「あの…七火さん…ここは?…」
「綺麗な庭やろ?ここは鬼殺隊の本部やで」
哪吒蜘蛛山から下山し、七火達に連れて来られた場所は広い庭と大きな屋敷が立つ鬼殺隊の本部だった。
「鬼殺隊の本部!?そんな所で何をするんですか!?」
「本来なら柱合会議でしたが、貴方の事を報告したら急遽裁判に変更されました」
「さ…裁判!?…禰豆子は人を襲ってないのに…えっと…」
「そう言えば自己紹介がまだでしたね、私は蟲柱の胡蝶しのぶと言います」
「しのぶさん何で裁判を!?」
「鬼殺隊はそもそも鬼狩りが仕事や、それが鬼を連れとったらどないなる思う?…」
「兄様の言う通りです」
炭治郎の顔に不安の色が見え始め、心配に背に担ぎ禰豆子が入った木箱を見つめる。
「大丈夫ですよ炭治郎君!事実を知っている私達が着いてます」
「ありがとう…ございます…」
「さて、そろそろ他の柱がくるころやな」
月と蝶の模様があしらわれた懐中時計で時間を確認し、裁判前の一服で煙草に火をつける。
「そう言えば…七火さんやしのぶさんの柱って何なんですか?」
「おや炭治郎君は何も分からないんですね、柱とは鬼殺隊で最も強い者の事を言います」
「僕としのぶを含め十人おるんや」
(俺と禰豆子が手も足も出なかった鬼を一撃で倒した七火さんと同じ強さの鬼殺隊がそんなにいたのか…もしかして今日の裁判俺やばい気がしてきた…)
「おや?何時も一番最後に来る奴が珍しく妹と共に早く来てると思ったらこんな派手な庭で一服中とは派手な奴だな!」
「うむ!珍しい事だが火を消せ七火!後から来る伊黒が嫌がるぞ!」
「本当に珍しいわぁ」
(キャー七火君相変わらず表情が読めないけどその謎めいた雰囲気が素敵!!)
「音柱はんに炎柱はん、恋柱はんも久しぶりやなあ、蛇柱はんが来たら消すさかい」
「宇髄さん煉獄さんに甘露寺さんおはようございます」
「挨拶は要らん、なぁ文月…そいつが鬼を連れてる隊士か?…」
石飾りを付けた柱に睨まれ、身体中から汗が吹き出る。
(俺に向けられた殺気!?…)
「音柱はん…悪戯が過ぎますえ…」
同じ人間から向けられる殺気に恐怖を感じ声すら出せなくなったが、七火が炭治郎を庇うように前に入りお返しとばかりに七火が殺気を放つ。
「ぬぐ…あ…相変わらずド派手な殺気だ…」
宇髄は背中の日輪刀を抜き、臨戦態勢をとる。
「僕とやる気?ええで、相手になったる」
七火も煙草を踏み消し刀を抜くと赤黒に染まった禍々しい刀身が現れた。
「コラ!やめろ宇髄!まだ全員揃ってないんだ!」
「兄様も抑えて下さい!!」
煉獄としのぶが互いの間に入り刀を収めさせる。
「争う事でしか解決出来ないとは…可哀想だ…」
「何だぁ喧嘩か?俺もまぜろよ!」
「煙草くさっ…腹黒天邪鬼め煙草すったな?」
「あれ…僕何でここにいるんだっけ…」
「やっと柱全員揃うたし、始めよか」
「うむ!そうだな!って…富岡がまだ居ないようだが?」
「水柱はんならあそこにいんで」
富岡は何を話す訳でもなくて只少し離れた木に寄りかかり、枝に止まる鳥を眺めている。
(富岡さんたら…なんな所にたった一人で…―独りぼっちだけどそう言う所が素敵!)
