骸骨の魔王と騎士   作:頭領

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守護者と話す所からカルネ村まで




新天地への一歩

ナザリック第六階層「大森林」コロッセウム

 

ユグドラシル時代、ナザリックが規格外の1500人の大規模侵攻を受けた以外、どんなに屈強な侵入者でもここを突破する事はかなわなかった。

そんな、コロッセウムには、現在ナザリックの階層守護者達と本来の副官と呼べる者達とは一段劣るが、それでも各階層の精鋭がこの地の治める主の一人を跪き、物音一つたてずに待っていた。

集まった最初こそ、現在の状況に意見を交わしたりしたが、彼らの意見は始めから一致しており、「至高の存在より受けた己の役目を全うし、また命令が有ればそれを何としてでも達成する」これにより混乱などが発生する事は無かった。

 

 

「セバス、第八階層を除く第一階層から第七階層の守護者または守護者代行、集合、整列が完了しました。デア・シルト様に報告を」

 

 

黒髪のオールバックに丸眼鏡、ストライプが入った赤色のスーツ、肌は焼けている。しかし、その全てが彼の胡散臭さを際立てている、後ろに銀の尻尾が生えているのに気がつけば彼が人ではなく悪魔と思えてきて納得できる。

実際彼は、ナザリック地下大墳墓第七階層の守護者「デミウルゴス」最上位悪魔である。

 

 

「畏まりました、おや?デア・シルト様が地表部に移動したようですね」

 

 

「そのようだね、本来であれば我らがいち早く異常に気付き対策を打つべきなのだがね……」

 

 

「お気持ちは分かりますが、今は忠誠心を示し、今後のお役に立つこそが我らが成すべき事。それに至高の御方が異常に気がついたもの、その深淵たる知識故かも知れません、今後は少しでも学び。失態を演じないよう心掛けましょう」

 

 

「フッ、君に言われなくとも全てのシモベが心得ているさ」

 

 

「念のためですよ、では、私はデア・シルト様をお呼びに参ります」

 

 

ああ、と返事をし、自分でも理解出来ないが気に入らない仲間を送り出す。自分の配置に戻りながらこれから我らが主がいらっしゃると再度気を引き締めるように声掛けをする。

しばらく静粛の中で待っていると、観客席に至高の存在の気配と足音が響く。隣には存在だけは知っていたパンドラズ・アクターが並んでいる。

ドンと重厚な音がコロッセウムに反響し、予想以上に至高の存在の気配を近くで感じられる事にシモベ達は歓喜に震える。

 

 

「待たせたな。全員現在状況は理解しているな?」

 

 

「はい、各階層で情報の共有は完了済みです。また、許可を頂ければ今後情報共有を素早くする為のシモベの選定が済んでおります」

 

 

「へぇ、予想以上に対応が速いな。そうだな情報共有は大事だ、モモンガさんも文句ないだろうから、その共有システムは作ってくれ」

 

 

はっ!と代表して答えたデミウルゴスは、内心まずは一つ有用性を示せたと喜ぶ。他の守護者達が妬ましそうな視線を向けてくるが、デミウルゴスには防衛時のNPC指揮官と言う役割もあり、アルベドが動けない今、シモベを纏める責任がある。だから、そんな視線を向けないで欲しいと思う。

 

「さて、今はナザリック周囲に危険は無いと判断してお前達を集めた訳だが。お前達にまずは話さねばならない事がある。衝撃的な話かも知れんが、まずは俺の話を聞け。話の内容に嘘はない、終わったら質問を受け付ける」

 

 

そこから話された内容にシモベ達は、自然と顔を上げ語るデア・シルトを眺めていた。

 

 

 

「ふう…これがユグドラシルと言う世界の全てと今回の異常に気付けた理由だ。質問は?」

 

 

語られた内容は、モモンガやデア・シルト、他の至高の存在の正体。更には自分達の存在。ユグドラシルとは何か、そしてデア・シルトを含め自分達が今活動している異常性。

それを包み隠さず、時には愚痴を溢しながらデア・シルトは語った。本人にしても今回の行動は賭けであり話している途中で襲われる事すら考えていた。しかし、少ない時間だがNPCと話した経験から危険が有っても彼らには、真実を話しておこうと考えた。

そこには今後、NPCと生活や冒険をしていく上で狂信的と感じた忠誠心は邪魔になると思ったからと言う理由もあるが、自分はまだリアルで部下が居た時期もあったし人を使うのは慣れている、神経質とも程遠いからいいが、モモンガは、自分よりNPCに対し思い入れは強い上に遠慮がちで環境が大きく変わった状況で苦労が増える事は容易に想像できる。そんな彼の精神的疲労を減らせたらと言う思いもあった。

 

 

(さて、ポカーンとしてるが、どんな質問が飛んで来るか、暴動だけは辞めて欲しいが)

 

NPCとシモベは、反応できずに時間だけが過ぎていた、そんな中で数分過ぎてから第一階層守護者「シャルティア」がバッ!と音がなるほど勢い良く手を上げた。

 

 

「デア・シルト様!で、では、私はもうペロロンチーノ様に会えないでありんすか!?」

 

 

「……普通はな」

 

 

シャルティアが絶望に顔を歪ませる、創造主に会えない。それを理解した他の者達も似たような表情になる。

ここでデア・シルトの横に佇むだけだったパンドラズ・アクターが大声で注目を集め話し出す。

 

 

「皆様!!初めまして私、パンドラズ・アクターと申します。宝物殿の領域守護者を任されております。私の創造主はモモンガ様ですのでハッキリ言って皆様ほど絶望感は感じておりません。ですので気が付くことが出来ました。先ほどのシャルティア様からの質問にデア・シルト様はなんとお答えになりました?そう!……普通はなです!!それが意味するものとは!!」

 

 

パンドラズ・アクターの語りに自然と全員が耳を傾けていた。

しっかりと間を空けてからパンドラズ・アクターは高らかに続きを話す。

 

 

「我々はこの地、この世界の事を何も知りません。ですが!だからこそ!!この世界に我々を召還した何かが有っても不思議ではありません!そして!!それを使い!他の至高の御方と再会が出来るやも知れませんし出来ないかも知れません。可能性を探す前からあなた方は、絶望し歩みを止めてしまうのですか?」

 

 

聞いていた者の顔に希望が出てくる。

そして、質問に対して違うとも答えていた。

 

 

「そうでしょう!そうでしょう!違いますとも!!絶望に堕ちる暇が有るのなら!希望を探しましょう!!我らが主はそうして、ユグドラシルを冒険しこのナザリック地下大墳墓を造り、我らに生をお与えになられたのですから!!!」

 

 

パンドラズ・アクターの語りは、そこで終わり。デア・シルトとシモベに優雅な仕草で礼をすると、自分の役割はここまで。と、またデア・シルトの横に佇むだけになる。

デア・シルトは、ククと小さく笑うとゆっくりシモベを見渡す。パンドラズ・アクターの語りの前とは違い。集合した時以上にやる気に満ちたシモベ達もデア・シルトの視線を避ける者はいなかった。

 

「さて、パンドラズ・アクターが予想外に盛り上げた訳だが。最終確認だ。お前達が至高の存在と呼ぶ者は、元は、ただの人間。そんな奴らがお前らの上で堂々と胡座をかく事に不満は無いんだな?理不尽な命令をするかも知れん、取り返しのつかない間違いを犯すかもしれん。それでもお前達は、俺達アインズ・ウール・ゴウンに従うんだな?」

 

 

「我ら栄光あるナザリック地下大墳墓のシモベは、永遠の忠誠を此処に誓います。どのような命令で有ろうと従います、問題が起きたのなら問題解決に微力ながらお手伝いをさせていただきます。どうか我らの忠誠をアインズ・ウール・ゴウンに捧げる事をお許しください」

 

 

 

「「「我ら、永遠の忠誠を誓います」」」

 

 

 

「わかった。確かに受け取った。であれば、今後お前達の活躍に期待する。失望させるなよ?」

 

 

 

「「「「はっ!」」」」

 

 

シモベ達の返事に頷き、その場は解散となった。

守護者達とセバス、プレアデスを残し、元の階層に戻らせた者達には、ここにいなかった者達へ話を伝えさせ、反応を見る。場合によっては、デア・シルトが呼び出しに応じると言ったが、その可能性は無いだろうと皆が心の中で思っていた。

 

 

「さて、改めて。俺の横に居るのが宝物殿の領域守護者パンドラズ・アクターだ、モモンガさんが連れて歩いた事が少ないからほとんど初対面だと思う。こいつの能力は、簡単に言えば俺を含めたギルメン全員の姿を取れて、能力も確か80%だったか?操る事が出来るってものだ」

 

 

紹介を受けたパンドラズ・アクターがデア・シルトに化けて見せる。おおと歓声が小さく沸いて、パンドラズ・アクターが姿を戻す。

 

 

「それと来る途中で聞いたんだが、デミウルゴス、お前は防衛時の指揮官を任されてるんだろ?」

 

 

 

「はい、と言っても今までは、宝の持ち腐れに近い状況でしたので今後の働きによりお見せしたい所でありますが」

 

 

 

