斯くやあらん   作:アグナ

2 / 3
※注意

この作中に出てくる登場人物は実際の性格と異なる場合がありますが、基本的に似た別人ですので予めご了承ください。

……宇宙の接続が乱れていて混線しているだけですので。


学徒たちは春風に語らう

 《伐刀者(ブレイザー)》。

 

 古き時代には魔女や魔術師、そして今の時代には超能力者などと呼ばれる異能使い達である。

 己が魂を武装──《固有武装(デバイス)》として顕現させ、魔力を用いて異能を司る千人に一人の逸材。

 

 卓越した異能者たる彼らは時には時間や空間、概念といったものすら操り、熟練の異能者であれば一個軍隊を一人で相手取ることも可能という。

 人でありながら人を超えた奇跡の使い手。

 それが《伐刀者(ブレイザー)》という存在である。

 

 今や彼らは社会を構成する人材として時代に欠かせる存在では無く、警察や軍隊……戦いにおいて如何に彼ら、優れた《伐刀者(ブレイザー)》を確保できているかが、明暗を分けると言うほど、彼らの武的な価値は圧倒的だった。

 

 だが、大きな力には責任が伴う。

 暴力は、所詮暴力。

 例え国防のためとはいえ、自由な能力の使用は秩序の破滅を呼び、無秩序はやがて大きな災禍となって人間社会を襲うだろう。

 

 だからこそ、《伐刀者(ブレイザー)》は《魔導騎士制度》というものによって自由な能力の行使と、《伐刀者(ブレイザー)》としての社会的地位を拘束される。

 力のある大国によって結ばれたこの制度は、《伐刀者(ブレイザー)》の能力規約他、指定の専門学校を卒業していないと能力者として能力の使用を認めないなど様々なルールが厳格に定められている。

 

 日本────『破軍学園』。

 ここもまた全国七カ所に設置された魔導騎士養育機関の一つだ。

 『学生騎士』として此処を無事に卒業できたものにのみ、魔導騎士として、《伐刀者(ブレイザー)》として、異能を使える騎士として認められるのだ。

 

「──えー、というわけで。今日からお前達新二年生を担当することになった芦角英恵な。面倒事は嫌いだから、青春だ何だとはっちゃけて問題とか起こさないでくれよ頼むから。それから恋愛相談とかしてきた奴、マジ捌くぞ」

 

「「「…………………」」」

 

 さて、そんな騎士の登竜門では今まさに新学期に伴い一新されたクラスと新たなクラス担任による自己紹介が行われていた。

 卓上の女教師──芦角英恵は義憤のオーラを纏いながら担当する新二年生たちを威圧する。極めて私情に満ちた理由で。

 

「いいか? テメエら砂利共に、『キャッキャうふふのアオハル!』とかマジ無いから。忘れんなよ? 此処は騎士の学校だ、お前らは精々《七星剣舞祭》でも目指して切磋琢磨しながら血の汗流すような青春だけで十分な。先輩後輩マネージャーから始まるドキッ! っ的な展開は私が居る限り絶対に無いと思え、という訳で桐原ッ!」

 

「へ? なんッスか、芦角先生? 僕は何も──」

 

「お前さっき、女を引っつれてハーレム野郎気取ってたよなァ……というわけで後で雑用な。私のパシリ決定」

 

「えええええええええ!? そんな理不尽なッ!?」

 

「黙れ! クソがッ!!」

 

「黙れ!? クソが!?」

 

「お前たち……お前たちに分かるか……? 目の前でお前達砂利共の青臭い青春模様を見せられる私たち教師の気持ちがッ……! 私にだってなぁ、私にだってなぁ、若い時はあったんだよ!! 青春する時間はあったはずなんだよ、だのにどうして、どうして、私に彼氏はいないんだよぉ!!? 何処かに素敵で手頃なイケメンはいないのかよぉぉおいおいおい………!!」

 

「いや知りませんよ。そんなんだから二十八年も喪──」

 

「映せ──《八卦閃》」

 

「ちょ、それ《固有武装(デバイス)》──」

 

 あああああッ! っと轟く悲鳴。

 二年生のまだ慣れない教室は早速、大荒れだった。

 《運》を司る異能の顕象。それに伴って行われる無差別攻撃は件の生徒他を巻き込んで起こり、教室内では悲鳴やら怒号やら嘆息やらが巻き起こる。

 

 騒ぎを目の前に一輝は目も塞ぎたくなるような惨状に顔を伏せる。

 そんな一輝に対し、隣の席となったアーデルハイトはちょいちょいと一輝の袖を引いて……。

 

