……いつかやると思ってました(光の奴隷を見て)
それはそうと暫く執筆から離れていたので違和感がが……。
戦闘描写のクオリティには目を瞑ってネ。
──ヴァーミリオン皇国のような小国にとって。
強い
欧州の片隅に建国された私の祖国、ヴァーミリオン皇国。
嘗ての大戦、第二次世界大戦においてはナチスドイツを初めとした列強諸国に度重なる侵攻を受けたせいで戦後の内状はズタボロだった。
国土を焼かれたせいで土壌は植物の成長を受け付けず、建物は火器の放火や伐刀者の異能で倒壊し、無機物有機物問わず飲み込んだ戦火は国の人口を舐め取った。
戦後は親衛隊ならざる正規部隊の隊長らの議席制度による統治化を引いたことで敗戦国でありながら嘗ての軍事力を取り戻した軍事帝国ドイツや戦勝国となった日本と改めて確固たる同盟を結ぶことによって、異能研究において欧州で一歩先んじたイギリス、同じ戦火のツケを払った者同士と各小国と商業的条約を多く結ぶことにより、各国の商業流通ラインを抑えることに成功したアンタルヤ商業連邦。
戦前から多くの特質や、そもそも強い力を持った欧州の国家が、再興を遂げていく中、ヴァーミリオン皇国は小国故に、足踏みをしていた。
幾つかの不幸も影響しているのだろう。
例えば、有事は恐るべき軍事帝国ドイツに剣を立てられる立地にあること。これが影響して、彼らを恐れる大国が陰で暗躍していること。
軍事帝国ドイツを病的に狙う傭兵団の存在……。
戦争を経て、平和な世の中へと徐々に移りゆく国際情勢下であっても、ヴァーミリオン皇国の苦難は今尚続いていた。
そんな情勢下に誕生した規格外の才能を保有した皇女の存在。
それは未来を憂う国民、皇室にとってどれほどの希望だっただろうか。
私は自分を知っている。
現国王である父がどれほど自分を愛してくれてるかを。
私は自分を知っている。
自分が
──そうだ。私は私を知っている。
私が、どれだけ
その恩を返したいと思った。
受けた借りを十数倍にして返して、皆を幸せにさせたかった。
強力な伐刀者の存在は、そのまま国の軍事力になる。
取り分け自分の資質、Aランクともなれば欧州大国とて無視できない。
その存在感を持ってすれば、今のような愛する故国を踏み台にするようなマネを安易に行えなくなるはずだ。
だからこそ、私、ステラ・ヴァーミリオンは異国へ渡った。
強くなるために。騎士として立派になるために。愛する祖国を守るために。
第二次世界大戦──ヴァーミリオン皇国と同じく、小国でありながら大国と肩を並べて覇権を争った国家……日本へと。
何処よりも異能研究を先んじた魔導先進国へと。
故に────。
「私と試合をしませんか? 正直、興味を我慢できなくて。保有魔力Aランク。世界に数人と居ない伐刀者の実力というモノに」
ニコリと微笑みかける銀髪の妖精のような少女。
瞳の奥に研究者のような無機質な興味と、表面上は少女らしい柔和な、されど凍えるように冷え切った無機質な言葉を掛けられた時。
その挑戦を受けることに否応はなかった。
強くなる、強くなる。
そのために
「ええ──良いわ」
例え相手が自分に首席入学を果たした自分に次ぐ騎士であろうとも。
例え相手が黒鉄の名を名乗る才女であろうとも。
「その挑戦、受けてあげる」
逃げることは勿論、負けるつもりは一切無い。
全ては強くなるために。
強者との果たし合いこそ才能を高める最高の舞台だ。
「でも挑まれたからには加減はしないわ。大怪我しても知らないわよ、
「お気になさらず。その時は貴女が私を上回っただけのこと、その敗北すら糧にして私の強さに変えましょう。全戦全勝など、愚かな私には出来ませんし、愚物は愚物らしく、愚直に一歩ずつ積んで往くのみです」
斯くして、新世代を担う伐刀者が此処に激突する。
破軍学園一年生、ステラ・ヴァーミリオンと黒鉄雫。
期待の新入生が波乱の幕開けを告げる────。
☆
そして──。
「これは……」
「へえ」
「……派手ね」
一輝、静矢、アーデルハイトの三人が破軍学園に設置された第三訓練場に足を運んで目にしたのは試合と言うには壮絶な、異能と異能のぶつかり合いだった。
