DMMO-RPG『ユグドラシル<Yggdrasil>』
西暦2126年日本のメーカーが満を持して発売した、仮想世界内で現実にいるかのように遊べる体感型ゲーム、九つある世界で何もかもを1からプレイヤー達自ら探していくゲーム性は一風変わっていたが、その自由度の高さ、製作元が望んだ「未知を楽しむ事」は、直ぐにプレイヤー達に受け入れられ、日本国内においてDMMO-RPGといえばユグドラシルを指すとまで言われるようになった。
中でも、人間種、亜人種、異形種と実に700種類にもなる豊富な種族と基本や上級職業等を合わせて2000を超える職業クラスによる無数の組み合わせで、意図的を除いて同じキャラクターはほぼ作れないだけのデータ量。別売のクリエイトツールを入れることで武器・防具の外見、自分の外装から、自らが保有する住居の詳細な設定を作り変える事が出来ると言う点は、日本人のクリエイト魂を刺激し、ユグドラシルの公式ホームページや多くの掲示板で有名クリエイターや神職人達を生み出し、その分野だけでも賑わいを見せた。
そんな無限大と言える組み合わせの中、たまたま、本当にたまたま、アバターの見た目がほぼ一致した2体の骸骨がいた。
◆
西暦2138年 午後23時 ユグドラシル終了まで後一時間
ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」本拠地ナザリック大地下墳墓、第9階層――「円卓の間」から一体のスライム――エルダー・ブラック・ウーズ――ギルドメンバー「ヘロヘロ」がその姿を消した。
「……行っちゃいましたね、ヘロヘロさん」
「…まぁ、二年間も顔を出せずにいたのに今日くらいって顔出してくれたんだ、明日も仕事だろうし無理言えないさ」
「……そう、ですね」
残ったのは、金と紫で縁取りされた豪奢な漆黒のローブを纏った骸骨ギルド長「モモンガ」と真紅のマントと、金と紫の紋様が入った漆黒に輝く全身鎧で身を包み、細いスリットのある面頬付き兜を被って顔は見えないが骸骨のギルドメンバー「デア・シルト」。
「あ!それよりもモモンガさん!玉座の間に行きましょうよ、玉座の間!」
「え?……まぁ確かに俺達の最後には相応しい場所かも知れませんね」
(ああ…そうじゃあないんだけど)
ゆっくりと立ち上がるモモンガの言葉に内心寂しいものを感じながら、デア・シルトも立ち上がりながら既にいない友人から頼まれたイタズラに近いサプライズの成功を考えていた。
ふとモモンガを見れば彼の視線は、円卓の間の壁に飾っているギルドの象徴「スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」があった。
「モモンガさん、持ってきましょうよ、ギルド武器」
「でも…」
「いいんですよ、それとも多数決でもします?」
「ふふ…分かりました、それじゃあ……」
モモンガがギルド武器を握りしめると手におさめた瞬間、スタッフから揺らめきながら立ち上がるどす黒い赤色のオーラ。時折それは人の苦悶の表情をかたちどり、崩れ消えていく。
「「……作り込み、こだわり過ぎでしょ……」」
二人の呟きが同時に響くと互いに顔を見合わせ、あははと笑う。ひとしきり笑うとモモンガがコツっと一度感触を確かめるかの様に床を打つ、姿勢を正すと行きましょうかとモモンガが円卓の間を開く。
部屋出て、何気ない会話をしていると少し歩いた所で執事服の老人とメイド服がそれぞれ個性的にカスタマイズされた六人の美女または美少女達と出会う。二人が近づくとゆっくりと頭を下げる。
彼らは、ナザリックの至るところに配置されたNPCであり設定された事に従って動いているに過ぎないが、彼らの名前や見た目、能力など細やかな所までギルドメンバー達によって設定されている。
デア・シルトは、執事服の老人を指差すと確か…と彼の名前を呟く。
「執事服のがセバス・チャンって事だけは覚えてます」
「正解です、他の…プレアデスの名前は出てきますか?」
「うーん、……流石に覚えてないなぁ。てか、モモンガさんもアイコン開いてカンニングしてるじゃないですか」
「フフ、すいません。……彼らは結局働かせる事は有りませんでしたね」
「じゃあ、最後くらいお供をさせますか」
「はい……えっと、付き従え」
モモンガの言葉に反応した、セバス達は一礼し二人の後ろに並ぶ、その様子を確認すると二人も歩きだす。
また、しばらくあれやこれやと会話をしていると目的地の玉座の間にたどり着く。
ナザリック地下大墳墓第10階層「玉座の間」
このナザリック大地下墳墓最奥にして最重要箇所。そして最も手の込んだ部屋だ。
壁の基調は白。そこに金を基本とした細工が施されている。
天井から吊り下げられた複数の豪華なシャンデリアは7色の宝石で作り出され、幻想的な輝きを放っていた。
壁にはいくつもの大きな旗が天井から床まで垂れ下がっている。
金と銀をふんだんに使ったような部屋の最奥――突き当たりには、数十段階段を昇った位置に真紅の布に大きく描かれたアインズ・ウール・ゴウンのギルド印がかけられていた。
