「正しい呼吸なら…如何に疲弊していても関係ない…」
禰豆子と協力して十二鬼月の頸を斬ったと思っていたが、自ら頸を斬り放し斬撃を回避され再び窮地に陥ってしまった。
「血鬼術…殺目籠」
「ダメだ…腕が…上がらない…」
鬼の攻撃が起き上がる事が出来ない自分の周りに展開されるが、ダメージを受け過ぎたのか体を動かす事が出来ない。
「死ね…」
「やっと生存者に会うた…凄い傷やけど君大丈夫かい?」
「え?…」
諦めかけた時突如鬼が展開した赤い糸の攻撃が消え、自分と鬼の間に月を模した羽織を来た鬼殺隊の背中がみえた。
「貴方は…」
「ん僕?僕は月柱の文月七火や、君は?」
「竈門…炭治郎です」
「そか炭治郎はんか、十二鬼月…下弦の月やけど良う生き残った!後は僕に任せて」
「は…はい!」
「また邪魔な奴が増えやがった…だがお前今柱と言ったな?つまりお前を殺せばもっと強い力が手に入る!!血鬼術刻糸輪転!!」
十二鬼月は不気味に笑い、赤い糸を集め血鬼術を放った。
しかし血鬼術が迫ってくるが、七火は刀を抜こうとも回避することもしない。
「七火さん!!」
「なぁ鬼はん、あんたは人と仲良うしたいと思た事ある?」
七火のかなり手前まで来ると血鬼術の糸の束が消え、細かくなった糸が宙に漂っている。
「な!?糸がばらけた!?…」
(今七火さんは何をしたんだ?…刀を抜いた様には見えなかった…)
「あんたは人と仲良うしたい思た事あるのかて聞いてるんやが?」
「馬鹿か!そんな事を思う鬼がいる訳ないだろ!」
「そっか…よかったわ、これであんたをなんの躊躇ものう殺せんで」
「なに…」
「七火さんが…消えた…?」
決して七火から目を離した訳ではない。
しかし目の前にいた筈の七火は一瞬のうちに鬼の後ろへ移動し、煙草に火を付けていた。
「貴様!?…いつの間に…戦う気はあるのか!?」
「フゥー、戦いならもう終わってんで?」
激怒する鬼を後目に煙草の煙を吹かすだけだった。
「なん…だと…」
ようやく自分の体に違和感が出てきたのか顔に憎悪の表情を浮かべ、体がバラバラに崩れ消えていった。
「君の仲間の女鬼の方がまだ人間味があったで、所詮は下弦…肩慣らしにもならへんかったわ…」
(全く見えなかった…何をしたのかすら…きっとあの鬼も同じ筈…)
「兄様ここに居たんですね、鬼は?」
「七火様ご無事で」
「生存者は数名のみですか…」
「皆無事やったんやなあ、十二鬼月は残念ながら下弦…今終わった所やで」
未だ頭が混乱する中七火を囲む様に少女の鬼殺隊が三人現れた。
そのうち二人は見覚えのある人物だった。
「あ…あの!俺の仲間は…猪の被り物をした隊士に髪が黄色い隊士がいた筈なんです!」
「その方達なら既に安全な場所へ移してあります、重傷でしたが命には別状ありませんよ」
蝶の羽の模様を模した羽織を着た少女がニッコリと微笑む。
「よかった…そうだ!禰豆子は!俺の妹は!?」
「禰豆子はんってこの子の事かいな?…傷治っていく…なぁ炭治郎はん…この子鬼やろ?」
近くに気絶している禰豆子と呼ばれる少女の様子を見ると、体中に出来た傷が徐々に消えていっていた。
禰豆子が鬼だと言うこと知った途端、その場にいた七火さんを含め後から来た少女鬼殺隊の顔色が変わった。
「鬼を殺すのが役目の鬼殺隊が鬼と行動してるなんて〜万死に値しますね」
「待って下さい!俺の妹は確かに鬼ですが…人を襲わない鬼なんです!!」
「あらあら〜何を訳の分からない事を、人を襲わない鬼何ている訳ないですよねぇ兄様」
「…」
「兄様?」
「下弦の鬼の仲間に涙を流し、自ら頸を差し出す鬼がおった…もし自分が人を襲わへん鬼やったら仲良う出来たか?て言っとった…カナエちゃんの言う通り人を襲わへん鬼はいるかもしれへん…」
「そんな…」
「あの鬼の傷…炭治郎はんの傷とおんなじ下弦の鬼の血鬼術を受けて出来た傷や…つまり禰豆子はんは人を襲わず人間の炭治郎はんと協力し下弦の鬼と戦うとった事になる…」
推測を説明し炭治郎を立たせ禰豆子のそばに寄ると、禰豆子はそれに反応する様にムクっと体を起こした。
「ありがとうございます、七火さんの言う通りです!禰豆子は俺を助けてくれたし一緒に戦ってくれたんです!な禰豆子」