「いいの? アレ(・・)、保護者でしょ? 学園内での異能の無断使用は普通に校則違反なんじゃ……」

 

「ああ、多分大丈夫だよ、芦角先生だってその辺分かっているから本気は出していないだろうし。ほら、ランダム攻撃も対した威力は……」

 

「ぐああああああああッ!!」

 

 丁度、一輝がそう言いかけた時、件の少年が壁に突き刺さる。

 一輝の目は死んだ。

 

「………」

 

「あれが手加減?」

 

「生徒思いなのは本当なんだ。信じてくれ。この時期以外はまともなんだよ……」

 

「そう……」

 

 破軍学園教師、芦角英恵。

 Bランクの魔導騎士であり、他ならぬ今年度からの一輝のクラス担任である。しかし一輝は、彼女とはそれ以上の繋がりを持っていた。

 というのも芦角という姓からも分かるように、彼女は一輝の社会的な保護者でもあるのだ。

 

「家の事情で放逐された俺はそのまま行けば孤児院行きだった。でも家出の事情が事情だからね。俺の家の事情はアディも知っているだろ? そのせいで俺はどの孤児院にも受け入れられることが出来なくてね……」

 

 一輝の旧姓……その名を黒鉄という。

 それはこの日本国において古くから《伐刀者(ブレイザー)》、ひいては日本の国防を担ってきた名家であり、第二次世界大戦において日本を勝利へと導いた英雄『サムライ・リョーマ』を排出した家でもある。

 

 そんな家の本家直流の血筋に生まれた一輝はしかし、『とある事情』で家を追い出され、その存在を抹消されてしまった。

 さらに一輝を追い出した後も、黒鉄はどうしてもその存在が認められなかったらしく一輝が社会的に復帰出来ないよう、まだ一桁の子供に対してあまりにも過剰な社会的な制裁や裏の伝手を使った抹消計画などで一輝を追い詰めた。

 

「あの時は特に実感したよ。世の中は総合値だ。神話の英雄みたいに武一辺倒だけでは生き残れない。才能、人脈、金銭、社会的地位……後は運か。そういう力を持てるだけ持っている方が圧倒的に強いとね。そりゃあ努力することも大事だけれど、それだけに頼ってしまうのもまた間違いなんだと」

 

「でしょうね。どんなに優れた才能の持ち主だろうと、社会でバッシングを受ければただそれだけで詰む。例えば学者が新たな細胞の発見を叫んでも、認められなかったようにね。まあ、あれが真実だったかどうかは怪しいところだけれど……」

 

「重要なのは真実であってもそれが多くの人に否定されれば容易くねじ曲げられてしまうこと……だろう?」

 

「ええ。力には色んな種類があるけれど、そういうのは持てるだけ持っておくだけでお得なのよ。例え、親の七光りで貰えるものでもね」

 

「ああ、散々実感したよ。後悔こそしてないけど、正直考え無しだったと反省しているよ」

 

 勘当されたこと、家を出たことに関しては一輝と父親、互いの意思が一致したがゆえの結果であり、そこに対して後悔は無い。

 だが、その結果訪れた数多くの苦難はある程度予測できた結果であり、また回避できたかも知れない結果でもある。

 少なくとも事前の準備や手回しをしておけば、あのような苦境に陥ることは無かったはずだ。

 

「そんな実家の力で色々追い詰められている時だったな。曾祖父の友人だったって言う──柊さんに助けられたのは」

 

 そう、日本にいたもう一人の《英雄》柊四四八。

 かの存在の手によって一輝は保護された。

 

 その後、彼の知人だという女性の孫娘……芦角英恵の下に紆余曲折あり、預けられたのだ。以降、彼女とは保護者と被保護者の関係なのである。

 

「だから柊さんは勿論、英恵さんにだって凄く世話になっているし、助けて貰っている。特に名義は英恵のお母さんが俺の保護者だけど普段は全部、英恵さんにお世話になってるからね。俺にとっては恩師で……うん、凄くいい人なんだよ」

 

「ふーん、いい人、ね」

 

 そう言って芦角の方へと目を向けるアーデルハイト。

 

「だッしゃああああああああ!!」

 

「ぎゃああああああああああ!!」

 

 そこにはいつの間にかジャーマン・スープレックスをキメられる桐原の姿が。

 

「……いい人?」

 

「……ノーコメントで」

 

 一輝は現実から目を逸らした。

 