「ああ、分かってるさ。それで今後しばらく維持費の関係でナザリック各地に作動中のギミックを最低限まで停止するつもりだ、必要になれば直ぐにでも動かすが。各階層守護者達と話し合ってシモベの配置を見直してくれ。モモンガさんならともかく、俺はそう言うのはわからんからな」

 

 

 

「はっ!畏まりました」

 

 

 

「それとコキュートス、五階層の氷結牢獄に情報収集が得意なNPCが居たよな?」

 

 

 

「ニグレド、ニューロニストノ二名デゴザイマショウカ?彼女達ハ、確カニ情報収集ガ得意ナ者達デスガ、ニューロニストハ、拷問官、拷問スル相手イテコソノ者デス」

 

 

 

「拷問かぁ、この体になってから特にそういうものに嫌悪感とか無いが、モモンガさんは大丈夫かね?まぁ、拷問じゃなくとも情報収集が仕事なら整理するのも得意だろ。それでだな、ここに来る前、傭兵モンスターを召還して外の調査に向かわせた、今ちょうど一回目の報告に戻ってくる頃だな」

 

 

 

「なんと、既に部隊を編成し送り出していたのですか」

 

 

 

「何だ?デミウルゴスも考えてたのか?」

 

 

「はい、私が召還できる悪魔を中心に考えておりました」

 

 

 

「そうか、まぁ俺が呼び出した奴らは、戦闘能力は低めだからな、後で報告を聞いて早速殺られてるようなら頼むかもしれん。さて、話を戻すぞ。調査班を送ったはいいがやはり別の方法でも周囲の観測と調査はしようと思ってな。宝物殿に遠隔視の鏡って言う、索敵アイテムがあるんだが。これは、低位の情報系魔法で隠蔽され、さらには反撃を受けやすい微妙なアイテムだ、だからニグレドの力を借りて、対策をバッチリした後に使いたい」

 

 

「ナルホド、デハ、彼女達ヘ話テオキマス」

 

 

「頼む。あー後はそうだな、あっ!あれだ。地表部に出て実際に周囲を確認したが、ナザリックが丸見えになってた。あれをどうにかしたいんだが?」

 

 

「あ、あの、僕の魔法を使えば、周囲の大地で、え、えっとナザリックを隠せます!」

 

 

 

「なるほど、ナザリックの外壁に土を被せて物理的に隠蔽するのか、いいアイデアだな」

 

 

「マーレ!あんた本気で言ってんの?!栄光あるナザリックに土を付けるなんて!!」

 

 

「何言ってんだは、こっちのセリフだ、アウラ。ナザリックの外壁なんぞ、いくら汚そうが構わん。それより、それだけで侵入者を防げるなら。ユグドラシル時代からやってたわ」

 

 

「う、し、しかし」

 

 

「良いことを教えてやろう、皆も聞けよ。そもそも俺達は、ユグドラシルで嫌われていた異形種の姿を誇る変わり者の集まりだ。だから始めから他人に外見をどうのこうの言われる事なんか気にしちゃいない。更に言うなら戦闘すら勝てば官軍の精神だ、奇襲に不意打ち、囮に裏切り、敵を挑発だけして背中を見せて逃げる事があれば敵の背中を襲う事もあった。そんな奴らだ。ギルドアインズ・ウール・ゴウンが不敗の栄光を手にしたのも敗北を認めなければ敗けではと言い切っていたからであって、冒険中に襲われて何も出来ずにデスルーラなんて良くあったぞ」

 

 

 

え……と守護者達が言葉を無くす。

 

 

「だから、今さら外壁に土を被せるくらい何て事もない。もし、勝手にやっても良くやったって誉めるくらいだ。そうだな、今後は九階層の各施設と十階層の図書館は、お前達も自由に出入りしていいから。一回俺達が残した資料なんかを見てみろ、特にぷにっと萌えさんの誰でも楽々PK術は暗記しておけ、あれさえ守って置けば大抵は負けん。いいか?今後お前達だけで何かしらの作戦を任せるだろうが、その時に敵にナザリックやギルメンを馬鹿にされたからと言って、闇雲に敵に突進する事は絶対にするなよ?そんな事をして、失敗するのが俺達的には一番あり得ない事だ」

 

 

は、はいと何とか返事をする。

 

 

「アウラ、お前は茶釜さんに造られたんだ、見た目を馬鹿にされたのなら、笑いながら滑舌が悪くて何言ってるかわかんなーい、くらい言えるようになっとけよ」

 

 

 

「え、え!?で、ですが!」

 

 

「いいんだよ、って言うか。あの人が一番自分の見た目を使った挑発が得意だったんだ。PVPの時にスキルが切れれば良くやってたぞ」

 

 

「え、えー」

 

 

「ははは!まぁそうなるわな、見た目に誇りを持ってるとか言いながら自分が一番気にしてるんだから、人間なんてそんなもんだ」

 

 

調子に乗ったデア・シルトは、その後もギルメンとの思い出話をドンドン守護者達に聞かせた。

話が終わった頃には、一応幾つかの組織と決め事を決定していたので仕事はしていたと言える。

 

 

 

 

 

 

結局、転移後一度目の朝まで話し込んだデア・シルトとデミウルゴス、パンドラズ・アクターは、任せきりにしていた、調査班の報告をようやく聞きに地表部に姿を現した。

 

 

「あーすまん、調子に乗って話が長くなってな、報告はどうなっている?」

 

 

こちらですと手渡された紙には、それぞれの班が報告したものがしっかりと纏められていた。

 

 

赤班 東に移動。しばらく草原のみ何も発見できず。人間の都市を発見。侵入を開始、感知された様子はない。全体的なレベルが低く、武装した者でLv15有るか無いか戦闘力に関しては未確認。調査を続行中。

 

青班 南に移動。人間の村を発見、就寝中なのを確認潜入を開始。幾つかの物品を押収。シャドーデーモンを一体見張りに残し移動を再開。また人間の村を発見。先ほどの村と同様に行動。どちらも村人は脆弱な存在ばかりLv1程度にしか見えないが戦闘力は未確認。近くに武装した集団が野営しているのを発見。近づいたが気配に気付く様子はない。侵入を開始。装備と見張りの話を別紙に纏め中。Lv10程度の集団。シャドーデーモンを一体残し移動再開。焼け落ちた村を発見。生存者なし。遺体が埋められている事を確認、近くに武装した集団を発見、村を襲った者と推定。先ほどと同様気配に気付く様子はない。侵入を開始。Lv30程度の者を発見、集団の長と推定、他はLv15程度。シャドーデーモンを一体残し移動再開。その後も幾つか焼け落ちた村を発見、生存者なし。

 

緑班 西の森林に移動。ユグドラシルと同じゴブリンやオーガを発見、能力もユグドラシルと同じと思われる。しばらく調査の後、Lv30程度の存在を発見、大まかな位置を別紙に纏め中。広大な森林の様で調査続行中。

 

黄班 北に移動。湖を発見、近くにリザードマンの集落を発見、幾つかの部族に別れている模様、詳しくは別紙に纏め中。各集落にシャドーデーモンを配置し移動を再開。山脈を登り、多種多様なモンスターを確認。別紙に纏め中。気配に気付く者は確認できていない。

 

黒班 南東に移動。しばらく移動のみ。目的としていたアンデットが多数存在する地を発見。調査難航中だが驚異になる存在は確認できず。気配に気付いたスケルトンやエルダーリッチなどと交戦、被害なく戦闘終了。ユグドラシルと同様のモンスターと断定。

 

 

報告書を読んでいたデア・シルトの様子が途中から萎んで行く事に気付いた、デミウルゴス達は、思わず不備があったか?と顔色をうかがう。

 

 

「……これマジなんだな?」

 

 

「はい、報告をする者が何かしらの操作を受けている様子もなく、隠している様子もありませんでした」

 

ガクッと頭を落とし、大きなため息を吐いたデア・シルトは、がっかりしたとハッキリ言った。

何に?と様子をうかがうデミウルゴス達は声には出さず次の言葉を待つ。

 

 

「いや、良いことだよ?これでナザリックの周囲が安全なのは分かったし。ただ、ただな?俺は勝手にこの先に待ち受けるのは、未知のバケモノだらけの大冒険を想像してたんだよ。なのに何だ?これは?話にならない人間どもにユグドラシルの低レベルモンスターの群れ、こんなんモモンガさんが絶望のオーラ垂れ流しで歩いたら、何も残らんぞ?」

 

 

「そっちですか……いえ!デア・シルト様、まだ油断はいけません、もしかしたら遠方よりドラゴンが急に奇襲を仕掛けてくるやも知れません。それに調査もまだ続行中、きっと強者が潜んでいますとも!」

 

 

「まぁ、そうだな…油断はしないが、気が抜けた。俺は休む。後は頼んだ」

 

 

「ええ、お任せを」

 

 

「あ、それと今後俺は報告書はまともに読まんと思う。想像以上に調査が良くできていたから、冒険に出た時の楽しみが減る。んじゃ」

 

 

指輪を使い転移した主人をええ…と礼を忘れて見送った、デミウルゴスとパンドラズ・アクターはとりあえず調査班がパンドラズ・アクターの指揮下に入ること。また、デミウルゴスがナザリック全体の指揮権を持ったので要請があった場合は従うことを説明した。