「はああああああああああ!!」
「……フッ───!」
重なる刃は斬撃を火花と散らし、火炎と雨が二人を彩る。
攻撃以上に激突する熱意と熱意は、無関係の第三者たちをも巻き込んで、正しく息を飲むような極限の戦いを演出していた。
演者の名はステラ・ヴァーミリオンと黒鉄雫。
期待の新入生として破軍学園に入学した両者は魂を燃やしながら互いが互いを倒すべく異能と武術と意思を、星のように輝かせる。
この二人の激突を校内の噂で知り、物見遊山で足を運んだ三人は各々の感嘆符を口に出しながら両者の激突を観戦する。
「アレが噂の新入生ちゃんたちか。生で見ると尚のこと美人だねえ。特にやっぱりステラちゃんは僕好みの美少女だったよ」
「まず目を付けるところがそこ? 相変わらず節操がないわね貴方……。ところで一輝、あっちの女の子は貴方の身内じゃない?」
「うん。俺の妹の雫だね。でも……僕の知っていた頃とは比べものにならないぐらい強くなったみたいだ」
絶えずぶつかる二人を見ながら個性が目立つ感想を漏らす三人。
壮絶な試合に戦慄する他の観客を傍目に平静のまま言葉を交わす。
──まず目に付くのは、やはりステラ・ヴァーミリオン。
紅蓮の皇女と名高いAランク伐刀者だ。
実直に基礎を繰り返し、地盤を固めてきたのだろう。
振るう
さらには炎を司る異能が空間を熱し、近づくだけで否応なしに相対する者の体表面を焼き、接近戦を挑むことを躊躇わせる。
才能だけではなく、その原石を努力で以て研磨してきたのだろう。
努力に裏付けされた実力は、才能と合わさって真っ当に強い。
それこそ実力を十全に発揮するだけで他の騎士を鎧袖一触する程に。
だからこそ、拮抗を保つ相手騎士も並大抵では無かった。
同世代の女生徒よりも小柄な肉体を生かし、機動力を持って皇女を翻弄するように立ち回る黒鉄雫。彼女もまたステラに比する才女であった。
手に持つは小太刀、振るう異能は水。
真正面から全てを屠るステラとは違い、汎用性の高い異能を複数展開し、ステラ以上に完成された技を使って、規格外の力を受け流すその様は正しく対極。
異能から戦闘スタイルまで、ステラの逆を踏んでいた。
大胆に繊細に、しかし躊躇いなく。
まるで氷上を舞うスケート選手のように。
軽やかなステップや妖精の如くステラの猛攻を受け流す。
「炎と水か。字面だけの相性なら後者が圧倒的に勝ってるねえ」
「でも実状は違う。そうでしょ」
「そんなもの見れば分かるでしょ。ナニアレ、水が一瞬で蒸発して消えるとかどんな温度だよ……。綺麗な薔薇には棘があるって? おお、怖」
「流石はAランクの伐刀者、だね」
雫の操る水の弾丸、それがステラに接触した直後に一瞬で蒸発するのを見送りながら桐原が肩を竦め、彼の感想に二人が追従する。
伐刀者と偏に言っても彼らの強さは異能一括りに出来ない。
時を操るような因果干渉系の異能ならいざ知らず、原則として伐刀者の実力はおよそ異能を含めて三要素に決定づけられると言って良い。
即ちは、異能、魔力保有量、そして魔力制御である。
異能は伐刀者として出来ることを決定づける。
例えばステラが炎を操るように、雫が水を操るように。それぞれの異能属性が持つ力は個々人の戦術や戦い方を決定づける最大の要素である。
前者ならば単純に燃やす、後者ならば溺れさせる、流す、など。
それぞれの異能によって伐刀者は己が戦い方を編み出していく。
では、魔力保有量はどうかと言われれば、これは地力を決定づける要素だ。
当然ながら伐刀者とて人間だ。
動けば疲れるし、限界もある。
その限界を決定づけるのが魔力保有量である。
異能がどれほど出力できるか、それは保有する魔力量によって決定づけられる。故にどんなに強力な異能を持っていてもそれをどれだけ出力、そして維持できるかは、この保有魔力次第と言うことだ。
異能出力と持続継戦時間。この二つを決するのが魔力保有量だ。
そして最後の要素、魔力制御はその名の通り、伐刀者が持つ魔力を己が意思でどれほど掌握できているかという要素だ。