 

………

………………。

 

 

 騒々しい新学期のスタートから三十分後。

 新担任の自己紹介も済んだ頃に、一年生の頃から恒例になっている面子で放課後を過ごしていた。

 

「酷い目にあった……ねえ、一輝クン。アレは君の何かだろう。友人を助けようとか思わなかったわけ?」

 

「無茶を言わないでくれよ桐原くん。この時期の芦角先生の荒れ具合は俺程度に同行できるものじゃないんだ。特に青春を謳歌している人には当たりが酷くなる傾向があるから……まあ、青春税ということで」

 

 困ったような笑顔で一輝は友人であり、前年度の《七星剣舞祭》でベスト8に入賞した猛者でもある少年、桐原静矢に言葉を返した。

 

「何、その理不尽な徴収制度」

 

「妥当。ハーレム野郎にはあのぐらいの扱いが丁度良い」

 

「おいコラどういう意味だキルヒアイゼン」

 

「まあまあ二人とも」

 

 顔をヒクつかせる桐原に、毒舌のキルヒアイゼン。

 そしてその間を取り持つ一輝。

 三人の仲はこのように一年の頃から配役変わらず健在だった。

 

「にしてもまさか新学期から担任が芦角とは……早速気分が憂鬱だ」

 

「芦角先生は良い先生だよ?」

 

「僕への当たりが強いことを除けばね。知ってるだろう、あの先生モテる人間には男女構わず当たりがキツイの。ほら、偶にOBで来るあの執事を筆頭に嘗てか今かで青春の日々を過ごした生徒ならなりふり構わずだ」

 

「そういえば水希先輩にもさっきみたいな態度だったわね……大杉さんには別の意味で当たり強かったけど」

 

「あははは……アレはあの人が悪いんじゃないかな?」

 

 今や国防軍として従事する顔見知りにして破軍のOBである者たちの顔を思い出しながら一輝は苦笑する。

 破軍でも指折りの有名人である彼らは、その有名逸話のせいもあって芦角先生と特に仲が良かった。

 そのせいもあって色んな意味で彼らのやり取りは親しいものだったのだ。

 

「ものは言い様ね」

 

「……ナチュラルに僕の心を読まないでくれよアディ」

 

 苦笑する一輝の顔を見て、内心を読み取ったのだろうアディの指摘にげんなりとする。

 いつか擁護しにくい話題もあるだけに全くの図星である。

 特に『修学旅行覗き事件』などはほぼ犯罪行為だろうに……。

 

「そういえば有名と言えば──」

 

 と、不意に桐原は話題を変えるように話を切り出す。

 

「有名といえば今年の一年生にも有名人が入学したじゃん? 名前は確か──」

 

「ステラ・ヴァーミリオン」

 

「そうそう、それ。ヴァーミリオン皇女殿下! いやあテレビで見たけど中々悪くない見た目だったよ。後で生の姿を見たいと思うぐらいにはサ」

 

「注目ポイントはそこ……?」

 

「桐原君は相変わらずだね……いつか彼女に刺されるんじゃないかな?」

 

「……君がそれを言うかい?」

 

「……貴方がそれを言うの?」

 

「え? え? 何で僕が悪いみたいな流れ!?」

 

 突然、ジトッとした目を向けられて動揺する一輝。

 彼は知らなかった。

 その柔らかな物腰と早朝から日々鍛錬を欠かさぬストイックな生活、そして何より可愛い部類に入る顔立ちが女性受けしていることに。

 そのため、彼を応援するファンクラブが存在することに。

 

「鈍感主人公ってある意味、ハーレム野郎よりウザくね?」

 

「サイテー。女心を無意識に弄ぶ奴は死ねば良い」

 

「い、謂われの無い罵倒が僕を襲う……? あ、あーそうだ、ステラ・ヴァーミリオンさんといえば」

 

「逃げたな」

 

「逃げた」

 

「ヴァーミリオンさんといえば! 世界でも数少ないAランクの学生魔導騎士だったよね! 桐原くんのそれとは違いけれど俺も興味があるな!!」

 

 流石は《剣聖》と通り名も有名な高位騎士だけあって一輝は不利を悟るのが早かった。

 話を強引に本筋に戻すことで戦場からの離脱を試みる。

 

「魔力保有量Aランクといえば、プロの世界でも数限られる最高ランクの頂だ。きっと今年の《七星剣舞祭》でも彼女は優勝候補に入るに違いないよ」

 

