「怪談をしましょう。」
彼女―
「昼間から?」
「はい。」
「教室で?」
「はい。」
「……それって怖いの?」
「さあ…?」
話してみないとわかりません。そういってくすくす笑う彼女に、爆豪が付き合ってられないとばかりに大きく舌打ちをした。そのまま教室を出ていく彼をはじめとして、そもそも怪談の類が苦手だったり食欲を満たす方を優先させたり、皆それぞれの理由で教室から出ていく。しばらくして教室に残っていたのは、飯田、緑谷、麗日、葉隠、蛙吸と彼女の6名のみになった。
「それでは少しでも雰囲気づくりをしましょうか。」
そういうと彼女は自らの個性を発動させた。パァンというとぼけた音と共に彼女の相棒が現れる。例えるならばセミの抜け殻が一番わかりやすいだろうか。背中には中身が出て行ったかのような大きな穴が開いており、ちょうど瞳の所にある二つの交わった割れ目が瞳孔のようになっている。ピクリとも動かない空っぽの身体をふよふよと漂わせている。
おにびをお願い。彼女の指示に合わせてそれが作った奇妙な炎で、カーテンを閉め暗くなった教室内に奇妙な色の明かりが満ちる。新月の夜のような黒髪と紫色の瞳がその炎に照らされる。雰囲気作りはばっちりだった。それに満足したのか、相棒を一撫でして彼女は口を開いた。
「今回私がお話しするのは私の前世の世界における話です。事実しか話しませんからよく聞いておいてください。」
それを聞いた5人は一安心する。彼女には悪いが、彼女の前世とやらを信じている人はクラスに誰一人としていなかった。あの常闇ですら将来苦労するから止めておけだなんて言っていたくらいである。それでも彼女は止めようとはせず、本当のことを言っているだけなのに、と悲しげな顔をするばかりだあった。その前世とやらの話ならばそんなに怖い思いもするまい。そもそも創作だとわかりきっている怪談を怖がるほど怪談が苦手というわけでもないのだから。そんな5人の心中を知ってか知らずか、彼女はそれを語りだした。
フワライドという生き物がいるんです。紫色の風船のような姿をしていて、黄昏時にどこかへ飛んでいくことで有名な生き物。…どこかって?さあ…?探知機器をつけた状態で飛ばしてみてもいつの間にかいなくなっているような生き物ですから。私が知る限りの最有力説は所謂あの世。現世からは絶対に干渉できない死んだ者たちの世界ですね。そこに飛んでいっているらしいですよ?このことからその生き物は半分幽霊のようなものだと考えられています。
さて、そんなフワライドにまつわる話ですが、今は地図にも残っていないようなとある小さな村に起こったある悲劇についての話です。その村はフワライドの群生地の近くに存在していまして、たくさんのフワライドが飛び立つ光景が毎日のように見られたそうです。
そんな村である日、おかしなことが起こりました。いつも黄昏時、フワライドの大群を見て笑っている子供たちの声が、全く聞こえなかったのです。それに気づいた大人たちは慌てて様子を見に行きました。するとそこにあったのは、一人の少年がもがくように地面を這っていた姿でした。彼は先日足を怪我していて、歩けない状態だったそうです。大人たちは彼を取り押さえ、そんな状態でどこに行こうというのかと聞きました。彼は答えました。
「僕だけおいてかれちゃった。」
そう言って話を終わらせた彼女に、一同は少し渋い顔である。
「あまり怖くなかったかしら?」
「いや、怖くなかったっていうか…。」
「子供たちがいきなり消えてしまうのは怖い話ではあるんだが…。」
「それはその生き物の習性みたいなものなんじゃないんかなぁ?」
「うんうん。」
「この世界にそんな生き物いないのをわかりきってるから―」
―あんまり怖くなかったわ。そう答えた蛙吹に彼女は気を悪くした様子もなくくすくすと笑う。
「ですが思ったよりたくさんの人に聞いていただけました。」
「たんさん…?」
「ええ。怪談をすると霊が寄ってくるというのは本当だったみたいです。」
しっかり雰囲気をつくった甲斐がありました。そう言って笑みを浮かべている彼女とは裏腹に5人はサーッと青ざめる。いま彼女はなんと言った?霊が集まるって?今ここにも霊が集まっているのか?だとしたら―
「れ、霊を集めることが目的だったというのかね?な、なぜ?」
「この子もまた、そういった幽霊的な生物でしてね?この子の主食は魂。背中の穴から吸い込んで食べるんです。」
ですが生きてる人間から魂を頂くわけにはいきません。そんなことしたら人間は死んでしまいますから。でもこの子もお腹はすきます。我慢させ続けるのもよろしくない。…ならどうするかって?それはもちろん死んだ人間の魂を頂くんですよ。ですから、肉体を失っても未練がましくこの世をさまよっている霊の皆さんに集まってもらったんですよ。ほら―
―こんなにおいしそう…♪
その瞬間、彼らは見た気がした。抜け殻の背中の穴から、黒い何かが―見ているだけで背筋が凍るような何かが飛び出しているのを。
「この子も完食したようですし、私たちも昼食にしましょう。」
先ほどまでとは打って変わった明るい様子で食堂へと誘う彼女へ従うように教室を出る。いつもは待ち遠しいはずのランチラッシュの食堂ですら、今の彼らの足取りを軽くするには至らなかった。
そうして心なしか遅い足取りで向かう最中、麗日がこらえられなかったかのように質問する。
「空ちゃん、さっきの本当なん?」
「? さっきのとは?」
「いや、霊とかそういうのって、実は空ちゃん渾身の怖い話だったりせえへんかなって…」
アハハ…。と半ば縋るような眼で乾いた笑いを浮かべる麗日と、せっかく怪談終わったんだから蒸し返すなという視線を麗日に向ける四人。そんな彼らを見た彼女は、あきれたような表情で答えた。
「本当も何も―」
―私はこれから事実しか話さないと最初に言ったでしょう?
(あかん。ウチ今日眠れん。)
食堂で待っていたクラスメイト達が予想以上に恐ろしい体験をしたらしいを彼らを見て、彼女の怪談を聞いてみたくなるまで、後少し。