その前に1つの巨大な水晶から切り出された椅子がおかれていた。
それこそ――玉座である。
「いやはや、久しぶりに来たけど、ほんと作り込みヤバいでしょ、ここ」
「確かに、そうですよね。……でも、ここも後一時間もしない内に消えるんですよね」
今日だけで何度めになるかわからない、悲しげな呟くと共にモモンガは進む、それに供だってデア・シルトを歩き、玉座をモモンガに座らせる。
モモンガが玉座に座れば、それが自然であるかの用な壮大な絵が完成した。
「いやー、やっぱモモンガさんに似合いますね、流石非公式ラスボス」
「何ですかそれ。じゃあ、シルトさんは、最初で最後に現れた勇者ですか?」
「ハハ、そりゃいいや。だけど俺もアインズ・ウール・ゴウンの一員で、魔王配下の一人だよ」
「…そうですね、配下とは違いますけど。俺の大切な友人です……」
少し話せば出てくる、悲しげな言葉、はっきり言ってもう飽き飽きしているデア・シルトだが、それほどにモモンガは、この「ユグドラシル」と言う世界を大切にしている証でもあり。そこに水をさす事はデア・シルトには出来ず。話題を切り替え、ここに来た目的を果たそうとする。
「…さて、話は変わりますが。モモンガさん、本来の玉座の間と今の玉座の間で違いってわかりますか?」
「違い?……うーん、あ!守護者統括のアルベドが居ませんね!」
問いかけられて数秒、辺りを見渡して直ぐに正解を言い当てるモモンガにデア・シルトは、流石と拍手を送る。横に待機させていたセバス達も一緒に拍手をしていた。
「そうです、守護者統括であり、玉座を守る最後のNPCアルベドが居ませんね。さて、彼女はいったい何処に行ったのでしょうか。……モモンガさん、ギルマス権限でナザリックのNPCを確認してみて下さい」
「え?あ、はい………クエスト?」
言われるがまま、コンソールを開き、更にパスワードでギルドの管理メニューを確認した、モモンガの目にはアルベドの欄にクエストと表示されていた。
「何ですか?これ?」
「タブラさんが残していったものですよ、お昼頃に皆で昼食の為に一回ログアウトしたじゃないですか、あの時、タブラさんだけ残って色々やったらしいです。俺にメール来てました」
ええ…何やってんだあの人、と言いたそうにモモンガはため息を吐くと、クエストの内容を確認する。
「えっと、何々。……って!なが!!」
クエストの内容を読もうにも、そこに綴られた文章の長さに気付いたモモンガは、一気にスクロールする。勢いよく流れる文字列は数秒続いて、ようやく最後にたどり着く。
「あー、まぁ要約すると。結局仕事が無かった彼女は怒ってるんでそれを鎮めてねって事」
「それだけの事に設定書き込み過ぎでしょ、タブラさん……流石は設定廚。それで?怒りを鎮めるってどうすればいいんですか?」
「確か、戦って一定体力を減らすか、指輪を渡せばいいらしいよ。そうするとアルベドの設定が一部変わって落ち着くらしい」
「指輪?なんの……」
モモンガが疑問を口に出した時、玉座の間の入り口が開き、そこにはアルベドがいた。その姿は、二人が久しぶりに見る、 完全武装の姿だったが一点違いがあり、手に持つ武器は、ギルドの秘宝「真なる無」世界級アイテムの形状変化した物だった。
「「は?」」
二人が呆けた声を出したのを合図にアルベドは、滑るように移動するとモモンガに斬りかかった。
「!!《挑戦者の咆哮》!」
とっさにデア・シルトが武器を抜き、スキルを使う事でアルベドの攻撃を受け止めるが、更にアルベドは攻撃を続ける。
「糞が!タブラさんめ!世界級アイテムなんて聞いてないぞ!」
「シルトさん!」
「モモンガさん!俺が抑えてる内に早く指輪を!」
(いやいや、指輪を!と言われても、どれを渡せばいいんだよ!!あれか?これか?あ、この指輪、ここにあったのか)
必死にアイテムボックスの中を漁るが整理していないアイテムボックスには無数の指輪があり、冷静に一つを選ぶ事ができない。
しかし、とある指輪だけが何度も目に止まり、その内の一つを取り出す。
(…リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン、俺達ギルドの証であり、帰ってくる信じていたギルメン達に渡すはずの指輪)
アルベドとデア・シルトの戦う音だけが響く玉座の間で、モモンガは立ち上がる。すると、ピタリと二人の戦う音が止み、アルベドとモモンガが向かい合う。
「守護者統括アルベドよ。私は、いや私達は、お前が玉座を守ってくれていたから、安心して侵入者どもを追い払う事が出来たのだ、確かにお前の直接の働きは無かったが、それは、我らアインズ・ウール・ゴウンを倒せるだけの勇者が存在しなかっただけの話、最後までこの玉座を守った事を評し、お前にこれを渡そう」
そう言って、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンをアルベドに渡そうとすると、アルベドの武装は解除され、露になった美貌が薄く微笑みながら左手を伸ばしてくる。
(え?何?俺がアルベドに直接指輪をはめろと?)