「彼女が《七星剣舞祭》に出ればの話だけれどね」

 

「出るんじゃない? 態々、研鑽するために外国にまで留学しに来たんでしょ?」

 

「俺も同じ意見だよ」

 

 騎士の学校というのは《魔導騎士連盟》に加入している国であれば何処であれ存在している。それは無論、《連盟》に加入している欧州の小国、ヴァーミリオン皇国とて同じ事だ。

 外国事情には諸事情で少なからず知識の広い一輝はかの皇国内にも騎士学校があるのを知っている。

 大国が同盟して出来た《同盟(ユニオン)》ならば独自に学校を作らない限り、騎士学校というものが存在しない場合もあるので話は変わるのだが、少なくとも《連盟》に限っては加入している国ならば、それぞれ個別に支部が配置され、魔導騎士の養育機関が設置されているはずだ。

 

「それなのに態々彼女は留学を選んだんだ。この日本にね」

 

「あー、日本(うち)は何だかんだで魔力研究が盛んに進んでんだっけ? 第二次世界大戦の遠因はその研究成果を巡ってだとか何とか……?」

 

「うん。魔導騎士の扱う異能や魔力に関してはまだブラックボックスの部分が多いからね。そこを正確に解析できれば稀少な魔導騎士をある程度、狙って(・・・)生み出すことが可能だ。……戦後(いま)もそうだけれど、日本はアジアでも有数の魔導騎士研究先進国だからね」

 

「都市伝説染みた噂だけど大戦中には異能を使う人造機械の兵士を生み出した、とか。夢の世界から異能を引っ張ってきて全国民を魔導騎士にする計画があった、とか。まことしやかに語られてるぐらいだものね」

 

「それをいうなら君の母国も大概だろう? ヒムラーだっけ? 聖槍十三騎士団・黒円卓の話は?」

 

「実質はハイドリヒ親衛隊大将の、だったけれどね。うちの家系図に所属していた人が居たらしくて、お母さんが顔を顰めながら教えてくれたわ」

 

「ああ、あっちも大概、魔導騎士に関する研究では変態レベルだったっけ。向こうの都市伝説は異能を極めて全世界の神様になるってかなりぶっ飛んでたよく覚えてるよ。日本(うち)もそうだけど、枢軸側の国は何処も変態揃いの国々ばっかだよね。イタリア辺りもローマ関係で後ろ暗いし」

 

「……って話が歴史にズレてるよ、二人とも。僕が振っておいて悪いけど」

 

 いつの間にかステラ・ヴァーミリオンの話から世界史に話がシフトしていることを指摘する一輝。

 確かに世界史は今に続く情勢の重要な話ではあるものの、今の話題は件の留学生だ。

 

「そういってもねえ。僕としては美少女ぐらいの印象と話題しか無いんだけれど? Aランク魔導騎士とか何とかは散々テレビで言ってたし………あ、後、アレだ。胸が高一にしては大き──」

 

「あ、手が滑った」

 

「イっ……キリト!?」

 

「桐原君!?」

 

 手が滑ったと宣いながら超高速で桐原に足を引っかけるアーデルハイト。

 上位に与する騎士とだけあって、アーデルハイトの前振りに一瞬で身構えていた桐原も予想拳撃(フェイント)を入れた上での足払いでは反応しきれず、奇妙な悲鳴を上げながら顔から床に叩き転がる。

 ビタンッという割と洒落にならない音に一輝が悲鳴を上げた。

 

「乙女の前で胸の話は死線と知りなさい」

 

「……………」

 

 倒れる桐原にフンとアーデルハイトは言い切る。

 その言葉に対して「いや、君も言うほど貧乳(無いわけ)じゃないのでは……」と一輝は口に出かけるが、桐原の惨状を傍目に見てぐっとこらえる。

 

「む、胸はともかく、実力の方は少し気になるよね。異能は確か焔を扱う力らしいけど、どれぐらい強いのか。まあ今年の首席入学生だから相当に使うとは思うけれど……」

 

桐原静矢(そこの馬鹿)と違って、真っ先に強さを話題に取る辺り一輝は相変わらずね」

 

 嘆息するようにアーデルハイトは一輝に呆れの目を向ける。

 桐原がこの通り、アレならば一輝もまた違う意味でアレなのだ。

 

「というか朝は選抜戦でそれどころじゃないって言ってなかったかしら?」

 

「興味が無いとも言ってないよ。それに選抜戦には彼女も出るだろうからね。何れは試合う相手に無関心で居られるほど俺は泰然としてないよ」

 

