継国縁壱は勇者にあらず   作:立花・無道

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お待たせいたしました。
楽しんでいただければ、幸いです。


どいたまこ

世界は随分変わった。

星が降った夜、神に選ばれた少女達は、一部が力と同時に立場を得た。

彼女達の幸運は、本当の意味で自分達の立場を自覚できている仲間がいたこと。

 

世界が既に神代に回帰し、現代において神と呼ばれていた災害と戦う絶望的な立場を...

 

 

 

2015年10月1日

 

 

 

 

 

 

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「星屑の進行がなくなった?10月になってから、急にですか?」

『はい、8月から9月は結界が有っても、それなりに星屑が侵入して来ていたんですが...最近は全く侵入がありません。理由は不明です。』

「わかりました。こちらでも調べてみます、白鳥さん。」

『よろしくお願いします、乃木さん。では、今回の通信はこれで...』

「はい、勇者通信を終了します。また、来週に...」

 

 

若葉は、そう言って、プツッと通信装置の電源を切ると同時に溜め息を吐いた。

 

「予測不能の星屑の動き...か。」

 

西暦2015年、乃木若葉11歳は丸亀城にて訓練の日々を送っていた。

訓練と言っても、現在は互いに壁があり、仲間との連携やコミュニケーションはまだ十分に取れていない。

そんな現状に若葉は焦りを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

7月30日、天から白い異形の怪物『星屑』が降り注ぎ人類と人類の創造物を喰らい、破壊した。

その際に、若葉を含む何人かの少女は武器と不思議な力を得ることで窮地を乗り越えた。

 

 

若葉が現在いるのは、香川県の丸亀城。

四国は、星屑の襲来時に出現した神樹と呼ばれる神の集合体が張った結界に護られ、勇者と神樹から神託という特別な啓示を受ける巫女の一部が丸亀城にて協同の生活を送ることを決められている。

その協同生活を決めたのは、四国内の神社が代表格を集め、神樹を奉ることを是とした組織「大社」である。

若葉達は、大社にて勇者と呼ばれ人類の最後の希望という扱いを受けている。

 

「千景さんに皆を集めてもらおう。星屑の動きは私だけに留めておく情報ではない。」

 

呟いた若葉は、通信室から静かに立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

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「はっ!」

 

千景は棍を真っ直ぐ正面に振り下ろす。

だが、棍によるしなりを持った一撃は、ガキンっと金属音を響かせながら旋刃盤に受け止められる。

 

「フン!タマも流石に千景の攻撃にはもう慣れたぞ!今度はこっちガハッ!?」

 

頭上に対する攻撃を旋刃盤で防いだことで、お腹を棍で突かれた少女、土居球子は激痛によって悶絶する。

 

「...ひ、卑怯だぞ!千景!お腹を突くなんでぇ!」

 

涙目で抗議の声を上げる球子を、千景は冷静なまま見ていた。

 

「土居さん。貴女は良くも悪くも単純過ぎるのよ...前に私たちが星屑と戦えたのは、相手が人類全体を狙ってたからよ。今度は私達に人類を滅ぼした全てが向かってくるわ。その時に一方向だけを見ていて殺られましたなんて言い訳はできないわよ。」

「ムゥー...」

「むくれてもダメよ。私は貴女より強いから、貴女と模擬戦をするときは手を抜かないわ。」

「そういうのって、普通は手を抜くんじゃないのか?」

「大丈夫よ。大きなケガはさせないから...」

「大丈夫なことが1つもない!」

 

騒ぐ球子とあしらう千景、丸亀城の修練場にて名物に成りつつある風景。

そして、修練場にはそれを見ている人物が数人いた。

 

「タマっち、ちゃんと訓練しないと危ないよ?」

「けいちゃん!今度、またワタシとも組手しよ!」

 

伊予島杏と高嶋友奈、若葉、千景、球子と同じく神樹に選ばれた勇者である。

 

「だってさー!千景のやつ、タマにだけ容赦無さすぎるだろ!頭を棍で殴りまくったり、腹突いたり、足払いして転ばせたり!鬼か!あと、タマっち先輩だ!」

「土居さん...言っておくけど貴女が成長すれば、無傷で済むのよ。」

「だから!武道やってたのは、若葉と千景と友奈の3人なんだからもっと手加減しろよ!」

「タマっち、千景さんはちゃんとタマっちが怪我しないようにしてくれてるよ。若葉さんとか友奈さんとの模擬戦見てるでしょ?」

「うぐ...ぐっ!確かにそうだけどさ!」

「ワタシ達、そんなにケガしそうな模擬戦してたかな?」

「いえ、友奈さん。怪我をしそうな...という訳ではないんですが...」

 