この他にも細かいことは多く先ほどの話し合いで決まったがとりあえずは、各班の報告を待ってからアイテムを渡したりと今後の打ち合わせをしようとした。

そしたら、先ほど転移したデア・シルトが戻ってくる。

 

 

「忘れてた、武装した集団に動きがあった場合は連絡をしてくれ」

 

 

それだけ言うとまたその姿は消える。

デミウルゴスとパンドラズ・アクターは顔を見合せ、互いに数秒考える。

 

 

「デア・シルト様は、やはり何か考えが有る様子ですね」

 

 

「ええ、私もそう思います。しかし、それが何なのかと聞かれれば答えられない、自分の愚かさが妬ましい」

 

 

「私もです。ところで、そう言った諸々を含めて、早速今夜一杯如何です?」

 

 

「フッ、本来で有れば、任された責務に身を粉にして望みたい所だがね適度に休めとも命令されたのなら、その誘い受けるとも」

 

二人は、本来重要な役目を任されやる気に満ち溢れていた。それこそ、自分の身を削ってでもと。

しかし、それ予想していたをデア・シルトは、ギルメンの話を盛りに盛り、やる気が有るのはいいが働き過ぎるとお前らの創造主が泣くぞと脅しをかけた。

結果、一日に最低三時間、食事と睡眠が取れるはしっかりと取れと命令した。

反論を試みても、どんな命令でも絶対服従だろ?と軽く返され沈黙するしかなくなる。

それに、本当に嫌な訳では無く、至高の存在が理想を込めた施設の数々を味わえると言うのは、正直心が踊る。それが本心だった。

 

 

 

 

 

地表部から転移したデア・シルトは、現在宝物殿内部の天井までびっしりと防具や衣服が並らんでいる部屋で自分が着れる物を探していた。

彼は普段、全身鎧で動いているがゲームから現実に変わった現状で四六時中、鎧で動くのは、肩が凝ると考えた。

しかし、自分のアイテム欄を確認しても予備の鎧ばかり、彼の求めた動きやすい格好の物は存在しなかった。ので、わざわざ膨大な量の中から一つ一つ確認し、何かないかと懸命に掻き分けていた。

 

「くそ、どれもこれもデザインに凝り過ぎだろ。てか、こんなんギルメンはいつ着る予定で買ったんだよ」

 

 

流石はナザリックの宝物殿と言うべきか並んでいるのは、どれもこれも見事な迄の装飾が施された、リアルで最高級の物ばかり、デア・シルトの望む物は見つかりそうになかった。

無数に並ぶ棚の一つを全て探し終えた所で諦めた彼は、床に倒れてどうしたものかと考える。

 

 

(モモンガさんなら、俺と見た目は同じだし、着れる物があるか?いや、あの人も買うだけ買う人だったな)

 

 

うーんと大の男がゴロゴロと転がっていると、天啓が舞い降りた。

 

 

「そうだ!シュラムだ!あいつの所なら俺が買った、動きやすい服あるだろ!よし!ろくに話せてないし、ちょうどいい、行くか!」

 

思い付くと速いのが良いところの彼は、起き上がって五階層に転移する。

現れた氷雪の世界をザクザクと歩いて、途中見かけたシモベには、片手を上げるだけで答える。

しばらく歩いて、壁に到着すると手を当てる。なんの変哲もない壁の一部が押され、横にズレると階段が現れる。そこを迷い無く降りていくと小さな空間に出る。

 

 

「シュラム?」

 

 

名前を呼べば、パタパタと笑った顔の仮面が奥から走ってくる。デア・シルトの近くになると滑りながら頭を下げる、勢い余ってか、わざとなのか分からないが手の届く距離まで最終的に近づいた、自身のNPCの頭を撫でてやり、本命は服だがどうせなら少しは会話しておこうと彼に用意した小部屋に一緒に向かう。

デア・シルトが造ったデア・シュラムは種族的に喋る事は出来ず、野良の泥人形はコミカルな動きで意思表示をしていた。ただ、今ならデータクリスタルで彼に人の形を与えれば喋れるのでは?と考えた。

小部屋に入ると飾ってある大量の仮面が目にはいる、その内の一つを掴んで横にスライドしてやれば隠し部屋が出てくる。

 

 

「ん?データクリスタルの量が多くないか?」

 

 

一緒に立っているシュラムに訪ねるとパタパタと意思表示をするが、ユグドラシル時代の文章メッセージは出てこないので伝えたいことは分からない。

とりあえず適当に一つ持ち上げると頭の中にイメージが沸き上がり、恐らくクリスタルの中身だと想像できた。

しかし、その中身が豊満な女性の姿や小柄な少女、褐色、知的、ツンデレ、ヤンデレ、ドジっ子、男の娘、ケモミミなどなど個性的な姿ばかりな事に頭が痛くなる。 少し迷ってから、比較的にましな男の娘の姿をとらせる。

データクリスタルをデア・シュラムに近づけると流れるように身体の中に吸い込まれる。

ぼこぼこと音を立て数秒で変化は完了する。現れたのは、長めの黒髪、切れ目の二重が凛々しさを感じさせるが長いまつ毛が女性的な雰囲気をかもし出すなんとも中性的な少年だった。

 

 

「これは!皆様が僕に下さった物です!今の姿は、ぶくぶく茶釜様がかわいいって誉めてくださる男の娘ですよ!」

 

 

「皆様って、ギルメンか、あいつら俺に断り無く外見データ増やしやがったな」

 

 

「だ、駄目だったでしょか…?」

 

 

「あ、いや、お前は悪くないさ。まぁ確かにかわいいな」

 

 

えへへと笑う姿は、どちらかわからなくなる良さを持っていた。

 

「おっとそうだった、今回訪ねたのはお前に渡した服をちょっと確認したくてな、別に疲れる訳では無いんだが、いつまでも鎧を来てると息苦しいしな」

 

 

「では!こちらどうぞ!」

 

 

手を引かれて歩けば、まさしく親子そのもの。ただデア・シルトの子供はこんな元気の良さは見せた事ないので自分の子供に振り回されるのは新鮮な気分にさせる。

案内されて到着したのは、先ほどの小部屋の別の仮面前、そこもまた横にスライドすれば衣装部屋になっていた。

 

 

 

「確か、現代的な……あれは何てタイプの服だっけ?」

 

「ブレイクダンスの服装ですね!ここです!」

 

 

「そっちか」

 

 

隠し部屋とは言え、デア・シルトもそこそこの量をデア・シュラムに渡していて、特に必要ないが躍りの種類に合わせて服装を用意していた。

ブレイクダンスの衣装が手にとって眺めるが動きやすさを考えてか薄めの物が多い。全身が骨になった今それを着ると似合うのか似合わないのか判断できないのが悩みの種になっていた。

その中で目についたのが白いシャツにパーカー付きの青いジャケット、黒いズボンのリアルで昔流行ったゲームのキャラが着ていた服装そのままだった。

 

 

 

「お、これいいな」

 

 

そのキャラがデア・シルトと同じ骸骨キャラだったので似合うだろうと着てみる。ただし、履き物がスリッパなのが気になるが。

 

 

 

「似合いますよ!」

 

 

「そうか、じゃあこれ借りてくぞ」

 

 

「許可何て要りませんよ、元々デア・シルト様の物ですから!!」

 

 

「いやいや、俺はお前にあげたんだから、借りる時は許可をとらない駄目だろ」

 

 

「そうなんですか?」

 

 

「そういうもんだ」

 

「わかりました!!」

 

 

元気のいい返事によしよしと頭を撫でてやれば嬉しそうに目を閉じて感触を堪能している。

しばらく撫でてやり、そろそろ次に移るかと手を止めると上目遣いで見つめてくる。見た目が相まって中々の破壊力を持つ。

 

 

「お前……それは卑怯だろ……」

 

 

「何がですか?」

 

 

「いや、いい……そうだ、お前には別に何も頼んでなかったよな?」

 

 

「はい、もしかして!任務ですか!四階層守護者代行として頑張ります!!」

 

 

「いや、違う。正直今の所頼む事はないからな。おいおい、そんな落ち込むな。やる事無いなら暇だろ?俺と一緒に戦闘訓練をして欲しいんだよ」

 

 

「え!?デア・シルト様とご一緒ですか!?やります!!」

 

 

「いい返事だ。ただ、一旦五階層に戻るぞ、ニグレドに用がある」

 

 

はい!と良い返事を聞いて、五階層に戻る階段を一緒に登る。登りきってすぐにコキュートスが待ち受けていたことに驚く。

 

 

「五階層ニ、オ越シ頂イタニモカカワラズ、オ出迎イ出来ズ、申シ訳ゴザイマセン」

 

 

「いや、気にするな。今後もフラッと来るかもしれんが出迎えは不要だ。言ったろ?俺は元々一般人なんだ、そこまで畏まられるとこっちが気を使う」

 

 

「シカシ……」

 

 

「お前も強情だな、分かった。今後は守護者の配置場所に転移して、そこからは守護者か副官を共にする。これでどうだ?」

 

 

