僕が―緑谷出久が彼女と出会ったのは、近所では珍しく深く雪が積もった日だった。無個性だから、そんな理由で始まったいじめは幼い僕の心に深く突き刺さった。これまで仲良くしていたはずの皆が僕を嗤う。そのことが悔しくて、でも自分ではどうしようもなくて、皆と会うのがとても怖くなった僕が、まだ雪が降り続く中一人ぼっちで遊びに行った公園に彼女はいた。
「…?こんにちは。」
「…こんにちは。」
「めの!」
一目で普通じゃない人だと思った。雪のような真っ白な髪に紫色の瞳、脇には見たことのないいきものを連れていた。球体の頭から垂れる触れる振袖のような腕に、帯をまいたように見える体。少なくとも僕は見たことなかった。そして何より、雪が積もってしまうぐらいの寒さなのに彼女は夏に着るような白い和服を着ていたからだ。
「何してるの?」
「待ってる。」
「何を?」
「内緒。」
でもその時の僕には関係なかった。馬鹿にしてくる皆とは違う、それだけで僕にはいい人だったから。
「僕は緑谷出久。君は?」
「…私はユキ。この子はメノコ。」
「めの~!」
「よろしくね!」
「…よろしく。」
それから僕たちは話した。
「めのー!」
「この子、出久のこと気に入ったみたい。」
「そうなの?」
「めのぉ~!」
「ほらね?」
「そっか。」
「メノコはユキの個性なの?」
「うん。いつもはこの手のボールの中に入っている。ね?」
「めの!」
「そっか…。」
「…?どうかしたの?」
「僕、無個性だから、その…。」
「そっか…。」
「ユキはその格好で寒くないの?」
「うん。」
「すごいね。僕こんなに着込んでるのに寒いのに。それも個性なの?」
「内緒。」
「また?」
「また。」
「僕ヒーローになれるかな?」
「出久はヒーローになりたいの?」
「うん!」
「うーん。どうだろうね?」
「ユキもなれないと思うの?」
「未来がどうなるかなんて簡単にはわからないよ。…メノコはどう思う?」
「めのー…。」
「微妙だって。」
「えー…。」
和気あいあいとした雰囲気とはいいがたかったけど、でも僕にとってはいい話し相手だった。でもそんな時間にも終わりは来る。
「ごめん、お迎えが来ちゃったみたい。」
彼女は突然そう言った。僕は周りを見渡してみたけど迎えはおろか人なんか見当たらなかった。そんな僕を見て彼女は言った。
「出久には見えないよ。でも私たちにははっきり見えてる。だからもう行かなきゃ…。ごめんね?」
「そんな…。」
ほんのわずかな時間の交流だった。それでも僕にとって彼女は大切な人になっていた。だから僕は聞いたんだ。
「また会える?」
彼女は困ったような顔をした後言った。
「また、今日みたいに雪が積もった日なら会えるかもしれないし、会えないかもしれない。」
「また会いたいって思うくらい私たちのことを好きになってくれたのは、すごく嬉しい。私もメノコも楽しかった。だから―
―忘れないでほしいな。私たちのことを。
この時の彼女の目はとても綺麗で、僕は一生忘れることはないだろうくらいで、だからそう答えた。
「僕、約束する。絶対に今日のこと忘れない!」
彼女たちが僕の返事に満足したように笑うと同時に、冷たい風が雪を乗せてやってきて、思わず目をつぶってしまった。目を開けたときには彼女の足跡も何も残ってない、真っ白な雪が残っているだけで、僕は切なくなって泣いてしまった。
その日以来、雪が積もったら僕は公園に足を運ぶ。彼女たちと再開することはなかった。それでも約束を果たすために、彼女との思い出を忘れないために、僕は辺り一面真っ白になった公園に行く。