先天的な要素に左右されがちな先二つの要素と異なり、センスにも寄るがおおよそ鍛錬によって決されるこれは異能を操る上で尤も重要な要素であると言って良い。
例えばステラ・ヴァーミリオンのようにただ無作為に振るうだけで脅威となり得るほどの出力値をたたき出されるならば良い。そして無作為に振るうだけの魔力量があるならばさして重要視される要素では無いだろう。
だが、大抵の伐刀者は世界有数の才能を誇るステラとは違い、魔力量は平均的なものになる。無作為に力を振るうだけでは簡単に息を切らしてしまうのだ。
それは雫という才女であっても例外では無い。彼女とて伐刀者の名家として日本を担ってきた一族に産まれた才女。保有魔力量は平均的な水準に勝るものの、ステラのように規格外の出力を続ければあっという間に息切れしてしまう。
だからこそ安易に水使いだからと言って会場を水で満たして溺れされるや大瀑布で以て押し流すなどの
そこで重要になるのが魔力制御である。
魔力制御は技量次第で少ない魔力で様々な異能を発動させる、或いは同時に別々の技を発動、維持することが出来るのだ。
どれだけ高い魔力や強い異能を持っていようと出来ることは異能制御に依存する。
炎で燃やす、などといった単純な異能ならばいざ知らず、己が異能の汎用性で以て多くの魔術を使うためにはこの魔力制御という要素が重要になってくるのだ。
そして、そうした三つの要素から試合を見ると、両者の異能は属性相性の観点から雫が、魔力制御もまた雫が、魔力保有量では圧倒的にステラが勝っていた。
「……つくづく才能は恐ろしいわね。身内に炎使いがいるから分かるけど、あんな出力で戦い続ければあっという間にダウンしちゃうのに、皇女殿下が息を切らせる様子は全くない。私たちが太陽光パネルで電力維持しているのに対して、向こうは差し詰め原子力を使った超発電っていう所かしら?」
「君の例えはいつも分かりにくい。どういうセンスをしてるんだか……」
「心外ね。貴方の理解力が乏しいだけじゃない。この女好きゾウリムシめ」
「どういう罵倒だよそれ」
「ま、まあまあ二人とも落ち着いて……」
試合を傍目に言い合いを開始しそうな二人の中を取り持ちながら一輝は、試合の経過を予測する。
“戦況は今のところ互角に見えるけど、このまま順当に進めば雫の負けかな。魔力量という時間の限りがある以上、ヴァーミリオン皇女に拮抗する形で魔力を絞り続けていれば使用量に問わず、先に力尽きるだろうしね”
そう、試合自体は一見して互角に見えるだろう。
他の観客席から聞こえる歓声も、あのステラ・ヴァーミリオンと互角に渡り合っていると驚嘆と感心の声が聞こえてくるぐらいだから。
しかし、少し目の利く者が見れば一瞬で理解できるはずだ。
この勝負、全うに戦えばどう頑張ってもヴァーミリオン皇女には届かないと。
雫の実力は一輝から見ても凄まじい。
もう合わなくなって数年と立つが、彼女の、特に異能を操るセンスは数年前とは格も質も段違いだ。
ヴァーミリオン皇女の圧倒的な
その魔術と比べて少ない魔力消費と四つもの魔術を発動、維持させる魔力制御能力と演算脳は常人ならばとうに脳が焼き切れているほどの負担の筈。
そんなマネを行いながらも余裕で戦闘をこなす様は同世代では群を抜いて圧倒的だと言い切って良い。
だが、それでも世界有数の原石には届かない。
隔絶した魔力保有量を持つステラに息切れの気配は無く、それどころか自身と互角に渡り合う相対者を認め、今も出力が上昇し続けている。
雫を捉えきれなかった刃が地面に激突するたびに会場に走る地震が増大していく様子からも、それは簡単に窺える。
異能と技による正面からも魔力と体力削り合い。
その舞台においてやはりステラ・ヴァーミリオンは圧倒的だった。
だからこそ、このままでは順当に雫が敗走する。
それが、この試合の結果である。
「………」
一輝の目が雫の方へと向いた。
視線が捉えるのは懐かしい妹の顔。
もう数年来となる妖精のような少女の顔を一輝は見て……。
「────………どうかな」
友人たちにも聞こえないほどの小声で。
嘆息するように、そんな言葉を口にしていた。
………
………………。
“強い……!”