「ハッ!私ノワガママヲ聞イテ頂キ、感謝シマス」

 

 

「ああ、罰として各階層にはお前から伝えとけ。それよりニグレドは居るか?」

 

 

「居リマス。タダ現在デミウルゴストパンドラズ・アクターガ一緒ニ居マスガ」

 

 

「もう来てたか、まぁすぐにこっちの用事は済むからお邪魔するか」

 

 

「デハ、コチラデス。ソレト、新シイ御召シ物モオ似合イデ」

 

 

「ありがとよ」

 

 

コキュートスの案内でニグレドの居る、氷結牢獄へ向かう、その見た目は氷の世界で異質としか言い様の無い、メルヘンチックな二階建ての洋館。何度見ても何でこんな見た目にしたんだ?と疑問を持たずにはいられない。

ニグレドは、その洋館に幽閉されている設定なのだが入室時は、面倒くさい決まりが有る。今回は先客が居るのでやらなくてすむ事に密かに気付いたデア・シルトは、静かに感謝した。

目的地の部屋に入れば、デミウルゴス達が出迎えていた。

 

 

 

「ちょっと邪魔するぞ、ニグレドに頼み事何だが先にいいか?」

 

 

「もちろん、構いませんとも」

 

 

「それで、私にご用とは?」

 

 

「ああ、モモンガさんの現在地は分かるか?」

 

 

「はい、昨日からお部屋にアルベドと共に居ります」

 

 

「え?魔法使わないで分かるのか?」

 

 

「はい、ナザリックのシモベで有れば皆、至高の御方々の絶大な支配者の気配を感じとれますから」

 

 

ニグレドは、当たり前と胸を張って返す、デミウルゴスやパンドラズ・アクター、コキュートスも頷いて、肯定している。

 

 

「シュラム、お前も分かるのか?」

 

 

「もちろんです!特に僕はデア・シルト様に造られましたから!デア・シルト様の事はナザリック1敏感に反応できます!!」

 

シュラムも自信満々に答える様子に嘘ではないと考える、シュラムをニグレドが撫でたそうに手をワキワキしてるのが気になるが。これならモモンガと不意の再会を果して怒られる心配が無いなとほくそ笑む。

 

 

「そうか、それで何処行っても、シモベ達が顔を出して来る訳か、ふーん、なるほどなるほど。よし!コキュートス!しばらくシュラムは、俺と行動させるから四階層の見回りも頼んでいいか?」

 

 

「ハッ!オマカセ下サイ」

 

 

「よしよし、これで後はこの世界限定マジックアイテムでも見つけてモモンガさんにやれば、怒られずに済むな。ところで、話は変わるが調査班は戻ってきたか?」

 

 

「はい、言われていた武装した集団にも動きが有りましたので、この後ご報告に参るつもりでした」

 

 

「ほう、それでどんな動きがあった?」

 

 

デミウルゴスは、調査班から受けた報告と実際にニグレドの力を借りて確認した情報を交え、パンドラズ・アクターと協議した内容をデア・シルトに細かく話した。

内容を纏めるなら、隣接している三つの国の内二つが手を組んで村を襲って、残る一つの国の戦力を削る作戦と思われるとの事。

 

 

「ふむふむ、しかしその王国とやらは、戦士長まで出して対応する必要が有るのか?もっと下の部隊で村の救援をしてそれから二つの国に文句を言えばいいだろ」

 

 

「それなのですが、王国内部にも裏切り者がいると考えております、恐らく王国の王は、部下を掌握しきれない無能かと」

 

 

「はぁ、そんな国に生まれた何も知らない村人は可哀想だな」

 

 

「ええ、全くです。それで如何いたします?残った村も明日には消えるはずですので、どうせならナザリックの役に立って貰おうと考えていましたが」

 

デミウルゴスが言いたいことは、想像が着いた。村人全員を拉致して情報を集める計画である、幸いモンスターの住む森が近い為、村人が消えてもモンスターに襲われたと考えるだろう。

しかし、とデア・シルトは悩む。自分がアンデットに生ってから考え方に変化が有るのには気付いている、デミウルゴスの計画も悪くないと思う。ただ、ナザリックの性質を考えると話を聞くだけでは終わらないのは事実だろう、となると先ほど言った通り村人が可哀想だなとも考えてしまう。

情報と感情、どちらに従い動くか悩む、ゲーム時代なら間違いなく情報を選んだ。今はゲームなのか現実なのかハッキリとは分からないが現実に近い。

しばらく考えてから答えを出す。

 

 

「いや、村は助ける。情報は兵士どもから搾り取れ」

 

 

「なるほど…その様に。助けに向かわせる者は、セバスとユリが最適かと」

 

 

「いや、俺も出る。そろそろ外の世界に冒険したくなってきた」

 

 

「至高の御身自らですか?それは些か」

 

 

「既に決めた。調査班が外での戦闘も問題ない事は証明済みなんだから、何時までも籠る気はない。いいな?」

 

 

「では責めて、近くの森にアウラとマーレを隠密能力に長けた者と待機させる事とニグレドとパンドラズ・アクターによる探知魔法などへの対策を許可して頂きますか?」

 

 

「いいだろう。だが、村での戦闘に問題が無かった場合、今後ドンドン俺は外に出るぞ。その度に守護者を外に出してたらナザリックの防衛に支障が出る」

 

 

「その点に着きましてはパンドラズ・アクターと話、いくつか案がございます」

 

 

デミウルゴスが、懐から紙を差し出してくる。本当に頭が回るなと感心しながら、その案を見る。

 

・プレアデス二名とLv80以上のシモベ五体

 

・Lv90以上のシモベ五体

 

・守護者一名とLv80以上のシモベ三体

 

以上の三つが提案された案だった。

 

 

「うーん、普通に過剰戦力じゃないか?ユグドラシルですら最奥のダンジョン以外なら安定して往復できるぞ?」

 

 

「いえ、正直言えば、まだ足りない位と思ったのですがパンドラズ・アクターに言われ減らした結果ですので、これ以上はどうかご勘弁を」

 

 

「あーそうか、じゃあこのプレアデス二名の内一人は、このシュラムでいいか?」

 

 

「え!僕ですか!」

 

 

「そうだ、基本勝てない相手がいた場合は、リングオブアインズ・ウール・ゴウンで逃げるが、転移は割りと邪魔されやすい、お前のバフが有れば俺のステータスはデメリットない状態まで引き上げられる。そうすれば後は走って逃げれるだろ。それが無理なら後は全力で殺るしかないしな」

 

 

シュラムは、自分が選ばれた事に嬉しそうに笑うが、デミウルゴスの顔は複雑そうに歪む。そこで助け舟を出したのは創造主に似たのかバランスを取るのが上手いパンドラズ・アクターだった。

 

 

「デミウルゴス殿、私は賛成です。それにデア・シルト様、こちらが折れる代わりにニグレド殿の監視は常に行うと付け足しては構わないでしょうか?」

 

 

「ああ、それでいいなら異存はない」

 

 

「……私も異存ありません」

 

 

「よし!では、明日の準備はデミウルゴス、任せたぞ。俺はこれからプレアデスを呼んで六階層で戦闘訓練と連れていく奴を選ぶ。コキュートス、お前も来るか?」

 

 

「ヨロシイノデ?」

 

 

「構わん、ついでにシャルティアも呼ぶか」

 

 

その後行われた戦闘訓練では、プレアデスそれぞれの能力確認や守護者も交えた対プレイヤーの戦い方、ダンジョンやボス戦で気を付ける事、シャルティアがシュラムにお母様呼びの強要など久しぶりに楽しい時間を過ごす事になった。

デミウルゴスやパンドラズ・アクターも着々と情報を集め、周辺諸国の大まかな地図を手に入れるなど動きがあった。ただ、ユグドラシルには存在しなかった能力の発見や実際の効果のほどなど気になる事も増えていく一方だった。

 

 

 

 

 

 

転移後三日目の朝、既に太陽は昇り始め、ナザリックの外壁を覆う大地も朝露が反射し光輝いていた。

その一見ただの丘の上に全身鎧の男が立っていた。

 

 

(遂に今日、この新しい世界に旅立てるのか……まぁナザリックには、ちょくちょく帰らないといけないが)

 

 

デア・シルトは、ユグドラシルで使っていた骸骨のアバターに完全に同化すると言う、謎の現象に巻き込まれ、寝ることが出来ない身体になっていた。

ユグドラシルのアイテムを使って、人になれば、今まで通り、いや今まで以上に快適に過ごす事が出来るのは知っているが自他共に認める変わり者の彼は、現実では味わえない食事や快適な睡眠、絶世の美女に囲まれる生活よりも命の危険を背負ってまで未知への探求に憧れていた。

最初は、ただ何の気なしに始めたゲームにはまっただけだった彼は、いつの間にかその魅力に自分が思った以上にのめり込んでいる事に気付いていた。

だからこそ、今の状況に不満は無く、感謝していた。

 

 

