ペルソナ設定の回です
「ようこそ、特異災害対策起動部二課へ。俺はここで司令をやっている風鳴弦十郎だ。初めまして……だな、藤堂望君」
拘束された望が二人の少女に背後を固められて連れてこられたのは望も知っている有名学校『リディアン音楽院』
その地下深くに存在する特異災害対策起動部二課の本部
望が通されたのは会議室のような一部屋。そこで望を出迎えたのは赤いシャツを纏う男ー---風鳴弦十郎
望は見た瞬間に悟る
「(あ、無理だ。逃げられないわコレ)」
風鳴弦十郎の纏う空気は柔和なもので敵意などは欠片も感じられない
それでもなお望の心は目の前の男には絶対に適わない事を告げている
もしここで逃げようとすれば一瞬のうちに目の前の男に取り押さえられるだろう
ぺルソナを使えば逃げることはできるという安楽的な考えをしていた望の考えが即座に覆る
それほどの力の差を感じさせるものが風鳴弦十郎にはあった
そんな望の心の内を知ってか知らずか無造作に風鳴弦十郎は距離を詰め右腕を差し出そうとする……がすぐにその手を引っ込めた
「握手……は手錠をしていたな。すまんが緒川、彼の手錠を外してくれ。藤堂君もすまなかったな、此処に連れてくるのにちょいと手荒な方法になってしまった」
「分かりました。望君ここまでご協力ありがとうございました……手錠外しますね」
ガチャリと音がして手錠が外され、望の腕がしばらくぶりに自由になる
「さて、ここからは俺と藤堂君の二人で話をさせてもらう。緒川は少し席を外していてくれ。奏と翼もご苦労だった、二人はゆっくり休んでくれ」
「はい、それでは失礼します。ほら奏さんも翼さんも部屋を出ましょう。後は司令に任せましょう」
そうして奏と翼と呼ばれた二人の少女は緒川に背を押されるようにして部屋を後にする
「(……?)」
だがなぜだが部屋を出る間際
奏と呼ばれた赤髪の少女が望を睨んでいた気がして望は首を傾げた
「まったく奏の奴は……まあいい。藤堂君はそこの椅子に座ってくれ」
言われるがままに望は近くの椅子に腰かける
「……よし! それでは改めて自己紹介から行こうか。俺は風鳴弦十郎、さっきも言ったが特異災害対策起動二課、トッキブツと言われることもあるがここの司令をやっている。特異災害対策起動部二課は要するにノイズから人を守るための国家組織だ」
そこまで説明したところで弦十郎の気配が切り替わる
虚言は許さないとでも言うかのように威圧感が膨れ上がる
「二課の前身は大戦中に発足した諜報機関が元でな、君がここに到着するまでの間に君の事を調べさせてもらった。その結果君がいたって普通の高校生であることは分かっている……
風鳴弦十郎と名乗った男の疑問に望は考える
「(突然連れてこられたんだけど……ここって怪しい組織? )」
一高校生の望を突然に拘束して連れ込む、そこだけ見ると誘拐犯である
しかし特異災害起動部二課という組織が国家組織であるのはリディアン音楽院の地下にこんな施設を建設していることと望の名前をここに連れられてくるまでの間に調べ上げる諜報力から疑いようもない
望自身が突然ノイズと戦うことになって驚いているというのにノイズ対策のための組織が知ったのならば望の何倍も驚きの事でその正体を探るためにとりあえず拘束して連れてくるのも無理はない
「(国家組織っていっても何か漫画とかである国の暗部とかで実はこのまま始末されるとか……無いか。目の前のこの人はきっとそんなことはしない人だ」
望の目の前に立つ威圧感を放つ男、風鳴弦十郎
望には彼がどうにも悪い人間には思えなかった
今は威圧感を放っているが平時には皆が付いていきたくなるようなカリスマを持つ頼れる男。そんな印象を望は抱いていた
