あいつが亡くなったという知らせを聞いたのは、あいつが大好きだった雲一つない快晴の日だった。
「とうとうお前まで向こうに行きやがったか…。」
年を取ってからただでさえ重い体が更に重くなったように感じる。目を閉じるとあいつと志村が見えた。すがすがしいほどの笑顔のあいつらが。
「…ったく。年を取るとすぐこれだからいけねぇ…。」
そう愚痴をこぼして、好物のたい焼きを温める。
『お前が食ってるの見るととたい焼きが死ぬほどうまそうに見えるんだよなぁ…。…俺にも一つ…ってそんな怖い顔すんなよぉ!俺が悪かったから!助けてくれ相棒!』
『……コン。』
『相棒!?』
こぼれそうになった涙を拭いたい焼きを頬張る。昔よりだいぶ食べる量も減り、食べるのに時間がかかるようになった。こう思うとずいぶんジジイになったもんだと笑ってしまう。ノロノロと支度を終えてから、俺は事務所を後にした。
――
会場に着くと、そこにはたくさんのヒーローや警察たちがいた。どいつの顔も笑顔だった。あいつの教えを守ったいい笑顔。
『俺が来たからには曇り顔は無しだぜ!にほんばれヒーローナインテールスのお通りだぁ!行くぜ相棒!』
『コーーン!!!』
あいつは溢れんばかりの元気と共に相棒の狐と駆け回っていた男で、数多くの人々の曇り顔を快晴のよな笑顔に変えてきた男で、誰よりも笑顔を愛した男だ。そんな男の葬式に、涙の雨は似合わない。現に会場を間違えたかと入りなおしている奴らの姿がちらほら見えるほど、会場には曇り顔一つなかった。そんな会場の中に、見知った上方の男を見かけた。
「なんだお前も来てたのか俊典!」
「!グラントリノ!」
俊典の周りにいたヒーローたちに一言断ってから俊典と談笑をする。
「彼にはいい笑顔を教わりましたからね。」
「お前はあいつに随分気に入られてたからな。」
『おうおう俊典!ナンバーワンヒーロー就任おめでとさん!あのインタビュー、いい笑顔だったぜ!なぁ相棒!』
『コンコン♪』
俊典以外でも会場にいる知り合いに話しかけるたびに、あいつとの思い出が蘇る。そして笑顔になってしまう。死んでおとなしくなるかと思えば、人を笑顔にすることに関してはむしろ生前より張り切っている気がしてくる。
そうして底抜けに明るい葬式はつつがなく進行し、皆笑顔になって帰路に就いた。
――
「…よぉ。お前さんは元気そうで安心したよ。…ところでお前さんは何してるんだ…?」
「…こーん。」
葬式の後しばらくたって訪れたあいつの墓。そこにはあいつの相棒がまるで墓を守るかのように寝そべっていた。頭をなでてやると嬉しそうに目を細めるそいつとしばらく戯れてから。そいつはまるで話を切り出すように何かをこちらに寄越した。
「手紙…。俺宛にかい?」
「キュン。」
そうだというように一鳴きするそいつから手元の手紙に視線を移す。封筒の様子からして書かれてからまだそれほど歳月がたってないようだった。セロハンテープで雑に止められた封がいかにもあいつらしい。一応そいつに断りを入れてから封を開けると、学生の頃から変わらない下手だが読みにくくはない文字が並んでいた。
『親愛なる大親友 グラントリノこと酉野空彦へ。
お前の顔を見ると笑顔にしたくなって話が進まないだろうからこうして手紙に残すことにした。早速だが、俺はもうすぐ大往生するそうだ。寄る年波には敵わねぇと思っていたが、とうとう俺の命までもっていくつもりらしい。後悔はないと言えば嘘になっちまう。でも、我ながら思い返せば返すほど笑顔になれるいい人生だった。しかし、心残りが一つあるんだ。
俺の相棒なんだがよ、種族的に千年生きるらしいんだ。律儀なやつだから俺の墓でも守ってるんだろう?そんな場所で相棒に何百年も過ごしてほしくねぇが、こいつのことだ。意地でもそこに居座るつもりだろう。だからさ、時々でいいから俺の墓に来て、暇つぶしの相手をしてやってくれねぇか?散歩のついでとか、暇なときとかでいい。
そして、これは本当にできたらでいいんだが、その役目を誰かに引き継いでくれ。そんなもの年寄りに頼むなっていう気持ちは俺も同い年の年寄りだからわかる。でもどうか、どうか大親友の頼みとして引き受けてくれ。文句はあの世で散々聞いてやるからよ。
病室より友情を込めて ナインテールスより。
追伸 最後にもう一回だけ、ただの狐火快晴としてお前と酌み交わしたかったぜ。』
「…あの野郎。自分の書きたいことしか書いてねぇじゃねぇか…。」
実にあいつらしい手紙に笑みがこぼれる。墓におとなしく収まってるかと思いきや、死んでも人を笑わせに来やがって。
「こーん…?」
「はは。他ならぬ大親友様の頼みだ、応えてやらないとな。」
小首をかしげたそいつを一撫でして、隣に腰を落とす。どうせ暇なんだ。こうしてゆっくり一日を過ごすこともまた、悪くはない。
(今度は油揚げでも持ってきてやるか…。)
雲一つない快晴の空が、一人と一匹を見守ってくれている気がした。