろのドアと、助手席側のドアが開いた。
そして、成哉とジュリーが入ってくる。
「おう信幸、行こうぜ。ジュリーも仕事終わったみたいだし。」
成哉はシートベルトをつけながら信幸にそう言った。
「ん、そうするか。…あ、うちの隊の奴らはどうだった?」
信幸はその言葉に頷いた。
そしてジュリーに、自身の部隊はどうだったかを聞いた。
「ああ、全員素質ありですよ、個人差はありますけど。…でも、あの人数だと、魔力切れを起こしましたよ…少し休ませてください…。」
ジュリーは少し疲れ気味にそう答えてくれた。
「ん、なるほど。じゃあゆっくり行くぞ。」
信幸はジュリーの負担を減らす為にゆっくりと車両を発進させる。
それを見た隊員達も慌てて車両に乗り込み、ゆっくりと発進した。
この次に大きな試練がある事は、ジュリー以外は誰も予想していなかった。