(まずは、村を救って恩を売る。価値観は違うかも知れないが悪いようにはならないだろ、その後は、他のプレイヤーを探そう。元はただのデータの塊だったNPC達より同じ人間の命の方が軽いと感じているのは問題かもしれないが本気でそう思っているから仕方がない。そして、帰る方法いや世界を移動できる方法を見つけて帰りたい奴は帰す、ギルメン達は呼び出す、最低でも自分が造ったNPCと話をさせてどうするかは本人次第に任せる。ただ、その前にギルドが潰れないように金稼がないとなぁ……)

 

 

 

まるで単身赴任のサラリーマンの様な事を考えていると後ろから声が掛かる。

デア・シルトが興奮を抑えきれずに早く出て来ただけなのだが、忠誠心が振り切っているNPC達は深く頭を下げる。

 

 

「申し訳ございません、デア・シルト様。至高の存在で有らせられる御身をお待たせしてしまうとは」

 

 

「いや、気にするな。まだ予定の時間より早い、俺は風景が見たくなって勝手に出て来ただけだ」

 

 

深々と頭を下げたのは、プレアデスの一人。ナーベラル・ガンマ、彼女は昨日行った戦闘訓練でデア・シルト、デア・シュラムの二人と組んで一番バランスが良かった為見事選ばれた。

ただ上司のセバスからは、彼女の人間軽視の設定が不安だとこっそり言われたが、それはそれでいいだろとデア・シルトは考えている。一応彼女には、許可無く人間は殺すなと言ってある、ナーベラルの返事も良かったのでデア・シルトは心配していない。

 

 

「デア・シルト様~!!お待たせして申し訳ございません~!!頼まれていた傭兵モンスター連れて来ました~!」

 

後から叫びながら出て来たのは、デア・シルトが造ったNPC。デア・シュラム、その後ろにはハンゾウ、カシンコジ、フウマ、ゴクドウ、クミチョウと追加で召還した傭兵モンスターが続く。

ゴクドウは、ゴクドウシリーズと呼ばれる傭兵モンスター限定の職業であり、その中でも一番弱いゴクドウは本来Lv60程度のモンスターだがクミチョウと組ませるとLv75程度のステータスまで跳ね上がる。それでもデミウルゴスが提案した条件には、達していないがゴクドウシリーズには、彼ら限定の能力があり、それ込みで認められた。

その能力は、弾除けと呼ばれ対象との距離に関係なく瞬時に目の前に現れダメージを肩代わりすると言う能力。ユグドラシル時代これを使って寸劇をするプレイヤーも僅かに居たとか。

その他にも彼らの声と特殊な視線は恐怖のバットステータスを与えたりするが、召還した際のゴクドウシリーズ独特の挨拶がデア・シュラムに恐怖を与え、ほとんど喋らなくなった。

 

 

 

「おう、まだ早いから急がなくていいぞ。転ぶなよ!」

 

 

「はーい!」

 

 

デア・シュラムの装備は現在、アラジン衣装と呼ばれるベリーダンスで着られるものをイメージした装備に変わっている、その見た目がデア・シルトからは歩きずらそうな印象を持たせて、本人は気づかないが過保護になっている。

実際は、ダンスに使われるだけあって快適に動けるのだがそれを知らないデア・シルトはこれを着ていると良く構ってくれると知ったデア・シュラムは、冒険にもこれで行くと強く主張し。順調にいっている。

 

 

「さて、集まったし予定より早いが行くか?」

 

 

はい!!と返事を貰って、やれやれと言いながらも一番速く騎乗用のモンスターを呼び出す。

アイテムボックスから黒い水晶のような物を取り出すとそれを無造作に地面に落とす。

水晶は、地面に着くと一瞬止まるがブルブルと震えながら地面にめり込み、たった十秒ほどで2m近い立派なたてがみを持つ馬の形を形成する。その表面は草が生え所々から土が見えてるのにも関わらずブルルッといななきを鳴らす。

 

 

「うわぁ、凄いですね」

 

 

「凄いだろ、今は土と草の馬だが、水晶を落とした場所によって色々変わるんだぞ。水に落とせば水の身体に、炎の中に落とせば燃える身体にって感じにな。もちろん、ちゃんと乗れば動く」

 

 

自慢気に話してやればキラキラと尊敬の眼差しを向けられ照れ臭くなる。

鐙も身体と一緒に形成されるので一気に飛び乗ると、ほらとデア・シュラムに手を伸ばす。すぐに嬉しそうにその手を掴み飛び乗らせる。

 

 

「準備はいいか?」

 

 

手綱を掴み、周りを見渡せばナーベラルとゴクドウ、クミチョウもそれぞれ馬型ゴーレムを呼び出し騎乗していた。ハンゾウ達は、何時でも影に潜れるように準備していた。

 

 

「では、時間までのんびり進むぞ」

 

 

「「「はっ!」」」

 

 

ゴーレムに合図を送れば、ゆっくりと歩き始める。

ユグドラシル時代に何度も乗っていたとは言え、リアルで騎乗の経験は無かったので今の状況で乗れるのか少し不安だったが戦闘と同じく何の問題も無く自由に操る事が出来た。しかし、昨日確認した内容でスキルを持たない事は強制的に失敗すると知ったので、もし騎乗中に敵からの攻撃を受けた場合は即座に馬から降りなければいけない。一応、ゴーレム自体も探知能力を持っているので攻撃の気配を感じれば自動で回避行動を取ってくれるのであまり心配はしていないが。

「それにしても、村人はお前達に感謝するだろうな、予定より早く出発した事で助ける人数が増えるんだから」

 

 

「ミジンコどもが感謝を捧げる事は当たり前です。そしてその感謝は至高の存在に捧げるべきです」

 

 

「……気になったんだが、ナーベラルはなんで人間を微生物とかに例えるんだ?」

 

 

「え?い、いえ、自分でも不思議なのですが自然とそうなっているいるのです」

 

 

「ふーん、もしかしたら、弐式炎雷さんはリアルで研究者だったのかもな」

 

 

「弐式炎雷様が!?そうなのですか!?」

 

 

「あ、いやすまん、可能性の話だ。ただオフ会の時、あ、ギルドのメンバーが現実で顔合わせする事な。そん時に見た炎雷さんは、イメージ通りの明るい青年って感じで知的って感じはしなかったな。いや、人は見かけに寄らないとも言うし、案外あり得るか?」

 

 

うーんと悩み始めたデア・シルト以外は、至高の御方の話を聞けたと忘れないようにしっかりと記憶に刻み付ける。

その後も、他愛のない話を続けて本来の時刻を過ぎてから待機と監視を任されている、アウラとマーレに連絡を取る。

 

 

「アウラ、そっちの様子はどうだ?」

 

 

『はい!こちらではちょうど村が襲われ始めました!』

 

 

「そうか、じゃあこっちも全力で移動を開始する。十分もしないで着くが、全滅しないか?」

 

 

『大丈夫です!あいつら、遊んでる見たいで、十分なら村人は三分の一は残ってますよ!』

 

 

「よし、ではメッセージは切るぞ」

 

 

『はい!お待ちしております!』

 

 

メッセージを切り、手綱を掴み直しシュラムにもしっかりと掴まっているようにと警告して、一気に速度を上げると森の中を突っ走る。

 

 

 

「うわ~速い~」

 

 

「おい、気を付けろよ」

 

 

「大丈夫ですよ!!あと十秒ほどで接触します!兵士2村人2です!!」

 

 

「よし、手綱は任せた。最初に俺が攻撃を仕掛ける、情報通りならそれで終わる、もし失敗したら即撤退いいな?」

 

 

「はい!」

 

 

デア・シルトは、彼が持つ最弱の片手剣を握る、もう一方は盾を装備しているが、これで受ける位なら鎧で受けた方がマシと言うレベルである。

手綱を完全にデア・シュラムに任せ、飛び降りる姿勢を取り、猛スピードで森の中を進む。

ゴーレムが草むらを飛び越えたと同時に、剣を少女二人に突き刺そうとしている兵士二人確認し、躊躇無く片手剣を振る。地面に足が着くよりも早く、兵士二人の頭は消え、不思議な事に血が吹き出ない兵士の死体はゆっくりと重力に引かれ倒れた。

死んだふりや自動蘇生する可能性を考慮しナーベラル達が警戒を続けているが首を飛ばした本人はあり得ないと感触を確めていた。

 

 

 

(戦闘能力は、情報通り。これなら問題なさそうだな)

 

 

「さて、大丈夫か?」

 

 

「は、はい……あ、ありがとうございます!!あ、あの!む、村も私達の村も襲われているんです!どうか!どうか助けて下さい!!!」

 

 

「わかった、村の方向?」

 

 

「この道を辿ればすぐに着くはずです!」

 

 

「シュラム。ゴクドウ。お前達は、彼女達を保護して村まで連れてこい。ナーベラル。クミチョウ。お前達は俺と村に行くぞ。ある程度、殺し。ある程度、生かせ。話が出来れば腕が無かろうが足が無かろうが構わん」

 

 

 

「「「はっ!」」」

 

 

「ひぃ!」

 

 

「あっ」

 

 

ただデア・シルトの指示に対して返事をしただけのゴクドウとクミチョウの声が村娘の二人を怖がらせてしまう。

気まずそうな彼らは、口数が減っていたのが遂には人前で喋るなとの命令を受けてしまい、肩を落とした。

その後、任せたとデア・シュラムに村娘を丸投げしたデア・シルト達は村へ急ぎ、残った二人は村娘の回復を待った。

 

