斯くやあらん   作:アグナ

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無謀は再び斯くやあらん。
汝、エタ作者。
変わらぬ宿業を打倒して、この作品を完結せよ……。









やはり、エタ作者を信用してはならない(戒め)


朝日、昇る

 ──何も出来ないお前は、何もするな。

 

 絶対的な勝利者が君臨する敗者の血の池で、父はそう言った。

 『鉄血』の()に相応しい、巌のような厳しい顔で。

 

 ──秩序とは、我慢だ。故に序列とは絶対で無ければならない。

 

 社会とは秩序によって成り立ち。秩序とは即ち我慢である。

 弱者が強者に勝つ。一人の人間が組織に打ち勝つ。

 

 それは何て耳障りの良い、おとぎ話。

 常に支配される側である民衆にはさぞ焦がれる夢なのだろうが……。

 下剋上が罷り通る世の中の悲惨さを人は戦国時代(れきし)で知っている。

 

 資格無き者(誰もが)天下(しはいしゃ)()れる。

 

 その結果は、屍山血河だった。

 力なき者は淘汰され、英雄豪傑すらも露と消えた地獄。

 本当に守るべき無辜の民は喘ぎ死に、明日に希望など無かった。

 

 誰もが剣を握れる時代とは地獄だ。

 人は誰もが力を持っているわけではない。

 力ない故、人は村となり、街となり、文明を築いた。

 

 前提として大多数の弱者によって構成される人は弱いのだ。

 故に力なき者が淘汰される世の中とは、地獄である。

 勝ち残れるのは極少数の強者と突然変異種(れいがい)だけ。

 そのような地獄(世の中)に一体何の価値があるという。

 

 嘗ての時代(じごく)を築かないためにも。

 歴代の支配者達は、支配を盤石のモノにすることへ固執した。

 安易にルールが破られないように、簡単に弱者が暴走しないように。

 

 銃が無ければ、容易く人は殺せず。

 機会が無ければ、容易く人は決断できず。

 大切なものが多ければ、容易く人は捨てられない。

 

 そうして多くの枷で支配者は弱者の目を耳を足を閉ざす。

 人が剣を手に取らないように。弱者が強者へ挑まないように。 

 頑張れば出来る──そんな真実(ちょうせん)に気づかないように。

 

 平和を、秩序を守るためにも序列は絶対で無ければならないのだ。

 

 ──だからこそ、お前の願いを私は、秩序(わたし)ゆえに否定する。

 

 黒鉄家──それは日本の秩序である。

 平和を担う侍にして、秩序を守護する騎士。

 彼らの役目は日本の人々が安寧に暮らせる世の中を守ること。

 

 そのためにも組織図は絶対のモノ。

 命令は上から下へ伝達され、速やかに実行される。

 不平不満は生まれず、上司の命令は絶対。

 鋼の結束に歪み無く、故に万事盤石で駆動する社会の歯車。

 

 そこでは何より誰より、(さいのう)の序列が優先される。

 鋼の結束を壊さぬためにも、弱者が強者に勝ることを認めてはならない。

 

 ──騎士の力は総じて魔力量(しかく)能力(さいのう)によって、決定づけられる。これに嘘偽りがあってはならんのだ。

 

 鍛えれば才能を越えられる。

 努力すれば上回ることが出来る。

 成る程、それは美談である。

 

 だが、そんなものは例外だ、基準にするべきものではない。

 そもそも才能を越えるために限界に限界を超えられる人間がどれほど居るだろうか。

 叶うかどうか分からぬ可能性に全身全霊を掛け、血の滲む努力を重ねられる人間は。

 

 そう、努力は当たり前に痛いのだ。

 身を削ることは苦痛であり、頑張ることはとても辛い。

 努力する、努力する、努力して努力して、そして超える。

 そんなことが出来るのは、出来る奴(・・・・)だけだ。

 弱者(ヒト)が参考にするべきものでは無い。

 

 ──余計な幻想(ユメ)を見せて、秩序を無駄に掻き乱しても、待っているのは非常な現実だけだ。才能が絶対のもので無いことはお前に免じて認めよう。それでも(・・・・)、才能は絶対の序列で無ければならないのだ。

 

 変な我執で、結束を砕かせないためにも。

 変な希望で、未来に絶望させないためにも。

 