もう何度目かの激突にステラは内心舌を巻く思いだった。
ステラは自分をよく知っている。
自分の才能が稀少なモノであることも、恵まれていることも知っている。
知っているから今までそれを磨くことにかけて誰よりも妥協してこなかった。世界有数の
才能を使わずとも実力はヴァーミリオン国内でも有数。日本に置いてすら同世代なら上位に踏み込むほどのものであった。
しかし、ならばそんな自分とただの技量のみで渡り合う目の前の人物は何なのか。
──当初ステラは渾身の初撃、それを以て敵の技量と異能の出力を測り、測りきって上で真正面から踏み砕くというつもりで戦いに挑んだ。
その結果、膂力はやはり自分が圧倒しており敵は正面から受けることを避けた。ならばと火炎を放ってみれば水を放って、相殺しに掛かってきた。
同じ事を繰り返すこと五度。その時点でステラは己の火炎が敵の水を諸共しない出力を測りきっていた。
そうして満を持しての六度目の攻防。
ステラは蒸発を超えて尚、雫にまで届く熱量の火炎で以て水の防御ごと試合を終えようと留めに掛かったのだが、彼女は予想だにしない手段でステラの思惑を超えてきた。
『透過睡蓮』
紅蓮を纏いて雫を狙う直後、紅蓮に纏わり付くように、一瞬のうちに形成された水の膜が紅蓮の炎を覆い隠してしまったのだ。
五度の火炎との激突で大気を漂うこととなった水。
水蒸気として無意味に漂っていたそれを雫は一瞬のうちに集合させ、火炎そのものに纏わり付かせたのだ。
それは規格外の魔力制御が成せる技だ。
一瞬のうちに水を形成するなど
一見して何も無い空間に何かを生み出すにはそれ相応の時間と力が必要だから。
炎にせよ、水にせよ、どれだけ発動を早めようと限界はある。
まして敵の魔術に被せるように行うともあらば、後出しで行う雫の魔術成立速度はどうしてもステラに劣っていなければ可笑しい。
不可能を可能にするためには、
五度の異能激突により生じた水蒸気、それが大気に融けて尚も、魔力制御を持続させることによって。
そう、彼女の魔術は霧散しても続いていたのだ。
大気に満ちていた水蒸気は今尚、彼女の支配下にあった。
そしてずっと狙っていた。
ステラが高温度の火炎を雫に打ち放とうとするその間隙を。
『ッ! しまッ……』
多少の教養があれば彼女の狙いに気づくことは簡単だ。
水が非常に温度の高い物質と接触することにより気化されて発生する爆発現象。
即ち──水蒸気爆発。
斯くして光がステラの視界を染め上げる。
轟く轟音と身を打つ衝撃。
相手の攻撃を狙い撃った雫のカウンター。
こうして想定外の強烈な一撃を、ステラは試合開始序盤に受けてしまったのだ。
そして──現在。
ステラは安易な超出力に頼らず、真正面からに斬り合い、魔術の打ち合いによって試合を拮抗させていた。
敵は流動する水を余さず掌握する規格外の魔力奏者。
形を失ったから、発動しきったからと、確信して踏み込めば待っているのは水中に潜む水魔による見えない罠。
ならば踏み込むのでは無く削りきって、その内状を詳らかにするまでだと、炎と剣を絶えず雫に叩きつけながらステラはひたすらに攻める、攻める。
体力勝負ならば自分の土俵、しかもこの距離ならば先の水蒸気爆発のようなカウンターで雫自身をも巻き込んでしまう。
己の強みと場所の有利、それを弁えた上でのこの間合い取りと選択。
慢心も油断も消しきった攻防は……しかし今も終わりが見えない。
それどころか僅かな気の緩みが勝敗を分けかねない拮抗に持ち込まれている。
この近距離で刃を交わしながら四つの魔術を操ってみせる制御能力も然る事ながらステラを相手に真正面から斬り合うことを可能とする小太刀の術は達人並み。
異能を操る技も、扱う武術も一級品なれば、同世代において競う相手が圧倒的に少なかったステラにとってはこの状況は予想外も予想外。