杏が歯切れ悪く口にした模擬戦に、千景は心当たりがあった。

1ヶ月前、丸亀城に勇者と呼ばれ始めた5人と巫女が集った頃。

若葉が千景の力量を見たいと模擬戦を提案し、友奈もそれに便乗したことで、模擬戦は三つ巴となった。

そこからは控えめに言って、かなり問題のある内容だったと千景は思う。

 

模擬戦中に、若葉と千景は勇者の力で修練場の壁を抉り、友奈は修練場の床にクレーターを作った。

それを見ていた球子と杏は、武道に通じている3人にトラウマに近いモノを持ってもおかしくはないと千景は思う。

だが、もちろん修練場が破壊されたのは、勇者の力をコントロールできずに使用したことが原因である。

 

「あの時は自分の身体能力が底上げされてて、少し浮き足だってただけよ。」

「ワタシも手加減するの苦手だし、若葉ちゃんとけいちゃんが強かったから、おもいっきり戦っちゃった...」

「大丈夫よ、高嶋さん。誰もケガをしなかったんだから。」

「タマタマ運良くだから、良くはないと思うんだが...いだぁ!」

 

シュンとする友奈を慰める千景。

そこに、余計な口を挟んだ球子を棍で突いた千景は、球子に目で黙っていろと伝える。

先程の突きよりは痛くはなかったが、それでもぞんざいな扱いに球子はまた涙目になるが、これは球子と千景が出会ってからの行動の積み重ねによるものが大きく、実は球子の自業自得だったりする。

 

例えば、千景がゲーマーということを知り、唐突に部屋に突撃したり、脱衣場で千景と杏の下着のサイズを比べて無自覚に千景を煽ったり、千景の修練中にいたずらをしたりなど、千景の中で球子の評価はかなり低い。

 

ただ、それでも球子の千景の評価は高い。

千景は怒った後に、球子が反省して謝れば許してくれるからだ。

だから、球子は一度怒られたいたずらをしないし、千景に訓練で痛めつけられても、笑って許す。

ただ、無自覚に煽る行為だけは別で、千景は球子のその部分が苦手なのだが、球子はそれに気付いていない。

 

「失礼します。」

 

4人のいた修練場に、礼儀正しい所作で入室したのは乃木若葉。

5人の中で、仮のリーダーに任命された勇者である。

 

「皆さん、揃っていたんですね。少しだけ時間をもらえないでしょうか?」

「勇者通信の後ということは、諏訪からの情報か、連絡かしら?」

「はい、千景さん。現在の星屑の動きについてです。」

 

4人を見渡しながら紡がれた若葉の言葉に、杏や千景の顔には緊張が生まれる。

5人の勇者の中で、明確な脅威や危険を理論として説明できる2人は星屑の動きが今後に及ぼす影響の大きさを理解していた。

ただの小学生には必要がなかった頭の回転の早さによって...

 

「なら、乃木さん。汗を流してから...そうね30分後に教室に集合でどうかしら?」

「そうですね。風邪を引いたら大変ですから...自分は先に行って情報をまとめておきます。」

 

千景の提案に頷き、修練場を去る若葉。

アッサリとした対応に、相変わらず不器用な人だと千景は思う。

若葉と千景の再会はお互いにとって予想外に過ぎる出来事だった。

若葉は千景に会うなり「まだ答えが見つかっていない...」と律儀に口にし、千景は答えがなくてもかまわないと特に気にしなかった。

7月30日から数ヶ月、少女達が守った命があった。

だが、守れなかった命の方が数は圧倒的に多い。

乃木若葉は勇者の中で、平等と公正を最も重んじている少女であり、それが何事にも報いをとの信念に紐付いている。

背負うべきモノを背負うことは善いことだが、背負う必要のないものを背負うことはただの傲慢だと千景は思う。

子供らしくない思考だが、きっと子供らしい生活を数年もの間できなかった代償だと自らを皮肉って千景は溜め息を吐きたくなった。

 

「おーい千景!シャワー早く浴びないと、髪乾かせなくなるぞー!」

「...今いくわ!」

 

千景は、暗い思考を切るように投げ掛けられた球子の声に返事をして、此方のことなど気にしないような球子の明るさに呆れながら彼女の元へと向かっていった。

その顔に薄い笑みを浮かべながら...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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土居球子は学校の成績で言えば、座学は得意ではなく、体育等の身体を使った授業の方が得意で好きだった。

さらに、男の子のようにカッコいいものへの興味が強い。

 

もちろん、可愛いものが嫌いな訳ではなく、ただ自分には似合わないという、なんとない理由で深く可愛いに触れないようにしていただけの普通の女の子。

 