故に望は悪いことにはならないだろうと考えて全てを話す覚悟をした
「あの……信じてもらえないかもしれないんですけど…………」
そうして望は今日起きた不思議な出来事を語り始めた
「にわかには信じ難いな……『フィレモン』『意識と無意識の狭間』そして『ペルソナ』そのどれもが聴いたことの無い単語ばかりだ。だが君がノイズと戦えた以上真実であると受け取るしかない……か」
「あの……おrじゃなかった僕もそんな感じで突然のことで何がなにやら分からないんです。何でフィレモンに会ったのかもペルソナを使えるようになったのかも」
「ん……? ああ口調は楽にしてもらって構わない。それにしてもこれほど荒唐無稽な話となると今後どうするか……」
苦虫を嚙み潰したような顔で話す弦十郎
それも当たり前だ
突然ノイズと戦闘する人間が現れたと思ったら不思議な世界で怪しげな仮面の人にもらった力でノイズと戦えましたと告げられたらこうもなろう
「ううむ……事情は分からんが分かった! それですまんが一度その『ペルソナ』というのをみせてもらうのは可能か?」
「あ、はい。出来ますよ。『ペルソナ』」
望は提案に軽く答えてペルソナを呼び出す
そして光に包まれる望に続いて現れるのは金の装飾の施された黒い箱
望の窮地を救った力『パンドラ』だ
「うおっ!? ……準備などは必要ないのか。ほう……これが『ペルソナ』 君の言うには『パンドラ』という名前だったな」
「はい、これが俺のペルソナ『パンドラ』です」
唐突に現れた黒い箱に弦十郎は一瞬驚くがすぐに自分を取り戻すと興味深そうに『パンドラ』を眺め始める
「ふむ……この『パンドラ』が現れたことでキミはノイズと戦えたわけか。あの黒い弾とノイズの動きを遅くさせた光は?」
「あの黒い弾は『エイハ』でノイズを遅くしたのは『スクンダ』です。『パンドラ』を使えるようになった時に自然と心の中で使えるのが分かったんです」
「『エイハ』に『スクンダ』か……さらに知らない単語が増えてきたな。まぁ調べるのは後日としよう」
そこまでいったところで弦十郎は『パンドラ』に向けていた視線を望の方に切り替え
望を真正面から見据え
「さて、藤堂望君。我々特異災害対策起動部二課は君に協力を要請する」
望に対して深く頭を下げた
「ええ!? あの!? 協力って一体!? それよりもあの頭、頭上げてください!」
だが望の言葉にも頭を上げることなく弦十郎は続ける
「我々二課はノイズと戦っている。今のキミには言えないがそのための戦力も保有している。だがそれでも手が足りないのが現状でノイズによる犠牲者は出る一方だ。だが、キミの協力を得られればキミのその『ペルソナ』を研究することが出来れば今よりもノイズによる犠牲者を抑えることが出来るかもしれない。……どうかお願いだ。我々に協力してもらえないだろうか!?」
頭を下げたまま弦十郎はそう言い切った
「ええと、風鳴さん。それは俺にしか出来ないこと何ですよね?」
「ああ、キミにしかできない事だ」
「『できることをする』それが俺の座右の銘です。だから、それが俺にしかできない事で……俺にできることならばやります!!特異災害ええと何でしたっけ? とにかく此処に協力します!!」
望がそう宣言したことで弦十郎はゆっくりと頭を上げる
その顔に浮かんでいたのは――――笑顔
「そうか……有難い。キミがそう言ってくれたことを俺は嬉しく思う」
弦十郎はそう言うと笑みを消し端末を取り出し操作しはじめる
「……ああ、了子くん、俺だ。例の彼だが協力してもらえることになった。彼の検査と今後の説明を頼む」
そこまで言って数十秒後