自らの異能と技量を尽くさねばならない思考戦は、ただ振るうだけで他を圧倒した彼女には未経験の戦であった。
“世界は広い……か”
やはり留学して正解だったと感動交じりに思った瞬間、
「……弱い」
ぼそりと、感動した相手は自分と真逆の感想を漏らしていた。
その言葉に思考が一瞬のうちに冷える。
同時に胸の奥がチリっと熱を帯びた。
「……何ですって?」
「弱い、と。そう言ったんですよ、皇女殿下」
キンッと敢えて渾身の一撃を小太刀でステラに叩き込みながら、雫はその衝撃を利用して大きく間合いを取って下がる。
約十メートル。刃は届かないが魔術は届く、異能戦の間合いで以てステラと雫は言葉を交わし合う。
「Aランクの伐刀者。ともすればただ才能を振るうだけで他を圧倒する実力を持ち合わせた私などとは及びもつかない天才です。それがまさかこの程度では、そんな感想を抱くのも仕方ないでしょう」
「へえ……言うわね。私と互角程度に持ち込んだ程度で──」
「言いますよ。私を相手に互角程度では」
呆れるように、だから肩透かしを食らった思いだとでも言うように。
「先の水蒸気爆発を受けてから貴女は戦術を切り替えた。安易に異能を使えば手玉に取られると勝手に思い、自身の強みを生かしたスタミナの削り合い、接近戦での勝負へと持ち込んだ……ですが、果たしてその必要がありましたか?」
「どういう意味?」
「貴女は自分自身が見て得ていないんですか? 己の異能を利用されて予想外の一撃を貴女は受けた……で? 一体どんな不利が貴女に働いたのです?」
「そんなこと……」
態々、自分の口から言う必要は無いだろう。
正面から安易に力勝負を仕掛けることは危険だと言うこと。
相手は自分よりも圧倒的に魔力制御に長けていると言うこと。
今更、口にするまでも無い雫自身の脅威。
雫はステラの内心を読み取ったように眉を顰めながら続ける。
「大方、私が巧みな戦術を使うから、私が貴女より魔力制御に長けているからとでも思っての判断なんでしょうけど……それが一体何ですか?」
「何ですかって……だから、貴女ね。そんなことをされると分かっていて真っ正面からぶつかりに行くほど私が馬鹿に見えたわけ?」
「馬鹿に見えるではなく、馬鹿だと思っていますよ。だって貴女、
辛辣な雫のその言葉は、しかし、事実だけは的確に衝いていた。
そもそもカウンターどころか敵によっては、それだけで勝敗を決めるだろう超至近距離による己が異能の誤爆、水蒸気爆発。
それを受けた状態で、ステラはことここに至るまで万全に等しい雫と互角の戦いを繰り広げてきた。どころか、今では体力の削り合いを舞台に雫を上回らんとすらしているのだ。
残存体力は雫と比べ合うだけの余力を残し、剣術は水蒸気爆発という一撃を受けた上で平時と変わらず尚健在。ならば結論は言うまでも無い。
先に喰らわせた一撃は、ステラに何の影響も齎していなかったと。
「貴女はAランク。不意打ちとはいえ並大抵の攻撃では無意識に纏う魔力防御があらゆる攻撃を遮断する。圧倒的な火力と、それを裏付ける魔力が生み出す
十全に力を振るう。
ただそれだけでステラ・ヴァーミリオンは勝てるのだ。
にも関わらずステラはそれをしなかった。
一撃予想だにしない一撃を雫に食らっただけで過度に雫を警戒し、安易に踏み込むのを止め、異能を振るうことを躊躇った。
ただ踏み込み、異能を振るう。
それが何より雫には恐ろしかったというのに。
とはいえ、雫の方にもそれをさせないための算段はあった。
というよりそれが結実した結果が、今だと言えよう。
雫はステラの才能を正しく理解していた。
並大抵の一撃が効かないなどハッキリと分かっていた。
同時に、その才能が生み出す弊害についてもいくつか予想を持っていたのだ。
先のカウンターで使った水蒸気爆発もその候補の一つ。
予想だにしない一撃と、彼女から見て彼女を上回る技量の主である証明。
