継国縁壱は勇者にあらず   作:立花・無道

1 / 5
つぎくによりいち

その子は捨て子だった。

 

高知県のとある神社でその子供は捨てられていた。

布にくるまれて、敷地に置かれていた子供を拾ったのは、神主だった。

額の左側には炎にも似た痣があり、捨てられた子供自身はそれが捨てられた理由だと思っていたが、真実はわからない。

継国の姓は神主夫婦のもので、縁壱の名は1つの縁という意味で夫婦が贈った名前だった。

名に壱の字があてがわれたのは、義理の母と呼ぶべき人が古風な響きを好む人物であったためだ。

 

 

 

夫婦は穏やかな人達だった。

縁壱は昔から声を発することがなかったため、両親は耳が聞こえないと思っていたが、子供のいない両親にとって、縁壱はそれでも愛すべき子供であった。

宮司である祖父や祖母が生きていたこともあり、縁壱は幼稚園や保育園にも通うことはなかった。

だが、読み書きや道徳はしっかりと教えてくれる。

そんな温かい家族だった。

6つになってしばらくして、縁壱が「家の手伝いをしたい...」と口にすると、家族や親族は非常に驚いた。

耳が聞こえないと思われていた縁壱が声を発したことを心から喜び祝福したのだ。

迷惑をかけていたにも関わらず、自分のことのように喜んでくれた家族に、縁壱は幼いながらに大きな恩義を感じていた。

 

 

 

その後、もうすぐ小学校に上がる縁壱に、両親も良い機会だと軽い手伝いを許可したが、両親の思惑に反して毎日のように働いていた縁壱は、数日間の休みを言い渡され、手伝いの時間を決められることになった。

神社の掃除や軽い荷運び、近所へのお使いなど、小学校に上がる前に縁壱はできることを何でもやった。

縁壱は、幼い頃から両親と血が繋がっていないことを自覚していた。

だからこそ縁壱は義理の家族に、捨て子だった自分を愛してくれた恩を返そうと必死になったのだ。

 

 

 

そして月日は流れた。

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 

 

小学校に上がり周りからなぜか一線を引いたような対応を受け、友人と呼べる人間はいなかった。

だが、苦にはならず、私は家族との幸せな日々が続くのだと思っていたある日のことだ。

父に連れられたてきた神社の関係者の集まる集会。

高知県西側の宮司と神主など神社の代表が一堂に会するそれは、数多く存在する神社の中で規模の大きい神社が持ち回りで場所を提供するらしい。

 

「着いたぞ、縁壱。」

 

そこは、のどかな村だった。

道路を真ん中に置いて田圃が広がり、そこから舗装されていない砂利道へ続く道があった。

民家までかなりの距離があり、父は私を気遣いながら歩いてくれたが私は疲れを感じることがなかった。

この時の私は、なぜ自分が疲れないのか疑問を感じることなく父を追って道を歩いていた。

 

「ここが今日の宿だ。父さんは荷物を置いたら明日の集会に向けて、神社に挨拶をしてくるから、縁壱は村を散歩してくると良い...あまり遠くに行ってはいけないよ。」

 

父の言葉に返事をする。

その後、父がいなくなってから私はいつの間にか駆けだしていた。

なんとなしだった。

私の育った場所は、都市に近い場所にあり舗装されていない道を歩くことはなく、田圃や小川を見ることすらなかった。

美しいと感じた。

この世界は美しく、今歩いている場所の青い空と緑あふれる景色はどこまでも広く、私などとてもちっぽけだ。

宿からはあまり離れない様にと動き回っていたが、私はどれだけ動き回っても疲れることがなかった。

 

 

その後、宿に戻ろうと、川に沿って歩いて橋の下を通ったときに、私はある少女と出会った。

同じ年ごろであろう少女は誰にも見つからないような橋の陰で、両脚の膝を両腕で抱え込み座り込んでいた。

少女は腕に傷や字があった。

私はその傷や字が全身にあることも、自らの眼で視てわかった。

 

「何をしているんだ?」

 

少女はこちらを見ることもなく、口も開くこともない。

私を認識していても、気に留める気はないようだった。

私は少女からわずかに離れた場所に座り、少女の返答を待った。

少女の返答を待ったことに理由はない。

そのまま、小一時間座り込んで待っている間に日は暮れ始めた。

 

「家に帰らないのか?」

 

そう問いかけた私の声に対して、少女はさらに身体を丸め込んで、しばらく黙り込んだ。

 

「...帰り...た...ない...」

 

そう言って少女は、泣いた。

少しの間、声を抑えるように少女は泣いていた。

涙を流すほどの理由を聞けるほど、私と少女は親しくなかった。

さらに、幼い私には何が正しいのか、何が悪いのかなどわからない。

だが、私は帰りたくないと泣いてまで口にする少女を、家にこのまま帰すことが正しいことだと思えなかった。

 

「じゃあ、俺と一緒に宿に行こう。」

「...えっ?」

 

 

濡羽色の美しい髪の少女だった。

少女の名は、郡千景という。

「群」ではなく、「郡」である。

 

 

この時の私の行動は褒められたものではない。

父からは怒られ、彼女を困惑させてしまった。

だが、その後千景は継国家に引き取られることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼岸花の勇者と理外の天才はこうして出会いを果たす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




夢でぐんちゃんの手を握る縁壱さんを見たんです。
信じてください!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。