バンと音を立てて部屋の扉が開かれる
「はぁーい。呼ばれて登場~。あっ! 君が例の子ね!? 私は櫻井了子。ここの研究部門で働いている美人なお姉さんよ。よろしくね」
現れたハイテンションな白衣の女性は望の手を取ると引っ張るように部屋の外へと連れ出していく
「さてさて~キミに聞きたい話は山ほどあるのよ。まずはメディカルルームで身体の検査をしながら根掘り葉掘り聞かせてもらうわよ~。じゃ、弦十郎君この子借りていくわね」
「ちょ!? 検査っていきなり何を!? そして俺をどこに連れて行くんですか!? って力強っ!?」
戸惑う望を他所にグイグイと了子は望の身体を引っ張っていく
「安心してくれ望君。了子君は優秀な研究者でな、キミのその能力について検査を行う為に呼んだんだ」
「そうそう! 安心してね、検査って言っても別に痛いことは無しでちょっと脱いでもらうだけだから」
「脱ぐだけってそれどういうことですかあああああぁぁぁあぁ!?」
叫びの甲斐なく望の身体はズルズルと引きずられるようにして部屋を後にした
日付も変わろうかという深夜
風鳴弦十郎は一人で部屋に佇んでいた
「それで了子君。今彼は?」
耳に当てた端末から流れるのは櫻井了子の声
「検査が終わった後に家に帰らせたわ。もちろん監視付きでね。検査がちょっと長引いちゃったから家でお母さんに怒られてるかもしれないわね。それで本命の検査結果だけど……駄目ね。確かに今日は簡単な検査しか行わなかったけど、彼の『ペルソナ』についてはほとんど分からなかったわ。それに弦十郎くんが言っていた『フィレモン』という存在。確か聖書にフィレモンの名は出てきている筈だけどそのフィレモンは関係なさそうだし……ただ少ない情報からでも得られる事はあったわ」
「何!? 続けてくれ、今は少しでも情報が欲しい」
「『ペルソナ』はおそらくユング心理学に出てくるものだと思うわ。人が生活するうえで人は様々な顔を見せる、そのことを仮面に例えてユングはラテン語の仮面を意味するペルソナと呼んだの。『フィレモン』が語った内容からそう推測されるわ。何でそれがあんな形で出てきているのかは分からないけどね。それともう一つ、こちらは推測では無く確実に言えることだけど彼はノイズの位相差障壁を無効化していないわ」
櫻井了子から告げられた言葉に思わず弦十郎は声を荒げる
「位相差障壁を無効化していないだと!? だが現に彼はノイズを攻撃出来たはずだろう!?」
「……言い方が悪かったわね。知っての通りノイズは位相差障壁で自身をこちらの世界から別の世界に存在をずらす事で攻撃を無効化する。私の作った
「そうか……有難う了子君。キミも今日は疲れただろうゆっくりと休んでくれ」
「そうね~夜更かしはお肌の天敵だから私も今日は休むわね……彼の『パンドラ』アレは恐らくはギリシャ神話における災厄の箱よ。神話に曰く災厄の入った箱に最後に残ったのは『希望』。彼が私たちの希望になればいいわね……それじゃ切るわね。おやすみなさい弦十郎くん」
電子音と共に通話は切れ弦十郎の居る部屋には静寂が訪れる
「希望……か」
弦十郎はギリリと拳を握りこむ
「あんな子供に希望を持たねばならないとはな……奏と翼に続いて子供ばかりに頼らねばならんとは!! くそっ! 何が司令だ! 子供に頼り切りで何が大人だ!!」
ダン! と近場の机を殴りつける
握りしめた拳からは血が流れるがその痛みよりもこれからの子供たちの事に弦十郎は心を痛めていた
「ままならんものだ……」
その言葉は誰にも聞かれることなくただ部屋に悲しく響いていった
はよ装者の可愛い話を書きたい……
だから次回は奏さんも翼さんもしっかり出るよ(予定は未定)