まさかの展開に困惑したモモンガだが、まぁいいかと軽い気持ちで手をとる。何故か、アルベドの左手は、薬指以外何かしらの指輪が嵌められており、自動的にアルベドの左手の薬指にモモンガから贈られたリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが嵌まることになる。
もちろん、この時のモモンガの行動は、消去法的なものであり他意はない。
(うわ、マジかモモンガさん、タブラさんの予想道理に動いてやがる)
それを端から見ていた、デア・シルトは、この企画を自分に預けた友人が言っていた「モモンガがとりそうな行動」がピシャリピシャリと当たっていく事に友人を褒めるべきか、乗せられやすいモモンガに同情すべきか軽く悩んだ。
「ふぅ、シルトさん、無事クエストクリアみたいですよ」
「え?ああ、いやー良かった良かった!じゃあ、最後にアルベドの設定を確認すると書き変わるらしいんで確認しましょう」
特にエフェクトは無かったが、クエストは完了したようで落ち着いたアルベドが定位置の玉座の隣に移動すると、また薄い微笑みを見せていた。
モモンガも玉座に座り直し、アルベドの設定を確認する。これまた、長い設定に苦笑いを浮かべたが表示された設定は、自動で下にスクロールしていく。
その最後の一文は、「ちなみにビッチである。」と締め括られていたが、その文字は消え、新たに「モモンガを愛している。」と浮かんできた。
「はぁ!?何ですか!これは!?」
モモンガは、驚きと恥ずかしさから大声を上げるが、事前に知っていたデア・シルトが笑いながら告げる。
「アルベドって、見た目は清純そうな感じですけど種族はサキュバスですからね、それが本来の在り方なんですよ。タブラさん曰く、清楚な見た目の美女が裏ではあれやこれややっているって所がギャップ萌えだったらしいんですけど、何があったかまでは知らないですけど考えが変わって逆に誰か一人に一途なサキュバスの方が可愛く思えるようになった。って言ってましたよ」
「ああ、なるほどギャップ萌え……いや、それで何で俺なんですか!?俺じゃなくても、そういう事が苦手とか恥ずかしいとかでいいじゃないですか!」
「そこんとこを俺に言われても…後でタブラさんに言って下さいよ。でも、タブラさんが言うには、自分の娘を預けるならモモンガさんみたいな人がいいって言ってましたよ」
「くっ、文句を言いたいけどその言葉は、素直に嬉しい」
ブツブツと呟きを続けたモモンガは、少しするとハァーとため息を吐き、「まぁ、最後ですし」と諦めた様子になった。
「モモンガさん、ユグドラシルは確かに終わりの時ですけど、俺も、モモンガさんもユグドラシルの世界を最後まで楽しんだじゃないですか。俺も確実に暫くユグドラシルの事は引きずると思いますけど、また、何か新しく始めましょ、俺は、自由な独り身ですから付き合いますよ」
「シルトさん……」
表情なんか無いはずの骸骨の顔は、デア・シルトを悲しげな顔で見つめる。
ユグドラシルの残された時間は後一分を切っていた。
「じゃあ!締めの言葉はモモンガさん!お願いします!」
一度ゆっくりと頷き、立ち上がる。
残り時間は後三十秒。
「アインズ・ウール・ゴウンは不滅なり!!広きユグドラシル、九つの世界に知れ渡った、我らの名は!アインズ・ウール・ゴウン!!この名は、新たなる世界でも響き渡り、また、かつての仲間達が集う旗となろう!!」
「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」
「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!!」
巨大な玉座の間に二人だけの声が木霊する。
そして、ユグドラシルと言う世界は終わりを迎えた。
新たな名も無き世界での始まりと共に。
「くふーーーーー!!」
次でオリ主の設定など書いていきます。