 ──許せ一輝。私は、例外(おまえ)を認められない。

 

 他ならぬ父から、その存在を否定された。

 ならば────。

 

 

「分かったよ父さん……それで構わない(・・・・・・・)

 

 (オレ)は──(オレ)となることを受け入れた。

 

 

 

 

「……ず……くん」

 

「し……み……くん……むぅ、い……き……ってば」

 

「……んぅ」

 

 ──懐かしい過去(ユメ)を見ていたようだ。

 そうだ、俺はあの日、全てを受け入れた。

 受け入れた上で目指そうと決めたのだ。

 

 才能が無くても。努力は決して無駄じゃない。

 諦めなければ何時かきっと夢は叶うのだと。

 自らの足跡で以て証明しようと。

 

 だからこそ俺は……!

 

「一輝ッ!!」

 

「うわっ──とぉおお!?」

 

 思わず決意(モノローグ)は中断される。

 耳元で炸裂する大声。

 ビックリして目を開けば、そこには超至近距離(どアップ)の顔。

 それに二重で驚いて、俺は身を捩って抜け退けた。

 

「あ、アディ……? 急に大声を出されたら驚くじゃ無いか。それに君はもう少し慎みをだね。仮にも付き合ってない若い男女がそんな簡単に……」

 

「大丈夫よ、一輝だし。早々に欲情して襲いかかるほど貴方の理性は弱くないでしょ」

 

 一輝の文句など何処吹く風か。

 忠告をすまし顔で聞き流すのはアーデルハイト・キルヒアイゼン。

 破軍学園の二年生であり、一輝にとっては同級生兼ルームメイトだ。

 

 絹のような金髪と透き通る藍色の瞳はドイツ人の母から、柔和な顔立ちと歳に見合わぬ長身を日本人の父から継いだハーフで、その容姿は問答無用に学園内で一、二を争うほどの端麗さ。

 そのため、日々学園内では彼女のファン達による応援と、一輝に対する呪詛が叫ばれているとか。

 

 まあ、そんなことはさておき……。

 

「いや、そういう問題じゃないと思うんだけど」

 

 ……まずは、この少々貞操観念の薄い彼女に苦言を告げなければなるまい。

 そんな一輝の心遣いに変わらず知らんと返すルームメイト。

 

「それにもしもの時は責任取って貰うから。ほら、私のお父さんとお母さんは出来ちゃった婚だし」

 

「それとこれと一体何の関係が……っていうか、え? あの戒さんが出来ちゃった婚? 馬鹿な……」

 

 知らなかった事実を聞いて一輝は素で驚く。

 戒……というのは彼女の父親の名である。

 孤児院を経営する四十代の男性で、歳に見合わず未だに若いお兄さんにしか見えないその容姿は近所の奥様方から大変人気で、いつも囲まれては困ったようにしている。

 物腰柔らかく、人格穏やか。

 争い事など縁はないと言った見た目は正しくいい人の典型である。

 

 そんな彼が出来ちゃった婚など、全く想像ができな──。

 

「何でも、いつまで経っても『僕は君を穢したくない』的な優柔不断さに我慢の限界を覚えたお母さんがお父さんを襲って……」

 

「成る程。戒さんには悪いけど納得だ」

 

 どうやら狼は戒さんでは無くそのパートナーの方だったか。

 まあ、彼ら二人の関係や性格を考えれば納得がいく。

 

「だから一輝も気を付けてね?」

 

「はっ?」

 

「血筋か何かは知らないけど、うちは女性の方が割と気が強い家系だから。叔母さんは未だ高校生からずっと好きな人にも告白できないヘタレだけど、私は違うから。略奪愛とかもありだから」

 

「……なるほど?」

 

 むん、と無表情(いつもの)顔で言うアーデルハイト。

 何を気を付ければ良いのかよく分からないが……。

 女性を甘く見るなということを言いたいのだろうか。

 

「何故俺が注意される側に? ……まあ、よく分からないけど気を付けるよ。それとおはよう。アディ、手間を掛けてすまない」

 

「ん、新妻の朝のお勤め、礼は不要。でも苦しゅうない」

 

「はいはい、冗談もほどほどにね」

 