それが、土居球子だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、球子は旋刃盤『神屋楯比売(かむやたてひめのみこと)』に選ばれたことで勇者と呼ばれるようになった。

だが、球子個人としては選ばれたことは理解できないからどうでも良く。

大切な誰かを守るための力を得たことが重要だった。

そして、球子の守るべき大切は、同じく勇者と呼ばれる今の仲間達と出会うことで増えた。

 

「ちょっと、土居さん。まだ動かないで...」

「大丈夫だって千景...タマの髪は短いからほっといても直ぐに乾くぞ。」

「はぁ...貴女は女の子なんだから、もっと身嗜みを女の子らしくしなさい!とまでは言わないけど、まだ女の子であることを諦めるのは早いと思うのよ...」

「どういうことだ?」

「これから女の子らしいことが気になるかも知れないでしょ?恋とかオシャレとか。」

「ハハハ!タマに限って有るわけないだろ!」

 

髪をタオルで拭いてくれる千景の言葉を、笑って一蹴する球子。

それは球子の本心だった。

自分に恋やオシャレなんて言葉を実践する日は来ないだろうという確信からの言葉。

だが、同時に杏ならともかくとも思う球子。

 

伊予島杏は可愛らしい少女で、母性的な少女だった。

球子が星屑に初めて襲われた時に、出会った大切の1人が伊予島杏だ。

自分とは違った綺麗な髪とフワフワの優しい雰囲気、自分にはないものを持っている彼女を球子は守ってあげたいと心から思った。

 

「まぁ、世間で言う女の子らしさで言うと、私もゲームと鍛練をしてる時点でらしくないけどね...」

「千景はいいんじゃないか?綺麗な髪してるじゃんか!」

「女の子らしさって、きっとそういうのじゃないわよ?」

「タマには難しいな!」

 

だから解んなくていいや!と笑う球子に千景は、溜め息を吐く。

球子は理解できないことを、理解しなくても良いとは思っていない。

だが、理解する必要を感じないなら、何も問題ないだろうと思っている。

 

「ほら、終わったわよ。」

「おお!ありがとな千景!」

 

球子はいつものようにヒモで結ばれた髪に機嫌を良くする。球子は自身にはいない姉妹について、姉がいたら千景みたいに優しくて、妹がいたら杏のように可愛らしいのだろうと、いつも思う。

会って数ヶ月の付き合いだが、喧嘩した回数は小学校の友達だった者や、親以上になったかも知れない。

それくらい喧嘩ばかりした数ヶ月だった。

 

「なぁ千景、家族と連絡してるか?タマはすっかり忘れててさー...怒られた!ハハハ!」

「笑うところなの?まぁ、私も毎日連絡をしてる訳ではなくないけど、月に2度くらいね。」

「千景は真面目だなー」

「そういう貴女は変なところで子供らしくないわよね?普通は親と数ヶ月も離れたら、ホームシックにならない?特に今は...」

 

そう、世間が沈んで治安が悪化している今、子供が親元を離れることは並大抵の精神力ではできない。

千景は義理の親がいるが、親という存在がいても1人であった時期が長かったために寂しさや辛さに慣れてしまっただけ...

杏は病院での生活が長かったために、親に迷惑をかけないようにと自立への意識が強まっただけ...

友奈は親を亡くして、自立せざるを得なかっただけ...

幸いにも、若葉と球子は親が生きている。

ならば、甘えたくなることもあるはずだと、千景は考えていたが、若葉は普段から自立を促されていたらしい。

小学生への教育として正直どうかとも思うが、自分の実の親よりは万倍もマシだと千景は納得はした。

だが、球子は違う。

 

千景から見た土居球子は特別自立を促されたわけでも、寂しさなどの慣れなくても良い感情に慣れた訳でもない。

現状を本能的に受け入れて、やるべきことに力を注いでいるだけだった。

稀有な性質を持つ球子は、勇者に選ばれた中で最も勇者らしいと千景は思う。

 

「タマはホームシックにならない!千景や杏、友奈と若葉がいるからな!わかったら教室まで競争だ千景!」

「は?...ちょっとせっかくシャワー浴びたのに!」

 

千景が静止する間もなく球子は走り出していた。

 

「縁壱にも見倣ってほしい積極性かも知れないわね...」

 

いつも物静かな弟を思い浮かべながら、呟いた千景は溜め息を吐きつつ小走りで球子の後を追った。

 

 

 

縁壱と球子が出会うことで起きる一騒動で、千景は頭痛を覚えるのだがそれはまた別のお話である。

 

 

 




あんず、ゆうな、うたの順で書こうかなと考えてます。
ではまた、次回にてよろしくお願いいたします。
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