ポケモン×ヒロアカ短編集   作:烏賊焼き

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こおりがポケモン

 「…拳藤さん、ちょっと相談したいことがあるんだけど、いいかな?」

 

 彼女が声をかけてきたのは、始業前の教室でだった。こんなところでしてくる相談事ならそんなに大したことでもないんだろうな、とその時の私は思っていた。

 

 「いいよ。どうしたの?」

 「ありがと。こどもが出来ちゃったんだけどどうしたらいいかな?」

 「……………………?はい?」

 

 教室の空気が凍り付いた。先ほどまでやれ昨日のテレビがだのやれ課題がきつかっただの皆思い思いに話していた朝の談笑会が一転、誰もが彼女を見つめて固まっている。

 待て、落ち着け拳藤一佳。今一度落ち着いて今の状況を確認しろ。相手は冬風氷蛾(ふゆかぜひょうが)。ヒーロー科異例の41人目の合格者として入学した少女。雪みたいな銀髪に氷みたいな青い瞳の真面目な子。唯とか霊子みたいなおとなしい子と一緒にいるのをよく見る。個性はモンスターボールで右の手の甲に埋まったボールからモンスターを出す。出てくるモンスターはモスノウという種族らしい。雪属性の蛾といった感じで羽ばたきであらゆるものを氷漬けにしてくる敵に回したら厄介極まりない奴。今日は珍しくボールの中にしまいっぱなしのようだ。そして相談内容が―

 

 「こども?」

 「こども。」

 「こども………。」

 

 ―こども。いや、こどもが出来ちゃったって。え?なんで?え?しちゃったの?本当に?

 

 「てことは、その、こどもができるようなことしちゃったの?」

 「オスとメスが一緒に過ごしたのは間違いない。」

 「そ、そうなんだ…。」

 「うん。実際にできてるから。」

 

 言い方。その言い方はちょっと、その、酷過ぎるんじゃない?ちょっと後ろ振り返って見てみなよ。その発言のせいで茨がかわいそうなくらい真っ赤になってるよ?ちょうど登校してきた唯がUターンして教室から出て行っちゃったよ?

 

 「え?相手とかわかる?」

 「わからない。」

 「わからない!?なんでよ!?」

 「だってできるわけないとと思ってたから。」

 「えぇーー………。」

 

 ごくりと生唾を飲み込む音が聞こえた。気持ちはわかるけど今は止めてよ。今唾を飲んだ人が清楚な人が裏で実はってパターンがいいのはわかったけど止めてよ。私までこの子が、その、乱れるところを想像しちゃうから止めてよ。…茨大丈夫?インフルエンザもかくやってくらいに顔赤いよ?保健室に避難しに行った方がいいんじゃない?

 

 「…えーっと、やっぱりそういう病院に行った方がいいと思う。」

 「そっか。ありがと。」

 「あ、うん。」

 

 彼女がこちらに笑みを浮かべて感謝を述べた後、何事もなかったかのように席に着いた。それと同時に予鈴が鳴り、皆が慌てたように席に着く。そうして始まった一日は、皆が皆平静ではいられなかった。皆どうしても彼女のことが気になって授業中上の空気味になり、先生から当てられても気づかないことが数多くあった。そのことを他の先生方から聞いた我らが担任ブラド先生に軽くお叱りを受けた。皆がいつも以上に疲れた顔をしていた。そんな放課後、私は彼女に声を掛けた。

 

 「冬風さん、ちょっといいかな?」

 「? うん。」

 「一人でそういう病院行くのってやっぱり怖かったりするからさ、私も一緒に行っていいかな?」

 「いいの?」

 「うん!」

 「ありがと!」

 

 私も女だからそういうのはわかる。こういう時には誰かが隣にいてくれたらすごく心強いものだ。心なしか彼女のへその少し下あたりを見ている気がするクラスメイトたちから離れ学校を出る。そのまままっすぐ駅に向かい、病院に行く前に一度家に寄りたいという彼女に合わせて彼女の家に足を向けた。電車の中では特に話すことはなく、沈黙が広がるのは私にとっては凄く気まずかった。

 

 「ただいま。お留守番ありがとうね。」

 「あいすす♪」

 

 彼女の家に着くと彼女の相棒が出迎えてくれた。珍しくボールの外に出していないと思ったらそもそも連れてきていなかったらしい。帰ってきてくれた彼女に嬉しそうにすり寄っているその姿がなんともかわいらしいが、氷細工のような氷点下180度の羽が近くで動くたびに、夏が近づいて熱くなっていた気温が急激に下がっていく気がした。

 

 「具合はどうだった?」

 「ふんわ~?」

 「そっか。」

 

 そうして一人と一匹は玄関でしばらく戯れたあと、彼女が家の中に入っていったので、玄関には待つように言われた私と彼女の相棒が残された。彼女とそっくりな青い瞳としばらく見つめあっていると向こうからこちらに近づいてきた。頭を優しくなでてみる。気持ちよさそうに細められた目にこちらも笑顔になってしまった。

 

 「お待たせ。」

 「別にそんな待ってな………、なにそれ?」

 「何って、こども。朝話したよね?」

 

 しばらくして現れた彼女の手に抱えられていたのは、卵だった。見たことのないくらい大きな卵。彼女の相棒がその卵に慈愛に溢れた目を向けているのを見て、私は自分を含めたクラス全員がしていた勘違いに気づき、思わずため息が出た。自分でもびっくりするような深いため息だった。現に彼女はちょっと引いている。誰のせいだと怒るのも馬鹿らしいくらいどうでもよくなった。

 

 「…えっと…。」

 「私たちが勝手に勘違いしたのは私たちが悪い。それはそうだけどさぁ…。」

 「…あの…。」

 「あなたの言い方にもいろいろ問題はあったと思うんだ。それなら病院なんか行かなくていいよもう。」

 「え?いいの?」

 「うん。明日ブラド先生に相談するぐらいでいいと思う。」

 「そう?」

 「そう。」

 

 釈然としない様子の彼女に一声かけて、写真を一枚撮らせてもらう。卵を抱えた彼女と、彼女の相棒の写真だ。

 

 『今日B組をお騒がせした親子の写真です。』

 

 そんな言葉と共にクラスの連絡用グループに張り付ける。すると途端にスマホがうるさくなったのででカバンにしまう。どうしたのかと聞く彼女にあとでクラスのグループを見るように伝えてから二人で彼女の家を出る。明日のことについて彼女と話しながら駅まで送ってもらって帰路に就いた。家に着いたときはもうくたくたで、心配してくれる両親に大丈夫と返して夕飯やシャワーを済ませベッドに入った。

 

 「…………。」

 

 ベッドの中で再びアプリを立ち上げて写真を見る。我ながら悪くない出来だと笑みをこぼし、そのまま眠りについた。

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