 魔導騎士の祭典と言えば『king Of Knights』こと『KOK』、全世界でも有名な伐刀者(ブレイザー)同士の格闘競技が話題に出るが、日本の場合はそれ以外に全国七校の魔導騎士学校で争われるその年一番強い学生騎士を決める魔導騎士の祭典《七星剣舞祭》が有名だ。

 《七星剣舞祭》では、この破軍を初めにそれぞれの学校は毎年各学年混成で選抜された騎士を送り出し、全国で覇を競わせ合う。特に、破軍の場合は去年度までは『能力値』による選抜方式を採用していたものの、今年からは『選抜戦方式』……つまり校内で開かれる試合で成績を残した者が学校を代表する騎士として《七星剣舞祭》に出場する権利を得ることが出来る。

 『選抜戦』はランダム選考で試合が組まれ、その成績順に《七星剣舞祭》の出場選手が選定される。つまり、確実に選ばれたいのならば、一回の敗北も許されない厳しい戦いになるのだ。

 

「一年とはいえ、Aランク魔導騎士というなら彼女もまた『選抜戦』では上位に食い込んでくるだろうからね。ライバルの動向を気にするのは同じ出場希望者としては当然だ」

 

「一輝、去年は出場権利を得るチャンスも無かったからね……まあそれが『例の事件』の原因にも繋がったわけだけど……あんまり気負ったらダメだよ?」

 

「分かってるよ。去年のように君や桐原君に心配をかけるわけにはいかないからね」

 

「全くだよ。そのせいで僕たちが去年はどれだけ大変だったか」

 

「あ、起きた」

 

 ムクリと立ち上がる桐原。

 服には埃やら何やら色々付いているが、無事ではあったらしい。

 

「あ、起きた。じゃないよ全く! 君はまず手が先に出る癖をどうにかしたまえ」

 

「手じゃ無いし、足だし」

 

「どっちも同じだよ! ──ともあれ。一輝クン、そういう話ならばヴァーミリオン皇女殿下ばかりに目を向けるのはどうなのかな? ライバルというならば僕もまた君の前に立ちはだかる試練だぜ? 今年こそは優勝を狙って出場するつもりだしね僕も」

 

 そう言って桐原はシニカルに笑う。

 去年の《七星剣舞祭》においては準優勝を果たした『天眼』こと城ヶ崎白夜にしてやられたことから、彼は前々からリベンジに熱意を燃やしている。

 桐原もまた一輝と枠を巡って相争うライバルに他ならない。

 油断ならないというならば彼もまた去年度はベスト8に名を連ねた猛者なのだから。

 

「勿論──やるからには出場する皆が俺のライバルだ。誰が相手でも油断するつもりは無いし、負けるつもりも毛頭無いよ」

 

「いうねぇ……そういうことならこの後、時間もあるし模擬戦でもやるかい?」

 

 自信満々に言い切る一輝に桐原は楽しげに言葉を返す。

 曰く、勝利することが好きだという彼にとって強い相手に勝つことは趣味のようなものだ。

 景気づけの前哨戦とばかりに一輝を模擬戦に誘う。

 

「構わないよ。選抜戦も近いことだし、調整も兼ねて模擬戦をやるのは悪くないね。アディもどうだい? 君もこの後は時間があるんだろう?」

 

「やんない。私は今年は出場する気が無いから。去年はともかく、今年は倍率も高そうだし」

 

 そう言って肩を竦めるアーデルハイト。

 彼女も彼女で《雷姫(ワルキューレ)》などと呼ばれるほどの強者であるのだが、如何せん本人に一輝らほどのやる気が見られない。

 そも、騎士になろうとする動機が、両親が開いた孤児院の子供たちを助けるためだというものだから積極的に強さを求める理由がないのだろう。守るためには確かに力が必要だが、彼女の場合は力よりも金銭の方が重要だろうから。

 

「──でもそうね。気が向いたら二人の調整ぐらいには付き合ってあげる」

 

「よっし。そういうことから早速、訓練場に行こうぜ? 今日は始業式の初日だし、まだ速いこの時間から訓練場を使うような奴だってそう居ない──」

 

 果たして──桐原の言葉がフラグだったのか。

 彼が二人に提案を口にした直後のことだった。

 

『──おい、聞いたか? 一年の《紅蓮の皇女》が同じ一年の奴と決闘するって話だぞ!』

 

 件の一年生に関する────そんな噂話が三人の耳に入ってきたのは。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。