 

「もう大丈夫?」

 

 

「は、はい。大丈夫です、ネムも大丈夫よね?」

 

 

「うん、大丈夫!」

 

 

「それは良かった。ごめんね、この顔の怖いおじさんの声は聞くだけで恐怖を与える能力を持ってるんだ。すっかり忘れてた。あ、僕の名前は、デア・シュラム、こっちはゴクドウ、よろしくね!」

 

 

「あ、すいません。名乗っていませんでした。私は、エンリ・エモットです。こちらは妹のネム・エモット」

 

 

「ネムです!さっきはありがとうございました!」

 

 

「うん、じゃあ村に戻ろうか。もう終わってるだろうし」

 

デア・シュラムが道すがら一応何故襲われたのか話を聴いたが、わからないとの返事しか来なかった。

事前にデミウルゴスが今回襲われている村は好都合な場所にあっただけ、と予想していたが、どうやらそれは当たっていた。

 

(やっぱり、デミウルゴス様は、凄いなぁ。シモベ達の指揮を任される訳だ、僕ももっと頑張らないと)

 

 

「エンリちゃん!無事だったのね!」

 

 

「おばさん!村は!?村は大丈夫なの!」

 

 

「ええ、もう大丈夫。冒険者様が助けて下さったのよ」

 

 

村が見えた頃に助かった村人がエンリ達を探しに来て、兵士達も村の中央で捕まっているのが見えた。

もう大丈夫だろうと判断した、デア・シュラム達は軽く挨拶して、兵士達を眺めているデア・シルトの元へ駆けていく。

 

 

「シュラムか、あの娘達は大丈夫だったか?」

 

 

「はい!それと話を聞いたんですが、やはり彼女達は知らないようです」

 

 

「だろうな、こっちも話を聞いたが、特別な理由は無いらしい」

 

 

デア・シルトが顔を向けた先には、人によって欠損している所があるが生きている兵士達が怯えた様子でガタガタと震えていた。

 

 

「ユグドラシルに着いてどうでした?」

 

 

「駄目だ、ってか、やり過ぎてまともに話ができる奴がいない」

 

 

「も、申し訳ございません」

 

ナーベラルが反省したように謝るのを気にするなと手を振ってこたえる。

デア・シルトは、村に着くと三方に別れ村を襲っている兵士を片付けに動いたのだが、剣を振るえば致命傷、殴れば骨が砕け致命傷、魔法では黒焦げと散々だった。最後は逃げようとした兵士をクミチョウが足を銃で撃つ事で殺しはしなかったが捕まえた瞬間、恐怖から発狂しまともに話は出来なかった。

 

「気にするな、弱すぎるこいつらが悪い。それに一応話は聞けたんだ」

 

 

唯一、話を聞けた青年は大量出血から息絶えた。

ポーションを使ってやろうか考えたが、村人に使って無いのに兵士に使うのはおかしな話だと思い止めた。それにまだこの村には、後二つの集団が向かっているのだから。

 

 

「ゴクドウ、クミチョウ。村人の手伝いをしてやれ。ナーベラル、お前は村長に二人を紹介して、戻ってこい。」

 

 

「はっ!」

 

 

ナーベラルが二人を引き連れて村長に向かい進むが、上手く紹介できるか不安がある。まぁいいかとそちらは忘れてそれより気になる事を訪ねる。

 

 

 

「さっきの娘達とは、仲良く出来そうか?」

 

 

「はい!僕はデア・シルト様にナザリックの中では人間にも優しい性格に造られましたから!」

 

 

「そうか、それは良かった。先に言ってある通り外で活動する時は此処が拠点となる。ナーベラル達は無理そうだからお前くらいはな」

 

 

人間に有効的なNPCはナザリックでは、貴重になる。

それが一番信頼出来る自身のNPCだった事に昔の自分を誉めたくなる。そんな事は出来ないので変わりに目の前の彼を撫でてやる。

そんな、スキンシップをしていれば戻って来た、ナーベラルが無事に済んだと誇らしげに報告してくる。

 

 

「ナーベラル、お前はこの村の人間達と仲良く出来そうか?」

 

 

「う、ご、ご命令とあらば……」

 

 

誇らしげな笑みは一瞬で消え、先ほど見せていたばつの悪そうな顔がまた表れる。

その百面相にデア・シルトは、僅かに笑い声が溢れる。

 

 

「いや、無理にとは言わん。お前の人間嫌いも個性だ。文句を言われたのなら、何が悪いと言ってやれ。さて、他の集団の到着はまだ掛かるか?」

 

 

「確認いたします。……はい、わかりました。では………お待たせいたしました。後2時間ほどで到着するそうです」

 

 

「じゃあ、それ迄暇か。とりあえず、この兵士どもを片付けるか。シュラム、こっちは俺達でやるから、お前は村人にバフをかけてやれ」

 

 

その後、デア・シルトとナーベラルで兵士達を証人として数名残し、他はナザリック送りにし、デア・シュラムとゴクドウ達は村の復興に力を貸した。

村人達からは、感謝の声が溢れ。デア・シルト達が気付いたら森の中にいて、似ているけど違う世界から来たようだと言う、胡散臭い話を信じ。不幸にも空き家なら沢山有るからと場所まで借りる事に成功した。

そして、報告通り日が暮れ始めた頃、村長よりまた武装した集団が近づいていると悲鳴のような助けがデア・シルトに届けられた。

 

 

「安心してくれ。せっかく手に入れた休める場所を俺達も荒らされる気はない。村長は一緒に来てくれ、他の者は怖いかも知れんが一ヶ所に集まってくれ。離れていると守りきれん」

 

 

「わ、分かりました、すぐに」

 

 

準備を終え、近づいてくる集団を目視で捉えた頃には、また、その集団のレベルの低さに不安を覚える。

 

 

(見たところ、村を襲った奴らより戦い慣れているが、どんぐりの背比べだな)

 

 

村の前で堂々と立っている全身鎧のデア・シルトと村長を相手も捉えたのか速度を落としで少し離れた所で止まる。

 

 

「私は、リ・エスティーゼ王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。王の御命令で近隣を荒しまわっている、バハルス帝国の騎士達を撃つため。村を廻っている」

 

集団の中でも一際屈強な男が声を張り上げる。

デア・シルトは、調査班からの報告で知っているが今は、村長や村人から親切で教えて貰った情報しか知らない事になっているので知らないふりをする。

 

 

「村長、あれは本人か?」

 

 

「い、いえ、私もお姿を拝見したことは…」

 

 

「この村の村長か?」

 

 

男が確認の為、近寄ろうとするのをデア・シルトが手で制す。

 

 

「それ以上、近寄らないで貰いたい。あんたが言ったバハルス帝国の騎士とやらは、既にこの村を襲って俺が殺した。俺は諸事情有ってこの周辺の事情を知らない、村長が戦士長殿の外見を知らないとなると、信用する事が出来ない。王の命令ともなれば何か書状とか持ってないのか?」

 

デア・シルトの言葉に屈強な男も後ろの集団も驚き、部下と思われる後ろの集団が武器に手をかける。

 

 

「止めろ!!村を救った方に失礼だ!!」

 

 

金属の擦れる音で判断したのか、ガゼフは、振り返らずに部下を叱咤する。怯んだ部下達も手を退かし、ガゼフが馬から降りるのを見ると一緒に降り、頭を下げる。

 

 

 

「村を救って頂き感謝する。こちらが王より賜った書状だ」

 

 

デア・シルト達に懐から出した紙を開いて見せる。この時初めて知ったがデア・シルトには文字が読めなかった。

村長の方を見れば彼は読めるようで一度頷いて見せる。

 

 

「大変失礼をした。私は読めなかったがどうやら本物の様だな」

 

 

「いや、気にしないでくれ。本来は私が彼らを守らなければいけなかったのだ。改めて感謝する」

 

 

「いえ、おっとこちらが名乗っていなかったな、俺はデア・シルトと言う。中に私の仲間もいる。まずは村に入ろう。まだ荒れているが休む場所はある。いいか?村長」

 

 

「はい。さ、どうぞ戦士長様、お疲れでしょう。幸い井戸は無事でしたのでお水の一杯でもお出しします」

 

 

「ああ、すまない。お前達の方が大変な時に」

 

村にガゼフ達と入り、村人に説明をする。やはりまだ恐れているのかガゼフ達を見て一瞬身体を強ばらせたが安心した様子になった。

説明を終え。ガゼフ達にシュラムやナーベラル達を紹介したが、ある者はシュラム達の美貌に驚き、ある者はゴクドウ達の顔に恐怖を感じていた。

 

 

「それでシルト殿が仰っていた、諸事情とは聞いても大丈夫だろうか?」

 

 

紹介を終え。夜になる前に少しでも、と村の復興をガゼフ以外の戦士団とゴクドウ達に手伝わせ。デア・シルトと村長、ガゼフは話をしていた。

生き残りのスレイン法国の騎士達は、ガゼフ達に預け、今は捕縛されていた。

 

 

「正直に話すが、納得できる内容では無いぞ?俺達ですら何が何やらな状態なんだ」

 

