特異災害対策起動部二課指令風鳴弦十郎は焦れていた
赤髪とそれに合わせたかのような赤いシャツ、そのシャツに包まれた大柄の肉体は鋼のごとく。
二課の間では人類最強とも噂される男はその顔に渋面を張り付けていた
「新たなノイズの反応を検知! 先のノイズの集団に合流します!」
特異災害対策起動二課はノイズに対抗するために存在する国家機関
そのため神出鬼没のノイズが出現すれば即座に非常態勢に入り避難誘導などの対応を行う
しかしどんなに上手く行動したところでノイズに対しては後手後手に回り、死者は少なからず出る
現に今回のノイズの出現によって民間人に数人、二課の人員にも一人犠牲が出ている
しかしそれは当たり前のことで
風鳴弦十郎がどれほど救いたいと願っていてもどうしても出てしまうものだ
だがその犠牲によって弦十郎が眉をしかめているのかというと今回はそれは違う
「ノイズの反応また一体消失しました! 謎のエネルギー反応、ノイズ集団から離れるように移動してます!!」
「一体何が起こっているんだ……映像はまだか!!」
「やっています!」
事は数分前に起こった
町中にノイズが出現
それを観測した二課は平常から緊急へと体制を変化させ、同時に緊急サイレンを鳴らし民間人への避難誘導を開始した
そこまではいつも通り、しかし今回は運が悪いことに二課の切り札たる二人が仕事で遠くに出払っていて現場への到着が遅れていた
そんな中で逃げ遅れた民間人を見つけたのであろう人類の天敵たるノイズは指向性を持って一方へと動き始める
そんな状況でもこの場で出来ることは無くただ無事に民間人が逃げ切れることを祈るのみ
だが祈りも空しくノイズの進行方向に又別のノイズの反応
その中間にいるであろう逃げている民間人はノイズに挟まれる恰好になってしまった
「(あれはもう助からない……すまない……俺たちは貴方を助けることができなかった……)」
弦十郎が悔しさから手をギリリと握る
その時だった
「これは……? ノイズの直近に謎のエネルギー反応!!」
「謎のエネルギー反応だとぉ!!」
驚愕する弦十郎を他所に事態はさらに動いていった
現在のところノイズが消失する条件は人間を炭化させた時、一定時間の経過、ノイズの盾である位相差障壁を貫くほどの飽和攻撃、そして二課の抱える切り札による攻撃
その四つだけの筈だったのだがここに五つ目の条件が現れていた
この異常事態に対し弦十郎は司令として情報の収集に努めていたが未だ映像も出ずエネルギーの解析についても終わっていないのが現状だった
「(ノイズの消失、謎のエネルギー反応、戦っているのか? だが
「弦十郎くん、あのエネルギーの解析終わったわよ~」
「了子くん!!」
思考に沈む弦十郎に声を掛けたのは髪を頭の上で大きくまとめた白衣の女性――櫻井了子
彼女はこの二課の頭脳部門におけるトップで自身の名を冠する『櫻井理論』を提唱するなど自他共に認める天才なのだが……
「駄目ね~、既知のエネルギーとの一致無し。ノイズとやりあってるみたいだから聖遺物の可能性も考えてアウフヴァッヘン波形との一致も考えてみたけどそっちも全然引っかからなかったわ。つまり私たちにとって初めて観測する完全に未知のエネルギー反応よ」
「了子くんでも分からないのか……だとすると一体あそこで何が起こってるんだ」
困惑する弦十郎だがそこに朗報が舞い込む
「司令! きました! 望遠ですがカメラの映像出せます!!」
「よし!! メインモニターに映せ!!」
そしてメインモニターに現場の映像が映し出される
それは望遠のためにやや画質は荒いが何が起こっているかを伝えるには十分な映像で
「なん……だと……」
メインモニターには
学生服を着た少年が綺麗なフォームで
―――――――――――――――
目の前のノイズをドロップキックで吹き飛ばす
ノイズが後方のノイズを巻き込みながら転がっていく
本来であればノイズに人間がふれれば炭となるはずが今の望にはどういう訳か炭素変換能力が効いていない
いや……本当は理由は分かっている
それは
「『パンドラ』やれぇ!!『エイハ』!」
傍らに飛ぶ黒い箱が一回りしたかと思うと黒い光弾を飛ばす
光弾がノイズを貫くと一瞬の後にノイズは黒い煤へと姿が変わり辺りに散る
この力、
なぜ自分がペルソナを使えるようになったのか分からない
なぜペルソナを使えればノイズに触れても炭へと変わらないのか分からない
なぜ喧嘩もほとんどしたことのない自分が格闘でノイズと渡り合えているのか分からない
そもそもペルソナとは何なのか分からない
だが望に分かっていることはある
このペルソナ……もう一人の自分『パンドラ』の使い方
「『パンドラ』! もう一発だ! 『エイハ』!」
そしてこの力があればノイズと戦えること!