 ともあれ、朝の目覚めである。

 態々起こしてくれた彼女に礼を言いつつ、一輝はベッドから降りる。

 何故か一輝の返しに憮然としているクラスメイトに背を向け、眠気覚ましにシャワーを浴びるため居間を後にする。

 

 

 

 ──数分後、朝食を用意してくれていたらしいアディと共に一輝は席に着き、テレビをBGMに二人で朝食を突いていた。

 

「──ところで一輝はどうなの?」

 

「どうなの……って言うと?」

 

「ん、そのテレビに映っている彼女。皆の注目株さん」

 

 顎でクイッとテレビの方を指す彼女に一輝の視線が流れる。

 画面には真紅の髪を持つ少女がマスコミに笑顔で対応している。

 字幕に流れる名はステラ・ヴァーミリオン。

 欧州にあるヴァーミリオン皇国の第二皇女である人物だ。

 

「皇女殿下の日本留学……世界でも少ししか居ないAランクの魔導騎士で、美少女。学校じゃみんな話題にするし注目してるけど、一輝はあんまり気にしていないようだから」

 

「ああ……いや別に興味が無いわけじゃないよ? 俺も綺麗だと思うしって痛!」

 

「足が滑った」

 

「えー、今のは……いや何でも無い」

 

 明らかに踏み抜かれたが、抗議しようと目を向けた先には感情の窺えないすまし顔。

 完全に謝る気も反省する気もない彼女に先に一輝が折れた。

 なので抗議の言葉を捨て、質問に答えを返すことに専念する。

 

「俺だって少しは興味を持ってるさ。でも今はそれ以上に気にしなければならないことがあるからね。新学期が始まればすぐに選抜戦が始まる。目下、そこに向けて集中しているから他に目を向ける余裕が無くて」

 

「そう……でも彼女はAランク。学生ながら既に高位の魔導騎士に引けを取らない逸材よ? 試合で当たった時どうしようとか一輝は考えないの?」

 

「まだ当たると決まったわけじゃないからね。でも戦うことになってもきっと俺は負けないよ、少なくともそのつもりは一切無い」

 

 勝負に絶対は無いし、勝負は時の運だ。

 強い方が必ず勝つとは限らないし、努力や環境で簡単に裏表が入れ替わることだってある。

 だからこそ勝負事に絶対や必ずはないのだ。

 

 でも……その上でやはり敢えて言う。

 だって重要なのは心だから。

 

 必ず勝つという宣誓、絶対負けぬという決意は進むための推進力になる。

 戦うための起爆剤になる。

 気合いや根性、それらは所詮心の情動に過ぎないが。

 されど心の情動こそが人間の何にも勝る力である。

 

 “決意”は人の持つ最大の武器である。

 勇気と気力と夢さえあらば、人は何処にだって往けるのだ。

 

「だから俺は敢えて言うんだ──俺は必ず“勝つ”のだと」

 

「トンチキ理論。主人公属性の特権ね」

 

「人は誰だって、自分の人生の主人公だと思っているよ」

 

「そう思える人はそんなに多くないと思うけど……でもそうね。貴方ならやらかしそうだわ」

 

「やらかすって言い方に悪意がないかい?」

 

「やりそう、よりは貴方に似合う表現よ」

 

「酷いなぁ」

 

 共に雑談を交わしながら箸を進める。

 何だかんだで高校をずっと共に過ごしてきた彼女とは気が知れた仲であり、彼女自身、性格も相まって言葉を言い繕わないので一輝とは本音で語れる。

 出生と去年の『やらかし』のせいで同級生からも先輩からも敬遠されがちな一輝としては、この数少ない友人の存在は非常に有り難く、また素であることが出来た。

 

「そうだ……忘れてた」

 

「ん、どしたの?」

 

 そんな一年の付き合いを振り返って、一輝はふと思い出す。

 二年生になってから、やって済ませておくべきことを済ませてなかったことに。

 そう、彼女とはまた一年、卒業まで共に過ごすことになるのだ。

 なので……。

 

「今日からまた一年──よろしく頼むよ、アーデルハイト・キルヒアイゼン」

 

「ん、よろしくしてあげる。ボッチめ、喜ぶが良い──芦角(・・)一輝」

 

 春麗らかな桜舞い散る新たな年の始まり。

 二人は握手を交わす。

 また一年、友情が続くことを誓うように。

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