この二つを持ってして雫はステラに、今まで未経験だっただろう自分に迫る強い同世代の伐刀者であるという印象を叩きつけた。
そして、警戒心を煽り、考えなしの攻撃を封じ込めた。
これは偏に、ステラが同世代は愚か、同じ伐刀者においても彼女と試合を行える人物と戦ってこなかったという戦闘経験の穴を突いた心理トラップだ。
ステラほどの才能、そして十代中盤という年齢。
そしてヴァーミリオン皇国という環境。
これら三つを考えた上で、ステラが態々日本に留学してきたという事実から見れば彼女が才能は本物でも、戦闘経験に掛けた伐刀者であると予測するのは簡単なこと。
ならばこそ、その穴につけ込むのは戦闘者として当然の結論である。
必要ない警戒心を抱かせ、力任せの試合をさせないようにする。
ステラに
そこまで見越した上での
思い通りに進む試合に、雫は嘆息を隠せない。
だって、その罠ごと一蹴されるだろうと思って挑んだのに。
世界有数の才能。
まともに戦えば手も足も出ない絶対的な暴力。
以前に編んだ戦術が意味を成さない天災。
敗北必至の試合になると見越した上でのこの一戦。
蓋を開ければ何処までも自分の思ったとおりとあれば呆れも漏れるというもの。
「どうやら、貴女と戦うのは早すぎたようです。いえ、私が急いただけですか……ともあれ、ステラさん──
既に
この上ない挑発を口ずさみながら雫は真正面から踏み込んだ。
「言ってくれるじゃ無い……! だったら今から見せてあげるわ! 貴女が見たがっている才能を! 貴女が確信した勝利ごと、貴女の全力を吹き飛ばしてあげる!!」
度重なる侮蔑した挑発まがいの言葉に、憤ったステラが雫の踏み込みに合わせて迎撃の刃を向ける。どういった理由で勝利を確信したのかは不明だが、こうまで言われればステラとて怒りを隠せない。
元々、短気な性も相まって雫の挑発に応え、ステラは真正面から異能と力で踏み砕くことを決意しながら全力で振るった大剣で雫の胴を横一文字に払う。
結果────雫の上半身と下半身が真っ二つに分かれた。
「……………え────?」
想像もしなかった結論に意識が消し飛ぶ。
──《七星剣舞祭》などのプロ魔導騎士が付くような場を例外として、学生騎士での試合では振るう《
だからこそ、このような場ではどれほどの威力、どれほどの力で相手に攻撃を叩きつけようとも凄惨な結果にはならないのである。
しかし、現実はこの通り、雫の肉体は真っ二つに泣き別れている。
その視覚的衝撃と、惨状に対して得物に返ってきた手応えが軽いことに困惑し、二重の衝撃でステラの思考に間隙が生じる。
そしてステラが、現状を把握するよりも先に。
「ほら──やっぱり私の勝ちです」
思い通り動いてくれるステラに対して、上半身だけとなった雫が冷笑しながら囁いた。
雫はそのまま勢いに任せて上半身だけとなった肉体でステラの下へと倒れ込み、その唇に自分の唇を重ねて──刹那、その姿を変容させる。
「────ッッ!!!」
驚愕に歪むステラの顔。
ようやく
雫の上半身に
一手遅く、ステラは事ここに至って思い知る。
先ほどまでステラが戦っていたのは水の分身。
既に
「言ったはずです。私の思惑から一歩も外れなかった時点で、貴女の敗北は必至だと──では、まだ見ぬその
ダメ押しとばかりに後頭部に叩き込まれる殴打。
それを留めにステラの意識は完全に吹きとんだ。
──皆底に潜む
彼女の
斯くして未だ羽ばたきを見ぬ妃竜は底の見えない闇に落ちていく。
落ちていく────。
そういうわけで光の国の洗礼を浴びるステラさん。
仕方ないね、経験値が足りないもん。
初戦からハメ技使いまくる玄人とかどうしろと……。
因みに初手ビックリ作戦が無くても別にいくつかハメ技を用意していた模様。
それと雫ちゃんが卑屈だねって感想を覚えた人は、
光の閣下を見たゼファーさん。
或いはゼファー見たお師匠で理由を察して欲しい。
銀髪、小太刀(短剣)、