 

「構わないさ、少しでも役に立てたら幸いだ」

 

 

 

「はぁ、ガゼフ殿の素直さは何だか心配になるな、国のお偉いさんなら、もう少し疑ったらどうだ?俺が騙されてるだけかも知れんが裏の顔がまったく見えん」

 

 

「ははは!よしてくれ、俺は元々平民の出でな。相手の裏をかくことも読むことも出来んよ、それの性で王にはご迷惑を御掛けしているが、こればかりはどうもな」

 

 

本当に困った様に笑うガゼフに安全の為とは言え、嘘の話をでっち上げる事を少しデア・シルトは嫌に感じた。こちらに来てから、とりあえず疑いに係っていた自分がいつの間に癖になっていたらしい。それを静かに笑うと覚悟を決め、詳しい話をガゼフや今後会えるだろう信頼出来る人物にしようと思った。もちろん、ナザリックの話は隠したままにするが。

 

 

「じゃあ、話すが、村長。あんたにも話してないことを話すからあんまり驚かないでくれよ?」

 

 

「はい、私も腹の探り合いとは無縁のただの村人。デア・シルト様達に助けて頂けなければ無かった、この命、あなた様のお役に立てたらと思います」

 

 

「フッ、少しは元気になった様だな。信頼しよう。さて、何処から話すか」

 

 

デア・シルトは、ユグドラシルのゲーム設定をそのまま引用し説明する。ただしゲームとか電脳空間とかは説明が難しいのでしなかったが。

ユグドラシルの話で混乱した様子の二人に苦笑いするがこればかりは頑張って貰うしかない。

 

 

「今の話は今と関係ないからざっくりと覚えてくれればいい。それで此処からが今の状況に繋がる話だ、まぁさっきより簡単な話だから安心してくれ」

 

 

「あ、ああ、そうか。大丈夫だ続きを頼む」

 

 

「ああ、それで弱った世界樹の限界に気づいたのか、だんだんプレイヤーは減って行った。それでも俺達は冒険を続け、ユグドラシルの最後まで残っていた。そしてユグドラシルの最後を迎えたはずが、気がついたらこっちのトブの大森林に居た。そこからとりあえず歩き回ってモンスターとも戦い、この世界がユグドラシルと近いが別物だと確信した。今日はそろそろ森を出るかって話をしている時に騒がしい事に気付いて、村長達と会ったって訳だ」

 

 

「うーむ、と言う事はユグドラシルはもう無いのか…?」

 

 

 

「無いはずだな、そこに関しては元から覚悟は出来ていたから問題は無いんだが。問題は誰がどうやって俺達を此処に連れてきたか、と何で俺達が呼ばれたかなんだよ」

 

 

「では、シルト殿は、その原因を探す旅に出るのか?」

 

「いや、まだまだ情報が足りないから、しばらくはカルネ村を拠点に情報収集だな。何せ未知の世界だ、慎重に行動しないとな」

 

 

 

「そうか!では、どうだろうか?王国に来て冒険者をやらないか?」

 

 

 

「ほう、冒険者…詳しく頼む」

 

 

ガゼフから他にも、詳しい話を聞こうと今度は話を聞く番に変わろうとした時、外から戦士団の叫びに寄って遮られた。

 

 

「戦士長!村の周囲に人影を発見!囲まれています!」

 

 

「なに!シルト殿、すまないが話はまたの機会に」

 

 

「いや、俺も行こう」

 

 

「しかし…いやそれは頼もしい。よろしく頼む」

 

 

外に出て、今日三度目になる恐怖に怯えている村人達を落ち着かせ、周囲の様子を確認する。

ナーベラルから静かに報告を受け、実際に見る情報を確認する。村を囲っているのは、ユグドラシルで第三位階の信仰系魔法で召還できる天使を引き連れた集団。

ガゼフも集団を確認すると部下に指示を飛ばしあわただしくなる。

 

 

「ガゼフ殿、あの天使達はユグドラシルにも存在していたものだ、同じものなら楽勝だな」

 

 

「まことか?!あれは恐らくスレイン法国の特殊部隊の1つ、陽光聖典だと我々は睨んでいる。正直死に物狂いで戦う必要があると思っていたが……」

 

 

「まぁユグドラシルと同じものならって話だがな、ただナーベラルの報告だと大丈夫そうだ」

 

 

「なんと……シルト殿達がただ者では無いと思っていたがそれほどか……」

 

 

「俺達ってよりは、ユグドラシルが、だな。こちらの世界が今知ってる情報だとレベルが相当低いからな」

 

 

ガゼフの表情がひきつるがすぐに、それはありがたいと笑顔を浮かべ、スレイン法国の特殊部隊へ対峙しようとした、しかし、それをデア・シルトがとめる。

 

 

「ガゼフ殿、喜ばせておいて悪いがこちらから頼みがある」

 

 

急な提案に不安が募るが恩人でもあるデア・シルトの頼みならと快くガゼフは返事をした。

 

 

「何だろうか、恩人の頼みだ、精一杯力を貸そう」

 

 

「簡単な話だ、あの天使の力を確認する為にガゼフ殿戦士団達に先に戦って貰いたいだけだ」

 

 

「なるほど、わかった任せてほしい」

 

 

「確認が済んだら、直ぐに俺達も駆けつけよう」

 

 

「すまない、頼む」

 

 

ああと返事をしてガゼフ達を見送る。

 

「別にあの人を気に入っているなら、最初から助けてあげてもいいんじゃないですか?」

 

 

「いや、一回戦ってもらってから俺達が倒して見せた方が効果的だろ?」

 

 

ひょっこりと顔を出したデア・シュラムが不思議そうに尋ねてくるのにいやいやと答える。

実の所、偶然だったが陽光聖典の戦闘能力は既に確認済みだったりする。集団を発見後、監視させていたシャドーデーモンがゴブリンやオーガとの戦闘を見ている。

なので、ガゼフ達と一緒に向かい彼らを助けてもいいが、どうせなら売れる恩は大きい方がいいと考え、ガゼフ達を先に行かせた。

 

 

 

「なるほど!じゃあ死なない程度に頑張って貰わないとですね!!」

 

 

「そういう事だ、ナーベラル。タイミングは任せたぞ」

 

 

「はっ!お任せを。既に奴らは戦闘を始めています」

 

 

「何かユグドラシルに無いものは見れそうか?」

 

 

「いえ、低レベルなせんと…たった今、武技なるものが発動しました」

 

 

「誰だ」

 

 

「戦士長です。六光連斬といい、剣の一振りが六撃になる技のようです。また威力も上がっているかと」

 

 

「ん?それならスキルに似たものが有ったような?スキルの呼び名が変わっただけか?まぁ後でモモンガさんに聞くか、他にも武技を使ったら覚えとけと伝えろ。それで?ガゼフ達の様子は?」

 

 

 

「はっ!そろそろ頃合いかと 」

 

 

 

「よし、行くか」

 

 

 

ナーベラルの転移魔法で戦場に移動する。

転移した先の戦場では、戦闘はすでに終わりかけていた。戦士団はガゼフを残し全て地面に倒れ、ガゼフ自身も身体の至る所から血が流れ、剣を杖代わりになんとか立っているという状況である。

 

 

「ナーベラル、これは少し遅いな。もう少し観客が残っている状態が望ましい、今後気を付けろ」

 

 

 

「はっ!申し訳ございません!」

 

 

突如、戦場に現れたと思ったら訳のわからない話を始め、女に関しては地面に膝をつきだす。

そんな集団を陽光聖典の隊長ニグン・グリッド・ルーインは鼻で笑う。自分が知らない以上奴らはガゼフの救援なのだろうがガゼフはすでに死にかけ、部下も立っているものはいない。それに比べ自分達は、魔力は減っているが全員が揃っている上に自分には奥の手がある、負けるはずがないと考えているからだ。

 

 

「何者だ貴様ら、ガゼフ・ストロノーフの救援か?であるならば、そこの全身鎧が言った通り遅かったな!すでに奴は虫の息!止めを刺した後は、次は貴様らだ!そこでゆっくりと眺めているがいい!!」

 

 

集団に現実を教えてやり、心を折ってやろうと勝利宣言をした瞬間、彼は意識を手放すことになる。

 

 

「《連鎖する龍雷》」

 

 

ナーベラルの手から龍の形をした白い電撃が放たれ、ニグンを守っていた天使ごと消滅させる。

 

 

「ナーベラル、今のも失敗だな。今は情報がほしいのに一番偉そうな奴を殺すな」

 

 

「も、申し訳」

 

 

「いい、他の全員は生かして捕らえろ、お前一人でだ。それを罰とする。もし失敗するようなら、お前はカルネ村で待機とする。行け」

 

 

それからのナーベラルは速かった。剣を抜き数人斬りつけ、雷で断面を焼く、降伏を呼び掛けた。逃げようとしたものも斬り焼く、数分で全員を生かして捕らえるとデア・シルトに報告をした。

ナーベラルが捕縛というより、虐殺に近い行動をしている間にデア・シルトはガゼフの容体を見てやり、デア・シュラムとゴクドウは、倒れている戦士団を集めていた。

 