「さぁ炭治郎はん、そろそろ始めんで」
「は…はい」
(…いつの間にあの人達は来ていたんだ?…全く分からなかった…)
柱同志の殺気のぶつかりに気を取られていたせいか、残りの柱達(一名を除いて)が七火さん達の周りに集まっていた。
「よし!柱が揃った!早速裁判を始めよう!それで七火、後ろにいる少年が鬼を連れてる鬼殺隊隊士だな?」
「その通りや、ほら炭治郎はん前に出て」
「は…はい…」
七火に背中を押され、柱達の前に出る。
「ド派手な奴だと思っていたが、よく見ると地味だな」
「めんどくせぇからそいつも連れてる鬼も殺せばいいだろ?」
「待って下さい!俺の妹は確かに鬼ですが、人を襲わない鬼なんです!」
炭治郎の言葉に七火としのぶ以外の柱の顔が呆れ顔にかわる。
「は?何言ってんだガキ!人を襲わない鬼がいる訳ねぇだろ!!」
「そないな事あらへんよ?昨日哪吒蜘蛛山で僕もしのぶも見たよ、人間の炭治郎はんと鬼の禰豆子はんが仲良うしとってん」
「人を襲う所か炭治郎君と共に下弦の月と共闘していた痕跡もありました」
「なんと!そんなド派手な事が?」
「鬼と共闘だと?…少年本当か?」
「七火さんとしのぶさんの言う通りです!禰豆子と一緒に戦いました!」
「だが人を襲う襲わないより鬼殺隊が鬼を連れている事に問題があるんじゃないか?」
口元を包帯で隠し蛇を連れた柱が炭治郎に鋭い視線を向けた後、七火を睨みつける。
「僕らは人を襲う鬼を殺すのが役目、人を襲わへんましてや共闘してくれる鬼を殺す必要はあらへん思うで?蛇柱はん」
「確かに!私達に協力してくれるなら心強いわね!」
「うむ!確かに七火の言う通りかもしれない」
「だから私この子は悪くないと思う!」
「甘露寺!?…チッそもそもそいつの妹が人を襲わない所を俺達は見ていない!」
「ならよぉ…」
「え?うグッ!?」
「風柱はん!?何をする気や!!」
身体中古傷だらけの柱が炭治郎の目の前までくると、胸ぐらを掴み持ち上げる。
「本当にこいつの妹が人を襲わないって事を確かめればいいだろ!!」
軽々と炭治郎を屋敷の中にほおり投げて、壁との激突の衝撃で背負っていた木箱の蓋が開き。中にいた禰豆子が屋敷の中にほおり出された。
「グアッ……」
「炭治郎はん怪我あらへんか!?」
「炭治郎君!!」
七火としのぶは慌てて炭治郎に駆け寄り、体を起こす。
「傷口が開いてしまった様ですね…」
赤くなった包帯を取り替えようとしのぶが手を伸ばすが、炭治郎の手が振り払う。
「俺は大丈夫です…それより禰豆子は?…」
炭治郎の心配を他所に禰豆子は起き上がり、ぼーっとしている。
「よかった…」
「呆れた…自分より禰豆子ちゃんの心配ですか…」
「たかが傷口が開いただけだろ?それに好都合だ!そいつの血を見た妹がどうするのか見ものだぜ!」
「不死川さん!!」
「恋柱はんこれでええんや!これで証明出来れば炭治郎はんも禰豆子はんもお咎めなし…そう言う事やろ?」
「あぁそうだ」
「可哀想だ…ある訳ない希望に縋るなんて」
「七火!胡蝶!襲って来たら迷わず頸を斬るんだ!!」
「頼んだで、炭治郎はん!」
「お願いしますよ炭治郎君!」
「はい!…禰豆子…おいで!」
炭治郎の声に我に返った禰豆子はこちらに顔を向け立ち上がり、ゆっくりこちらに向かってくる。
「…ね…ねぇあれやばいんじゃないの…」
「甘露寺…静かに見て」
やがてすぐそばまで禰豆子が来ると、七火達三人を抱きしめてきた。
「禰豆子!」
「馬鹿な!?…本当に人間を襲わない…だと!?」
「何と…」
「何で僕らも抱かれてるんや?」
「さ…さぁ分かりません…」
「こんな事が有り得るとはド派手に驚いた…」