それだけ分かれば十分
望は生きるために今できることをするのみだ
「おらぁ! 道を開けろぉ!」
進行方向を遮るノイズを拳で殴って進路を確保する
ノイズが吹き飛んで前方の視界が開く
だが、それだけだ
吹き飛ばされたノイズはゆっくりと立ち上がり再び望めがけて近寄ってくる
今の望ではノイズを生身で殴ることはできてもパンドラの攻撃でしかノイズを倒すことはできない
そこで望が選ぶ行動は再びの逃走
ノイズが一定時間経過すれば消失すること
そしてパンドラの力を使えば使うほど自身の心のナニカが減っていく感覚
その二つから望は目前のノイズを全て倒すことを諦め、とにかく逃げて時間を稼ぐことを選択した
「おおっとぉ、それはまずい『スクンダ』!!」
望を貫かんと触手のように形態を変化させたノイズ達が黒い箱……すなわちパンドラから放たれる光に触れてその速度が低下する
「ほいっと。遅くなりゃ回避も容易いもんよっと」
目に見えて速度の低下したノイズの攻撃をステップを踏んで回避する
一見余裕そうにみえるが望は内心で焦っていた
「『エイハ』! くそ! 数が多すぎる!」
ノイズは騒ぎを聞きつけたかのように集まり増え続け退路を塞いでいく
しかしそれに対して今の望に――――パンドラに扱える『エイハ』は一発の弾を放つのみ。『スクンダ』は相手の速度を落とすことができるが攻撃能力ではない
つまるところ単純に手数が絶望的に足りていない
「(何か無いか……ちょっとの間でいい、道が開ければ今の俺の足なら逃げ切れる……」
そう、望の身体能力はペルソナ能力に覚醒して明らかに強化されていた
先程のノイズの攻撃もいくら遅くなったところで今までの望の身体なら回避することなど不可能な筈だった
しかし今の望は容易く回避させてみせた
この身体能力ならば今の包囲を抜け出すことができればノイズから逃げ切ることも夢ではない
「(大丈夫だ『今できることをする』。いつも通りだ、できることをやっていれば道は開ける。母さんがそう教えてくれた。だから俺はできることをやり続けて生き延びてやる!!)」
望がそう決意を固めて再びノイズに向き直る
だがそんな決意を嘲笑うかのようにノイズは行動する
「おいおい……それはキツくねぇ?」
それまでは散発的に攻撃を仕掛けてきていたノイズ達だったが望を脅威とみなしたのかはたまた別の要因か
ひして望に襲い掛かる触手のように姿を変えたノイズの嵐のような攻撃
「『スクンダ』!」
咄嗟にパンドラでノイズの敏捷性を低下させるがそれでも焼け石に水
「ふっ、ふっ、ふっ…………ぐあっ!?」
何とか数体は躱すことはできても数の暴力には抗うことができず望はノイズの攻撃を腹に受けてしまう
望の身体は宙を舞いゴロゴロと転がり塀にあたってようやく止まる
「(痛い痛いイタイイタイ!!!! くそ、直撃もらってしまった……)」
常人ならばいくつか骨が折れていてもおかしくないような衝撃だった
しかしペルソナ能力で身体能力が強化されている望には痛みを与えるだけに留まった
痛みが走る身体を奮い立たせて何とか立ち上がる
「(痛いことは痛い、だがまだ手は動く、足も動く、ペルソナだってまだ使える。ならばまだまだ俺は
望が死んでいないことを確認するや否やノイズ達は再び攻撃態勢に入る
その時だった
~~~~~~♪
「!?……これは……歌?」
戦場に響く歌姫の歌
突然に表れた場違いな歌
だがそれに望は一瞬で聞き惚れた
「なんて……きれいな……うた……」
惚けてしまった望
動きを止めた望にノイズが襲い掛かろうとする――――が
ノイズの攻撃を遮るように槍と刀が降り注いだ
轟音と共に降り注ぐ暴力の雨
槍と刀は望に傷をつけることなく過たずノイズだけを貫き煤と変える
「は……え……?」
一瞬で変わってしまった戦場に望は呻くように困惑の声を上げる
そんな望の前に二つの人影が降り立つ
「テメェ……なにもんだ?」
「大人しくこちらの指示に従いなさい、アナタが何者なのか拘束した後で語ってもらうわ」
望の首に突き付けられる槍と刀
冷たく響く声の持ち主は少女
一人は橙を基調とした鎧の様なモノを纏う赤髪の少女
一人は蒼を基調とした鎧の様なモノを纏う蒼髪の少女
敵意を隠すことなく望にぶつける二人の少女たち
「ちょっ!? ちょっと待って!!」
望はその覇気に押されるようにして両手を上げて降伏しようとして――――
ガチャリ
そんな音が聞こえた
ゆっくりと望が視線を少女達からずらすと見える両手に掛かる鉄の輪
そしてまるで忍者のように突然に横に現れた男性に望は声を掛ける
「あの……貴方は一体……それにこの手錠は……?」
「申し訳ありませんが貴方は一旦ここで拘束させて頂きます。そのノイズと戦う力、貴方には聞きたいことがありますから」
そう言ってにこやかに笑うスーツ姿の男性
安心させようとしているのか笑顔をうかべている男性に望は嘆かずにはいられなかった
「今日は厄日かよおおおおおおおおおおおおぉぉ!!」
望の叫び声は空に吸い込まれるように消えていった
続きはゆっくりまちませい