 

「すまん、遅くなった」

 

 

「い、いや助かったのだから問題ないさ、いや助かったのだよな?」

 

 

「ああ、お前は生き残った。傷は酷いがな、部下と一緒にシュラムに治させるから安静にしていろ。それより、武技って言ったか?あれ後で直接見せてくれ」

 

 

「あ、ああ別に構わないが……はは、シルト殿と知り合って数時間だが俺の常識は何度壊れた事か」

 

 

「気にするな、俺は逆にガゼフ殿や村長達から常識を学ばないと行けないからな」

 

 

「デア・シルト様!集め終わりました。全員生きております、それとこれを」

 

ナーベラルが差し出したのは、見覚えのある水晶。ユグドラシル時代、使い勝手の良さからバンバン使っていた通常アイテム魔封じの水晶だった。

 

 

「これは、どこで見つけた?」

 

 

「先ほど私が灰にした男が立っていた場所です」

 

 

その報告に内心ため息をつく、ナーベラルが殺した人物はプレイヤーと知り合っている可能性が出たからだ。幸いなのは何の証拠も残さず消滅させれたことくらい。ただ単にユグドラシルと同じアイテムがこの世界にある可能性はあるが国の特殊部隊や戦士長があのレベルだと魔封じの水晶のレアリティを考えると手に入れる事は難しいと思う。

他にも手に入れた方法は思い付くがやはり可能性が高いのはプレイヤーだろう。

 

 

 

「デア・シルト様!戦士団の皆様集め終わりました!!」

 

 

「よし、ガゼフ殿立てるか?」

 

 

先ほどまで殺し合いをしていた戦士団と陽光聖典が一緒に並べられるが、戦士団は意識を失うまで自信に満ち溢れていた陽光聖典が今は見る影も無く、次は何をされるのかと怯えている様子に絶句する。

 

 

「戦士長、一体何が……」

 

 

「デア・シルト殿達だ、何かの魔法で一瞬の内に現れてナーベラル殿が陽光聖典の隊長をこれまた魔法で一瞬にして消滅させてしまった。ふぅ、副長。すまんが話は後でまとめてしよう」

 

 

「そう、ですね、今は皆ボロボロですからね」

 

 

戦士団と陽光聖典が静まり始めたタイミングで日が暮れた草原の夕日を背にしたデア・シュラムが現れ、一礼する。

 

 

「始めまして、デア・シュラムと申します。皆様のお怪我を治させて頂きますのでおくつろぎ下さい」

 

夕日を透過する薄い布でその姿と隠すと何処からともなく音が流れ出す、ガゼフ達には聞いたことの音楽だったがデア・シュラムが動く度にキラキラと光を反射させる薄い布と時折見えるデア・シュラムの笑顔に魅力され、自分達の身体に起きている変化に気が付かず、ただただ眺めていた。

三分ほどの踊りが終わると静かにデア・シュラムが現れた時と同じ様に一礼して去っていく。

 

 

 

「あれ?俺の腕……生えてる?」

 

 

陽光聖典の一人があり得ないものを見て、不思議そうに呟く。一人の呟きが隣に伝わり、直ぐに全体に騒がしくなっていく。

 

 

「あり得ん…この人数のケガだけでなく、欠損まで治すほど回復力がいつの間に…まさかあの踊りは神の見技だとでもいうのか……」

 

 

いつの間にか、怯えていた陽光聖典は祈るように手を組んでいた。

 

 

(何かこっちに来てから、拝まれる事多いなぁ)

 

 

デア・シルトが内心飽き飽きしている光景にため息をついていると元気になったガゼフが近づいてきた、彼もまた信じられないのか口が半開きになっていた。

 

 

「シルト殿、一体シュラム殿は何をしたのだ?」

 

 

「特別な魔法では無いさ、体力を自動回復していく魔法はこっちでもあるだろ?それがシュラムの踊りで効果が上がっただけさ、まぁ、本来は回復魔法じゃないんだけどな」

 

 

「それで、これだけの効果を発揮するのか。信じられないな」

 

 

「はは!疑うのは結構だが教えはしないぞ、俺達は味方同士それで十分だろ?」

 

 

「ああ、全くだ。あなたを敵に回すなど考えたくない」

 

 

「それがいい、それで話は変わるが陽光聖典の奴らは俺が貰っていいか?もちろん、何人かは渡すから今回の騒動の犯人にしてくれ」

 

 

「構わないがどうする気だ?」

 

 

「言ったろ、常識を学ぶ。その後はカルネ村で村の手伝いでもさせるさ、王国では国民の一人二人が増えようが減ろうが気にしないだろうって村長が愚痴ってたぞ」

 

 

「はは、耳が痛いな。しかしカルネ村の人達は了承するだろうか?」

 

 

「問題ないだろ、このままじゃ冬を越せないと嘆いてたからな、特殊部隊なら森に入って食料の調達くらい出来るだろ、時間が立てばそのありがたさに住民も仲良くなるさ」

 

 

「そうか、ただシルト殿に謝らなくてはいけない事がある」

 

 

「なんだ?」

 

 

「副長と話したのだが、シュラム殿のお陰で団員も気力に満ち溢れている今、急いで今回の騒動を王に伝えたいと思ってな」

 

 

「そうか、じゃあ武技の披露はまた今度か」

 

 

「そうしたい、すまないがよろしいか?」

 

 

「問題ない、どうせエ・ランテルで冒険者をやるつもりだからな」

 

 

「フッ、シルト殿が冒険者になれば街は騒がしくなるだろうな、エ・ランテルの門番と冒険者組合には話を通しておく、私の名を出せばスムーズに行くだろう」

 

 

「身元不明の俺達にはありがたいな、じゃあ、村に戻るか」

 

 

その後は、陽光聖典と話をすれば勝手に着いていきたいと懇願され、吊り橋効果か?とデア・シルトは首をかしげた、カルネ村に戻って紹介すれば最初は敵意が有ったが第三位階の使い手で謝罪の為に誠心誠意働かせて貰うと土下座しながら村人にお願いすると村人達もその姿勢に受け入れる意見がちらほらと出て来て何とか村に住まわせる事ができた。

ガゼフ達の馬にも、シュラムによるバフがかけられ、元気になった馬達に驚きながら街へ帰還していった。

 

 

 

「さて、一段落着いたが俺とシュラム、ナーベラルは一旦ナザリックに戻る、ゴクドウとクミチョウは村に残って陽光聖典から話を聞いておけ、それとこれ、お前達の声からの恐怖効果を抑えるはずだ」

 

 

ゴクドウ達には、金のネックレスが渡され首に着ける。

このアイテムはメリットになる効果を抑え、その分のステータスにボーナスが掛かる装備なのだが、デア・シルトはその見た目から使う機会はほとんど無かったアイテムだったがゴクドウとクミチョウに装備させた時の違和感の無さは素晴らしいものだった。

 

 

「良く似合うな…いや本当に」

 

 

「ありがとうございます、デア・シルト様には、今後も誠心誠意仕えさせていただきます」

 

 

「おう、特に街に入ってから絡まれる可能性が高いからな、やり過ぎず対処しろよ」

 

 

「へい!お任せを!」

 

 

「では、行ってくる」

 

 

カルネ村はゴクドウとクミチョウに任せ、指輪を使い、ナザリックの九階層に転移する。

 

 

「お待ちしておりました、デア・シルト様」

 

 

転移先には、デミウルゴスとパンドラズ・アクターが待ち構えていた。

デア・シルトは、今回の転移先を自室にしていた筈が出た場所は見慣れない一室だった。ギルメン全員の自室を知っているわけでは無いが基本は同じのはずなので、こんな執務室のような部屋は無いはずだと困惑した。

 

 

「ここは……誰の部屋だ?お前達だけで部屋を改造する事ないよな?」

 

 

 

「こちら、モモンガ様のお部屋になっております。モモンガ様のご指示で転移先を変更させて頂きました」

 

 

「げぇ!モモンガ!」

 

 

出来ればまだ再会したくない人物の名に、逃げるかと後ろを向いた瞬間付き従っていたデア・シュラムとナーベラルが膝をつき、察したデア・シルトがゆっくりと振り向けば豪華なローブを着た骸骨が女神のような美女と一緒に部屋に入って来た。

 

 

 

「会いたかったぞ、友よ……」

 

 

言葉と同時に闇を背負い始めた友人にデア・シルトも覚悟を決めるのだった。

 

 

 

 





ゴクドウシリーズ

ユグドラシルで一定期間開催されたイベントの報酬として獲得できる傭兵モンスター。
各世界のフィールドやダンジョン、ギルド拠点などで戦闘後などに一定確率で特別なモンスターが乱入してくる、Lv35鉄砲玉、Lv42構成員、Lv60ゴクドウを倒していくと"事務所""組本部"2つダンジョンに挑めるようになりクリア後、Lv60ゴクドウとLv80クミチョウが傭兵モンスターに追加される。
乱入された場合、プレイヤーにイチャモンをつけて来る為、迷惑プレイヤーに絡まれていると誤解した、たっち・みーが他人のポイントを奪う事が多発し、珍しくたっち・みーが情報サイトに晒される回数が多い時期だった。
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