意識を取り戻した禰豆子は状況が分かって居ないらしく、七火達の顔を見渡すと炭治郎の胸に飛び込んだ。
「俺は大丈夫たよ禰豆子…ありがとな…」
「嘘…も…もしかしてあの人も鬼なんじゃ…」
「鬼なら傷は回復している筈です…炭治郎と言う方は正真正銘人間です…」
「例え家族であっても食い殺す鬼やけど…あら確かに人を襲わへん鬼として認めるしかあらへんな…」
「それしかありませんね…」
「し…七火様の言う通りですね」
「ですね」
「皆さん信じてくれるんですね!」
「その光景を見せられたなら信じざるを得えへんで…せやけど幾ら僕らが柱と言えど抱えきれる案件ちゃう…」
「そんな…」
「そないな悲しい顔しいひんで、明日は柱合会議が行われる…他の柱や御館様に禰豆子はんが人を襲わへん事を証明したら今まで通り鬼狩りを続けていける、僕ら二柱がついてるさかい絶対悪い様にはさせへんさかい」
「た…大変だ!!七火様が御屋敷から抜け出した!!」
「馬鹿な!?片腕を無くされて瀕死状態だったんだぞ!?たった二日で動ける筈はないだろ!!」
「おい!血の後が続いているこっちにも!」
「何!?」
「この方角は…まさか!!封刀山!?」
「はァ…はァ…力や…力が欲しい…」
童磨との戦闘で右腕を失い体もボロボロだった七火は力に飢え、何かに取り憑かれた様に妖刀が封印されたとされる封刀山の山頂へ向かっていた。
「もう少し…もう少しで…」
傷口が開き赤く染った着物に凍てつく吹雪が合わさり、血がこおり体の感覚を消し去っていく。
「見えた!!…なんや…あら?…」
氷の礫に撃たれようやく妖刀が封印された祠にたどり着いたが、入口の前に黒く巨大な影が現れた。
「く…熊やと!?」
吹雪の中目を凝らしてみると、それは今まで見たことのない程巨大な熊だった。
「クソ…」
一歩後退りをすると熊はこちらの気配に気付き、巨体に似合わない速度でこちらに突進してきた。
「速ッ!?」
寸前で熊を避け雪の上を転がり体制を立て直そうとするが、顔をあげた瞬間熊の剛腕が襲い軽々と吹き飛ばされ岩に激突し止まった。
「グハッ…痛てぇ…」
痛みに悶え熊の爪に体を抉られ更に激しくなった流血で、視界がかすみ始めた。
「あかん…血を流しすぎた…前…見えへん…」
そんな瀕死状態七火に追い打ちをかけるように熊は近づき、巨大な口で右肩に噛み付いた。
「ぐぁぁぁッ」
熊の牙は容易く肌を突き破り筋肉を断ち骨を砕いた。
(…こないな所で…死ぬんか…また…なんも出来へんで…)
死を悟った時、童磨との戦闘時の記憶が脳裏に浮かんだ。
そしてその記憶が怒りを産んだ。
「あぁぁぁッ!!熊ごときが僕を殺せる思いなや!!」
あの日の悲しみが、無力さが怒りを産みそして怒りが力へ変わった。
「ええ加減離れろ!!」
仕返しにと熊の首に噛み付いた。
思ってもみなかった獲物からの反撃に合い、口を離し転げ回るが怒りは収まらず更に力を加え熊の首筋をかみ切った。
「はぁ…はぁ…」
血しぶきを上げ、巨体と共に倒れ周りの雪が赤く染まった。
「人間を…ねぶった罰や…はァ…はァ…」
やっとの思いで立ち上がり妖刀が封印された祠へ入ると中は蝋燭で照らされ、一番奥に岩に刺さった刀の前に経を唱える僧侶がいた。
「あった…妖刀…」
「…鬼かと思いきや…重傷の人だったとは…何しに来たの?外にいた主はどうした?」
「その刀を貰いに来たにきまってるやろ…主?あのでかい熊なら噛み殺した」
「その体で…お主からは今まで見たことない程の悲しみと、怒りを感じる…まるで修羅のように」
長々と話を続ける僧侶を無視し、岩に刺さった刀に手を掛けようと伸ばすと横から僧侶が手を伸ばし七火の手を止めた。
「それに触れてはなりません!!その刀は妖刀村正、仮に抜け封印が解ければ貴方は人ではなくなってしまいますぞ!!」
「人ちゃうくなる?…上等や!!、覚悟なら既に出来てる!!」
僧侶の手を振り払い妖刀の柄を握り引き抜いた。
「ふ…封印が…そこまでして力を求めるのですか?…何故修羅の道を歩もうとするんですか!?」
「復讐の為や…」
妖刀を強く握ると刀身が禍々しい赤黒に染まり、体の傷が癒え失った右腕も赤黒皮膚だが元通りに生えていた。
「これで…これで…奴を…童磨を殺せる…」